おいでよアーサー
平和な時間が過ぎ去っていく中、一応人類の王という立場でこの国わ管理する俺へ回ってくる仕事というのは多かったりする。
基本は事務仕事ができるレミヤやレイズに丸投げするのだが、自堕落な王が国を管理していては国民は付いてこない。
要は、嫌でも仕事をしなければならないのだ。
「あー、国家予算の使い道?前に言ったじゃん。一次産業に使ってって」
「それ以外の使い道ですよ
世界樹産の素材は現在ブランド価値が高く、アホみたいに高く売れる。
王達も馬鹿では無いので、市場の価値を保てるぐらいに上手く輸出を調整しながら素材を売りさばいてくれるので悪くは無い。
で、POL(ポーランド)にアホみたいに吹っかけたお陰で今この国は予算がバカみたいにある。
まだ建国して二ヶ月ちょっとしか経っていないというのに、国家予算が100億を余裕で超えているのだ。
その予算の使い道として、まずは食料改革を行おうと言うのが今やっているところ。
しかし、既に基盤ができている産業にそれほど金はかからなかった。
まだ60億近い金が余っているとなれば、なにかに使った方がいいだろう。
どうせ今は金を使い切っても金が入ってくる。
「医療福祉に予算を割くべきなんだけど........今の情勢を考えると厳しいだろうな。おばちゃんから聞いた話じゃ、バルカンとアジアがドンパチやらかすらしいし、俺達もまず間違いなく巻き込まれる。それに対する対応を考えなきゃダメだな」
「では、防衛予算に回しますか?」
「今の時点ではあまりいい選択ではないんだけどな。まずは国内の調整をしなきゃ行けないのに、それよりも先に戦争に向けた政策は理解を得られないから」
この国は独裁国家ではなく民主的国家。間違っても、権力という力で全てを押さえつけてはならない。
世の中には民主主義を国名に入れておきながら、ほぼ独裁国家みたいな国もあるが。
俺は内政とかそこら辺はさっぱりだが、この政策をしたら国民がどんな反応をするのかと言うのは何となくわかる。
ようやく邪神を討伐し、平和が戻ってきた今のこの国で防衛や戦争に関する政策をすれば、あまりいい顔をされないかとぐらいは分かるのだ。
だが、やらなくては国が滅ぶ可能性も出てくる。
俺がいた頃の日本の政治かも、仕方がなくそういう政策をしている時とかあったんだろうな。
「防衛........特に、空軍に関しては何も持ってないからな。海軍はもうサメちゃんに全部任せてもいい気がするけど、空軍をどうするかが議題だな。いつの時代だって空を制したものが戦争を制する。ライト兄弟は戦争のあり方を変えて、クソみたいな世の中を作り出してくれた訳だ」
「アルフレッド・ノーベルよりも戦争に有用な兵器を開発したかもしれませんね。空の時代、私達が生きる上で最も欠かせない存在ですから」
陸軍、海軍に関しては、少ないながらも何とか確保出来ている。
数こそ他の国に比べて少ないが、その分精鋭揃いでまず負けることは無い。
この世界は個が軍を圧倒する世界。たった一人の英雄が、何千もの敵軍を討ち滅ぼして国を救うなんて話が当たり前のようにあるのだ。
Aランクハンター並の力を持つ世界樹出身のもの達と、ジョーズすら食い殺す巨大さを持ったサメちゃん家族。
かの二つがある限りは余程ヤベーのが出てこない限り負けることは無い。
まぁ、ヤベーのが出てきても、吾郎じいさんやリィズを投入すれば多分なんとでもなる。
が、空軍に関しては今はどうしようもない。空から原爆でも落とされれば、あっという間に滅んでしまうのが今の日本だ。
せめて、自国の制空権だけでも取れるようにしておかないと、戦争に敗北する可能性が高くなる。
「ドワーフに開発費でも渡しますか?」
「それはダメだ。ドワーフの力が強くなりすぎるし、何より今は一次産業に集中して欲しい。この国は絶妙なバランスで成り立っているんだ。天秤が大きくかたむけば、この国が内部から崩れる」
「ですよね。では、どういたしますか?」
「それを考えているのさ。ところで、この時代の飛行機って何で飛んでるんだ?」
「魔力エンジンを利用しております。300年ほど前に開発された魔力を用いて動力を得るものですね。現在、全ての動力源は魔力エンジンによって動いていると言っても過言では無いですよ」
魔力エンジン。
300年ほど前に発明された、魔力をエネルギーとして動力を生み出すエンジンの事か。
詳しい仕組みは知らないが、現時点で多くの車やバイク、船や飛行機に搭載されていると聞いたことがある。
何をどうやって動かしているのかはさっぱりだが、当時はとんでもない技術的革新であり人類の進歩に大きく貢献したという話も聞いたな。
「ってことは、魔力がエネルギー源で、魔力を外に放出することで空を飛んでるんだな?」
「えぇ。簡単に言えばそうなっています」
「ってことは、最悪ピギーを鳴かせるか。今のピギーは外に出たエネルギーに対して絶対的な力があるから、動力を無力化できるだろうよ........できるよな?」
『ピギー、ピギッ!!』
「あ、余裕なんだ。相変わらずピギーは滅茶苦茶だな。最悪の場合は、リィズ辺りに俺を担いでもらって空で鳴かせればいいか。その時は頼んだよピギー」
『ピギー!!』
相変わらずチートがすぎるぞピギー。こいつ一人で防衛に関しては事足りるのではないだろうか。
人の動きすら止められるし、あの邪神ニーズヘッグすらもピギーの前では頭を垂れる。
もうピギーが神様でいいよ。なんなら神すらも殺しそう。
「とはいえ、ピギーを使うのは最終手段だな。できる限りは俺達だけで解決しないと」
「空を飛び、最低限の戦闘能力を持った兵器の確保ですか........難しいですね」
「だな。兵器開発や防衛に予算を回すと、他の事ができなくなる。まだまだ金が足りないわけだ。もう一つ二つ、お得意様の国を作るべきなのかもしれんぞ」
「確かにそうですね。POLだけですと、どうしても限界がありますし。ですが、一番の取引相手であったUSA(アメリカ)はそれどころでは無いですよ?
「いや、滅んでは無いからね?それと、あれは俺が悪いんじゃなくて、政治家が悪いから」
なんで俺が全部やらかしたみたいに言ってんだよ。俺は何も悪くないぞ。
だって政治家が綺麗だったら、ただゴミ掃除をしただけに過ぎなかったし。あの国は、自分たちの汚職で自分の首を絞めているのだ。
俺、何も悪くない。
貿易相手に関しては、もう少し貿易相手を増やすべきだろう。何せ、POLに何かあればこの国が外貨を獲得出来る手段が消えてしまう。
そんなことにならないように、最低でもあと二、三ヶ国はどこかと貿易をやっておきたい。
........となると、俺のツテで呼べる国は一つだけになるな。
「仕方がない。あいつを呼ぶか」
「アイツ?どなたですか?」
「俺が気軽に呼べるやつなんて一人しかいないだろ?俺は友達が少ないんだから」
「........あぁ、英雄王アーサーですか。いや、普通そんな気軽に呼べる人では無いのですがね?あの人、一応ブリテンの王とまで言われる人なんですよ?」
「知るか。俺の前じゃただの苦労人だよ。犬好きのな。ナーちゃん達もフェルには会いたいだろうし、合わせてやっていいだろ。世界的犯罪者として色々と言われていた時はともかく、今なら大分会いやすいだろうしな」
三枚舌外交でお馴染みみんな大好きブリカスの英雄、アーサー。
ひょんなことから友人となり、ペットを愛するただの青年に、俺は電話をかけてやるのであった。
【MAR(モロッコ)】
北アフリカにある、地中海と大西洋に面した国。第一次ダンジョン戦争の後、アフリカでは技術革新が起こり今では中国として知られている。が、西サハラ問題が存在しており、USAの圧力が無くなった今は内戦中。エジプトがモロッコ正規軍に支援をし、ブリテンが西サハラに支援をしているため、代理戦争状態となっている。
世界の守護者にして、人類の英雄と称されるアーサー。
彼は大きなイベントに呼ばれてゲストとして出演したあと、家に帰ってワンコのフェルト戯れていた。
「フェルも大きくなったね。初めてあった頃はあんなに弱々しそうだったのに、今となっては随分と立派なオオカミになり始めているじゃないか」
「バフ!!」
「あはは。フェルは本当に可愛いなぁ........フェルに出会えてからは心の癒しだよ。僕のケツ穴をファックしたがるホモ野郎とか、年齢も考えずに僕に求婚してくる発情期のババァよりの相手をさせられるよりも本当に」
「バ、バフ........」
アーサーは人類の英雄と言われ、常に人前では理想を演じる。
しかし、アーサーとて所詮は人だ。笑顔の仮面を張りつけながら、表向きは理想を演じているだけ。
その理想だけを見ている者達に詰め寄られれば、アーサーの口も悪くなる。
四ヶ月間アーサーを見ていたフェルは、そんな疲れたアーサーを見るのがあまり好きではなかった。
最初の頃は甘えに甘え倒していたが、この四ヶ月間で疲れたアーサーを見てきてむしろ甘えられる側となっている。
それはそれで悪くないが、フェルとしてはまだまだ甘えたい年頃なのだ。
例え、成長が早く賢かったとしても。
そんな疲れきってフェルをモフモフとしながら癒されるアーサーの元に、1本の電話が入ってくる。
また仕事関連か、厄介なイタ電かと思いながら表示された番号を見ると、それはアーサーの数少ない友人のものであった。
「グレイからだ!!珍しいなぁ」
似て非なる人生を歩む友人からの電話。アーサーがその電話を断る訳もなく、即座に通話ボタンを押して電話に出る。
すると、いつものようにやる気のない声がアーサーの耳に入り込んできた。
『よぉ、アーサー。元気にしてたか?』
「久しぶり。随分と暴れ回っていたみたいだね」
『いつものだよいつもの。俺は何も悪くない』
「本当かい?僕はUSAを分断したのも君の仕業だと思っているんだけど?」
『........そんなことは無い。事故だ』
事故だとしてもやってんじゃん。アーサーはそう思いながら、もツッコミは入れない。
「で、なんの用?僕は今フェルに癒されてるんだ」
『おっと、そいつは悪かったな。なら単刀直入に言おう。うちの国にくる?今さ、貿易相手を探してて、つてがあるのがブリテンしかないんだよね。で、アーサーに取り次いで欲しい。次いでに遊びに来ていいよ。仕事という大義名分ができるから、怪しまれないぞ』
「本当?!行く行く!!もちろんフェルも連れて行っていいよね?!」
『当たり前だ。ナーちゃん達も会いたがっているだろうしな。三枚舌には俺から連絡を入れておくから、アーサーは上手くねじ込んどけ。面白いぞこの国は。何せ、爆音を流しながら走るバイクの群れが見れるからな』
「楽しみにしてるよ。今すぐ行くからね!!」
『ゆっくり来いよバカ。安全第一だ』
そう言って切れる電話。
アーサーはこの日から日本へ行くのが楽しみで仕方がなかったのであった。
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