試す側、試される側


 有名ターン制ストラテジーゲーム、シヴィ〇イゼーションシリーズで、序盤最も重要な資源は食料である。


 もちろん技術力も必要ではあるが(テクノロジー解放の為に)、それでも食料の比率の方が大きい。


 食料を増やせば人口が増え、人口が増えれば国力が増える。


 結果的に技術力も大きくなるので、食料という資源を如何に確保できるのかが序盤の重要なポイントだ。


 そして、ゲームの世界の話とはいえど、多少は現実も同じである。


 食料、衣服、そして住居。


 先ずはこの三つを安定させ、そして次のステップへと進むのだ。


 現在我らが祖国日本帝国は、最低限の衣食住が揃っている。


 なので次のステップに進んでもいいように思えるが、俺は足りないと感じていた。


 今まではニーズヘッグと言う驚異があったし、国としての規模も割と小さい部類ではあっただろう。


 しかし、国境をなくして手を取り合い他種族との交流が始まった今、まず間違いなく人口が爆発的に増え始める。


 今までは同種族同士でしか子供を産まなかった人々が、様々な種族と交わる機会が多くなるのだ。


 選ぶ母数が大きくなれば、それだけ結ばれる人も増える。そして、結ばれた人が増えれば、人口は増加する。


 最初は人口が増えるだけで特に問題は無いが、この問題は徐々に首を締め始め、やがて食糧不足になるのだ。


 食糧不足になってから初めて対処をするのでは意味が無い。どうせどれだけあっても困らないのだし、食料生産はとにかくやって欲しい。


「────以上の理由から、大規模な食糧改革をしたいと考えている。質問がある人は?」


 ここは日本の首都東京にある、1番でかい家の中。


 国会議事堂のようなものがあるわけが無いので、俺達は適当な家を借りてそこを議会場としている。


 この場に集まったのは、それぞれの王とその補佐役数名。


 人間の代表は俺と、何かと役に立つポンコツ兵器レミヤ。そして、何かと便利なレイズである。


「ふむ。確かに食料問題はいずれ起きるだろうな。既にダークエルフとエルフが結ばれた事実もある。今後、彼らあとを続くもの達も多いだろう。そうすれば、人の数は増えて、場当たり的な食料の確保は難しくなる。もっと計画性を持った方がいいだろうな」

「基本的には狩りをしてその肉を下ろすからな。だが、その家畜?とか言うやり方は狩人達のやり方を潰しかねないのではないか?」

「そこは何とかなるだろう。何せ、グレイ殿の発案だ。それを考えていないわけも無い」

「同意だな」

「狩人達には今まで通りの仕事をしてもらえればいいさ。家畜にできるのは動物であって、魔物じゃない。今までより魔物肉の価値を高くして、1つのブランドとして売り出せばそれなりの収益は確保できるはずだ。それと、家畜に関しては狩人達に優先的に話を持っていくつもりでもある。安定するまでは国から補助金を出せばなんとかなる........と思いたい」


 やべ、そう言えば彼らの肉の確保のやり方は狩りだったな。


 世界樹の元に生きる彼らは、畜産という概念を持っていない。


 計画的に動物を管理し、安定した肉や食材の供給をしていないのだ。基本は、狩人に魔物を狩らせて肉を持ってくる。


 道理で肉がちょっとした高級品として扱われるわけだ。


 俺は、狩人に関して何も考えていなかったので、場当たり的な考えを述べておく。どうせ問題があれば内政に優れた王様たちが何とかしてくれるっしょ。


 俺、ゲームでは国家運営をしたことはあるが、リアルはズブの素人なのだ。それは王達も理解しているはずなので、上手く調整してくれ。


「あとは農業だな。もっと大規模な農業をやりたい。現状、職に就いていない者たちがそれなりにいる。中には親のスネを齧って生きるダメな奴もいるが、働きたくとも働けない者もいる。彼らに農業の仕事と、技術者としての仕事を与えたい」

「理由は?」

「仕事が出来れば、金が手に入る。金が手に入れば経済は回る。次いでに食糧問題も解決出来て、万々歳だ。まぁ、問題もあるけどな。それと、技術に関しては、現状ドワーフしか技術を持ってない。各種族のバランスを考えた時に、一種族だけだ力を持つのはあまり宜しくないだろう?」

「それはまるでドワーフを抑制するように聞こえるが?技術はドワーフの歴史。それを軽んじると?」


 まぁ、ですよね。ドワーフからしたら面白くない話だ。


 自分たちの技術を教える目的が、力の抑制と言われればあまりいい顔はしない。


 だが、このメンツの中で取り繕った言い方をする方が気分が悪い。なんか知らんけど、この国の代表者となってしまった俺だが、俺は国民と対等だと思っている。


 王の後ろで話を聞いていた補佐のひとりが、僅かに顔を歪めていた。


 多分、あの顔は俺たちへ向けたものではなく、このクソ退屈な会議に向けられたものなのだろう。


 ドワーフは技術者。みんな楽しそうに物作りしているのに、自分達だけクソつまらん会議に出てるんだからそりゃ嫌だわな。


 サッサと終わらせてやるべきか。


「これに関しては、悪いが理解して欲しい。一つの種族が力を持つという事は、自然と半減する力も強くなる。多少は仕方がないが、大きな差は産みたくない。折角手を取ったのに、それを手放すのは愚策だ。それと、ドワーフにとって悪いことだけでもないぞ?」

「........と言うと?」

「発想というのは人の数だけある。技術を知り、その楽しさに気づいた者達が生み出した新たな技術や発明も出てくるという訳だ。技術の進歩こそが、ドワーフの望むものだろう?力を持ちすぎれば、いつの日か、また退屈な日々が始まるぞ」


 ドワーフの根源は技術。彼らは技術の進歩の為ならば割と何でも我慢してくれる。


 それを理解している俺は、“技術の進歩”と言う言葉を使って補佐官を黙らせた。


 彼らは一度停滞を経験している。権力を握る代わりに、手放すものは大きいぞ。


「補佐官が失礼した」

「気にすんな。むしろ、すんなり“分かりました”と言われた方が困る。俺達は統治者である前に一人の国民であり、立場は対等なんだ。疑問や不満は言い合うべきさ。殴り合いの喧嘩はダメだけども。補佐官。いい発言だった」

「........ありがとうございます」


 補佐官はそう言うと、頭を下げる。


 うん。本当に気にしてないからいいよ。イエスマンが俺は欲しいわけじゃないし、必ずしも俺の言ったことに対して首を縦に降らなくてもいい。


 話し合ってみんなで決めましょう。ただし、決断が遅くなるのでその時は多数決で。


 そんな感じで国を経営できたらいいね。理想論でしかないが。


 んー、この会議飽きてきた。よし、方針は決めたし後はみんなに任せよう。畜産の技術とかやり方とかも俺知らんしな!!


 農業とかに関しても、俺の専門外だ。いや、そもそもこの会議場に座っていることすらも専門外なんだけどね。


 後、帰ってきて直ぐに会議してるから、眠い。


 なんか俺達の家も用意されていたし、そこに行って寝たい。


「よし。大体の方針を決めたから解散しよう。畜産や農業を誰がやるかはそっちで勝手に決めていいよ。俺は眠い」

「帰ってきて直ぐに会議であったしな。無理を言ってすまなかった」

「いいよいいよ。基本的にはみんなの好きなようにやっちゃって。俺は大まかな方針だけ考えるから。調整は頑張ってね。何かあったら相談ぐらいは聞くから」


 うーん、投げやり国王。


 俺は統治者には向いていない。考えることが多いし、何より知識が足りない。


 こう言うのは、出来るやつに丸投げだ。そして俺は、仕事をしているフリだけしていれば問題ない!!


「じゃ、おやすみ。みんなも残業とかしすぎずに、ちゃんと寝ろよ」

「毎日8時間は寝ているから問題ないな!!私一人でやることが減ったから、むしろ仕事が減って助かっている!!」

「私は仕事が増えたぞ。お前にも分けてやろうか?」

「すまんな。ドワーフは内政にあまり向いている性格では無いのだ」

「私が手伝おうか?カルマ王」

「あ、少しだけ手伝ってくれ。普通に疲れるから」


 かつてはその手を取ることを拒否して睨み合っていた世界樹に住む者達。しかし、今はこうして楽しそうに話しているのを見ながら、俺は欠伸をしつつ用意されている家に戻るのであった。


 よし。仕事をしているフリ、完了!!これで暫くは文句を言われないな!!




【シヴィライゼーション】

 人類文明の歴史と発展をテーマにしたターン制のストラテジーゲーム。その内容は国土の整備や技術開発、他国との外交関係などであり、単純に数値の大きさや強さのみを求めるのではなく、ゲーム内で有機的に繰り広げられる国際秩序を注視し、常に一手先を読んだ総合戦略が求められる。

 グレイ君が苦手とするゲームだが、苦手なだけであって普通に強い。




 眠たそうに会議室を出ていくグレイを見送った王達。


 彼らはグレイが消えたあと会話を一旦止めると、アバートから口を開いた。


「どの口が内政はできないと言っているのやら。グレイ殿は本当になんでも出来るな」

「我々が一ヶ月以上も議論して考えた選択を、街の様子を一目見ただけで考えていたな。そりゃ勝てないわけだ。頭の作りが違いすぎる」

「食料問題に関しては、我々ですら議題に上がらなかったですよ。考えもしませんでしたな」

「全くだな。そうか。他種族婚を認める風潮になりつつある今、人が増えるのは自然の道理という訳か」


 王達も馬鹿ではない。


 グレイが言っていたように、各種族のパワーバランスという点はかなり気にしていた。


 人間の力が強くなるのは仕方がない面もあるが、それ以上に世界樹に住む者たちのパワーバランスが壊れてしまうのは大きな問題を生む。


 グレイは街を少しだけ見てそれに気づき、更には王たちですら考えなかった食料問題についてすら提示してきたのだ。


「........わ、私、グレイさんに嫌われてないですかね?」

「フハハハハ!!大丈夫だ。あの程度で人を嫌うお方では無いからな。我々がグレイ殿を試そうとすると、いつも返り討ちに合うから笑えるな!!」


 グレイに対して少し強めの態度を取った補佐官のドワーフ。


 彼は王達がグレイを試す為のサクラであった。


 外交手段に関しては化け物じみたものを持っている。では、内政は?疑問や不満を提示したものに対しての対応は?


 王としての器を見てみたいと言い出したカルマによって仕組まれたその寸劇は、あっという間に攻略されてグレイに言いくるめられてしまったのである。


「酷いですよ議長。私に嫌われ役をやれだなんて。自分でやって欲しかったです」

「じゃんけんで負けたお前が悪い。一切取り繕わずに言う点もしっかりしている。このような場で言葉を濁すのは悪手だからな」

「最後に“いい発言だった”ってフォローを入れるのも良かったな。あいつ、逆に何ができないんだ?」

「力はあるし、統治もできる。外交も天才的で、人を惹きつけるだけの魅力も備えている........あれ?もうグレイ殿1人でよくね?」

「私も思った。が、態々仕事を任せたということは、それだけ我々のことを信頼しているのだろう。精々、その期待に応えてみるか」

「アッハッハッハッハッ!!次は私たちが試される番か!!こいつはやられたな!!」


 王達と補佐官は笑うと、この国を更によりよい国にする為に動き始めるのであった。

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