クシュン‼︎ドゴォォォォォン‼︎
サメちゃん一家を仲間にする約束をした俺達は、一旦道場へと戻ってきていた。
クレーターレイク国立公園から1番近い海までおよそ200km。この移動距離をどうにかしなければならないが、今の所いい案は浮かんでいない。
あー、あの完全な湖がパカッと割れて川が出来たりしないかなぁ。アマゾン川レベルの海まで繋がる超巨大な川が出来てくれれば最高なのに。
そんなことを思いながら、俺達はポートランドの観光をしたり道場の訓練の様子を見ていた。
少し前までKKKモドキと殺し合いをしてきたので、こうしたのんびりとした時間も悪くない。
なんかポートランドにある州知事が住む場所に火炎瓶が投げ込まれたり、大規模なデモが起きていたとしても俺の知ったこっちゃない。
元々腐ってたんだからしょうがないよね。俺たちのしったこっちゃないよね。
そんな特に何事もない観光を楽しみつつ、そろそろ日本に帰らないとなーと思う。
USAに俺達がやって来たのは、交渉をするためだったはず。しかし、現在のUSAは政治家の汚職が露呈し大規模なデモ、もとい革命戦争が始まってしまっていた。
国中のハッカーが議員達の情報を荒らし周り、市民達は鉄の弾丸を持ってして政治家たちを断罪しようと声を上げる。
国の舵を切る政治家達は保身に走り、ハルデン政権は今にも崩れそうであった。
しかも、この状況を見た大企業の中には“これは無理だ”と諦めて逃げ出そうとしている者も多い。
このまま本当に逃げられてしまえば、USA経済は低迷し、あっという間に世界的大国から転げ落ちることとなるだろう。
「そろそろ帰りたいんだけど、USA政府が飛行機とか用意してくれるとおもう?」
「思うか?監視の目から抜け出した挙句、国内で暴れ散らかしたテロリストを快く送り出してくれるとでも?」
「ですよねぇ。どうやって帰ろうかね。USAでやりたいことは終わったし、もうそろそろ帰りたいんだけど。ここでも大抵なにかに巻き込まれてるしさ」
「巻き込まれているというか、巻き込んでいますよね。なぜボスは毎回被害者側なのですか?この大惨事を引きこ起こしているのは貴方でしょうに」
「ミルラの言う通りです。
いや、被害者なんだよ。
アリカのお礼参りに行った時はともかく、そのほかの事はほぼ全て巻き込まれた側なんだよ。
つい先日のkkkモドキとやり合った時とか覚えてる?あれは完全に被害者だろうが。
国が分断(物理)した時も、MEX乗った麻薬カルテルが絡んでいたしどちらかと言えば巻き込まれた側だったでしょうに。
ブループラネットとかいうギャングとやり合った時だけは、ほぼ主導で動いていたから何も言えないけれども。
それに、この革命戦争に関しては俺は悪くない。
政治家が悪いのだ。
むしろ、政治家以外悪いやつが居ない。
裏金、犯罪組織との密約なんかは、自己責任だろ。俺、何も悪くない。
「しかし、これでUSAは使い物にならなくなっちまったな。しばらくの間は何も出来ないぜ?俺達を利用しようとしたら、あっという間にボスに潰されちまった。世界の警察を自称する者が、犯罪者にいいようにされているんだ。笑えるな」
「私、USAは嫌いだったんだよねぇ。何せ、正義ヅラして紛争地域に武器とか流してるし。FR(フランス)にいた頃に、嫌という程汚いところは見てきたよ。今頃紛争地域は支援がなくなって大変かもね」
「やっぱりグレイお兄ちゃんを敵に回したらダメだな。敵対して命が助かってるのは、あそこの薬物教会ぐらいだ。素直に負けを認めて頭を下げれば、まだ助かったかもしれないと言うのに」
「あの爺さんはそこら辺の引き際が上手いんだよ。だからあの街で長生きしてる」
「いや、そもそも私達を見つけられてないのが問題なのですがね?」
「それはそう」
そんなことを話しながら、帰る手段の用意もしなきゃならんと思っていたその時。
鼻がムズムズとしてくしゃみが出る。
「クシュン!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォン!!
クシャミは生理現象であり、こればかりは止められない。
が、俺がクシャミをしたと同時に爆発音が聞こえるのは流石におかしい。
なんか、前も似たようなことがあった気がするぞ。いや、毎回急に爆発とか銃撃に巻き込まれすぎて、そう感じてるだけか。
なんで毎回毎回行く先々で爆発音やら銃声を聞かなければならないのか。俺は、もうだいたいのことを察して顔を上げると........やはり都心部の中で煙が立っていた。
「ボス、ついにはクシャミで爆発を起こせるようになったのか。そのうち息を吐くだけで世界が壊れそうだな」
「本気で言ってんならその頭を叩き割って脳をかき混ぜるからな?」
「冗談だよ。流石にボスとは言えど、そんなことが出来ないのはわかってる........できないよな?」
「ちょっと本気にしてるじゃねぇか。やっぱり頭を開くか」
「ボスのくしゃみって可愛いわよねん。女の子みたいよん」
「意外と顔も可愛いですし、もしかしたら女装の才能もありそうですね........ボス、今度メイド服とか着ません?」
「ぶっ殺すぞレミヤ。俺にそんな趣味はねぇ。で、この先に見える爆発はなんだ?」
煙が上がってる方向を見ると、ポツポツと雨が降ってくる。
最初は静かだった雨はやがて豪雨となり、フードを被ってないとロクに目も開けられなくなってくる。
一気に体温を奪われ、今度は寒さでくしゃみがしたくなってきた。
「クシュン!!」
ドォォォォォォォォォォン!!
すると、今度は俺達の後ろで大爆発が起こる。
いや、ええて。
何が原因かは知らんけど、ええて。
そんなに爆発されても困るよ。これじゃ本当に、俺がくしゃみをしたら爆発を生み出すヤベー奴みたいになっちゃってるじゃないか。
ほら、俺の仲間達を見てみ?
“やっぱりボスはできるんだ!!”みたいな顔になってるから。
「偶然が重なっただけだぞ」
「そ、そうかもしれんな。ちょっともう一回くしゃみしてみてくれない?」
「もう出ねぇよ」
「くしゃみを誘発する薬があるぞ。これを使ってみたらどうだ?安心してくれ。この薬は遊びで作っただけのイタズラ用のやつを極限まで薄めたやつだから、二、三回クシャミをしたら治る。副作用もないやつだ」
そう言いながら、俺に薬を手渡してくるアリカ。
何そのピンポイントな薬は。
イタズラ用にクシャミが出る薬を作るとか、アリカもだいぶ子供らしい事をするんだなと思いつつ、俺はこのままでは本当に爆発をクシャミで起こしていると思われてしまいそうなので、その薬を受け取って飲み干した。
薬を飲んだ瞬間、鼻がムズムズとし始める。
「クシュン!!クシュン!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォン!!ドゴォォォォォォォォォォォォン!!
いや、ええて!!なんで空気を読むんだこの世界は!!
ほら、見ろよ仲間達の顔を!!
“ボスはクシャミで爆発を起こせるんだ!!”って確信しちゃってるじゃん!!
偶然が偶然を呼んだだけなのに、俺の実力みたいになっちゃってるじゃん!!
俺が空気を読むこの世界に憎悪を向けていると、ジルハードがポツリと呟いた。
「やっぱり出来るんじゃねぇか」
「おい待てジルハード。できないから。できないからな?今まで何度もお前の前でクシャミをしてきて、一度でもこんなことがあったか?」
「........よくよく思い出せば、あったかもしれない」
嘘だろおい。
記憶が改ざんされちゃってるよ。その記憶、偽りの記憶だから直ぐさま捨てて来なさい。
おれ、何もやってないって。
で、ジルハードが変なことを言い出すから、仲間たちも“そういえば........”と言わんばかりに過去を思い返す。
「グレイちゃんがクシャミをしていた時って、確かにどこかが吹っ飛んでたかも。DEU(ドイツ)の研究所とか」
「買い物の護衛をしていた際、確かに爆発していたような........」
「心当たりがありますね」
「んー、そう言われるとあったかもしれないわん。全部が全部では無いけれども........つまり、ボスはクシャミをスイッチとして、任意に爆発を起こせる........?」
「言われてみればそんな記憶もあるかもな。偶然にしろ必然にしろ、私はこれをグレイお兄ちゃんが起こしたものだと認識するぞ」
もうヤダこの組織。
誰一人としてこの馬鹿げた偶然を必然として捉えている。
君たち、俺の能力を知っているよね?
玩具を出すだけの能力ですよ?クシャミで爆発を起こす能力じゃないんですよ?
どうしてうちの組織の人間はこうも人の話を聞かないんだ。
まだこの前滅ぼしたホワイトクランの方が、話を聞いてくれていた気がするんだけど。
「ま、ボスが滅茶苦茶なのは今に始まった事でもないしいいか。で、何が起きたんだこれ」
「位置的に、ポートランドにある4つのダンジョンの近くですね........となると、スタンピード?ダンジョンから魔物が溢れ出しているのかもしれません」
「なるほど。今回はそのスタンピードを使って、ボスが何かやるって事か。相変わらず唐突すぎて困るぜ。俺達はボスじゃないから、何がやりたいのかを理解するまでに時間がかかっちまうよ」
スタンピード。
ダンジョンができてからこのせかいでは当たり前となったこの言葉は、人々に大きな絶望をもたらす。
何らかの原因でダンジョンから魔物が溢れ出し、街に魔物が溢れてくることをスタンピードと呼ぶ。
で、今回はそれが起こっているの?俺のくしゃみが原因で?
そんな訳ないだろいい加減にしろ。
今まで頭の悪い勘違いを良くされてきてはいたが、これほどまでに酷い内容の勘違いは初めてだ。
偶然が4回重なったら必然ですってか?........いや、割と必然か。
俺は反論できないかもと心の中で思いつつ、徐々に騒がしくなり始める街を見る。
豪雨の中に響く悲鳴。雨音があまりにもうるさ過ぎるはずなのに、多くの場所から悲鳴が聞こえてくる。
さて、どうしたものか。
偶然が重なっただけで、別に俺はスタンピードをどうこうしようとは思っていない。なんなら今すぐにこの場から逃げたいとすら思っている。
人間を殺す事は訳ないが、相手が魔物となると俺はまじで戦力外だからな。
それに、少し離れた場所にはゴリアテ道場がある。つまり、俺達が何もやらずとも勝手に殲滅してくれるという訳だ。
多少の犠牲は出てしまうが、これ、俺のせいじゃないし。
よし、逃げよう、そうしよう。
俺はそう思うと、クルッと後ろを回って歩き始める。
「どうするんだ?ボス」
「逃げるぞ。これ以上面倒事に巻き込まれてたまるかってんだ」
「自分で引き起こしたくせによく言うぜ。それが作戦という訳だな?」
もう何を言っても人の話を聞いてくれないジルハード。
俺は“じゃ、もうそれでいいよ”と投げやりになりながらポートランドの街から離れるために歩き始めるのであった。
まぁ、目の前で襲われている人がいたら助けてやるか。目覚めが悪いし。
後書き。
クシャミでスタンピードを起こすとか、最早神なのでは?(洗脳済み)
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