世界情勢


 日本帝国に帰ってきた俺達は、国の発展を見ながら思い思いの時間を過ごしていた。


 邪神ニーズヘッグが討伐されてから、この世界樹が保護する世界はとても平和である。


 多くの種族との交流や人間から仕入れた技術の発展により、他種族への偏見が徐々になくなり始めているのだ。


 今のところは大きな問題もなく、全組織を交えた警察組織もしっかりと機能している。


 要は、俺のやることが特にないのだ。


 そのため、久々に暇で平和な時間を過ごせている。


「悪いなピギー。最近は遊んでやれなくて」

「ピギー!!」


 暇な時間が出来た俺は、いつも俺の事を守ってくれるピギーやなナーちゃん達と遊んでいた。


 遊ぶとは言っても、基本的にはただ呼び出して我儘を聞いてやるぐらい。


 しかし、意思があり、思考を持つ生き物に変わりはないのでこうしてご機嫌を取っておくことがとても大切である。


 ナーちゃんとスーちゃんは胡座をかいた俺の膝の上で静かに眠り、ピギーは久々に俺と触れ合えるのが嬉しいのかずっと俺の横でウキウキしていた。


 なお、街中でピギーを出すと混乱を生むので街からかなり離れた山奥でピギーは出している。


 ピギーは、存在しているだけで周囲に死を撒き散らす存在であるのは間違いないが、力を抑えることは出来るのだ。


 多分、街には影響がないはずである。


「ピギッ、ピギー?」

「そうだな。また五大ダンジョンには挑むことになるだろうな。次の目的地は決めてないから、そこから決めないといけないけども」

「ピギー?」

「オセアニア大陸にある悪魔のダンジョンと、南アメリカにある地獄のダンジョン。そして、天へと続くITA(イタリア)のダンジョンにヒマラヤ山脈付近にある黙示録のダンジョン。この4つが残ってる。どれもやばいらしいけど、一番ヤバイのはどれなんだろうな?」


 俺がこの世界にやってきたのは、五大ダンジョンを攻略するため。


 くそ迷惑な神によって転生(転移?)されられ、神の試練として五大ダンジョンを攻略するのが俺の目的であったはずなのだ。


 何故かこの世界に来て3日目でテロリストにされるわ、犯罪者達の都市に逃げ込んであれこれ巻き込まれるわ、挙句の果てには全世界から恨みを買うわで滅茶苦茶なことになってしまっているけども。


 先日はUSAに交渉しようと思っていたら、大統領の首がすげ変わっていた。革命戦争?世の中怖いことが多くて困るなぁ........


 間違ってもUSAのような国を作ってはならないとは思うものの、だからと言って共産主義お隣のような国を作るわけにも行かない。


 幸い、日本は世界樹と言う信仰対象があるから宗教による衝突は無いだろう。


 思想の統一という面では宗教は優秀だな。行き過ぎた選民思想さえ持ち込まなければ、ある程度の団結力を獲得できる。


 国の安定化に宗教が必要としたゲームはすごいよ。宗教戦争もできるし、割と国家運営ゲームの中でもリアルである。


「ピギー」

「そうだな。今は国が安定するまでのんびりとするべきだ。急ぐことが悪いとは言わんが、急いで安定化を測って土台が崩れたら意味が無い」

「ピギ、ピギー!!」

「ハッハッハ!!最悪自分が鳴けばいいって?確かに恐怖でおさえつける時が来るかもしれんな。そこまで国民が馬鹿じゃないことを祈るよ。もし、その時がきたら、力を貸してくれるとありがたいね」

「ピギー!!」


 楽しそうに鳴くピギーは、機嫌がいいのか俺の周りをグルグルと回る。


 現在は封印状態であるピギー。世界を三度滅ぼしたことがあるとは言っていたが、その封印を解いたらどうなるんだろうな?


 少し気になってしまうが、封印を解いたら冗談抜きに世界は滅ぶだろう。


 封印されている状態であっても、邪神の足を止めさせ無力化させてしまうのがピギーなのだから。


「ピギッピギッピギー!!」

「ナー?」

「ピギー!!」

「ナー!!」


 ノリノリで歌いながら俺の周りをピギーが回っていると、ナーちゃんが目を覚ます。


 そして、ナーちゃんはピギーと楽しそうに会話を始めていた。


 ナーちゃんやスーちゃんは、ピギーの死の圧にだいぶ慣れている。


 魔物は慣れが早いのかなとか思ったりもしていたが、別にそんなことは無さそうだから単純にこの2人が頑張って慣れただけっぽいよな。


「ナー!!」

「わっ!!ナーちゃんどうした急に」

「ナー」


 ピギーやナーちゃんが遊んでいるのを眺めると、ナーちゃんが俺の服の中に入ってくる。


 普段はスーちゃんの居場所となっている俺の服の中だが、こうしてのんびりとしている時は割とナーちゃんも俺の服の中に入り込んでは暖かい体を押し付けて来ていた。


 そして、襟元から顔を出してニコニコと笑顔を浮かべながら俺の胸の中で気持ちよさそうに目を細めるのである。


 うーん。可愛い。


 猫様に人は逆らえないとは言うが、猫型の魔物でも同じ事が言えるんだよな。


 まじでナーちゃんは可愛い。


 とても賢い子だから、どうやったら俺が喜ぶのかを熟知してやがる。


 ほんと、この世界の癒しだよお前達は。このクソみたいな世界で、俺を癒してくれる数少ない枠だ。


 襟元からひょっこりと顔を出したナーちゃんは、そのままぺろぺろと俺の首筋を舐める。


 これもナーちゃんなりの愛情表現。人前ではあまりやらないが、こうして俺たちしかいない時は基本俺の首元や頬をよく舐める。


 そして、首筋の時は甘噛みも良くしてくるのだ。


 カプカプを俺の首筋を甘噛みしては尻尾をものすごい勢いで振る。


 そんなに俺の首筋を噛むのが好きなのか?........そうえば、同じ遺伝子を組み込まれたリィズも俺の首筋をよく甘噛みしてくるな。


 もしかしたら、この行為は親愛の証としての行為なのかもしれない。


 あとは、鼻を合わせるキスか。


 こんなにも騒がしくしていぬ中でも、スーちゃんは爆睡中。


 暖かな秋の陽気に当てられて、日差しを浴びながら気持ちよく寝ている。


 こうして俺を守ってくれるナーちゃんやピギーと戯れていると、空気の読めない電話がプルプルと鳴り響く。


 誰だよと思い携帯を見ると、そこには“木偶情報屋”の番号が出てきていた。


 うわぁ、出なきゃダメなやつだ。仲間からの呼び出しなら無視したが、流石におばちゃんは無視できんな。


 借りがありすぎる。


 俺の顔を見て、電話の差出人が誰かを察したのかピギーは消えてナーちゃんは膝に戻る。


 こういう所が本当に賢いよな。そのら辺の犬畜生だったら、間違いなく俺の邪魔をしていた事だろう。


「ハローおばちゃん。人が平和を噛み締めいる時になんの用?」

『やぁやぁ色男。今回も随分と派手にやらかしたみたいじゃないか。お陰で私のところに熱烈なお電話ラブコールが止まないよ。まさか大統領の首が変わるとは思ってなかった』

「奇遇だね。俺も思ってなかったよ」

『くはは!!どの口が言ってんだか。しかも、帰りはサメに乗って帰ったんだって?流石に自分の目を疑っちまったよ。何せ、監視カメラにサメが吹っ飛んでる映像が残ってたんだからねぇ。シャークネードでも起こったのかと思っちまった』

「明日はサメが降ってくるかもな。ちなみに、そのサメたちはうちで面倒を見る事になったから。先日から海軍として近郊の海を守ってもらってるぞ」

『.......相変わらず読めない男だ。私の想像の遥か先を行くのはやめておくれ。さて、そんな革命家の色男に色々と情報をくれてやろう』


 サメのこと、バレてたんだ。


 相変わらず情報収集が早い。


 今になって連絡を取りに来たのは、おそらくUSAからのラブコールが止まらなかったからなんだろうなぁ。


 いつも迷惑ばかりかけてごめんねおばちゃん。またリィズと一緒に顔を見せに行くからね。


 まるで、祖母のような扱いになり始めているおばちゃんに心から感謝しつつ俺はその情報とやらを聞いてみることにした。


『現在、大国の二つが吹っ飛んだお陰で、各国の力関係に歪みが生じ始めている。USAなんて特に世界に影響力を持っていた国だからねぇ。USAの圧力によって動けなかった国というのは結構多いのさ』

「だろね。何せ相手は自称世界の警察だし」

『そんな自称世界の警察様があの有様なら、当然世界の治安も悪くなる。特に小国の動きがかなり活発で、中には内戦が始まっている国もある。ヨーロッパとアフリカだね。特に酷いのがMAR(モロッコ)だ。あそこの内戦は、1歩間違えれば核が落ちる』

「自国を核汚染するのか。凄まじいアホさ加減だな」

『まだ落ちた訳では無いが、可能性は高い。元々も、北モロッコと南モロッコで亀裂ができていからね』


 この世界のMAR(モロッコ)は、西サハラまでMAR領として認められている。


 西サハラは前の世界では国として認められてはいなかったものの、多くの人から国として見られていた。


 要は台湾と同じような扱いだったわけだ。


 しかし、この世界では分裂が起きることも無くMARとして存在していた。


 で、今になって500年前の地図を取り戻そうとしているわけだ。


「それで、そのMARの話が何かこちらに関係があるのか?」

『いや、これに関しては何も問題ない。EGY(エジプト)が内戦に介入しているらしいが、色男達の国とはあまり関係の無い話だよ。で、問題はこっちだ。現在、バルカン諸国が同盟を結んでCH及びアジア諸国に喧嘩を売ろうとしている。元々仲が悪い連中ではあったんだが、この前の騒ぎが引き金となったな。USAが目を光らせている内は問題なかったが、今は好き勝手に動けちまう。このまま行けば、バルカンvsアジアの戦争が始まるよ』


 この前の騒ぎ?........あぁ、ミルラとお爺さんを仲間にした時の話か。


 なんか他国の軍まで混ざってたから、嫌がらせで死体を残しておいたやつやな。


 確かに戦争の火種になりかねないみたいな話を聞いた覚えがある。


 今まではUSAがその火薬を湿らせて使えなくしていたのだが、今になって火薬が乾いてしまったのだろう。


 そして、マッチの火が落とされようとしているという訳か。


「いつ始まりそう?」

『もう少し先........2ヶ月か三ヶ月後と言ったところかな?下手をすれば、色男の国も巻き込まれる事になるぞ』

「ま、巻き込まれるでしょうね。まず間違い居なく。わかった、戦争に向けて準備はしておくよ。とは言っても、防衛だけになるだろうけどね」

『私ができるのは情報を使うことだけだ。あとは頑張ってくれよ。後、私の人形を国に入れて欲しいねぇ。私も見てみたいさね。人類が取り返せなかったその土地の姿を』

「来るといいよ。連絡さえ入れてくれれば、対応できると思うから。情報ありがとね」

『気にしなくていいさね。それじゃ、頑張ってくれ』


 そう言って電話は切られる。


 戦争か。正直、面倒臭いから勝手にやっててくれって言うのが本音なんだけどなぁ........立地的に巻き込まれるだろうし、何らかの対策をしておかなきゃならん。


 俺は、仕事が増えたなと思いつつ、ピギーをまた呼び出して遊んでやるのであった。

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