CIA vs九芒星
USA(アメリカ)に来てからというもの、CIAに追われることがなかったから完全に忘れていたが、そういえば俺たちお尋ね者だったわ。
カルフォルニア州では変装していたりもしたが、オレゴン州に来てからは割と普通に顔を出していたし市民からの通報とかがあったのかもしれん。
衛生からの姿は遮断していたとしても、人の目を遮断することは出来ない。
ましてや、通報なんかがされればいやでも俺達の居場所はバレてしまう。
多くの人々は“ここにテロリストがいるわけないやろ”みたいな考え方をしているけれど、中には疑り深い人や勘の鋭い人も多いのである。
土砂降りの雨の中、動画配信者と思わしき人を助けた後、俺たちはCIAに追われあっちこっちに逃げ回っていた。
「リィズの名前を言ったのはちょっと失敗だったかもな。カメラがあることに気がつくのが遅れちまった」
「あんな死にそうな目にあっていてもカメラを回すとは、マスメディアの才能があるぜあの子。確か、滅茶苦茶有名な動画配信者だったはずだ。あの姿には見覚えがある」
「アーリという子ですね。チャンネル登録者数1000万人を超える超大物動画配信者です。年齢は16歳。僅か二年でその階段を駆け上がり、今も尚人気が衰えることは無い凄まじい人ですよ。何せ、リアルタイムでダンジョンの中を見られる唯一のチャンネルですからね。編集された動画と違って、リアルを感じることが出来ます」
この世界にも動画配信者がいるのは知っているし、実際に暇つぶしに見ることも多い。
基本はゲーム動画ばかりなのだが、中にはダンジョンの中を映す動画も数多くある。
しかし、ダンジョンという性質上生配信することは難しい。ダンジョンとこの世界は完全なる別物であり、ダンジョンの魔力が電波を邪魔してしまうから情報を送れないのだ。
だから、密談や殺しにはダンジョンが適している。外から人を呼ぶことも出来なければ、死体の処分にも困らないからな。
そんなこと知らねぇよと言わんばかりに街中に死体がころがっているグダニスクがおかしいのであって、基本的に殺しとはダンジョンの中で行われるものである。
そう。あの街がおかしいのだ。この世界に来てから大半を、あのイカれた街で過ごしているから感覚がバグっているだけなのである。
「で、これからどうするんだ?このまま逃げていても埒が明かないぞ」
「なんやかんや魔物の殲滅もしちゃってるしね。あっちこっちにCIAの連中がいるから、道を変えていたら大抵魔物に出会っちゃうし。殺しちゃう?」
「流石にそれはまずいな。今回、俺達は来客してきている訳だし、CIAの連中を殺してさらに面倒事を引き起こすのも勘弁願いたい。一番理想的なのは上手く話をつけて逃げることだが........そう上手くも行かないよなぁ」
「既に面倒事を引き起こしている癖に、何を言っているんだグレイお兄ちゃんは。この状況でUSAが私達という存在を快く思っていると思うか?」
「別に今回は何もしてないでしょ」
「アホか。やらかしまくってるよ」
CIAの職員を殺してUSAに恨まれましたとか笑えない。太平洋戦争をまた起こす気にもならんし、出来れば穏便にことを済ませたい。
しかし、向こう側は対話をする気すらないようだ。
嫌だなー。言葉は神から授けられた素晴らしい能力ですよ。イエス・キリストを信仰する敬虔なる信徒であるならば、話し合いで解決しましょうよ。
宗教を信仰するやつほど人の言葉が通じないこの世界。どこの世界に行っても同じだが、正直面倒である。
あー、神とかいう存在が邪魔でならん。なまじ、神という存在に一度であってあるだけあって、本当に存在しているというのを知っているから尚更だ。
神の世界に行けたら、封印解放状態のピギーでも鳴かせてやろうか。ピギーなら神でも殺せるでしょ。
そんなことを思いながら、くるぶし近くまでせり上った雨水を踏みしめつつ逃げる俺達。
道中で魔物をシバキ回し、間接的に人助けをしながら俺はどうしようかと考える。
が、いい案が浮かばない。もう無力化してずらかった方が早いかも。
「よし。無力化して逃げるか。殺すと面倒だから、できる限り殺さないように手加減してね」
「骨をへし折るのは?」
「なしで。気絶させるぐらいで留めてあげましょう。大通りに出るぞ。どうせなら、全員呼び出してまとめて始末しちまおう。魔物はもう殆ど潰してしまったし、無力化した後に食われることもないだろうしな」
俺はそう言うと、雨の中でも使えそうなおもちゃを選びながら大通りへと向かって走るのであった。
【スタンピード】
ダンジョンから魔物が溢れ出す現象。明確な理由がわかっておらず、未だに対策が警備員を増やすことぐらいしかない。毎年世界各地で起こっており、甚大な被害をもたらす。なお、ダンジョンから魔物が出てくるだけではスタンピードとは言わず、一定数の魔物が溢れてきて初めてスタンピードと言う。
大通りに出た俺は、CIAが来るまでに様々な仕掛けを用意しておいた。
これで多少は無力化できるはず。戦闘が得意な者も多いだろうから、多分無意味に近いだろうがないよりはマシ程度になっただろう。
後、は薬を飲めば完璧だ。
「ようやく追い詰めたぞ........」
「Hey、CIAの職員さん達。今は俺たちを追うよりも、市民の誘導が先なんじゃないか?」
「悪いが、こちらも上の指示で動いているんだ。最優先事項はお前達の捕縛であって、市民の安全を守ることじゃない」
「この国の上は腐ってるね。スタンピードが起きたらまずは人命救助が優先だろうに。俺たちを捕まえることも出来ず、挙句の果てには市民を見捨てたとなればCIAの評価に傷がつくぜ?」
「下っ端にその権限があるとでも?偉いヤツらは今頃ソファーにふんぞり返りながら、タイタニックでも見てるさ。キャラメルポップコーンとコーラを手にしてな。ここら辺に落ちてる雨水でもすすっとけばいいのに」
「湿気でクソ不味そうなポップコーンだろうな。今日みたいな豪雨の日には、間違っても食いたかねぇ」
自分達もこの判断が不味いことは理解しているのだろう。俺との会話に応じたCIA職員の男の顔は、かなり苦々しかった。
職員も苦労してるんだろうな。なんだか同情が湧いてきてしまったぞ。
下っ端に選択の権利はなく、上の命令に従うしかない。それが例え市民が殺されていようとも、自分達の仕事を全うしなければならないのだがら苦労も耐えない。
が、仕事だろうがなんだろうが俺達とやり合うつもりであるなら制圧はさせてもらおう。
正直もう帰りたい。サメちゃん達の背中に乗って帰りたい。
あのサメちゃん一家は可愛いよね。フゴフゴ言いながら体を擦り付けて甘えてくるその様は、まるでペットだ。早く日本に連れ帰って、可愛がってやりたい。
こんな仕事に追われ、死んだ顔をした奴の相手なんてしたくないよ。ちょっとやりづらいし。
「大人しく無力化されてくれ。そしたら、命は助かるぞ」
「そんなことをすれば、仕事を失う。
職員の男はそう言うと、テーザー銃を取り出して俺に向かって放つ。
が、実弾ですらないただのおもちゃに俺達が怯むわけも無い。
放たれた弾丸は、ジルハードが拳で弾いてしまった。
そして、水しぶきを上げながら走ると、そのままその職員の頭を掴んで地面に叩きつける。
おーい。殺すなよー。
「........」
「この程度で俺たちを捕まえられると思ってんか?随分と甘く見られたもんだな」
「き、貴様!!」
「悪いが、ボスのやるとこは終わったみたいなんだ。さっさと道を開けろこの
そう言ってジルハードが暴れ始めると同時に、仲間たちも暴れ始める。
リィズやローズは的確に職員の顎を叩いて脳震盪を起こさせ、レミヤはゴム弾を生成して容赦なく職員に打ち込んでいく。
非殺傷武器とは言えど、ゴム弾はクソ痛い。防御の薄いところに的確に打ち込まれ、痛みで動きが鈍ったと頃に武闘派の3人が殴り込みにこられては、どうしようもなかった。
しかし、彼らもやられっぱなしというわけでない。
銃弾の雨をかいくぐり、俺たちに近づいてくる猛者も何名かいる。
「喰らえ!!」
「そいつはダメだ。警棒を振り回すだけじゃ、意味が無いよ」
警棒を振り上げる職員に向かって能力発動。いつものワイヤーで動きを封じつつ、俺はバランスが崩れたところに左ショートフックを食らわせる。
顎を掠めるように撃ち抜かれた職員は気絶。
顔が下を向いていたので、このままでは窒息してしまうと思い仰向けに寝かせた。
そんなことをしている間にも、職員たちの猛攻は続く。
「チッ!!アクアランス!!」
「ん?魔力系魔導師の能力者か。意外と数が少ないんだっけ?」
「それはギャングやマフィアの世界ですね。彼らの戦力は馬鹿にならないので、ハンターやこういった警察組織に入ることの方が多いですから」
「なるほど。あれは俺じゃ防げないな。ミルラ、よろしく」
「言われずとも」
久々に見た
職員はチッ!!と舌打ちをしながら続けざまに能力を行使しようとしたが、それは俺が許さない。
ダメだよ。強い攻撃よりも攻撃までにかかる時間が短い攻撃を選択しなきゃ。大きな攻撃は、確実に入る時だけに絞らなければ隙が生まれてそこに刺される。
こんなふうにね。
俺は、ワイヤーを具現化して体を拘束すると同時に、ママチャリを具現化。
できる限り怪我をさせないように気を使わなけれならないので、あまり上空に出すようなことはせずに頭の真上に具現化しておいた。
「うぐっ!!」
「対人戦の基本は、相手の隙を付く事だ。そしてそれは、相手が意識していない中に攻撃を紛れ込ませる事にある........そろそろ時間かな?」
「は?何を........」
相手を無力化するのに最も適した手段とは何か?答えは簡単、眠らせてしまえばいい。
その過程が難しすぎて中々実践では使えないが、こちらにはそういうことに適したマッドサイエンティストが存在している。
CIAの連中が来る前に周囲に眠気を誘う薬をばら撒き、自分達はその対抗薬を飲んでおけばあら不思議。あっという間に相手だけが寝て自分達は無傷で終われるのだ。
少し薬の効き目が遅いらしく、五分ほど経った今になってバタバタと倒れ始める職員達。
俺は内心ほっとしながら、まだ眠気に逆らう拘束された職員に話しかけた。
「薬を疑わなかったお前らの負けだ。上に行っておいてくれ。俺達は帰ると。じゃぁな。この雨水の中で死なないように移動はさせてやるから、風邪には気をつけろよ」
「ま、まて........」
そうして静かに眠りに落ちる職員。
さて、帰るか。でも、どうやってサメちゃん達を太平洋に連れて行こうかな?
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