ポートランドスタンピード
オレゴン州ポートランド。
オレゴン州の中で最も都会の街は突如として巻き起こったスタンピードにより、混沌を極めていた。
ポートランドの街の中には4つの管理ダンジョンが存在している。
過去に何度かスタンピードは起きているものの、4つ同時と言うのは歴史上1度もなかった。
「な、何がどうなっているの?!」
この不運に巻き込まれた1人の少女アーリ・カルストフ。
彼女は突如として巻き起こった騒ぎの中で、混乱する人々の波に飲まれながらもその手に持つカメラを離すことは無い。
彼女はUSA(アメリカ)の中で特に人気のある動画配信者であり、世界的に有名な動画配信サービスヨーツーブのチャンネルで登録者1000万人を超える超大物であった。
その人気の秘密としては、本来配信では見ることの出来ないダンジョンの中を生放送で見ることができると言うところにある。
“
この世界では、ほとんどのダンジョンは外界と断絶された別世界として扱われている。
別世界の電波を別世界に届ける術は未だ開発されておらず、動画や音声をダンジョンの中から発信することは現在の技術では不可能だ。
しかし、それを可能にしたのが彼女の能力。
普段、ハンターが編集して投稿している動画を生で見られるということもあり、凄まじい数のファンが着いている。
『逃げてぇぇぇぇぇぇ!!』
『スタンピードだ!!テレビの速報にも入っていやがる!!』
『やばいぞ!!逃げろ!!』
配信を視聴していた人達もこの惨事には“逃げろ”とコメントする事しか出来ず、中にはアーリを助けようと動くハンターも居たが場所が遠すぎるものばかり。
オレゴン州ポートランドにも視聴者が多くいるが、この事態に飲み込まれて動画を視聴する所ではなかった。
「ま、まずはこの波の中から逃れないと........!!」
動画を配信している事を頭の中に入れつつ、できる限り迅速に人の波の中から逃れたアーリ。
大通りから外れて少し薄暗い道に入り込んだ彼女は、息を粗げながらもコメントを読んで現状の確認をしていた。
もう3年近くも配信をしている彼女は、こういう時リスナーから情報を得られると知っている。
中には間違った情報も入っているが、それを取捨選択するのはアーリの技量次第だ。
「え?スタンピード?確か、ダンジョンから魔物が溢れ出す現象のことだよね?それが4つ同時に起こったって事?!」
『そういうことだよ!!今すぐその場から離れた方がいい!!』
『スタンピードを舐めると死ぬぞ。毎年どこかで凄まじい被害を出しているからな。今すぐに逃げるべきだ』
『4つ同時とかヤバっ。シャレにならねぇよ』
『神の、神の裁きだ!!』
『でも、アーリはハンターだから市民を助けなきゃダメなんじゃね?』
『逃げるなよ。ハンターなら守れよ』
「スタンピードが起きた時のハンターの対応は、確か市民の避難と魔物の討伐だったよね........私も行かないと」
ダンジョンに潜るためにはハンターの資格が必要。そして、ハンターになればハンターとしての責務がある。
4つ同時にスタンピードが起きたとなれば責務だのなんだの言わずに逃げ出すべきなのだが、多くに人達に見られているアーリは自分の評価のことも気にしなければならない。
ここで逃げ出した場合、下手をすれば炎上する。
彼女は市民を守るべく、スタンピードが起きているであろうダンジョンの一つに向かった。
「酷い........こんなにも多くの人が犠牲に........」
『今日ばかりはアーリちゃんの顔だけが映っていて感謝だな。人の死体はさすがに見れない』
『RIP』
『RIP』
『RIP』
『死体を見せろよ』
アーリの配信は多くの血が映る。魔物はまだ許それされるが、人の死は許されない。
そのため、急な事故を防ぐために基本的に配信はアーリの顔が良く写るようになっていた。
アーリは心にもないコメントを見つけて削除しブロックすると、武器を構えて自分も魔物を討伐しようと乗り出す。
このダンジョンから溢れ出しているのはサイクロプスと呼ばれる単眼の巨人であり、人をアリこのように踏み潰して回っていた。
「サイクロプスだ........推奨ランクBのサイクロプス........」
『やばいよ!!絶対逃げた方がいいって!!』
『死んだら終わりだぞ!!』
『俺、今日は見るのやめようかな........アーリちゃんが死ぬところは見たくない』
『俺もやめとこう。もし無事に生きて帰ってきてくれたら、アーカイブで追うわ』
アーリは別に強い訳では無い。ランクもC程度の実力しかなくハンターとしてよりも配信者としての生き方を選んでいるので、修羅場をくぐった回数が少ない。
が、それでもこの時ばかりは立ち向かわなければならなかった。自分の命よりも、炎上回避。配信者としての職業病が自分の寿命を縮める。
腰からレイピアを取り出し、サイクロプスの前に立つ。
そして、自分の何倍もある巨人に向かって突っ込むと、彼女は素早い動きで翻弄しながら少しづつサイクロプスの皮膚に傷をつける。
「フッ!!」
『おお?顔しか移らないから何をやってるのかわからんけど、多分善戦してね?』
『うわっ、今真横を物凄い勢いでなにか通過したぞ。頑張れアーリちゃん!!』
『頑張れ!!』
『ファイティン!!』
サイクロプスとそれなりに互角に戦うアーリ。豪雨の中水飛沫を上げ、可憐に舞うその姿は映像になればかなり映える。
が、戦いとは常にタイマンとは限らない。
特にスタンピードが起きたこの状況でサイクロプスだけを見据えて戦うなど、できるはずもないのだ。
「キェェェェェェ!!」
「ゴッ........!!」
素早い動きでサイクロプスを翻弄し続けるアーリだったが、別の魔物によってその動きは停められる。
ガーゴイルと呼ばれる石の悪魔のタックルによって吹き飛ばされたアーリは、コンクリートを転がりながら口から血を吐き出した。
こんな時でもカメラの心配をしてしまうあたり、彼女は生粋の配信者である。
『アーリちゃん?!』
『やばいやばいやばい』
『本当に死ぬぞ!!』
『あぁ、神よ........!!』
たった一撃でまともに立つ気力すら奪われたアーリ。視聴者達も本格的に“これはマズイ”と焦り始め、神の奇跡を祈る。
影が濃くなる。
天を見れば、サイクロプスの持つ棍棒が振り上げられ、プレス機の様に叩き潰さんとしているのがよくわかった。
“死”。
その感情が頭を過ぎるその瞬間、アーリは配信者としての運を発揮する。
「やっぱこっちにもいるよな。で?この国のハンターや警官は何やってるんだ?勇敢なる少女1人に時間稼ぎを任せて、あとは保身に走るとかハンターの風上にも置けないな」
「こんな状況じゃそうなっちまうのも仕方がないかもしれんが、1人に任せるには荷が重いだろ。あの実力じゃ精々数分足止めすんのが限界だ」
「呑気に話している場合ですか?潰されますよあの子」
「リィズ、助けてやれ。目の前で死なれるのは目覚めが悪い」
「はーい!!」
そんな会話が聞こえてきた刹那。
目の前にいたはずのサイクロプスの上半身が吹き飛ぶ。
アーリはこの光景は絵になると即座に判断すると、素早くカメラを外側に変えてサイクロプスがはじけ飛んだ姿を映した。
『え?何が起きたんだ?』
『WOW。なんだこれ。助かったのか?他のハンターが来てくれたのか?』
『何が何だかさっぱりだ。だが、サイクロプスが吹っ飛んだぞ!!』
あまりにも急な展開に困惑する視聴者たち。
自分達の姿が配信されているとは露知らず、豪雨の雨に打たれながら気怠げにやって来た一人の男は地面に倒れながらもカメラを操作していたアーリに話しかける。
「ナイストライだ
「ゴホッ........あ、貴方達は........」
「喋るな喋るな。内蔵がダメになってんだから。Hey、ロリっ子マッドサイエンティスト。薬を頼む」
「はいよ。中級ポーションだ。飲むといい」
「むぐ?!」
フードを被った自分よりもはるかに幼い少女から無理やり薬を飲まされると、アーリの体は回復する。
へし折れた肋骨やそれによって穴が空いた肺も元通りになったアーリは、助けてくれた人達の顔を移さないように気をつけながらゆっくりと立ち上がって礼を言った。
「あ、ありがとうございます」
「気にすんな。街を守る勇敢なる少女が目の前で死なれる方が目覚めが悪い。だが、ちょいと無謀すぎたな。この数の魔物相手に1人で立ち向かうのは自殺願望者だろ。時には全てを見捨ててでも逃げることも大切さ。ハンターだろうがなんだろうが、命は1つだぜ?」
「わ、私が見た時はサイクロプスしか居なかったのに........!!」
ふと、サイクロプスが死した場所を見ると、凄まじい数のガーゴイルが街の大通りを練り歩いていた。
百、下手をすれば千近くものガーゴイルが存在し、彼らの足元は血に染っている。
「ま、これは片付けるか。ここでサヨナラして死なれても困るしな。あー、ガーゴイルってグレネードで吹っ飛ぶ?」
「衝撃に弱い魔物ではある。後、魔力耐性が高いから、魔弾は効かねぇぞ。後、素早い」
「じゃ、グレネードでいいか。ロリっ子、全員に精神抵抗薬を飲ませておけ。
「.......
「命令ね。
「はぁ、私が放った後に鳴かせてくださいね。後、最大出力は控えてください」
何やら不穏な会話をする男たち。
アーリは訳が分からなかったが、静かにその場に立っていた。
ここで逃げてしまっては配信者として失格。今は、爆速で流れるコメントを無視しながら静かに見ているのが最適だと勘が告げている。
「はいこれ。君も飲んでおくといい」
「あ、はい。わかりました。ところで、何が始まるのですか?」
「何って、ボスのちょっとした本気が見られるのさ。そのカメラ、配信してるんだろ?間違ってもボスは映すなよ。じゃないと、
『何を言ってるんだ?この少女は?』
『俺達が死ぬとか言ってたよな?』
『一体何が起こるんだ?』
この言葉の意味が分かる訳もなく、困惑する視聴者たち。そして、その意味はすぐに分かった。
世界を3度滅ぼした絶望の嘆きがやってきたのだから。
「頼んだよピギー。初めての動画デビューだ」
「ピギィェェェェェェェェェェェ!!」
「うっ........!!」
滅びの嘆きは力を奪い、まともに立つことすらも許されない。
膝を付き、全身が震える。何が起きたのかさっぱりだったが、その声は配信を見ていたもの達にも伝わりコメントが完全に止まっていた。
本来であれば魔力を介しての動画配信は止まってしまう。が、彼女の能力により保護され、更にはぽんこつメイドの一撃を消し去らないように加減された嘆きによって配信が切れる事はなかったのだ。
そして、その嘆きは視聴者達をも苦しめる。
配信からは一切のコメントが流れず、視聴者にまで影響が出ている。
そしてその中で、ドォォォォン!!と爆ぜた音が聞こえてきた。
嘆きがやみ、顔をあげればつい先程まであったはずのガーゴイルの群れが消え去っている。
ただの石となった魔物の死骸と、ボソボソと独り言をつぶやく男。そして、豪雨の音だけだその場に残る。
「大丈夫でしたか?」
「い、今のは........?」
「ボスのお力ですよ。全く、周りの被害を欠片も考えないんですから、困ったものですよ。ですが、お優しい方ですのでご安心を」
「は、はい」
何が何だか分からないが、自分は助かったのかと一安心したその時であった。
「見つけたぞ!!ここだ!!」
「CIAだ!!動くな!!」
国家の番犬にして、国を守る公務員CIAがぞろぞろとやってくる。
先程から急展開すぎるがあまり、全く着いて行けないアーリ。
そんな中、男は心の底から嫌そうな声を出す。
「げ、CIAじゃん。みんな、ずらかるぞ。あー、お嬢さんは急いで避難シェルターにでも行きな。そこの
「え?あ、はい。助けていただきありがとうございました」
「おう。元気でな。じゃ、逃げるぞー」
「逃げたぞ!!待て!!グレイ!!お前には聞かなきゃらなんことが山ほどあるんだからな!!」
そう言ってあっという間にどこかへと消えていく男。
アーリは頭の中の整理が追いつかずボーッとしていると、一人のCIA職員がアーリに素早く手錠をかけていた。
「世界的犯罪者、グレイと接触していた少女を確保。お嬢さん。彼らのと関係は?」
「へ?助けて貰っただけなんですけど........」
「本当か?怪しいな。詳しい話は署で聞くから来い!!」
「えぇ?!えぇぇぇぇぇぇ?!?!」
こうして、有名動画配信のアーリの命は救われた。
アーリの命を救った世界最大のテロリスト集団“
その一部始終が世界中に配信され、USA国内では更に革命戦争が過激となる。
最早USA国内だけの話では無い。その火は他国にまで燃え広がったのだ。
後書き。
最近の現代ファンタジーの流行りといえば?そうだね。配信ダンジョンだよね‼︎(グレイ君は映るだけ)
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