killing me
空軍が出来上がれば、ある程度の防衛能力が獲得できるだろうというところまで来てから3日後。
俺は空を監視する早期警戒レーダーが出来たと言うことでその視察に来ていた。
国のトップってめんどくせぇ。んなもん勝手に配備していいよとは思うが、一応俺が確認しなくてはならない。
指示を出してから1週間ほどで作り上げてしまうドワーフ達の技術力がすごすぎて、俺の仕事が多いんですけど。
あぁ。グダニスクでダラダラとしていた日々が恋しい........いや、あっちはあっちで命の危険を感じるからやっぱどっちも勘弁願いたいわ。
「これがレーダーね。ちゃんと機能するの?」
「問題ないと思うぞ。この国のみならず、さらに外側まで警戒できるレーダーだ。凄いな人の技術というのは。魔力を使わずして、これ程のものをかつては作り上げたというのだから驚きだ」
「それを見てわずか1週間で性能を向上させたものを作り上げるドワーフ達も大概だけどな」
「ハッハッハ!!ドワーフだけでは無理だったと思うぞ。魔術の分野に優れたエルフやダークエルフ達の知恵も合わせて作られているのだからな。種族同士で手を組み合う事がいかに大切なのかをよく思い知らされた。グレイ殿の言うことは正しかったな」
技術の発展には人々の団結が不可欠。天才達が個人で作る技術には限界があり、そのデータを取る者や手伝う者がいなければ成り立たない。
そんな基礎的なことを議長であるデリックスは言う。
だとしてもすげーよ。技術の発展が凄まじすぎて、最早怖いよ。
ファンタジー世界に生きるドワーフってやっぱり有能な種族なんだな。
そんなことを思いながら、俺はレーダーを覗いてみる。
うーん。わからん。なにも知識がないやつが見ていても、そりゃ理解できるはずもないわな。
「この点はなんだ?」
「これはイカロスの魔力を探知して、場所を把握しているのだ。敵と味方の区別が着くように、青と赤で区別しているぞ」
「ということは、赤色が敵か。これとか」
「そうそう。その赤い点が─────え?」
なんか赤い点が記されているので、俺が指をさしながらそういうとデリックスの顔が固まる。
そして俺も気づいた。
あ、これ敵じゃん。と。
やべ、もうレーダーの探知範囲に入ってるじゃん。このままだと30分もしないうちにこの国の空の上を通過することになる。
俺はようやく事の重大さを理解した。
「CH(中国)側か?」
「い、いや、こちらは太平洋側だ........どど、どうするグレイ殿?まだ空軍の訓練は終わってないのだろう?」
「流石に3日で実戦投入はできないわな........リィズ!!緊急事態だ!!俺を連れて太平洋側の海まで飛んでくれ!!」
「はーい!!何があったの?」
「恐れ多くも、この国の空を侵略しようとするマザーファッカー共がいるらしい。レミヤ!!どこの所属か調べろ!!それと、出来れば通信を繋いでくれ!!」
「畏まりました」
もしかしたら、CHに攻撃したい国が飛行機を飛ばしているだけかもしれないし、空輸で何かを運んでいるだけかもしれない。
まぁ、速度から見て空輸はなさそうだけどな。イカロスと同じぐらいの速度で飛んでるし。
「イカロスの訓練は一旦単中止させろ。それと、ダンジョン外の魔力器具を全て停めてくれ。付けたままだとぶっ壊れる」
「わ、わかった。が、いいのか?」
「安心しろ。こっちには
「........従おう。グレイ殿の判断に間違いは無い」
いや、そんなに信頼されても困るけどね。まぁいいや。今回ばかりは間違ってないし。
それよりも、今度から避難訓練とかさせた方がいいかもな。あと、情報部隊も作った方がいい。
第三次世界大戦が起きてから何かと忙しそうなおばちゃんだけを頼るやり方は、宜しくない。
おばちゃんにも限界はあるしな。一から十まで全部面倒を見てもらうのは無理がある。
「連絡が取れました。どうやらMEX(メキシコ)の空軍のようです」
「うちに宣戦布告とかしてないよな?空を上を通るだけだと思うか?」
「未承認国家という立場を悪用している私達を、国家が見逃してくれるなら行けるんじゃないですかね」
悪用しているのはお前だけどな?俺、何もしてないのに世界の敵になってるからな?
このポンコツメイドめ。自分は関係ありませんみたいな顔をしやがって。一番の問題児じゃねぇか。
文句を言ってやりたい気分だが、生憎そんな暇がない。
俺はレミヤに“繋げ”とだけ言うと携帯を取りだしてMEX空軍の無線に割り込んだ。
もちろん、リィズにみっともなく担がれながら。
「こちら、日本帝国。そちらがMEXの空軍であることは分かっている。我が国の空域に入れば撃墜するぞ」
『こちらFAM。一言だけ言おう。
わぁ、すごい暴言。きっと中指突き立てながら言ってるんだろうなぁ........
俺、こんな暴言を言われるようなことしたっけ?
「なぁ、俺アイツらに嫌われるようなことしたっけ?」
「政府と繋がってる麻薬カルテルをほぼ潰した挙句、USAと対立させたのはグレイちゃんだよ?むしろ、恨まれない要素がないでしょ」
たしかに!!(遠い目)。
色々なことがありすぎて忘れてたけど、恨まれる要素満点だわ。いやー人気者は困っちゃうな!!要らない恨みまで買うんだから。
よし、どうせ恨み買ってんだから好きかって言ってやろ。こうなりゃヤケだヤケ。ストレス発散させてもらうとしよう。
「Hey!!頭の中にまでマリファナが詰まった
『........なんだこいつ。急に頭でも狂ったのか?』
『さぁ?俺に聞くなよ。猿の言ってることは分かんねぇんだ』
「あはは!!そっちにもわかる言語で話してやってるってのに、ヤクのキメすぎた
『てめぇ──────』
ブチッと俺は無線を切る。
そして、タバコに火をつけるとニッと笑いながらリィズに話しかけた。
「リィズKilling meって曲知ってるか?」
「ん?知らないね」
「アイツらが最後に歌うにはピッタリの曲なんだぜ?
「あはは!!イカしてるね!!自分達から死を望むところが!!」
「やっぱりリィズは分かってんな。ちなみに、これラブソングだぜ。しかも、4:19に火をつける準備をするのさ」
「マリファナ吸ってる連中にはピッタリじゃん。420になれば、頭にヤクが回ってくね」
今の時刻は16:18分。ちょうどいい時間じゃないか。マリファナを吹かすには、悪くないぜ。
まぁ、Killing meの歌詞ってぶっちゃけ最初の一文以外は当てはまってないんだけど、かっこいいから関係ないね。
テンション上がってきた。今度から、巻き込まれる度にテンションの上がる曲でもかけようかな。
【420】
アメリカでは大麻を表すスラング(カナダではマリファナ(?))。
この言葉の正確な由来は当時毎日のように、午後4:20になると「あなたの子供はどこにいるか知ってる?」というCMが流れていたことによる。
MEX(メキシコ)空軍FAM。彼らは時代の流れによって開発された魔力エンジンを用いるジェット機に乗って日本への攻撃及び、偵察を行おうとしていた。
MEXには日本の死を願うものが多い。カルテルを二つぶち壊された挙句、USAに憎悪を向けさせられる原因となったのだから恨まない理由を探す方が難しい。
「なんだったんだ?急に饒舌になりやがって。人の言葉を覚えて使いたがる猿かよ」
「まぁまぁ。そう言うなよ。今から死ぬ奴らに最後の時間を与えてやったとだけ考えればいいさ」
本来であれば、ここで引くべきであった。日本が航空戦力を持っていると考え、奇襲がバレた時点で引き返すべきである。
しかし、頭に血が上っていた政治家達が無理な指示を出していればそれを聞くのが軍人。彼らもまた、権力の被害者なのである。
少なくとも、ここで帰れば相手はレーダーを持っていることぐらいはわかっただろう。しかも、相手の無線に割り込めるだけの技術もある事が分かる。
そして何より、戦力を失わずに済んだはずだ。
「あん?なんだ?」
「どうした?」
「レーダーに反応がある。でも、戦闘機じゃなさそうだ」
違和感に気づいたのは、レーダーを見ていた1人の副操縦士であった。前方数km先に、ぽつんと浮かぶ影。
敵の航空戦力か?
そう思った矢先見えてきたのは、2人の........否、一人の人間と1つの化け物であった。
背中から翼の生えた化け物と、それに抱えられた人間。
どう見てもおかしい。たった2人でMEXの最新鋭戦闘機10機を相手にしようとするその頭が。
「トチ狂ってんな。本気か?と言うか、あの女........女?は何なんだ?化け物じゃないか」
「今どき姿を変えられる人間は多いさ。5世紀も前なら別だけどな」
「あぁ。能力者か。だが、能力者ごときが現代の技術に勝てるわけないだろ」
相手はただの的。ならば、撃ち殺すまで。
そう思い、引き金に手をかけたその瞬間。彼らを歓迎する絶望は訪れる。
「──────っ!!」
目の前に突如として現れた何か。それを見た瞬間に、全身の動きが止まる。
体が動かない。それどころか、息をする事すらも苦しい。
目の前に現れた化け物を見たくない。否、見てはならない。
しかし、化け物はそんなことを気にもせず最後の審判を告げる。
それは“死”。
「ピギェェェェェェェェェェェェェ!!」
死の恐怖を植え込む化け物の叫びは、魔力によって動いていたジェット機を止め、更には中にいた操縦士達の意識までも奪っていく。
この世界に存在してはならない世界を3度滅ぼした存在。それがこの世界に顕現してしまった時点で、彼らに勝ち目などないのだ。
推進力を失った戦闘機は重力に従って落ちるのみ。
天罰を下されたもの達に待ち受けるのは、死ただ1つ。
不幸中の幸いは、死ぬ前に気絶してしまった事だろう。
落ちゆく景色を見ずに、夢の中で死の恐怖に苦しまされながら痛みも感じず死ぬだけまだ慈悲深い。
凄まじい速度で海へと落ちる。
ドゴォォォォォン!!
わずか数秒の邂逅。しかし、その数秒で全ては滅びた。
「お疲れ様ピギー。助かったよ」
「おつかれー!!」
「ピギー!!」
風が漂うだけの静かな海の上で、そんな呑気な声だけが響くのであった。
後書き。
ピギー強すぎ問題。ピギーが居れば全部解決する。
ちなみに、killing meはちゃんと実在する曲ですので、興味があったら聞いてみてね(SIM killing me って検索すれば出てくるはず)。
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