空を得た人


 我が国日本帝国初めての航空戦力。


 まだ試作品の段階だが、わずか四日で仕上げてくる辺りドワーフの技術力と言うのは凄まじい。


 世界樹の世界の空を飛ぶ初めての偉業と言うことで、どうせならみんなで見ようぜと思い部下達も全員呼び出した。


 もしかしたら、俺達もあれを背負って飛ぶ日が来るかもしれないからな。


「マジで翼じゃん。異世界の文明力ってのはスゲーな。今どきはこんなつばさで空を飛べるのか?ライト兄弟が聞いたら泣くぜ」

「アメコミのヒーローに出てきそうですね。ホークみたいな。後は黒スーツに弓矢でも持ったら完璧ですよ」

「それ、矢が尽きたらただの人になるだろ。空を飛ぶ的になるのだけは勘弁願いたいな」

「フォッフォッフォ。これが我が国の空軍となるのかのぉ。懐かしいわい。零戦が空を飛んでいた時代がの」


 俺に呼び出されてやってきた仲間達は、試作機である翼を見て“ドワーフすげーな”という表情をする。


 今回試作機に乗るのは身体が頑丈なタイタンの技術者だ。彼は、この試作機の試験を請け負ってくれた勇気ある命知らずであり、上空から落ちてきても無傷でヘラヘラ出来るほどに身体が頑丈らしい。


 ドワーフも凄いが、タイタンもすげー。人間じゃどうやっても死にそうな高さから飛び降りても無傷とか、スペックが違いすぎる。


 そして爺さん、あんたの思い出は古すぎる。今は第三次世界大戦ですよ。第二次世界大戦期に活躍した零式艦上戦闘機の思い出を振り返らないで。


 一時期は全世界の中で最も優れた能力を持っていた零戦。しかし、時代の流れと共にその航空機の性能は劣化し、最終的には敵の戦艦に突っ込むだけの自爆特攻機へと成り下がった。


 そんな歴史を繰り返さないためにも、特攻機としては使い物にならなそうなこの見た目の方がいいかもしれないな。


 と言うか、特攻機として使い始めたら間違いなく俺達の敗北だ。


「爆撃機とかも欲しいよな。そしたらCHを大地を吹っ飛ばせるのに」

「私ができますよ、主人マスター。なんなら大陸弾道ミサイルも撃てます。流石に威力はお察しですがね」

「撃てるだけやべーよ。CHはとんでもないものを開発したんだな。施設を破壊したとは言っていたけど、間違いなくまた奴らは作ってる。その施設と殺戮兵器キリングマシンを抑えるのが一番最初にやるべき事かもしれん」


 レミヤみたいな化け物スペックの兵器がボンボン出てきてたまるか。今後の為に、まずはそこを抑えないとな。


 おばちゃんに情報提供してもらって、カチコミに行くしかない。


 爆撃機したいけど間違いなく相手も対策はしているだろうから、直接潰した方が早そうだ。


「それじゃ、飛んでみてくれ。空の旅をゆっくりと楽しんでな」

「分かりました。魔力エンジンを起動します」


 勇敢で命知らずなタイタン君にお願いすると、彼は翼を起動してゆっくりと身体を浮かしていく。


 おぉ、本当に空を飛んでる。鋼鉄の翼を背負った人が、中に浮き始めたのだ。


「魔力エンジン異常なし。魔力シールド展開。空気抵抗補助起動。まずは出力10%で上空まで行きます」


 タイタン君はそう言うと、サングラスを掛けて(補助装置)凄まじい勢いで上空に上がっていく。


 その勢いは凄まじく、周囲の風が舞い上がった。


「おー!!凄いな!!SF世界の装備だぜありゃ。とんでもない速度で上へと行っちまった」

「凄いな。私達もあれに乗る日が来るのか?グレイお兄ちゃん達は問題ないだろうが、私は制御できる自信が無いな」

「安心しろアリカ。俺もだ。おっさんは、新しいことを覚えるのが苦手なんだよ」

「私もちょっと怪しいわねん。と言うか、私の場合は魔力を気功に変換してしまうから、使える気がしないわん」

「フォッフォッフォ。銃の使い方すら分からんかった儂には無理じゃの。主やそのほかの者に任せるわい」

「俺、高いところが苦手なんで無理っすね。普通に漏らしそうです」

「私はそもそも飛べるしなー。流石に音速は超えないけど、戦闘できるぐらいの速さでは飛べるし必要ないかも」

「私も必要ないですね。普通に飛べます」

「あれ?私とボスだけですか?もしかしてあの装備を使えるかもと思っているのは」

「え、俺も使える気がしないからやりたくないぞ。よし、ミルラ。そんなにやる気なら頑張ってくれ」

「酷くないですか?私、なんで見捨てられているのでしょうか?」


 口ではそう言いつつも、ちょっとやってみたいのか目が輝いているミルラ。


 ミルラは、ダークヒーローに憧れてギャングに喧嘩を売るような頭のぶっ飛んだ子だ。


 確かにこんなロマンの塊を見たら、やってみたくもなるわな。アメコミとか結構好きで、良く暇な時に読んでるし。


 いつの間に買ったのか、アメコミの漫画がびっしりと詰まっていた時は普通に驚いた。


 俺も読んだことがなかったので読ませてもらったが、さすがは500年以上も前から存在する漫画だ。普通に面白い。


「右手を頭の上に掲げて、スーパーマン見たいに飛んでくれよ。動画にとって鑑賞会を開いてやるから」

「勘弁してくださいボス。恥ずかしさのあまり、私が私でなくなってしまいます。生き恥を晒すのは若い頃だけで十分です」

「ハッハッハ!!言うて今も生き恥晒してるだろ。この前なんかトニー・スタークの真似をして、魔力を飛ばそうとしてたじゃない────」

「死ね!!」


 サラッと恥ずかしいミルラの話をし始めたジルハードに対して、ミルラが本気で天使の剣を振り下ろす。


 ジルハードはその行動が分かっていたかのように能力を使用し、天使の一撃をその身体で受け止めた。


 ガン!!と凄まじい音が響き渡るが、誰もミルラを止めようとはしない。


 今のはジルハードが悪い。厨二病が治りきらなかった可哀想なミルラのプライベートを語ったのが悪いからな。


 で、ジルハードはこういう時調子に乗る。


 ニヤニヤと笑いながらミルラを見ると、続けざまに煽った。


「おいおい。ヒーロー様が一般市民に手を出すなんてどういう事だ?酷いぜ。涙が出てきちまう」

黙れクソ野郎shut the fuck up!!その口をもう一度開いたら、喉奥に剣を突き刺してフェラさせてやるよ。口からケツまでぶっ刺してな!!」

「おぉ、怖い怖い。俺がファックされるなんて勘弁願いたいね。それともなんだ?そんな趣味があるのか?」

「殺す。ケツの穴にも剣をぶち込んで串刺しにしてやる」

「ヘッヘッヘ。やるもんならやってみな!!」


 割と本気で切れているミルラと、それを楽しそうに笑いながら逃げるジルハード。


 どう考えてもジルハードが悪いな。ミルラだってヒーローの真似事をする時もあるさ。


 何せ、ダークヒーローに憧れて家出するドラ娘なんだから。


「ヒーローに憧れる女の子ってなかなか悪くないですよね。こう、可愛らしくて」

「分からんでもないが、ミルラの年齢でそれを言うと正直キツイな。アリカぐらいの年齢なら可愛いが」

「私はヒーローなんかに憧れたことは無いぞ。どうせ自分のエゴで人助けをして気持ちよくなるだけの自慰野郎だからな。本物のヒーローっていうのは、自分自らをヒーローとは名乗らない」

「ミルラは?」

「現実が見えていないおバカさんだな。でも、結構可愛いから私は好きだぞ。よく構ってくれて遊んでくれるし。なんか、USAに行ったあたりから、よく構ってくれるんだよなー。ちょっとスキンシップが激しい時もあるけど」


 あぁ、ミルラはそっちの気があったな。


 ペドレズとか大丈夫か?アリカに手を出したらマジで殺すからな。


「アリカ。もし、ミルラに襲われたら言えよ。神の名のもとに、地獄へ叩き落としてやるからな」

「ん?よく分からんけどわかった」


 可愛らしく首を傾げるアリカ。俺は思わずアリカの頭を優しく撫でる。


 アリカは変なところで察しが悪いな。


 まぁ、ミルラもちゃんと弁えている側の人間だし、そこら辺は理解しているだろうから襲われることは無いだろうけど一応ね。


 と言うか、ここは性癖博覧会か?終わってるやつしかいねぇじゃん。


「リィズ、ちょっとジルハードを捕まえてボコっておけ。今回はあいつが悪い」

「はーい!!オラァ!!三等兵アーミー!!グレイちゃんに迷惑かけるんじゃねぇぞ!!ぶち殺して野郎共にケツ穴をファックさせるぞゴラァ!!」

「フォッフォッフォ。相変わらず愉快じゃのぉ。して、あれは使い物になりそうかの?」


 ワチャワチャとうるさくなり始めながらも、空を飛ぶタイタン君を眺めていると、吾郎爺さんが俺の隣にやってくる。


 年寄りは落ち着きがあっていいね。賑やかなのは好きだが、うるさ過ぎるのは勘弁願いたいよ。


「使い物にはなるだろうな。だけど、実践で使ってみないと何もわからん。取り敢えず、空を飛べるのは分かったし、攻撃手段もあるのは分かってる。撃墜されても普通に生きて帰って来そうなタイタン達にパイロットをお願いして、好き勝手にやって貰うか」

「フォッフォッフォ。その方がいいの。して、儂はいつこの剣を抜けばよいのじゃ?」


 少し声が低くなる爺さん。


 第二次世界大戦で敗北し、苦渋を舐めさせられた爺さんにとって、この戦争はかなり特別なものだろう。


 とくに満州戦線で戦っていた爺さんの事だから、CHに対してかなり思うところがあるんだろうな。


「もう少し待っててくれ。防衛準備が整ったら、俺達も攻め込む。その時は好きに動いていいぞ。主要都市に乗り込んで民間人もろとも皆殺しにしようが、政府のいる場所に乗り込んで殺し回ろうが自由だ。その間に、俺はレミヤの姉妹を壊しに行くからな」

「フォ?好きに暴れて良いのか?てっきり、その施設とやらに儂も行くと思っておったぞ」

「それで我慢ができるならそうすればいい。が、爺さんの性格じゃ無理だろ?亡き同胞たちが喉を乾かせて待っているんだ。中華の血でも飲ませてやったらいいんじゃないか?」

「ふ、ふふ、フォッフォッフォ!!主は話が分かるのぉ!!ならば、我が剣を亡き同胞たちに捧げるとしよう。その肉をその血を捧げ、かの戦線で消えた者たちへの供物とし、儂の剣のサビにしてくれるわ」

「その意気だぜ爺さん。剣豪宮本武蔵のように、源義経のように、その剣で全てを斬り伏せてくれ。ついでに、セルビアとかのバルカン諸国の軍も頼むわ」

「フォッフォッフォ。任された」


 そういった爺さんの目は、完全に殺人鬼の目をしていた。


 これは早めにカチコミに行かないとダメそうだな。爺さんが待てなさそうだわ。




 後書き。

 タイタン君「あれ?なんか放置されてね?」

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