1980年代かな?
サメちゃんに乗って日本に帰ってきた俺達は、サメちゃん達に別れを告げると発展した我が国を見るためにダンジョンがある場所へと向かった。
エルフの秘術があるこの場所では、転移が可能。
東京湾からあっという間にダンジョンの入口へとやってきた俺達は、その変わり様を見て驚きを隠せなかった。
かつては木々が生い茂り、歩くことすら邪魔になるほどの木があったのだが、今はその全てが切り開かれて、全てコンクリートになっている。
コンクリートで舗装された道に、木とコンクリートで作られた家。
高いビルこそ無いものの、ちょっと田舎の街並みのようなものが出来上がっていた。
あれおかしいな。街って、たった2ヶ月でこれほどまでに発展するものだったけ?
家を建てるのにどれほどの時間がかかるのかは知らないが、少なくとも街が出来上がる程の家をこの短期間で建てるのは不可能。
それを可能としているのが、ドワーフの技術力という事なのだろう。凄すぎるね。
「つい三ヶ月ほど前まで片田舎の村のような場所だったのか、ちゃんとした街になってやがる。一体どうやったらこんな速度で発展するんだ?」
「ドワーフの貪欲さた技術のおかげなんだろうな。街を作っているとは聞いたけど、これほどまでだとは思わなかった」
「大都会とはでは言わずとも、しっかりとした街が出来上がっている。技術的革新を得た時の文明の発展は凄まじいものがあるな」
「全くです。私の体も、そんな文明の発展から生み出されたものですからね」
あまりにも予想外すぎる発展速度に度肝を抜かれた俺たち。
ドワーフの議長であるデリックスは誇らしげに胸を張る。
「ドワーフの技術力は素晴らしいだろう?この二ヶ月程は、誰もが新たな技術に目を輝かせて思い思いの研究をしている。この地面........コンクリートひとつ取っても可能性の塊だからな。毎日が楽しくて仕方がない」
「そんな中内政をやらされるドワーフたちは退屈だろうね。不満とかは出てる?」
「フハハハハ!!今の内政は全部そこのカルマ王に任せているぞ!!だってみんな研究ばかりで仕事が回らないからな!!」
いいのかよそれで。
一応ひとつの国として俺達は“日本帝国”という名前をつけたが、その国での管理は王たちに丸投げしているのが現状だ。
みんなで助け合いましょうねの精神はあるものの、内政まで任せろとは言ってない。
全体で大きな法律を決め、その地区ごとに細かい法律を作ると言うのが今のこの国のあり方だ。
と言うか、ほとんどの国はそんな感じだろう。
全てを管理するのは、独裁国家のやり方。独裁国家の行く末は、大抵ろくなもんじゃない。
「カルマ王はいいの?」
「王はいらん。カルマと呼べグレイよ。それと、私は気にしてない。むしろ、ドワーフに好き勝手やらせた方が結果的に私たちの得にもなると知っているからな。無駄なプライドは、どこぞの王にへし折られた」
「プライドを持つことも必要だけどね。でも、多くの場合は必要なくていい。カルマはそれを学んだんだね」
「まぁな。古いやり方を続けるだけでダメだ。それを学べたのはいい経験であった」
出会った頃とは違い、爽やかな笑顔をうかべるカルマ王。
あの傲慢そうな態度からは想像できないほど、彼女は変わってしまった。
で、なんでカルマはチラチラとレイズを見てるんだ?好きなのか?
いいぞ頑張れカルマ。俺はそう言うの応援するタイプだからな。アリカとリィズに手を出すのだけは許さんが、それ以外はすきにしていいよ。
全員もれなく異常者だけど。
多分結婚する時に契約させられるぞ。契約内容までは知らんけど。
そんなことを思っていると、ブォォォォォン!!と、どこかで聞いたことがあるような音が街中に響く。
この音は間違いなくマフラーを外したバイクの音だな。しかも、かなりの数だ。
「バイクが流行ってるとは聞いたが、まさか本当に街中でふかしているとは思わなかった。おい、爺さん暴走族が生まれちまったぞ」
「フォッフォッフォ。別によかろうて。半グレの犯罪者集団でもなければ、ただの走り屋だしのぉ」
「馬鹿言え。あのクソうるさい音で騒がれてたまるかよ。夜中に鳴らされたら、対抗してピギーを鳴かせてやるぞ」
「どう考えてもそっちの方がヤベーだろ。叩き起される前に永眠するぞ?いやマジで」
空気が揺れるほどのエンジン音を響かせながら俺たちの前にやってきたのは、改造されまくったバイクに乗った集団であった。
ここは1980年代か?
暴走族全盛期にこんな感じの人達いたよな。いや、特服とかは着てないんだけどさ。
バイクに乗っている人種は様々であり、エルフにドワーフ、ダークエルフに人間。そして、何故か小さくなっているタイタンまで。
みんな楽しそうにバイクを乗り回している。
あ、そうだ。タイタンがなんで小さくなったのか聞かなきゃ。
「タイタンの王。なんでアンタそんなに小さいんだ?」
「体を無理やり縮小させる魔道具をドワーフに開発してもらった。死ぬほど窮屈で大変だが、こうして肩を並べられるのは悪くないな」
「いや、物理的に無理があるだろ........」
そう言って、魔道具である腕輪を見せてくるタイタンの王。
某駆逐してやるの漫画に出てきそうなほどの巨人であったあのタイタン達が、あっという間に小さくなってしまったのだ。
しかも、魔道具を使って。
質量保存の法則とか、エネルギーの法則とかガン無視して小さくなれるとかドワーフの技術ってスゲーな。
この国でいちばん優秀なのは、ドワーフに違いない。
ここは俺の専門分野では無いから深く考えるのは辞めておこう。こう言うのは、気にしたら負けである。
異世界だからね。しょうがないね。
「あ、グレイさん!!どうっすか?!俺のこの単車!!かっけーすよね?」
「かっこいいけど、音がうるさすぎる。街中で吹かすな。専用の道路を作ったんだろ?そっちでやれ」
「いやー、普段はそうなんすけど、今日グレイさんたちが帰ってくると聞いて、王に許可をとってんすよ!!」
「うむ。私が許可を出したぞ」
そう言って大きく頷くアバート王。
随分とお行儀のいい暴走族がいたもんだ。これじゃ暴走族と言うよりもバイクが好きな走り屋だな。
と言うか、なんでバイクが流行ってるんだよ。
俺はその疑問を一緒に戦場に立ったことがあるエルフに聞いてみた。
「なんでバイクが流行ってんの?」
「基本的に俺たちの移動手段は、徒歩か転移だったんです。ですが、ドワーフの皆さんが作ってくれたこのバイクは、そんな移動方法とは全く違って楽しさがあるんすよ!!最初は乗ることすら大変だったすけど、慣れれば風を切って突っ走れるので楽しいっす!!それにこの重低音なエンジンの響きもかっこいいっすよ!!」
「なるほど。つまり、目新しいもので触ってみたかったって訳だな」
「まぁ、平たく言うとそんな感じですかね。グレイさんも自分専用のバイクを作ってみたらどうですか?」
「あいにく、俺はバイクには乗らない主義なんだ。だって、転んだら危ないじゃん」
「そうっすか........」
俺がバイクには乗らないと知ると、しゅんとして悲しそうな顔をするエルフ君。
そんな悲しそうな顔をするなよ。俺はお前たちと違って身体が頑丈じゃないから、転んだだけで大怪我するってだけだから。
下手をしたらあの世行きだ。その前にスーちゃんかナーちゃんが助けてくれるとは思うけど。
そんなことを思っていると、ジルハードが少し羨ましそうにバイクを見つめる。
「いいなー。俺もバイク欲しいわ。なぁドワーフの議長さんよ。こいつはいくらで買えるんだ?」
「今はPOL(ポーランド)と同じ相場でやっている。貨幣の取引は全部人間の世界のものに統一したから、今持っている金貨で問題ないぞ」
「へぇ?もう貨幣を変えたのか?」
「もちろんだ。最初こそ混乱を生んでしまうが、こう言うのは早めにやってしまった方がいい。外貨を手に入れる手段が豊富なうちに、さっさと金をむしり取って国内に流通させるのが1番手っ取り早いからな」
つくづく有能な王様だなおい。
アバート王は衰弱していたから内政に関わることが出来ず、国が崩壊しかけていただけであってちゃんとやれば出来るタイプの王様だったか。
わずか二か月でこちらの金を浸透させて、POLからこれでもかと金をむしり取る。
そして、その金で経済を回して国を豊かにしていくのだ。
エルフのダンジョン産の素材は今の所需要しかないし、どれだけ吹っ掛けてもPOLも元が取れると分かっているから買ってくれる。
多分えげつないレベルの法外な値段で取引されているだろう。
下手をすれば、俺たちの組織の貯金より金が既にあるかもしれない。
「ちなみに、既に国家予算は100億ゴールドありますよ。俺が死ぬほど吹っ掛けたので」
「それは利益の話か?」
「いえ、この国が自由に使えるお金が100億っす。国民が使っているお金やその他自地区出回っているお金とは完全な別物っすね。これがその資料っす。目を通してください」
一体どれだけ吹っかけたんだレイズは。
俺はそう思いながら、その資料を受け取って中身を見てみると、見たことがないほ程の0が並んでいた。
えーと、ゼロが8個で1億だから........うわっ、この国2か月で424億稼いでるぞ。
しかも、ダンジョンの中には腐る程生えている薬草1個が十万するとか、もうこれ詐欺だろ。
国の予算に100億ぶち込んでるから、残りの324億がこの国の中で出回っている金の量か。
ちょっと間違えるとインフレが起きそうだな。いや、元々持っていた金をこっちの金に変える必要があるから、このぐらいの金がないとダメなのか。
それに、各地区の運営予算も考えるともう少し必要なのかもしれん。
もう少し国家予算が集まったら、色々と予算の使い道とかも決めないとダメだなこりゃ。
先ずは公共設備からか。道路や街の建設はもちろん、医療や教育にも力を入れないと。
完全に国家運営シミュレーションゲームだ。どれだけ金を上手く回して、国民の機嫌を取りつつ国を発展させるのか。
今のところはPOLがお得意様になってくれているが、1ヶ国だけだと何かあった時に困るからもう二、三ヶ国はお得意様を作らないと。
それでいながらPOLの期限を損なわないような取引の仕方をしないとダメだ。俺、国家経営とか街の経営系のシミュレーションゲームはあまり得意じゃないんだけどねぇ。
ギャルゲーとかの方がまだ得意である。いちばん得意なのはタイマンの対人戦ゲームだが。
「んー、とりあえずはこの調子て街を発展させよう。技術が入ってきて、新しいものに触れる機会が多くなるからそこまで国民の不満は堪らないはず。あとは役割分担が必要だな。エルフは医療機関。タイタンには教育、ダークエルフには娯楽施設に力を入れてもらうか。後、産業も必要だな。豚や牛とかの家畜を育てて食べる第一次産業をもっと発展させないと、食糧不足に困る可能性があるかも。今はまだ問題ないけど、その内爆発的に人口が伸びるぞ。それと、ドワーフには悪いけど、出来れば他種族にも技術を教えてあげて欲しい。じゃないと、ドワーフの力が強くなりすぎて歪みを産む。人間は........まぁ、いい感じで手伝うか」
一旦街の開発はストップで。急速に発展するのは悪かないが、その土台ができているとは思えない。
先ずは衣食住の確保。そして、医療や教育の整備。最後に娯楽施設だな。
発展の不満もあるだろうが、それは現状目新しさで何とかカバー出来るだろうし、数年........10数年は何とかなるかも。
既に仕事を持っている人ではなくて、仕事がない人達に国から支援を出して仕事に付かせるか。
我が国はニートとか許さないんで、働け。
「........なぁ、ボスって国家運営とかしたことあるのか?」
「知りません。少なくとも、私の知る限りでは無いですね」
「グレイちゃんの事だから、多分なんでも出来ちゃうんだよ。仕方がないね」
「まぁ、グレイお兄ちゃんだしな。そこの王たちが目を見開いていたとしても驚かんよ」
「いつもの事っす」
「フォッフォッフォ!!日本国の未来は明るいのぉ!!」
「確かに今更ねん」
「全くです。ボスですからね」
こうして、血にまみれた戦場から今度は頭を使うゲームが始まるのであった。
もしかしたらドワーフ達の技術次第でかなり早く土台を作れるかもな。でも、それはそれでドワーフの力が強くなりすぎるし、やっぱり他種族の職人も必要か。
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