サメちゃん艦隊


 今の時代、空を制したやつが戦争を制する。


 第二次世界大戦で人々は空の脅威を知り、その空の脅威は今も尚続いているのがこの世界だ。


 空から落ちてくる爆弾の雨を防ぐには、こちらも空を制するしかない。


 ゲームでもそうだが、とにかく制空権さえ取っておけば防衛はなんとでもなる。


 某第二次世界大戦ゲームとか航空機ゲーだからね。戦車?兵隊?時代は空なんですわぁ。


 そんな訳でドワーフ達に急ピッチで空に対抗出来る兵器を作って貰っている中で、俺は海軍(サメちゃん艦隊)に色々とお願いをしていた。


 空も大事だが、島国である日本は海も大事。


 制海権も取れてないと俺達は普通に負ける可能性が出てくる。


 海からの艦砲射撃とかされたらたまったもんじゃないしな。世界樹の加護があり、その加護によって戦艦の幾つかは阻めるとは言っても全てを弾けるわけじゃない。


「ごめんな。この国に来てまだそこまで経ってないのに直ぐに戦争になっちまって。どこぞのぽんこつメイドが馬鹿な事をやらかさなきゃ、なんとでもなったってのに」

「ゴフー?ゴフー」

「あはは。気にしてないって?そう言ってくれると助かるよ」

「ゴフー!!」


“こうして一緒にいるのが楽しい”と言ってくれるママザメは、機嫌良さそうに頭をふりふりと振る。


 サメちゃんたちの感情ってわかりやすいんだよな。嬉しい時とかは頭を振るし、背鰭も揺れる。


 犬の尻尾みたいで見ていて面白い。単純に可愛いし。


「太平洋側からの襲撃は多分そこまで無いだろうし、来たとしてもエルフたちが気づいてくれる。でも、日本海側はまだ人員配備が終わってないから、サメちゃん達の力を頼りにしてるよ。でも、少しでも無理だとか、怪我をしたら直ぐに逃げてきていいからね」

「ゴフー?」

「そこまでの忠誠心は求めてないよ。俺達はあくまでも対等な協力関係にあると思っているからね。それと、ママザメ達が怪我をしたら悲しいじゃないか」

「ゴフーゴフッゴフー!!」

「そいつは頼もしいな。でも、油断しないでくれよ」

「ゴフー!!」


 サメちゃん達を俺の国に呼んだのは、面倒を見てやる対価として防衛をしてくれという物。


 既に食事の面倒は見始めているし、対価を受け取っても問題ないが俺の中ではまだまだしっかりとした支援ができていないと思っている。


 まぁ、普通に海の中に住む魚とか食べるから問題ないらしいんだけどさ。


 生態系に影響が出るかと思ったが、基本的にサメちゃん達は上位捕食者しか食べない。


 初めて出会った時もシャチみたいなやつを食ってたし、サメちゃん達は中々にアグレッシブである。


 そして、現在はサメちゃん達の二家族を日本海側に配置している最中だ。


 その数はおよそ200ちょい。数だけで言えば心許ないが、たった一体で化け物じみた強さを持つサメちゃん達ならば数千の戦艦と同じだと思っている。


 相手の力を正確に測り取る事が出来るリィズ曰く、あの俺が死にかけたオーガよりも強いらしい。


 あのオーガよりも強いとか、化け物かな?


 マジで戦っても勝てる気がしないね。


「とりあえずはCHの進行さえ防げれば問題ないかな。強欲で愚かな連中のことだし、間違いなくこっち側にも戦力を回してくる。あとはそれを潰すだけ。防衛さえしておけば、反撃の機会は幾らでも作れる........俺がCHならどこに駒を進める?相手は俺たちのことを完全に侮っているし、簡単な偵察艦隊を出してくる。空母は多分出てこないだろうな。となると、佐渡島から秋田ぐらいまでの間に上陸したがるか。絶妙に首都から遠く、それでいて行軍が不可能な距離では無い場所。上陸拠点にしては持ってこいだ」

「ゴフー?」

「ママザメ。確かこの国の地図は覚えていたな?だいたいここからここら辺までを中心に警戒してくれ。全体的に警戒して欲しいけど、ここら辺を重点的にね」

「ゴフー!!」


 了解と言わんばかりにヒレをパタパタさせるママザメと、その子供達。


 防衛は任せた。やばかったら逃げてきてもいいからね。最悪の場合は、ピギーに全部何とかしてもらうから。


 CHは、どうせ偵察に来る。相手のことをしっかりと調査しに来るだろうし、何より背後を取っている存在だから気にかけてくるだろう。


 ならばそこを叩いて情報を遮断してやる。偵察兵がこの国の情報を持ち帰れると思うなよ。




【空母】

 航空母艦。第一次世界大戦で登場し、その当時は飛行機母艦の名称も使われた[2][注 1]。艦内に格納庫を有し、飛行甲板より艦載機(艦上機)を発着させることが可能な、海洋を移動する飛行場にして根拠地である。

 航空機の性能が低かったこともあって補助艦艇として扱われていたが、後に航空機の性能が向上して航空主兵論が台頭するとともに、機動部隊の中核となる主力艦としての地位を確立していった。

 日本で有名な空母は赤城や大鳳などがある。




 日本帝国の防衛を任されたサメちゃん一家は、その日から日本の排他的経済水域の見回りを始めた。


 彼らは自分達を恐れずそれどころか楽しそうに話してくるグレイの為に、真剣に海の中を泳いで警戒に回る。


 初日こそどのように警戒したらいいのか分からず困っしまったが、二頭のママザメ達が自分なりに考えて巡回ルートやルールを決めて組織的な警備を作り始めたのだ。


 サメたちは頭がいい。


 3日もすれば、軍隊顔負けのサメ艦隊が日本海側の警備を始めていた。


「日本帝国。偉大なる祖国に宣戦布告してきた過去の異物に、今更何が出来るというのだ。第二次世界大戦で敗北し、常任理事国にすら入れずダンジョンに壊された国など、CHの敵ではないというのに」

「まぁまぁ。いいじゃないですか。適当に蹂躙した後は国の英雄ですよ。楽な仕事が回ってきただけ有難いですよ」


 第三次世界大戦が始まってから四日後。


 バルカン諸国とCHの戦争が本格化する中、どさくさに紛れて宣戦布告してきた日本帝国に対しての偵察が行われた。


 持て余していた海軍戦力の中から、駆逐艦五隻と軽巡洋艦三隻そして重巡洋艦一隻の艦隊である。


 未承認国家に対してどう見ても過剰な戦力を投入しているように見えるが、現在挟み撃ちの状態となっているCHからすればどちらかひとつの戦線は消してしまいたかった。


 そして、日本帝国の方が圧倒的に消しやすい。


 多少戦力過多であっても、確実に任務を遂行して欲しいのである。


「宣戦布告してきて何も動きを見せないことに、上層部はかなりの不気味さを感じているらしい。バルカン諸国との連携があるのかと警戒もしていたが、奴らはバルカン諸国にも喧嘩を売っている。一体何がしたいんだろうな?」

「分かりませんよ。テロリストが考えることなんて。何せ、あの国の国家元首はあの頭のイカれたテロリスト“グレイ”なんですよ?わかるわけないじゃないですか。俺は真っ当な軍人ですからね」

「それもそうだな。分かったらむしろ怖いか」


 どちらにせよ、今回の任務は楽に終わらせれるだろう。


 そんな楽観的な考えをした瞬間、レーダーに何かが引っかかる。


「ん?なんだ?」

「凄まじい速度ですね。これは........潜水艦?いや、でも潜水艦でももっと遅いはずだし、何より潜水艦を保有できるだけの資源があるわけが無い」

「とりあえず迎撃だ。サメやクジラともまた違う未知の存在に接敵。これより掃討に入る」

「「「「「「ハッ!!」」」」」」


 僅かな違和感を覚え、迎撃に入った彼らは優秀と言えるだろう。しかし、相手が悪すぎた。


 アジア育ちのただの鉄と過酷なダンジョンの世界で生きてきた魔物。どちらが強いかと言われれば、それは圧倒的に後者である。


「発射!!」


 様々な準備を終わらせ、魚雷を発射する駆逐艦隊。


 魚雷は見事、海の中で高速に移動するサメちゃん達に命中し彼らは心の中で“よし”とガッツポーズをとる。


「........フゴ?」

「フゴーフゴー?」

「フゴゴー」


 が、外皮が鉄よりも頑丈な彼らには全くと言っていいほど効果がなかった。


 サメちゃん達は“なんか飛んできたんだけどあれなに?”“わっかんね。攻撃なんじゃね?”“弱すぎワロタ”と呑気に話すだけ。


 そして、アレが自分達が倒すべき敵だと再認識すると、爆速で海の中を泳ぎ思いっきり体当たりをブチがした。


 ドゴーン!!ザバーン!!


「う、うわぁぁぁぁぁぁ?!」

「な、なんだこいつ!!魚雷が当たっても停止しないし、体当してきたぞ!!」

「報告!!報告をしろ!!」


 体長20m以上もあるサメちゃんの体当りは、自分たちよりも大きな鉄と塊を一撃でひっくり返す。


 船底には穴が開き水が入り始め、更には船が大きく傾いて誰もがたっていられなくなる。


「フゴー♪」


 阿鼻叫喚となる戦艦の中とは裏腹に、外ではノリノリで体当たしまくるサメちゃん達がいた。


 駆逐艦だろうが軽巡洋艦だろうが重巡洋艦だろうが、海の支配者たるサメの前では全てが無意味。


 ダンジョンの中で育ってきた彼らにとって、この鉄の塊は玩具程度にしかならないのである。


 次から次へと沈められる船。


 その船から脱出できずに海の奥底へと消えていく兵士もいれば、何とか海へと逃げ出した兵士もいる。


 しかし、彼らに逃げ場はない。


 海の中に飛び込んだとしても、そこにはジョーズ以上に大きな身体を持ったバカでかいサメが待ち構えているのだから。


「フゴー(やぁ)」

「や、やぁサメちゃん。俺を食っても美味しくないぞ?ほら、食える身が少ないし骨だらけだ。きっと食ったら喉に骨がぶっ刺さって痛い目を見る。だから、ここは見逃してほしい」

「フゴー。フゴ(やだ。グレイとの約束の方が大事。死ね)」


 ガブッと、全身を丸呑みにされて噛み砕かれる兵士たち。


 サメちゃんたちにとって、自分たちと遊んでくれるグレイやリィズ以外の人間がどうなろうが知ったこっちゃない。


 サメ達は、自分の大好きな人間が喜んでくれる方が嬉しいのだ。


 そのためには人を喰らう。サメ達にとってそれはただの捕食行動に過ぎないのだから。


「いやぁぁぁぁぁぁ!!」

「だ、誰か助け────」

「フゴー」

「や、やめてくれ!!もう時期子供が生まれるんだ!!」

「フゴー?」


 子供が産まれようが神への祈りを捧げようがお構い無し。


 サメたちの蹂躙は悲鳴が聞こえなくなるまで続き、結果的に全戦力を失う事となった。


 この海戦の結果は、直ぐにグレイに伝えられグレイはサメちゃん達を褒めてやるのであった。




 後書き。

 サメちゃん艦隊(三体)。3体だけで艦隊潰すとかやばくね?

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