ダークヒーロー


 グダニスクレベルでミシシッピ州が終わっていることが発覚し、これはどうしたものかと考えながらも俺達が次の標的と定めたのは頭のイカれたペド野郎であった。


 コイツだけは許せん。アリカに手を出そうとしたのはもちろん、今でも子供を攫っては犯すゴミなど焼却処分しても気が収まらないほどには気分が悪い。


 自己責任を取れる大人を殺す分には心が痛まないが、力も弱く罪のない子供を食い物にするクズなどさっさと死ぬべきである。


 俺もあまり人の事は言えないんだけどね。狙ってやった訳では無いが、FR(フランス)国民の大半を殺している訳だし。


「いいのかアリカ。きっといい実験体になってくれただろうぜ?」

「いいよ。私は実害を受けた訳では無いからな。それよりも、その攫われた親に制裁された挙句法の下で全世界に自分がクズだと証明された方がいいだろ。この国の警察官が無能だと言うことも証明できるしな」


 今回は攫うのではなくそいつの家を襲撃するつもりだ。情報によれば子供が家に監禁されているらしく、こいつを殺してはいおしまいという訳には行かない。


 このまま放って置けば、その家に監禁されている子供は餓死してしまうだろう。


 次いでにギャングとの繋がりや、大学側の金の流れなどの証拠も抑えるつもりなので家に襲撃した方が早いのだ。


 ギャング共は今も尚俺達の影すら見つけられてないので、少しぐらい派手にやってしまってもいいよな?


 という訳で、家に襲撃です。


 高級住宅街のセキュリティがしっかりとしている所にカチコミをしに行きましょう!!


「着いたぜ。俺は待ってるから素早く終わらせてくれ」

「みんな家の情報は頭に入ってるよな?レミヤとミルラは子供の保護と証拠の持ち出し。俺とリィズとローズは救いようのないペド野郎の捕獲だ。しくじるなよ」

「はーい。殺さないように気を付けないとねぇ」

「2分で終わらせます。超高性能AIを搭載した殺戮兵器キリングマシンの力を見せてあげましょう」

「子供の保護はお任せを。あやすのはボスに頼みますが........」

「豚の出荷は任せなさい。私が運んであげるわよん」


 既に木偶情報屋から必要な情報は貰っているので、サッサと用事を済ませて子供達を親元へと返してやろう。


 1番しくじりそうなのが俺なんだよなぁ........でも頑張るしかないか。


 俺達は素早く車からおりると、レミヤがセキュリティを解除したのを見て家へと突撃する。


 今回はなるべく早く事を済ませるために、多少派手にやってもいいと言っている。


 ローズは扉を軽く殴ってぶっ飛ばすと、全員で家に突入した。


「レッツゴー!!ダークヒーロー事バッドマンの登場だぜ!!」

「気配がこっちだねぇ。今頃何事かと思ってベッドから飛び起きてるかも」

「捕まえやすくて助かるわん。それじゃ行きましょう」

「子供たちは地下です。情報が正しければあちらですね」

「警察が入ってきても問題ないような隠し方をしているとしても、情報さえあれば私達の勝ちです。サッサと終わらせますか」


 それぞれが自分達の役割を理解し走り始める。


 俺とローズとリィズは2階で寝ている豚の確保を。


 レミヤとミルラは子供達の確保を優先しつつ、証拠となる物の確保に動く。


 内装は既に木偶情報屋によって知らされているので、道に迷うことは無かった。


「だ、誰だ貴様ら─────ふぐっ........」

「黙れ腐れ豚ピッグ。今から屠殺場に送られる身分で喚くんじゃねぇよ」

「........玩具ってあんな使い方が出来るのねん。本当に人攫いに持ってこいだわん」

「グレイちゃんだからねぇ。私達要らなかったかも」


 ベッドから飛び起きた豚を素早くワイヤーを使って捕獲すると、俺は豚の顎を殴って気絶させる。


 魔物相手には全く役に立たない俺だが、人の壊し方についてはある程度詳しいのだ。


 半年前なら出来なかっただろうが、今となってはお手の物。まぁ、所詮は付け焼き刃なので本当に強いやつには勝てないんだけどね。


「ローズ、運べ」

「はいはい。分かってるわよん。車のトランクに積めばいいわよねん?」

「そうだな。リィズ、レミヤ達の援護に行くぞ。どうせ子供の扱いが分からなくて、困ってるだろうしな」

「あー、レミヤもミルラも困ってそうだねぇ。アリカは修羅場をくぐってるから多少は根性があるけど、普通の子供はこんな人達が来たら泣き出しちゃうか」

「多少無理やりにでも詰め込まないとな。確か三人いるんだっけ?それぞれの家に返してやらないと」

「1人は既に死亡扱いのとある財閥の娘。残る2人は姉妹で現在も捜索されている子だったけ。そっちは上議員との繋がりがあるとか?」

「一体どうやって攫ったのか気になるな。いやまじで。どちらも使える権力は全て使って探しただろうに、どうして見つからなかったんだ?」

「能力なんだろうねぇ。例えば、透明になれる能力とかならやり方次第ではバレないし。もしくは、相手の認識を変えさせる能力とかでも行けるんじゃない?証拠を消すのが大変そうだけど」

「能力って恐ろしいな。不可能を可能にしちまうんだから。悪い世の中になったもんだ」


 能力の使い方次第で、完全犯罪ができてしまうこの世の中。そりゃ世界的に治安も悪くなる訳だ。


 この世界で治安のいい国の一つFRですら、日本とは比べ物にならないほど治安が悪かったんだしな。


 結局、この世界に真の平和が訪れる事は無いのだろう。人という生命が存在している限りは。


「うえーん!!」

「ど、どうしたらいいでしょうかレミヤさん」

「えーと、ほら、可愛いお人形さんとか........あぁ、持ってない!!」


 地下へと行くと、そこには泣きやまない3人の子供と対応に困るレミヤとミルラの姿が。


 やっぱりだめだったか。この中では子供の扱いになれそうだったんだけどなぁ........


「予想通りすぎて笑えるな。何が2分で終わらせるだよ。泣いてる子供にいいようにされやがって」

「2人とも結構ポンコツだからねぇ........ほら、役立たず共。グレイちゃんが代わりにやってくれるから、サッサと証拠を集めてこい」

「すいません主人マスター。子供のあやし方を調べておいたのですが、全部上手く行きませんでした」

「私が子供の頃はカジノチップを貰ったら笑顔になったのに........今どきの子供は難しいですね」


 お前が特殊すぎるんだよミルラ。


 俺は心の中でそうツッコミを入れつつ、3人の子供を何とかあやしてこの地獄から解放してあげるのであった。


 こういう時の玩具はやはり強い。おさるのジョージ、お前やれる男だったんだな。




短時間的催眠術メトロノーム

 設定だけあったけど出番がなさそうなので紹介。

 ペド野郎の能力であり、特定のタイミングで振り子を振ると相手に約1時間だけ催眠術をかける事が出来る。警察の捜索などもこれでも逃げ切り、子供達もこの能力で攫った。振り子が3回動くところを見たら催眠完了。アリカにも仕掛けられたのだが、アリカは薬草の事しか考えてなかったので失敗。頭がイカれているからこそ、アリカの純血は保たれている。




 ミシシッピ州オックスフォードはレノックス財閥という大きな財閥が存在している。


 政治界隈にも大きな影響を及ぼせるほどの財力と権力を持っているこの財閥の当主にして、たった一人の愛娘を失ったガルソン・レノックスは日々辛い毎日を過ごしていた。


 全ての権力を使ってもなお娘の足取りは掴めず、怪しいヤツには強制的に捜査令状を取らせて警察を動かしたが、それでも娘は帰ってこなかった。


 娘が消えて既に5年。本来なら13歳の誕生日を迎えるはずであった今日、彼の携帯に非通知の電話が鳴り響く。


「........誰だ」

『初めましてミスターガルソン。ガルソン・レノックスのお電話で間違いないですか?』

「........切るぞ」


 若い男からの電話であり、どうせイタズラか大した用もない話だろうと思い電話を切ろうとすると、電話の男は静かに呟く。


 そしてそれは、仕事に疲れ眠たくなり始めていたガルソンの目を覚まさせるものであった。


『お宅の娘さんを保護した。次いでに犯人も捕まえたから、ぶっ殺してケツ穴を舐めさせたければ指定した場所に来てくれ』

「........!!そ、その手には乗らんぞ。以前何度もやられたからな。今からお前の素性を調べて豚箱にぶち込んでやる」

『待て待て待て。そう話しを勝手に進めるな。娘の声も聞かせてやるから。ほら、お父さんと繋がってる。声を聞かせてやれ』

『お、お父さん........ごめんなさい。私が勝手に家を抜け出したばかりに........ごめんなさい』

「........!!」


 その声は間違いなく娘の声であった。聞き間違えるはずもない。厳しく育て、その厳しさに耐えきれず家を出た先で消えてしまった娘の声であった。


「今どこにいる?!」

『今から来て欲しい場所を送る。あぁ、あと彼女の他にもさらわれていた子供がいてな。そっちの親も呼んだから間違っても犯人だと思わないでくれ。警察は........まぁ、自由にしてくれていい。ただし、その時は娘に傷を負わせたゴミが自分の手で処理できないと思ってくれよ?』


 そう言われて警察を呼ぶわけが無い。どんな手段を使ったとしても、その犯人は必ず殺すと決めていたのだ。


 ガルソンは妻を叩き起すと、護衛を連れて指定された場所へと急いで向かう。


 指定された場所は誰もいない、監視カメラもほとんど無いミシシッピ川の土手であった。


「カナン!!」

「カナン!!どこなの?!」


 指定された場所に着くなり、娘の名前を叫ぶ親。


 すると、正面に止まっていた車から自分の娘と娘を保護した男とその仲間たちがぞろぞろと降りてきた。


「お父さん!!お母さん!!」

「カナン!!良かった........!!もう一生会えないものだと思っていた........!!」

「カナン!!ごめんなさい!!私達が理想を押し付けたばかりに!!」


 その手に感じるのは五年ぶりの娘の温もり。


 しばらくその温もりを感じ、何があったのかは聞かず泣き続けた後。ガルソンはようやく正気を取り戻す。


 どれほど泣いていたのか分からないが、気づけばもう一家族もこの場に来ていた。


(あれは........ヘンダーソ一家じゃないか。そう言えば彼らの娘たちも攫われたと聞いたな)


「感動の再会は終わったかい?ミスターガルソン」

「貴殿らは何者だ?感謝したい気持ちはもちろんあるが、それよりも聞かなければならないことが沢山あるのだが........」

「それは────お?どうしたカナンちゃん」


 その男との話が始まる前に、カナンが男の前にトコトコとやってくる。


 そして、彼女は目線を合わせるためにしゃがんだ男に抱きつくとか細い声でお礼を言った。


「ありがとうダークヒーローさん。助けてくれなかったら、私はきっとギャングたちに売られてたよォ........」

「次はちゃんとお父さんとお母さんと仲良くするんだぞ。喧嘩するのは仕方がないが、親は君が心配で色々と言ってくるのさ。少なくとも、今後は1人で家出したりはしない事だ。強くなれよ」

「ありがとう........ありがとう!!」


 男が優しく娘の頭を撫でる様子を見て少しだけモヤッとしたガルソンだが、子育ての仕方を間違え愛する娘に傷を負わせてしまった自分がなにか言える立場でない。


 そして、娘の反応を見て、ガルソンは彼らが娘をさらった犯人だという線は消し去った。


 ガルソンは相手が嘘をついているかどうかを判断できる能力を持っている。娘の言葉は本当だったし、男の優しさも本物であった。


(彼は何もの........ん?あの顔見覚えがあるな........)


 よく顔を見ていたガルソン。


 そこで彼は1人の顔を思い出す。


 世界最悪のテロリストとして連日報道され、今は五大ダンジョンを攻略し国を作ると言った世界のおさがわせ者グレイ。


 なぜ彼がここにいるのか、なぜ彼が娘を助けてくれたのかは分からないが彼はこれ以上の深入りは死を意味することは理解してしまった。


 そして、それと同時に彼は世間から言われているほど極悪非道な人間でもないと言う可能性が見えてきた。


 子供とは良くも悪くも純粋だ。助けてもらった恩があろうとも、ここまで子供が懐くと言うのはそれだけ彼の心は綺麗なのだろう。


 現に、もう一家族の方の娘達も彼にお礼を言っている。頬にキスをして父親から殺気を感じるが、それは見て見ぬふりをしておいた。


「さて、俺達も追われる身なんでね。話はさっさと終わらせよう。子供達には聞かせられないし見させられないから、車の中にでも待機させておいてくれ」

「了解した」


 その後、犯人である豚を引き渡されると同時に大学側の不正やギャングとのつながりの情報まで渡され、最後に意味ありげに“その時が来たらよろしく”とだけ言って彼らは帰って行った。


 グレイ本人は“自分たちの居場所がバレるとまずいから、警察や政府が聞きに来たら誤魔化しておいて”という意味で言ったのだが、言葉足らずだったためか“必要な時が来たらその情報の暴露と共に俺たちの味方になってくれ”と捉えてしまったのだ。


 こうして、グレイは図らずしてミシシッピ州の一大財閥と政府関係者という味方を手に入れてしまったのである。

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