フルスピリットvs九芒星


 ペド野郎を地獄の底にたたき落とした俺たちは、その後もアリカに傷を負わせたゴミ共の処分を進めていた。


 正直アリカのいじめを傍観していた奴らも同罪で殺してやりたい気持ちがあったが、アリカが“そこまではしなくていい”と言ったので俺達も大人しくしておく。


 アリカは優しすぎるよ。本当だったらこの大学ごと火星まで吹っ飛ばしたかったというのに。


 アリカの話を聞けば聞くほど、アリカがどれだて辛い幼少期を過ごしてきたのかが分かる。


 今こうして素直で可愛い女の子として生きているのが不思議なぐらいには、アリカへのイジメは酷かった。


 熱湯をぶっかけられ、薬の実験体にされるのはもちろん、陰口に論文の盗作疑惑、更には靴の中に画鋲や不正のでっち上げ。


 いくら天才少女が妬ましいからと言って、人はここまで冷酷で残酷になれるのかと思ってしまう。


 しかもそのほとんどの人間が“正義は我にあり”と言う態度なのだから酷いったらありゃしない。


 一度アリカ側に何か問題でもあるのかと思ってこっそりレミヤに調べさせたが、アリカはただ普通にキャンパスライフを送っていただけであった。


 あまりにも可哀想過ぎて、同情を通り越して親愛すら覚える。


 元々仲間達からかなり好かれていたアリカだが、ここに来てアリカにさらにみんなが優しくなったのは言うまでもない。


 特にミルラがアリカにベッタリくっつく様になった。普段は公私をしっかりと分ける奴ではあったのだが、アリカだけには公私混同しているように見える。


 リィズとミルラとアリカの三人で、最近はレベル140クエストに行っているらしい。


 昨日、準ゴール武器の双剣を初めてアリカが手に入れたらしく、滅茶苦茶自慢してきた。


 可愛い。


「ようやく全部解体し終えたな。この街終わってるだろ。なんでこんなに豚が居るんだ?人間よりも豚の数の方が多いだろこれ」

「話を聞けば聞くほど、この街の実情を知れば知るほど頭を抱えたくなるな。天下のUSA(アメリカ)様がこの有様なんだぜ?治安が悪いなんてもんじゃない。それでもグダニスクの方が悪いがな。あっちは少し外に出れば必ず絡まれる。ボスの場合は家にいてもロケランが突っ込んでくるがな」

「それを言うな。警察ポリスは一体何をやっているんだ?無能の集団なのか?薬売りにギャングの腰巾着。ぺド野郎に救いようのないクズ。そんなヤツらが蔓延るこの街でなぜ大学の内部を調査しないんだ........」

「大学側が政府との繋がりが強いんだろうな。さすがは自由の国だ。権力さえ手に出来れば、何もかもが自由自在フリーダム。人を殺そうが何をしようが、自分たちより弱い人間は駒のように動かせるんだろ」

「その象徴がギャングと政府か。POL(ポーランド)もまぁまぁ酷かったが、この国もいい勝負してんな。自由という名の資本主義者達は考えることが違う」

「だからこそ、俺達がこの国の浄化をしてやらないとダメという訳かね?」


 なんで史上最悪のテロリストがこの国の浄化をしなければならないんですかねぇ........アリカのお礼参りに来ただけなのにこの国の闇の部分がハッキリと見えて困ってるよ。


 と言うか、国内がこんな状況なのにあの大統領は戦争をおっぱじめようとしていたのか?


 先ずは国内の安定化を図るべきだろこれは。


 理論上、この世界から悪人が消え去ることは無い。しかし、悪人を減らす努力はできる。


 犯罪者が出てくるのは仕方が無いが、その犯罪者をできる限り減らす努力と言うのは必要なのだ。


 俺も日本に帰ったら警察組織を作らないとな。エルフ達は人間よりも穏やかに見えるが、彼らも思考を持つ生命だ。また邪神とか崇められても困るので、上手く誘導しなければならない。


 アレだな。国造りシミュレーションゲームだな。できる限り犯罪率を抑える為に、国民の不満や貧困層を無くすゲームだと思った方がいいかもしれん。


 内政系のゲームはあまり好きでは無いが、母親の英才教育によって出来ないことは無い。ステラリスやシヴィで鍛えた内政力を見せてやるよ!!


「で、ボス。この後はどうするんだ?」

「決まってんだろ?ギャングに喧嘩を売った以上、蹴りは付けなきゃな。レミヤが優秀過ぎて全く補足されなかったから、俺達から姿を現してやろう。確か、ギャング達が多く集まる住宅街があったよな?そこで片っ端から暴れるぞ。ギャングは皆殺しだ」

「........分かった。俺たちも準備しておこう。いつ始める?」

「準備が終わり次第だな。それが終われば、即アリカの実家に行って親と企業を潰す。えーと、どこだったっけ?」

「テキサスだな。アリカの親は相当なクズだし、元職場もかなり終わっている。こう言っちゃなんだが、アリカって滅茶苦茶人運がないよな........可哀想になるぐらいに」

「俺達だけでも優しく楽しくしてやらないとな。それで居て対等だ」

「俺は娘を見ている気分になるんだよなぁ........ほら、昨日のあの喜び方とか娘を思い出しちまう」

「それは良かった。だからもう話さなくていいぞ。お前の娘自慢の話はいつも退屈で長いんだ」

「なんだと?!俺の可愛い娘を馬鹿にするのか?!」


 そういうところやでジルハード。


 俺はそう思いながら、結局ジルハードのクソつまらない娘自慢を小一時間も聞く羽目になるのであった。




【ステラリス】

 スウェーデンのゲーム会社パラドックスインタラクティブが2016年に発売した4Xグランドストラテジーゲーム。Stellarisは未来の銀河を舞台にしたゲームであり、プレイヤーは宇宙を探索し、帝国を管理し、他の宇宙文明との外交や戦争を繰り広げる。

 ハマる人は滅茶苦茶ハマるが、私は少しだけやって諦めた。難しすぎるやろあのゲーム。




 ローズは悩んでいた。


 頭のイカれた世紀の大犯罪者グレイの元へとやって来てはや半年。人類がなし得なかった快挙“五大ダンジョンの攻略”を成し遂げた一員となった彼(彼女)だが、正直自分はあまり組織の役に立てて無いのでは?と考えることが多くなったのである。


「ハッ!!ようやく見つけたぜ人攫いのゴミ共がよォ!!随分と好き勝手やってくれたみたいだが、それもここまでだ!!ぶっ殺してやるよ!!」

「絵に書いたかのような三下のセリフだな。鏡を用意してやろうか?その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」


 アリカを虐めていた者達を処分し、その後ろ盾伴っていたフルスピリットギャング。


 あまりにも自分達を補足できなかったので、態々姿を見せに来たグレイ達に対してフルスピリットギャングの面々は“ここまでだ”と言いたげに自信満々であった。


 ほぼ全てのギャングを動員したのか、グレイ達を囲んでいるギャングは万単位にも及ぶ。


 しかし、九芒星エニアグラムは誰一人としてビビることは無い。


 何故ならば、自分達の方が強いから。


 つい1週間ほど前までエルフやドワーフ達と戦っていた彼らに、たかが数で集まっただけのギャングなど恐れる事は無い。


「自分達がおびき寄せられたら鴨だとも知らずに呑気なこった。儲かった気できるのか?」

「ハッ!!この人数差で俺達に勝てると──────」


 パン!!と短い発砲音が鳴り響くと同時に、囲んでいた1人のギャングの頭に穴が空く。


 詰まらなさそうに退屈そうにギャングの頭を打ち抜いた自分たちのボスは、唖然のするギャングたちに向かってたんたんと告げた。


「これで人数差が縮まったな。あと何回繰り返せば、俺たちの方が優勢になるかな?」

「い、イカれてんのかこいつ!!」

「御託はいいからサッサと来いよ。この街でやることは終わったから、サッサと次の街に行きてぇの。ほら、みんな。仕事の時間だ」

「や、やっちまえ!!こいつらをミシシッピ川に沈めて魚の餌にしてやれ!!」


 抗争が始まると同時に、ローズは敵陣のど真ん中に飛び込んで次から次へと敵を薙ぎ倒していく。


 リーズヘルトや吾郎が規格外すぎて霞んでしまうが、ローズはこの組織の中でも3番目に戦闘力が高い。


 銃弾は当たり前のように避けるか弾くし、こちらが敵を殴れば内臓を破壊して相手を殺す。


 グレイからすれば頼もしい仲間であるが、ローズからすると自分は役に立てないのでは?と思ってしまっていたのだ。


 レミヤやレイズ、アリカの様に特殊な技能がある訳でもなく、リーズヘルトや吾郎の様に人外じみた強さもない。


 ジルハードの様に裏社会について詳しくもなければ、もちろんボスのような全てを見通す未来視を持っている訳でもない。


 ミルラのような専門的な護衛能力もないとなれば、ローズは自分の価値を考えてしまっても不思議では無い。


(私は役に立っているのか知らん?)


 そう思いながらギャングたちを次から次へとなぎ倒していると、パシャリと写真を撮る音が聞こえる。


 ローズがその方向に目を向けると、誰もいない。が、ローズの能力は反応していた。


 ローズの能力は反響定位エコーロケーション


 自身の発した音や発された音からの反響出空間を把握できる能力。例え相手が透明であろうと、その場に物体として存在しているならば場所がわかってしまうのだ。


 ローズは周囲のギャング達を纏めて吹き飛ばすと、素早く写真を撮っていた犯人を捕まえる。


 透明人間は触られると能力が溶けるのか、その姿を顕にした。


「ぐっ........!!」

「あらん?マスメディアかしらん?こんな所で何をしているのん?」

「こ、答える義理はない........」

「ふぅん?」


 ここで殺してしまった方が楽か。そう思った矢先、ローズの脳内に電流が走る。


 ボスは常に自分達の成長を望んでいた。エルフの国で襲撃があった際も、何も言わずに囮となって部下に考える力を付けさせようとしていた。


 実は今回もそういう意図があるのでは無いか?


 ローズはそう考え、ボスが何を望んでいるのかを思い返す。


“ダークヒーロー事バッドマンの登場だぜ!!”“ヒーローごっこしてたのか?ミルラ”


 今回の旅はとにかくボスは“ヒーロー”という言葉を使っていた。


 実は、これがボスが望んでいることなのではないかと、ローズは考えたのだ。


 現在、ボスは世界最悪のテロリストでありながらこの世界の一部を解放した英雄でもある。


 世界の世論はに分され、今後の動き方しだいで自分たちの立ち位置は決まるだろう。


 そして、ここはUSA(アメリカ)であり、この国の世論を味方につけつつ動きを封じてしまえば彼らはアジアの戦争に参入できないのだ。


「あぁ、なるほど。ボスは常に私達にヒントを与えてくれているのねん。そして成長を促し、人として1歩大きく育てるようにしてくれているのだわん」


 アリカの復讐も、過去との決別を付けることで前を向かせようとしていたに違いない。


 そして、このギャングの構想はミルラと自分の為。ミルラはかつての復讐を。ローズは考えて動く力を身につけさせようとしているのだ。


 ならばやるべき事はひとつ。ボスの望む形で世論を味方につけるのである。


「あなた、マスメディアよね?私達九芒星エニアグラムの話について大々的に宣伝しなさい。この街で幅効かせていたギャングの始末とそれに繋がる大学側の不正。詳しく知りたければ、レノックス財閥に話を聞きに行けばいいわ。きっと大スクープが取れるわよん」

「........急にどうしたんだ?」

「私達のボスがそれを望んでいるだけよん。私たちは悪では無い。弱き市民と世界の平和を脅かす者達の味方よん。現に、ギャング共を皆殺しにしてるでしょう?司法や国家が動かないのであれば、ボスが裁いてくれるわん。もちろん、身体はひとつしかないから限度はあるけどねん」

「何を望んでいる?」

「何も。最近、私は悩んでいたのよん。周りが優秀すぎると、自分の価値が分からなくなってしまうのよん。でも、ボスはその中で成長を望んでいたのだわん。全く、やり方分かりづらくて困るわよん。ほら、もう行きなさい。安全な場所まで私が守ってあげるわん」


 もちろん、グレイにはそんなつもりなど欠片もない。


 確かに彼はローズが悩んでいることを察して“頼んだぞ”と励ましの言葉を掛けていたりはしていたものの、別にマスメディアを使えとはひとつも思っていない。


 アリカの復讐次いでにミルラを沈めようとしたギャングも潰すか的なノリではあったが、自分達が正義だとは思っていない。


 しかし、この半年間で積み上げられた虚像はグレイが思っているよりも大きく、そして部下たちもその事実を知らない。


 その為、こうして大事へと発展してしまうのだ。


(少しは成長できたかしらん?)


 この後グレイが頭を抱えながら新聞を見ることも知らずに、ローズは少しでも役に立てたと嬉しそうにしながらギャングの殲滅を続けるのであった。




 後書き。

 ほぼダイジェストで殲滅されるフルスピリット君。ちなみに、最後に殺してやる君は5番目ぐらいに死んでいる。

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