ゴリ押し


 不意の一撃と言うものは中々防げない。


 これが来ると分かっていれば、対処のしようがあるものの意識外からの一撃というものは防ぎようがないのだ。


 睡眠用の薬をばらまかれていると気づけなかった時点で、CIAに勝ち目があるはずもなく。


 彼らはあっという間に眠りに落ちる。


 いやー、アリカの能力は便利でいいね。とてつもない量の勉強と実験を必要とする代わりに、能力としての可能性が広すぎる。


 お陰で簡単にCIAを無力化できてしまうのだからスゴいったらありゃしない。


 ロリっ子マッドサイエンティストなんて呼んだりもしているが、彼女はこの組織の欠かせない素晴らしい人材なのだ。


 可愛いし、強いし、何より癒しとなる。


 最強か?もうアリカがこの世界の支配者でいいんじゃないかな。


「で、ここからどうするんだボス。国に帰る手段もあのジョーズ一家を移動させる手段も考えないといけないぞ」

「帰りの手段はあるさ。ジョーズ一家に送ってもらえばいい。問題は、あの家族をどうやって海に運ぶのかだよ」


 CIA職員たちが雨水の中で溺れてしまわないように建物の中に避難させた俺達は、車を走らせてジョーズ一家を迎えに行っていた。


 USA(アメリカ)でやりたい事はもう終わったし、後は国に帰るだけ。


 なんか革命戦争とか起きてしまっているが、俺たちにそんなことは関係がない。


 アレはなるべくしてなった革命だ。裏金問題に政治家の腐敗。いつかは市民が声を上げる時が来るのは間違いないのだから。


 というか、俺がチラッと見ただけでも頭を抱え無くなるほどに裏で金が動いているこの国が悪い。


 日本に帰ったら、先ずは政治腐敗が起きないような対策をした方がいいな。


 権力とは誰もが欲しがる力。金を使って暴力を使ってでも人々はその力を手に入れようとする。


 資金の透明化と、できる限りの福祉。税金の導入は間違いなくされるだろうが、その使い道をできるだけ透明にし、市民への還元をしなければならない。


 帰ったら政治についての本とか読んでみるか?基本的には王達に任せればいいのだが、一応俺も人類の王という扱いで国にいる訳だし。


 いや、それよりも外交について考えるべきかもしれんな。今の日本は敵が多すぎる。


 そんなことを思いながら、車を走らせているとジルハードがブレーキを踏んだ。


 何事かと思えば、前の道が水で埋まって進めなくなっている。


 土砂降りの雨が降り始めてから約半日。車の中にも響くほどの雨音が聞こえる土砂降りなので、仕方がないと言えば仕方がない。


 が、これでは先に進めないな。


「恵みの雨とは言うが、これじゃ災害の雨だな。この調子で振り続けると洪水が起こるぞ」

「起こるって言うか、もう起きてるよな。ポートランドでも既にくるぶし近くまであま水が溜まってたし。どうするかね。空でも飛んでみるか?」

「俺達はスーパーマンじゃないんだぞ。文明の力に頼らなきゃ空を飛ぶのは無理だ。ナビゲートをしてくれるどこぞの殺戮兵器キリングマシンか、人体改造された化け物じゃない限りはな」

「飛んでいくのはできるけど、私が抱えて飛べるのは精々二、三人が限界だよ。後、空を飛んだとしてもこの調子じゃ降りる場所がないでしょ。この先は海のようになってるよ」

「そうですね。飛んだとしても、降りる場所がありません」


 視界が滅茶苦茶悪い中、俺達は一旦車から降りるとどうやってこの先に行こうかと悩む。


 空を飛ぶにしても降りる場所が無さそうだし、雨が酷すぎて視界の確保すらできない。


 どうしたものかと困っていると、遠くに大きな影が見えた。


 ........ん?あれ、俺を食い殺そうとした子供サメちゃんじゃね?


 なんでこんな所にいるんだ。


「遠くに影が見えるんだけど、あれ、サメちゃんだよな?」

「サメちゃんだね。しかも、どうやって泳いでるのか分からないけど泳いでない?凄まじい速さだよ。絶対体を引き摺ってるよ」

「こちらに向かってきていますね。少し待ってみますか?」

「そうするか」


 少し待っていると、子供サメちゃんはあっという間に俺たちの前へとやってくる。


 そして、俺を見つけるとサメちゃんは嬉しそうに“フゴー!!”と言いながら俺に体をこすり付けてきた。


「フゴー!!」

「おーよしよし。いい子にしていたかー?悪いな放置しちゃって」

「フゴゴー」

「え?家まで送ってくれる?いいのか?と言うか、この浅い水の中をよく泳いできたな。俺達の膝ぐらいまでしかないだろうに」

「フゴーフゴー」

「へぇ?このぐらいの水があれば泳げるの?サメってすげぇな」


 どうやらこの世界のサメは、自分たちの体よりも浅い水の中でも泳げてしまうらしい。


 世界って不思議だな。どうやったら泳げるんだよこれ。


 まぁ、正確にはダンジョンから出てきた魔物のサメだから、なにか特殊な能力とかがあるのかもしれん。ほら、水の中に少しでも浸かることが出来れば、浮力が得られるとか。


 人が能力という力を得たように、魔物の中にも能力のような力を得ている存在も居たりすると聞く。


 もしかしたら、このサメちゃん達は何らかの能力を持つ存在なのかもしれないな。


 そんなことを思いながら、俺はサメちゃんのご好意に甘えさせてもらうことにした。


 背中に乗れと言わんばかりに頭を下げてくるので、全員乗らせてもらう。


 20mもある巨体だから、乗ってもさほど窮屈ではなかった。


「よし、それじゃしゅっぱーつ!!」

「フゴー!!」


 俺がノリよくそう言うと、サメちゃんもノリノリで返事をしながら水の中(上)を泳いでいく。


 さて、どうやってサメちゃんたちを海へと運ぼうかな?最悪あれだな。川を作るか。




【キラーシャーク】

 クレーターレイクの中にあるダンジョンに住むサメ。子供は凡そ20m程の大きさであり、大人になると100mを優に超える大きさとなる。知能が高く、人の言葉を理解しコミュニケーションを取ることが出来る。このサメは、人間の膝程の深さがある水が用意されていれば泳ぐことが可能。これは、あまりにも巨大すぎる体の為、移動に困った先祖が進化した姿である。

 身体も凄まじく頑丈であり、例え砲撃を食らったとしてもほぼ無傷。殺すためには、体内からダメージを与えなければならず、相手の内部に衝撃を伝える術を持つ気功術とは相性が悪い。




 浅い海の中を渡ってきた俺達は、クレーターレイク国立公園に戻ってきていた。


 かなり広い範囲で大雨となっているのか、この場所でも大量の雨が降り注いでいる。


 そして、青く澄んだ湖は思いっきり溢れ出していた。


 海に流れる道がないから、あっという間に溜まってしまうんだな。大丈夫かこれ。下手をしたら、大洪水が起きてオレゴン州が大変なことになるんだけど。


「水が溢れ出しているな。見ろよ。湖の中にあったはずの島が消えてやがる。この調子で降り続けたら、オレゴン州が海の中に沈むぞ」

「それは無いわよん。兄さんが最悪何とかしてくれるわん。それにしてもおかしいわねん。今日は快晴と聞いたのだけれど........」

「私も気になって調べましたが、どうもスタンピードが関係あるそうでして。ダンジョンから放出される魔力が大きすぎて、それに伴い異常気象を引き起こしていると言われています。この世界の気候はたった一つの要因で大きく変わることは珍しくないですからね。これだから天気予報は宛にならないんですよ」

「そういえば、私の故郷でも真夏に大雪が降ったことがあったな。植物が死んで、あれはいい迷惑だった」

「つまり、スタンピードが起きたから雨が降ったという事ですよね?」

「まぁ、そうなるな。つまり、ボスがやったわけだ」


 ジルハードがそう言うと、全員が俺を見てくる。


 ちょっと待て。俺は今回に関してはマジで何もしてないぞ。


 クシャミしただけじゃん!!クシャミしたら偶々スタンピードが起きて雨が降っただけじゃん!!俺は無罪だよ!!何も悪くないよ!!


 例え四回連続でくしゃみと爆発が重なってしまおうと、俺は無実を訴えるぞ。


 これに関しては俺はマジで何も知らないからな?


「ま、ボスが天気を操ったとしても今に始まった事じゃないか。ボスが天気を操る神ユピテルだったとしても、今更だしな」

「そうですね。ボスですし」

主人マスターなら当然ですね 」

「ボスだしねん」

「グレイちゃんならやれて当然でしょ。だって私たちの神様だし」

「科学的にはありえない話なんだが、グレイお兄ちゃんの事だから有り得るな」

「で、ボス。ここから先は何を考えてるんだ?」


 最早驚きすら通り越して“ま、当然か”みたいな流れになるの辞めてくれます?


 君達は俺の一体何を見てきたのだ。俺、何もしてないよね?何も狙ってないよね?


 反論したいが、“ハイハイいつものいつもの”と流される未来が見えていて俺は諦めるしかない。


 この状況に慣れてきてしまった自分を殴りたいよ。慣れてきたと言うか、諦めが早くなってきた。


「フゴー」


 そんなことを思っていると、子供サメちゃんが家族を呼び出す。


 溢れ出る湖の中から顔をひょっこり覗かせたのは、ママサメであった。


「元気にしてた?」

「ゴフー」

「それは良かった。で、どうやって海へ行こうか?」

「ゴフ、ゴフー」

「え?海の場所はどっちかって?えーと、今向いてる方角が南だから、あっちだね。大体200km程離れた場所に海がある。途中で山とかもあるかも」


 俺はそう言って海のある方角を指さす。すると、ママサメは“ゴフ”とだけ言って再び水の中に顔を沈めた。


 今、“分かった”って言った気がするんだけど、一体何が分かったんだ?


 子供サメちゃんの上で待つこと数分。ママサメは再び姿を現すと、家族達を連れてきた。


 WOW。凄まじい数のサメだ。しかもこれ、別家族にも声をかけてないか?ママサメ級の大きさを持ったサメが2体増えてんだけど。


「なんか増えてね?」

「増えてるな。それで、ここからどうするんだろうな?サイクロンでも起こすか?」

「シャークネードじゃねぇか。さすがにこの巨体じゃ飛べないだろ」

「いやいや、この世界の魔物を舐めちゃいけないぜボス。今の時代、ドラゴンが空を飛ぶ時代だ。サメだって飛んでも不思議じゃねぇ」


 そうなのか?確かにこの世界は割とめちゃくちゃなところがあるけれども。


 そんな事を思っていると、ママサメが俺に話しかけてきた。


「ゴフー」

「ん?そっちの背中に乗ればいいのか?」

「ゴフ」

「みんな、乗り換えだ。ママサメに乗るぞ」

「........なぁ、いつも思うんだが、なんでグレイお兄ちゃんは当たり前のように魔物と会話できるんだ?能力なのか?」

「アリカ、ボスのことを考えるだけ無駄ですよ。そういうもんだと思って諦めましょう」


 ママサメへと乗り移った俺達。


 これから何が起きるのだろうかと思っていると、ママサメが大きく尻尾を動かして水を思いっきり叩きつけた。


 ドゴーン!!(水を叩きつける)

 フゴー!!(その反動でサメちゃん達が飛んでいく)


 えぇ........力技が過ぎないか?凄まじい勢いで発射されたサメちゃんたち。


 あれ、着地とかどうすんの?


「ママサメ?あれ大丈夫なの?」

「ゴフー」

「え?身体が頑丈だから問題ない?と言うか、どれだけ飛べるのあれ」

「ゴフー!!ゴフゴフ」

「........は?海までひとっ飛び?昔からよく使ってた移動手段?水が多くなったから、飛ばしやすくなって助かるって?」


 もう滅茶苦茶だよこのサメ一家。誰が本当にシャークネードのようにサメを空に飛ばせと言ったのやら。


 200km近くを1発で飛ばすってどれだけのエネルギーが必要だと思っているんだ。魔力が存在している世界で割とめちゃくちゃできてしまう世界だからと言っても、限度があるよ限度が。


 おそらく、魔力で強化した尻尾で吹き飛ばしていると思われるが、だとしても200kmも飛ばせるものでは無いはず。そんなことが出来たら、このサメちゃんたちが世界最強の存在になってしまう。


「........シャークネードって本当にあるんだな。サメが空を飛んでやがる」

「多分、後でサメちゃん達を回収する羽目になるぞ」


 その後、俺達もママサメに乗って空を飛んだが、案の定海に届くはずもなく。俺達は穴を掘って(リィズのパンチやマリーのパンチ)は水を溜めて(能力での具現化)サメを吹っ飛ばしながら海へと向かうと言う力技(丸1日かかった)でUSAを脱出するのであった。


 散らばったサメちゃん達を集めるのも大変だったし、水の具現化もくそ大変だよ。もっとスマートに行きたかったね。


 その日のニュースで、空にサメがいたとか言われていたり言われていなかったり........



 後書き。

 いつもスマートすぎるから、偶にはゴリ押しで移動したっていいじゃない(色々な案ありがとね)。

 サメちゃんはピョーンって飛んだ後、ヒレでヨイショヨイショと穴を掘った場所に移動して、またママに飛ばされるを繰り返してた。

 可愛い。

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