ゴリアテ道場
マリーのお兄ちゃん、何故か滅茶苦茶可愛い女装男子。
いや流石に予想できないわ。こんなムキムキゴリゴリのマッチョの兄が、少女のような細い腕と体を持った俺よりも身長の低い人だなんて。
遺伝子はどうなってんだ一体。真面目に仕事しやがれ。
マリーと感動の再会を果たすシャール・ローズ・ゴリアテという人物は、それほどまでに見た目と性別が一致していなかった。
正直、男であろうとも彼に惚れる人は多そうだ。声も中性的で、俺も歩き方とか見なければ気づけなかっただろう。
リィズは匂いで気づくとかいう人外じみた方法で気づいていたが、それはそれ、これはこれだ。
スラッと細い身体に、女と見間違えるほどに美しい顔。そして、どんなケアをしていたらそこまで太陽の光を反射するのか分からないほどに輝く漆黒の長髪。
この道場に来る人間の何割かは、彼が目当てで来ているのかもしれない。そう思ってしまいそうなほど、シャールは可愛らしかった。
「ゴリアテという名前が世界で1番似合わなさそうだな。これで男とかなんの冗談だよ」
「人間ってすげぇよな。男からも女からも人気のありそうな見た目をしてやがる」
「全くだ。男達からはケツを狙われて、女共からは子種を狙われる。人の欲とは神の傲慢さにも勝るとはよく言ったものだ」
しばらくハグをしていたローズとシャールは、お互いに無事を確認し合うと俺たちに紹介をしてくれる。
ローズは若干涙ぐんでいたが、正直見ていてキツかった。
「この人が私の兄にして、ゴリアテ道場の師範代シャール・ローズ・ゴリアテよん。こんな見た目だけど、凄まじく強いわん。兄さん、この方達が私の同僚よん。そこにいる黒髪の少年が、私達のボスであり、神のごとき頭脳を持つグレイよん」
「おー、この方がマリーの言っていたボスさんだね。よろしくお願いします。マリーがお世話になっているようで」
「いえいえ、ローズ........あー、マリーには俺もお世話になっていますよ。頼れる仲間の1人です。よろしくお願いします」
スっと手を出してくるシャールの手を握り返した瞬間、シャールは俺を試すかのように少しだけ強めに俺の手を握る。
単純に握手の強さが尋常ではないのかもしれないが、その目を見れば分かる。
こいつ、俺を試しているな。と。
こんな化け物みたいな見た目だとしても、兄からすれば可愛い弟なのだ。その上司である俺の器を測りたいのは兄として当然の行為とも言えるだろう。
ここで強く握り返す意味もないし、あくまでも彼は俺を試しているだけ。
ならばこの誘いに乗る必要は無いし、力を証明せずともこっち側のペースに飲み込む方法などいくらでもある。
やり方?簡単だよ。本人が一番欲しい言葉と、努力をほめてやればいい。社交辞令のようにやるのではなく、あくまでも自然に、そして心地よいトーンで。
「肌滅茶苦茶綺麗ですね。なにかケアとしてるんですか?」
「........へ?あ、うん。化粧水を塗っているよ。肌にはすごく気を使っているんだ。でも、道場の師範代として、女々しすぎるのかなって悩む時もあるね」
「あはは。そんなことは無いですよ。だって、握られている手が今までの努力を物語っていますから。俺は武術や鍛錬に詳しい人では無いのであくまでも素人意見ですが、この手は並大抵の努力でたどり着ける程のものでは無いと思いますよ。何せ、鍛え上げられた硬さを重みを感じる。マリーと同じ手だ」
「えへへ。そうかな?僕は自分の見た目がこんなんだから、定期的に強さを見せつけないと門下生が舐めてくるんだよね。でも、グレイさんはちゃんと見ただけで認めてくれるんだ」
「努力をバカにはしませんよ。その人が歩んできた道ですから。まぁ、その努力が必ずしも報われるとは限らないのが、この世界の在り方ですがね」
うーん。ちょろい。
どうせ見た目に多少なりともコンプレックスや悩みを持っているんだろうなと思ったので、見た目には触れない。その代わり、肌が綺麗というところだけは褒めておく。
これだけ綺麗な肌だと、何らかのスキンケアは絶対にしてるしな。
容姿の話よりも、本人が実際にやっているところを褒めてあげた方が自然な感じが出る。
そして、手を握って気づいたが、この人の手は滅茶苦茶皮が硬かった。パッと見はモチモチしていそうだったのだが、ローズ以上に硬いこの手を握ってしまえばこの人が本物でどれだけ努力してきたのかは嫌でも分かる。
これに関しては普通に本心だ。俺は真面目に努力するやつをバカにはしない。
........いや、さすがにテロを真面目にやっているやつとか、選民思想の中で新たな世界を創造する!!とか言ってる頭のおかしいやつは笑うけどね?あくまでも、一般的な努力の話であって、あの頭のイカれた連中は違うのである。
なんであぁ言う連中は、マトモに生きようとする努力をしないのだろうか。俺も人のことは言えないんだけどさ。
まともに生きようとする前に、テロリストとして国際的に指名手配されてしまったから、どうしようもなかったと言うのが正解なんだろうけど。
「あの兄さんが速攻で堕とされてるわん。あの人、身内以外にはあまり心を開かない人なのに........」
「ボスは人を掌握するのが上手いもんな。見ろよあの顔。完全にボスの手駒になっちまってる。多分今ならボスの命令でケツを差し出してくれるぜ」
「完全に乙女の顔ですね。あれ?あの方男の人ですよね?」
「グレイお兄ちゃんが人たらしなのは今に始まったことじゃないだろ。私だってその毒牙にかけられた被害者の1人だからな。ホント、欲しい時に欲しい言葉を言ってくれるからずるい。私が人間にも興奮できていたら、今頃グレイお兄ちゃんを押し倒して既成事実を作っていたところだ」
「アリカ?貴方とんでもない事を言ってますよ。初めて聞きましたよ“人間にも興奮できていたら”とか。人間は普通、人間を愛するものですよ。機械の私が言っても説得力に欠けますが」
「ここに集まっている人達は、みんなグレイちゃんに堕とされた人達だからねぇ。初めてであった時に、私に名前をくれたのはすごく嬉しかったっけ」
裏で何やらわちゃわちゃと仲間たちが騒いでいるが、声が小さすぎて聞こえない。
俺はもう一押しかな。と思うと、シャールの手を優しく包み込んだ。
「自信を持ってください。シャールさんの努力は、ここに刻まれているんですから」
「は、はい。ありがとうございます。グレイさん」
よし。好感度稼ぎ終了。俺はゆっくりと手を離すと、顔を下に向けてモジモジとするシャールから少しだけ離れた。
惚れられては困るので、適度な距離感は必要。これ以上の褒め言葉は、逆に俺の首を締めかねない。
と言うか、ちょろすぎるでしょこの人。チョロインだよチョロイン。おとこの娘チョロインとか言う多重属性を持ってるよ。
「兄さん、ボスに惚れてはダメよん?ボスはリーズヘルトちゃんと言う子がいるんだから」
「ほ、惚れてないよ!!ただ、家族以外の人から純粋に褒められたのが嬉しかっただけだよ」
「ならいいわん。全く、ボスも人が悪いわねん。兄さん、案内して」
「はいはい。わかってるよ。ではお客人の皆様。どうぞこちらへ」
こうして、俺達はローズの実家にして世界でも有名な道場に足を踏み入れるのであった。
やっぱり坊主頭にして道着とか着ながら鍛錬しているのかな?少し楽しみだ。
【ゴリアテ道場】
気功術を教える道場。初代門主にして、化け物と称されたロゼッタ・ゴリアテによって創設されたこの同情は、485年近くの歴史を持っている。
USAに本道場を置いているものの、各国との繋がりも強く権力的にも強い。しかし、あくまでも簡単な付き合いに留めており、どこかの国に肩入れするつもりも無い。門弟はやく二万から三万人程であり、世界各国から自分の才能を勘違いした人たちがやってくる。その中で大体6割ほどば1年で辞めてしまうが、中には努力の末にAランクハンターにまでのし上がる猛者も多くいる。
道場に足を踏み入れると、そこは中国の拳法道場のような想像通りの光景が拡がっていた。
石畳の稽古場に、多くの木偶。想像と違う点があるとすれば、髪型が自由でなおかつ服装も自由な事だろう。
坊主頭で茶色がかった道着を着ながらよくわからん動きをする人は滅多にいなかった。
居るにはいるんだけどね。多分あいつらは少林寺を見てる。中国映画の少林寺を見て、この道場にやってきたに違いない。
「どうですか?この道場は」
「正直に言いますと、全員坊主頭で灰色か茶色の道着を着ながら鍛錬していると思いましたね。映画と現実とでは、かなり違うようだ」
「アッハッハッハッハッ!!中にはそういう期待をして入る方も居ますよ。自分はジェット・リーのようになるんだって言ってね」
「まだジャッキーチェンか、ブルース・リーに憧れた方がいいな。いや、ここはUSA出し、シルヴェスター・スタローンか」
「一流ボクサーでも作りましょうってか?なら入るジムを間違えたな。どう見てもサンドバッグが置いてあるようには見えねぇぞ」
ロッキーの主演俳優シルヴェスター・スタローンの名前が出てくるってことは、この世界にもロッキーの映画が公開されていたということ。
ギリギリダンジョン戦争前かあとぐらいの時に公開されていた映画のはずだから、平行世界のパラドックスに入っているかどうか怪しいな。
ま、いつもの如く考えるだけ無駄だが。
「あー、偶に勘違いして来る人もいますよ。シルヴェスター・スタローンに憧れて、なぜがボクシングジムではなくこの道場に入る人もいました。その人、本当に面白い人で、生卵一気飲みとかやってましたね。映画にあったことは全部やって、本当にAランクハンターになったんだから驚きですよ」
「........ロッキーは偉大なる先駆者の映画だったんだな」
「世の中、変なやつも居るもんだ。冗談で言ったらマジだったぞ」
生卵一気飲みして強くなれるんなら、誰だってやるよ。
生卵を飲んで何になるというのだ。と言うか、新鮮じゃない卵は危ないからやめようね。お腹壊すよ。
そんな面白おかしい道場の入門者の話を聞きながら、観光を続ける。
んー、本当に様々な人種の人がいるんだな。白人に黒人、アジア人にヨーロッパ。寧ろ、この場に居ない人種を探す方が難しいぐらいには、様々な人種の人がいる。
そして、みんな仲が良さそうであった。
苦楽を共にし、その間にできた絆がこの関係性を生み出しているのかもしれない。
実現されるべき理想的な世界平和がそこにはあった。
「人種差別とかないんですね」
「新しく入ってくる方々の中にはやはりありますが、大抵キツイ訓練をやらされる間に仲間意識が芽生えますね。それでも無理な人は、辞めていきます。ですので、差別による喧嘩はあまり起きませんよ。起きたとしてもぼくが制圧しますし」
「理想的な世界平和だ。やっぱりそういう思想を持ったやつは排除するに限るな」
「全くだ。既に地獄へと落ちたカス共にも聞かせてやりたい言葉だな。響くかは知らんが」
俺はそう言うと、もうしばらくこの道場の雰囲気を楽しむのであった。
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