第三次世界大戦(vsCH)
イカれたジジィ
第三次世界大戦が始まってから約二週間。防衛に徹していた俺達はついに攻勢へ転じた。
防衛に徹していたというか防衛するしか無かったと言った方が正しいが、ともかく、これで心置き無く暴れられる。
兵力は僅か9人。
前の世界ならば映画の見過ぎだの漫画の読みすぎどの言われていただろうが、生憎この世界は個が軍を圧倒する世界。
化け物達を集めれば、例え師団が相手だろうが勝ててしまうのがこの世界なのだ。
「
「CHの艦隊か。一応自由に動けるサメちゃん達を5体引き連れてきているから、余裕で勝てそうだな。寧ろ、乗っている俺たちの方が危ない」
「私が牽制しますか?」
「まだいいよ。どうせ当たらん」
サメちゃんの背中に乗せられて、のんべんだらりと海を渡っていると敵の艦隊と接敵する。
が、まだまだ距離は遠い。攻撃手段はあるものの、お互いに手を出していなかった。
資源の無駄になるからね。仕方がないと言えば仕方が無い。
サメちゃん達が本気で泳げば、まず当たらないだろうし。
「ゴフー?」
「いや、サメちゃん達は待機で。あそこにやる気満々の頭のイカれた爺さんが待機してるからな。獲物を奪っちまったら怒られる」
「フォッフォッフォ!!気を使わせてしまって悪いのぉ.......久々の戦争にちと気合いが入りすぎてしまっておる」
「年甲斐もなく暴れすぎるなよ。特に爺さんは滅茶苦茶やるだろうしな」
「フォッフォッフォ........第二次世界大戦での屈辱をここで晴らせると思うとな。儂の中にある血が騒いでおるわ」
「興奮しすぎて血管が切れないようにしろよ。あんたももう若くないんだから」
ママサメの頭の上で座る吾郎爺さん。
あまり殺気とかそう言うのに鈍感な俺ですら、爺さんの殺気が分かるほどには興奮している。
今は首輪を嵌めているから大人しいが、俺が一言“GO”と言えば海の上を走ってでもこの先の艦隊に向かって剣をフリ始めるだろう。
「生きた伝説が再び戦場に舞い戻る日が来るとはな。俺達は馬鹿げた夢の続きを見ているらしい」
「おじーちゃん、私が運んであげようか?途中で海に落とすだろうけど」
「フォッフォッフォ。それもいいかもしれぬが、主の命令では無いのでな。良しと言われるまでは大人しくしておるわい」
「なぁ、そもそも艦隊相手に、なんでこの爺さんは1人で立ち向かおうとしてるんだ?頭が狂ってるのか?」
「元からですよアリカちゃん。私がこのイカレジジィとバディを組んでいた時も、こんな感じで頭がおかしかったですから。戦車を相手に一刀両断できる人間ですよ?理解するだけ無駄です」
「なるほど。それは確かに考えるだけ無駄かもな」
戦車って一刀両断できるんだ........
この世界の戦車は俺がいた世界よりもさらに性能が向上している。ミスリルなどのファンタジーな鉱石素材に、魔力という無尽蔵なエネルギー資源。
これらを利用できるようになった人類が作り出す兵器は、過去のものとは比べ物にならない性能となっている。
で、そんな性能の挙がった兵器をただの剣でぶった斬るこの爺さん。そりゃ生きた伝説と呼ばれるわけだ。
都市ひとつを壊滅させた過去もあるし、もしかしたら人類の中で最強なのかもしれん。
どこぞのファック英雄にも勝てそうだな。
そんなことを思いながら、今回は爺さんにストレス発散してもらうかと思っていると、レミヤが呑気な声で報告して来た。
「あ、攻撃を開始してきましたね。超短距離ミサイルです。射程10km程のカスミサイルですが速度と威力が高いですよ」
「おーそうか。で、なんでそんなに呑気に話してんの?馬鹿なの?」
「いや、このメンツなら焦る必要も無いかと思いまして。どうせなんとでもできますよ」
「頼もしいね。俺は何もしないから、勝手に迎撃しておいてよ」
俺が手を出すと大抵ろくな事にならない。そして、そもそも俺はミサイルを防ぐとか言う人間をやめているような事は出来ない。
なので、仲間たちに任せる。サメちゃん、回避はよろしく。
俺はパパサメの頭をトントンと軽く2回叩いて“よろしく”と伝えると、パパサメは機嫌よく背鰭をヒラヒラとさせながら一気に加速を始めた。
それを見てママサメも速度をあげる。
ホーミング弾でない限りは、まず当たらないだろう。サメちゃん達は機動力にも優れているしな。
そんなことを思いながらまっすぐ進んでいくと、肉眼で戦艦が見える距離にまでやってきた。
すると、爺さんが立ち上がって俺に声をかける。
「主よ!!儂1人で潰してもいいかの?!」
「お好きにどうぞ。死なないようにね」
「フォッフォッフォ!!久々に本気で刀を振るうとするわい!!赤刀の餌食としてくれるわ!!」
あぁ、あの顔はマジでやる気だ。
パッと見20隻ぐらいの艦隊があるんだけど、もしかしてあれ全部1人で鎮める気?
........え、マジ?
【紅月】
上泉吾郎が持つ刀。特殊な能力こそないものの、アダマンタイトと呼ばれるミスリルよりもさらに頑丈で鋭い鉱石で作られている。
三流の剣士が使ったとしても鉄ぐらいなら余裕で切れる切れ味。だが、加工には相当な技術が必要となるためアダマンタイトの加工は世界で10人もできないとされている。
生きた伝説にして、この世界で唯一の日本人“上泉吾郎”。
神に転生させられたグレイを除けば、彼以外に純血の日本人は存在しない。
「サメよ。真っ直ぐ突っ込んでくれ。儂が飛んだら、あとは引いてくれて構わん」
「ゴフー!!」
彼の歴史は500年近くも前まで遡る。第一次、第二次世界大戦を刀1つで乗り越え、挙句の果てにはダンジョン戦争すらも刀を持っ手暴れた正真正銘の化け物。
魔力を手にする前から生身でエルフを殺した彼が、再び戦場の地に舞い降りたのだ。
(儂はこの日のために行かされたのじゃろうな)
左手に持った刀が早く血を吸わせろと疼く。
まだだ。もう少し近づけば、その時が来る。後数秒の我慢。その我慢の先には、この生涯で味わった事も無い美味が待っている。
敵の艦隊数は約二十。真正面から突破してくるサメに向かって弾幕を展開しているが、ママサメはそんな事知ったことかと言わんばかりに真っ直ぐに突っ込んだ。
もちろん、その背中に乗るリーズヘルト達も弾幕の被害に遭うが、彼女たちを殺すには核兵器でも持ってこなければ無理である。
そして、先頭に立つ吾郎の周りだけは神の加護なのか弾丸が通らない。
「フォッフォッフォ。では、参る」
射程距離内に入った。
トンとサメの上から飛び出し、空を舞う。
同時にママサメはその場から離脱。
「亡き同胞達に儂の剣を捧げよう。紅月よ。派手に行くぞ」
宙へ舞った吾郎はアダマンタイトで出来た赤い月を解き放つ。
空中で体を捻り、どう考えても刀が届かない空高くからギロチンの歯を叩き落とした。
「抜刀」
放たれるは神速の抜刀。
ピィン!!ドォォォォォォォン!!
数秒の沈黙が訪れた後、駆逐艦の1つが真っ二つに割れて海へと沈み始める。
どう考えても刀が届く距離でもなければ駆逐艦を両断できる刃渡りすらも無い。ならば、どのようにして駆逐艦を両断したのか。
答えは簡単。神速の抜刀によって生み出された斬撃をただ飛ばしただけだ。
元々人外じみた力を持っていた人間が、魔力というさらなる力を手にした。ただそれだけである。
海は割れ、その深淵の中に飲み込まれていく駆逐艦。
吾郎はその戦艦が沈み切る前に駆逐艦に着地し納刀すると、その横にあった戦艦に飛び移った。
「邪魔するぞ。中華のクズ共」
「なっ─────」
甲板に着地した吾郎は、隣で沈んでいく駆逐艦を見ていた海兵の1人の首をなんの躊躇いもなく切り落とす。
その場から動いている様子すら見ることは出来ない。正しく神速。ただ早く、そして、ただ斬る。
それだけなのだ。
「「「「「........」」」」」
無言が流れる甲板。
吾郎は“昔なら即座に殺しに来たんだがな”と老人らしい昔の思い出に浸りながら、再び抜刀。
ドォォォォォォォン!!
次の瞬間、戦艦は斜めに断ち切られて沈み始める。
「沈め。国と共にの」
あまりにも滅茶苦茶すぎるその力。しかし、これが生きた伝説なのだ。
Sランクハンターですら怯えて逃げ出してしまうようなその強さ。僅か一振で戦艦を両断してしまうその力こそが、吾郎がこの世界で名を残してきた原因なのである。
「ば、化け物が........」
崩れゆく戦艦にしがみつく兵士のひとりが、ポツリとつぶやく。
その言葉を聞いた吾郎は思わず笑いを上げた。
「フォッフォッフォ。なんとでも言うが良い。かつて失った儂の国。それが再建したのじゃ。それを守る為ならば、化け物でも悪魔にでも落ちてやろう」
一度は失いし故郷。形は違えど、その故郷はたった一人の男によって再建された。
ならば自らはその国を守る盾となり、矛となろう。
かつて守れなかった祖国を守るため、老いし伝説が蘇る。
「よく聞け死にゆくもの達よ。閻魔天が告げる。貴様らは全員地獄行きじゃ。儂が生きておる限り、この日本帝国の大地に指一本でも触れられると思うなよ」
天上天下唯我独尊。
主に並ぶ人は天上にも天下にもおらず。
そして、その地を侵す者には絶対的な罰を。
「三千大千世界の頂点に立つお方の邪魔だ。
それは、神に使える一人の
後書き。
爺さん、マジでヤベー奴。なんでこの人、人の身で戦艦ぶった斬ってるんですかね???
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