試作機


 サメちゃん、強すぎ問題。


 第三次世界大戦(俺からしたら大惨事世界大戦)が開戦してから四日後。俺の予想通りCHは偵察として艦隊を送り込んできた。


 俺に警備を任されていたサメちゃんたちはこの艦隊を発見。あっという間に艦隊を海の藻屑と変えたあと、その残骸を陸に引き摺り上げてきたらしい。


 今回は偵察であって攻撃するつもりはなかったのか、世界樹の防衛は発動しなかったな。


 明確な攻撃の意志を持たないと、世界樹の防御は発動しないのかも。


 まぁ、世界樹の加護に関しては、日本という島に世界樹の世界の人々を呼ぶためだったし割とどうでもいい。


 正直、その効力が見られるまでは余り期待してないしな。


主人マスター。CHが乗っていた戦艦の残骸の回収が終わりました。駆逐艦八隻、軽巡洋艦三隻、重巡洋艦一隻の艦隊を組んでいたそうです」

「偵察にしては随分と大所帯だな。バルカン諸国との戦争が始まったとは言えど、まだまだCHも余裕そうだ」

「現在、バルカン諸国がCHに上陸し、港の確保に動いています。戦争はまだ始まったばかりですね。ミサイルも飛んでいますが、CHもバルカン諸国もしっかりと防空網を敷いているらしいです」


 サメちゃん達が侵入者を排除したと言う情報はあっという間に俺に届いた。


 一応、連絡役としてエルフを先に送っておいたのが功を奏したな。そのお陰でいち早く状況を知ることが出来た。


 取り敢えずサメちゃん家族にお礼をし、レミヤに色々と残骸を調べてもらったがこんな大所帯で来るとはな。


 乗っていた組員は下手をすれば1000人以上。戦艦だってタダじゃないんだから、CHはそれなりの痛手を負った事だろう。


 少なくとも、“そのぐらいくれてやるよ”みたいなことにはなってないと思う。


「つーか、サメちゃん達強すぎないか?話を聞いてたら、なんか魚雷に撃たれたみたいな話を聞いたんだけど」

「ダンジョンの魔物はそれだけつよいと言うことですよ。何せ、現代兵器が殆ど効きませんから。その昔、まだダンジョン戦争を行っていたとある国が苦肉の策で核を落としたにも関わらず、平然としていたと言う情報もあります」

「何それ怖い。最早それは生物じゃないよ。きっと神の生まれ変わりだよ」

「ちなみに、悪魔のダンジョンの話ですよ」


 悪魔やばすぎだろ。


 そんな化け物相手に勝てる気なんて一切しない。マジでぶっ飛んでんなその悪魔。


 悪魔って一説では神の使徒である天使が堕天した姿とか言われているし、宗教によっては邪神の使徒として扱われるし、ある意味神の生まれ変わりではあるか。


 その理論で言えば、身体を神に作られた俺も神の生まれ変わりと同義なんだけどな........なんで神様は俺をこんなクソザコナメクジにしてしまったのやら。


 ファッキンゴッド。


 神と対面する機会がまたあったとしたら、俺は天罰も恐れずぶん殴る自信があるね。


 多分、次神に会う時は俺が再び死んだ時だろうけど。


「戦艦を12隻ぶっ潰して無傷なの凄いな。しかも、巡回していた3体のサメちゃんだけで潰してんのもヤバい。あの戦艦の残骸を見たか?どうやったら船底にあんなバカでかい穴が空くんだよ。敵の攻撃を想定して作られた船だってのに」

「尻尾をビターンとして空を飛ぶような力を持つ子達ですよ。戦艦相手にフルボッコ出来たとしても驚きません」


 そういえば、200km近くある陸を力技で進んでたわ。そりゃ、あんなことが出来るんだから、戦艦を潰すぐらい訳無いわな。


 うーん。強すぎ。


「制海権はサメちゃん達に任せても問題なさそうだな。となると、残る問題は制空権だけか。それさえ抑えられれば、一先ずの防衛準備は整う」

「こればかりはドワーフ次第ですね。と言うか、なぜCHは偵察機を1台も飛ばさずに戦艦できたのでしょうか?飛行機1台飛ばすだけで済む話のはずなんですがね」

「それは俺にも分からん。でも、こちらに船を出す余裕があっても戦闘機を飛ばす余裕がないってことは分かる。多分だけど、俺達を舐め腐ってたんじゃないか?最初から占領できるとでも思ってたんだろ」

「........CHなら有り得るのが嫌ですね。私、そんな愚者共と同じ民族なんですけど」

「そんな身体で同じ民族なのか?今時のCHはスゲェな。サイパーパンクの世界に生きてんのか」

「失礼ですね。私は全世界の男共マザーファッカーが羨む理想的な機械メイドですよ?主人マスターが挑めば、なんだってできます」

「生憎、冷たい鉄の塊に発情する特殊性癖はして無くてね。お引き取り願うよ」


 どこの世界に勝手に他国へ宣戦布告するメイドがいると言うのだ。


 頭おかしいんじゃないの?主人を困らせることしかしないメイドなんざ要らないんだよ。


 まだアリカぐらい可愛かったら許せるかもしれないが、お前は愛教こそあれど別に可愛くないから。


 いや、見た目は美人だけど、頭の中が可愛くない。


 高性能AI搭載している割に、そのAIの補助がゴミなんよ。開発初期のAIですかコノヤロー。


 そんな事を思っていると、レミヤの動きがピタリと止まる。


 こういう時は、何らかの報告を受け取っている時だ。またCHが懲りずに艦隊でも送ってきたのか?


「........あ、主人マスター。どうやらドワーフ達が試作機を作ったようです。見に行きますか?」

「仕事後早いな。見に行って見よう。異界の住民が考案した空の支配をな」


 俺はそう言うと、ドワーフたちの元へと向かうのであった。




【駆逐艦】

 多様な作戦任務につく重装備・高速の水上戦闘艦。当初は主力艦を護衛して敵の水雷艇を駆逐するための大型水雷艇として登場したが、まもなく水雷艇の代わりにそれ自体が敵艦隊への水雷襲撃を行うようになり、また潜水艦に対する攻撃や偵察・哨戒、船団護衛など、多岐にわたる任務に酷使される便利な艦種に成長していった。

 日本で有名なものだと島風や夕立など。とにかく種類が多い。




 試作機が出来たというので、俺はドワーフ達の街へとやってきた。


 護衛にはレミヤとスーちゃん達。そのほかの部下達は各々の仕事があるので、今はいない。


 なんやかんや仕事が多いんだよな、うちの組織。とくに今は忙しい時期であり、肉体労働や防衛の準備で忙しいのだ。


 昔と比べて暇している時間が少なくなったよな。その分何かに巻き込まれることも減ったけど。


 今月から給料を引き上げるか。月80万位でどう?え、足りない?


「よく来てくれたグレイ殿。防衛は今のところ順調だと聞いたぞ」

「船がやってきたけど、サメちゃん達が全部壊しちまった。あの船は玩具替わりにすらならなかったみたいだな。ちょっと小突いたら直ぐに壊れるって文句を言ってたぜ。さすがはCH産だ」

「いや、どう考えてもそのサメ達がおかしいだけなのだがな?まぁいい。海の防衛をサメ達に任せているならそれはそれで問題ない」


 ドワーフの王(議長)デリックスはそう言うと、早速試作機を見せてくれた。


 が、それは俺が想像していたような戦闘機ではない。


 戦闘機、もっと簡単に言えば飛行機だ。翼がふたつ生えて、エンジンの力で飛ぶのが戦闘機。ちゃんと胴体もあるし、風よけのパイロット席だってある。


 しかし、この試作機はどう見ても違う。


 これ、背中に翼を装着する奴だろ。本体がそのまま空を飛べるようになるやつ。


 レミヤにも同じ機能が着いていた気がするぞ。背中から機械仕掛けの翼を出して、ビュンビュン飛んでた。


「試作機一号対戦闘機用装備だ。ドワーフ達で案を出し合った結果“この胴体部分要らなくね?”と言うことで本人に装着する型の翼となっている」

「........一応聞くけど、その装備者への影響や諸々は考えてるんだろうな?空気抵抗が凄すぎて、爆速で飛べるけど装備者が息ができなくて死にますとかだったら笑えないぞ?」

「もちろん、そこら辺も考えている。音速マッハで飛べるのはもちろん。装備者本人を守るための魔力シールドを展開できるように作った。言うなれば、胴体部分をすべて魔力で作ったといった感じだな」


 なるほど。魔力で胴体を作ってしまおうと言うわけか。面白い発想だな。


「それで、攻撃手段とかはあるのか?空の戦闘は高速すぎるぞ?」

「それ用の武器ももちろん開発してある。軍用魔弾銃を参考に、ミスリルの板すらもぶち抜ける代物を作った。飛行の邪魔にならないように小型化するのが難しかったが、最低限実践で使えるだけの火力と連射力はあるぞ」


 そう言ってデリックスは、アサルトライフルの形をした魔弾銃を持ってくる。


 魔力って便利だな。なんでも使えるやん。


 もう魔力って言葉を使えばなんでも許されるんじゃないか?もしかしたら、正義の次辺りに便利な言葉かもしれない。


「威力は?」

「エルフの魔術には劣るが、その分着弾までが早い。ミスリルと鉄の合金をぶち抜けるだけの威力はあるぞ。試しに撃ってみるか?」


 試してみないかと言われたので、俺はドワーフが開発したアサルトライフルを撃ってみることにした。


 場所を移動し、ドワーフ達が実験の場として使っている広場へと移動する。


 銃の性能テストをしていたのか、ちゃんと射撃場用の的まで用意されていた。


「使い方はグレイ殿が持っていた軍用魔弾と同じだ。反動もそこまで無いはずだから、普段通りに撃ってみてくれ」

「分かった」


 俺はアサルトライフルを受け取ると、魔力弾が装填されていることを確認して100m程離れた的を狙う。


 ダン!!ダン!!ダン!!


 素早く3回引き金を引くと、身体に衝撃が襲ってきながらも弾が飛び、人型の的のか頭が吹っ飛んだ。


 反動が少し大きい気もするが、制御可能なレベルだな。引き金を引き続けるとこの距離は当たらんけど、指切りなら普通に当てられる。


 イージーゲームだ。


「この距離で3発全てを正確に当てるとは........」

「相変わらず化け物じみた制度をしていますね。今からでも射撃の選手を目指す方がいいですよ。きっとボブ・マンデンになれます」

「こんなの少し練習すれば誰でも出来るだろ。ちょっと飲み込みが早いだけだ。この魔弾、空気抵抗とかの影響はどのぐら出るんだ?」

「それなりに出てしまう。今の課題はそこだな」

「なるほど。空中戦の場合は空気抵抗がさらに大きくなるだろうし、上手く改良してくれ。あ、この銃普通に欲しいから俺の分も作って置いて欲しいかも。出来れば、こんなハンドガンみたいな携帯型で。優先はしなくていいからね」


 俺の愛用しているハンドガンは軍用じゃないから滅茶苦茶弱いんだよな。


 人の頭に風穴を開けるぐらいはできるけど、頭をぶっ飛ばすのは難しい。


 もう少し威力が欲しいなとは思っていたし、ちょうどいいか。


「やっておこう。それで、空を飛ぶ姿は見るか?」

「もちろん。人が翼を得た姿を見させてもらうさ。あまり高く飛びすぎるなよ?神は自分達の住む世界に近づく奴らを嫌うからな。イカロスのようになりたくなければ、神に媚びを売っておけ」

「バベルの塔も神のバツを喰らいますし、確かに神は高いところに人が来るのを拒みますね。バカと煙は高いところが好きとは言いますが、神こそが高い場所を好きなのかもしれません」

「そういうこった。俺達は神なんぞに勝てる化け物じゃないからな。神よりも頭を高くしたら、天罰が下るよ。頭は低くして生きなきゃな。天罰が下るのも、弾に頭をぶち抜かれるのも勘弁だ」


 俺はそう言いながら、もう二回引き金を引いて的の胸に弾丸を当てるのであった。

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