世界樹の加護、発動


 試作機は特に問題が無さそうであった。ちゃんと空は飛べるし、音速だって超えてくれる。


 攻撃手段も別に持っているし、この国の空を守るだけならば最低限の活躍を見せてくれるだろう。


 問題は、兵力が足りないぐらいか。あと、空を監視するレーダーとか欲しい。


 ずっと空を飛ばして監視し続けるとか無理だからな。そこら辺も何とかしなければ。


 と、言うわけで困った時の助けてドワーフ。開発費を適当に渡して、あとは好き勝手に頑張ってもらうしかない。


 それと同時に、空軍にはいる人を募集した。撃墜されてもなんやかんや生きて帰ってきそうなタイタン立ちを中心に、偵察ができるエルフ、そして整備ができるドワーフを軍に入れるつもりだ。


 ダークエルフはちょっとお休み。彼らは街の治安維持を頑張ってもらいたい。


「........思ったよりも人が集まったな。特にタイタンが多いぞ」

「タイタンは今のところ特に仕事がないからねぇ。国を守る防衛に務めたいって言う人は多いのかも」

「私達としてはありがたい限りなのでは?タイタンの体は凄まじく頑丈なので、撃墜されても生還率がかなり高いでしょうし。私としては、ダークエルフからも志願する人がいるのが驚きですね。彼らはカルマ王体街の治安維持に専念して欲しいと言われていたはずなのですが........」


 空軍の募集をかけてみたところ、志願してきた兵士たちがあまりにも多かった。


 地球の空を飛ぶということで、ダンジョンの外にある街を試験会場にしたのだが、びっくりするほどの人が集まっている。


 総勢2万人ぐらいか?多すぎるぞ。


 5000人ぐらい集まればいいかなと思っていたら、その4倍も集まるとは想定外。配ったチラシもクソみたいなやつだったはずなんだけどね。


「“至難の戦争。僅かな報酬。鉄と血の匂い。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証無し。成功の暁には名誉と賞賛を得る”。アーネスト・シャクルトンの真似を試しにしてみたってのに、なんでこんなに人が集まってんの?南極大陸を目指す訳でもないってのによ」

「名誉と賞賛が欲しいんでしょうね。あと、主人マスターの場合は報酬はしっかりとしてますから」

「言うて月40万程度だぞ。命をかけるには安すぎる。あまりにもな」

「その40万をどう捉えるのかは人の自由だよグレイちゃん。チラシに必要な情報は全部書いていたのも良かったんじゃない?国が運営する仕事場で、命の危険こそあれど安定的っていうのも大きな要因だと思うよ」


 かつて南極点を目指した探検家アーネスト・シャクルトン。


 彼の有名な話の1つとして、シャクルトンの広告というものがある。


“求む男子。至難の旅。

 僅かな報酬。極寒。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証無し。

 成功の暁には名誉と賞賛を得る。アーネスト・シャクルトン”


 某幼女が空の上で殺し合いをする小説にもパロられたこの誘い文句。


 チラシを配る時に何もセリフが思いつかなかったので、俺もガッツリパクったのだが、まさか展開が同じことになるとは思わなかった。


 あえて言おう。


 どうしてこうなった?


 こんな時代錯誤の謳い文句にホイホイと乗ってくるバカが何故こんなにも多いのだ。これなら、書類審査でもやればよかった。


 どうせそんなに人は集まらんやろと思って、“やりたい人はここに集まってね”とか言わなきゃ良かったよ。


「流石にこの人数を雇うのは無理だな。他にも仕事は多いし、そもそもこいつらが仕事ができるとはわからんし」

「どのように選別いたしますか?」

「書類審査........はもう無理だし、あれだな。一先ず全員仮採用して戦力にしちまおうかな。そっちの方が早い気がしてきた」

「毎月80億近くの給料を払うことになりますが........」

「さすがにそれはやばいわ。やっぱり半分に減らそう」


 毎月80億の出費とか冗談じゃない。いや、今の収益を考えたらできなくはないよ?1年でだいたい960億の給料が支払えない訳では無い。


 が、税金の制度とかがまだハッキリと決まっていない段階でそれをやるのは少々まずい。


 人件費の他にも金の使い道はあるし、国が安定していない今それだけの金を払うのは辞めておいた方がいい。


 せめて半分にしよう。じゃないと、国の金庫が爆発してしまう。


 今の日本の収益はだいたい月400億程度。まだまだ発展途中の今はここが限界だ。


 大国ともなれば兆とか行けるんだけどな。そしたら80億程度なんざ端金として使えるようになる。


 流石に4分の1を給料だけに回せない。一応国の予算とかある程度は把握しているので、そんな余裕が無いことはわかっている。


 国ってとにかく金がかかるよね。公共事業もやってるし、他にも公務員への給与とかもあるからくそ大変。国の維持にも金がかかるし、人を動かすにも金がいる。


 その点、サメちゃん達はほぼ金が掛からないから楽だわ。やっぱり、持つべきは可愛い魔物だな........いや、こいつらも一応分類上は魔物か。


「レミヤ。なんかいい感じの試験内容を考えてくれ」

「無茶言わないでください。私はただの機会兵です」

「リィズ、助けて」

「んー、グレイちゃんよりいい案が出せるとは思えないから却下で。1万人殺せって言われたらできるけど........」


 ダメだよ。戦争じゃないんだから。


 あー困った。本当に困った。


 人が全く足りないというのも困るが、人が多すぎるのも困りものだな。


 試験とか要らんやろと思って何も考えてなかったし、今から全部アドリブでやらないといけないってマジ?


「計画性って大事なんだなぁ........」

『ピギー?』

「いや、それは全員脱落するから却下で。ピギー、お前偶にとんでもないことを言うよな........」

『ピギー』


 サラッと“自分が鳴いて耐えられた人を合格とかは?”とか聞いてこないで。全員脱落だよそんな事したら。


 俺とリィズだけが合格になって、2人だけの空軍が誕生してしまう。


「とりあえず、技術志願者と偵察志願者、そして戦闘志願者で分けるか。んで、人がめちゃくちゃ多いところは削ろう。申し訳ないけど、全部が全部を雇うのは今は厳しいしな」

「いいのでは無いでしょうか。それが丸い気がします」

「ジルハードたちも呼んでこようよ。多分3人だけじゃ人手が足りないよ」


 こうして、俺は試験内容を考えながら人を分ける作業を始めるのであった。


 ほんと、何も考えなしだと大変だな。今度から書類審査だけはやっておこう。




【アーネスト・シャクルトン】

 三度、イギリスの南極探検隊を率いた極地探検家で、南極探検の英雄時代の主役の一人である。

 MEN WANTED for Hazardous Journey.

 Small wages, bitter cold, long months of complete darkness, constant danger, safe return doubtful.

 Honor and recognition in case of success.Ernest Shackleton

 — 「求む男子。至難の旅。

 僅かな報酬。極寒。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証無し。

 成功の暁には名誉と賞賛を得る。アーネスト・シャクルトン」

 と言う広告を出したと言われているが、実は証拠が一切ない。そのため、「神話」なのではないかと言われている。

 余談だが、幼女戦記のチラシ(大隊勧誘)にもこれが使われている。




 グレイが空軍入隊の希望者を選別し始めた頃。CH(中国)政府は音信不通となった艦隊が日本軍によって撃沈させられたのだと確信していた。


 何があったのかは分からない。日本海の領域で起こったことであるのは間違いないものの、日本を監視する衛生達は尽く全ての情報を遮られているので何が起きたのかの把握ができない。


 これは、世界樹の加護によるものなのだが、彼らがそれを知る由もなかった。


「我が艦隊を潰したであろう連中には、血の雨を降らせてやる。あのテロリストには大きな借りがあるからな。魔導人形の借りはここで返させて貰うぞ」

「発射準備完了いたしました」

「よし、ならば撃て!!攻撃目標東京!!奴らの地を再び焦土に変えてやるのだ!!第二次世界大戦の時のようにな!!」

「東風DF-A3発射!!」


 現在、CHはバルカン諸国との戦争を強いられている。ミサイルが空を飛び交い、空からやってくるは能力を持った軍人たち。個が軍を圧倒する時代とは言えど、最も強力な攻撃手段は一方的な距離からの爆撃だ。


 軍と交渉し、何とか手に入れたCCS-2(東風DF-A3)14発。これで日本の機能を停止させることが出来れば亡き同胞達も報われる。


 そして、CHはバルカン諸国との戦争に注力できるようになる。


 いつ後ろから刺されるのかも分からず、背後を警戒し続ける事は無くなるのだ。


 中距離大陸間弾道ミサイル“東風DF-A3”。NATOからはCSS-2と呼ばれるミサイルが日本の首都に向けて発射される。


「これで奴らも終わりだ!!中華帝国の礎となれ!!」


 空を飛ぶミサイル。このまま首都に着弾すれば、間違いなく街は滅ぶだろう。エルフやタイタンも死に、多くの被害が日本に出てしまう。


 対空砲が無いことは既に確認済み。最も日本の情報を持つPOL(ポーランド)のデータベースから、彼らは情報を抜き取った。


 つまり、国を守る存在は居ない。ならば、この攻撃は確実にあたる。


 衛星がミサイルを映し、その様子を逐一報告する。


 あと1分もすれば、首都は焦土の海になるだろう。


 しかし、彼らは世界樹の加護を知らなかった。


 ドゴォォォォォォン!!


「........は?」


 刹那、ミサイルが空中で爆発し、全てが海の藻屑へと変わる。


「み、ミサイル14発、全てが爆発いたしました........ご、誤作動でしょうか?」

「は???は??????」


 急に爆発し、消滅してしまったミサイル。


 指示を出していた者は何が起こったのか訳が分からず、口を大きく開けて固まってしまう。


 対空砲?否、対空砲があったとしても、まだ距離はそれなりにあったはず。


 ミサイルの誤作動?


 発射した14発全てが同じ場所で誤作動を起こす訳が無い。


 では何がミサイルを爆発させたのか。


 それが理解できないから、彼は今石像のように固まっている。


 彼らは知らないのだ。世界樹の加護によって国が守られているということを。彼らは知らないのだ。世界樹の加護は外部からの攻撃に対してめっぽう強いという事を。


 例え、核ミサイルが飛んできたとしても、世界樹の加護が日本を守るだろう。


 CHの海軍が加護の領域内に入れたのは、世界樹が驚異として見ていなかったから。事実、彼らはサメの餌食となっている。


 つまるところ、日本に対しての攻撃は全てが無意味なのである。


 グレイは世界樹の加護がどれほどのものなのかを理解していないため、空軍を作ろうとしているが、正直あまり必要も無い。


「フゴー!!」

「──────♪」


 偶々その場に居合わせたサメの1匹が、世界樹に向けてヒレを振る。


 世界樹はそんなサメを見て機嫌を良くすると、精霊を放ってサメの頭の上に乗るのであった。


 そのミサイルを飛ばした側が、困惑し自分の首が飛ぶことを恐れているとも知らず。

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