世界情勢


 USA(アメリカ)に行く事は既に決まっているが、昨日の今日で思いついてぶらりと立ち寄れるような場所ではない。


 俺が指名手配犯でなければ普通の飛行機に乗ってぶらり旅なんて言うのをできるだろうが、生憎USAも世界的テロリストをそう易々と国に入れてくれる訳では無かった。


 その為、こっそりと入国する手段が必要となる。この手の事はよく分からないのだが、とりあえず運び屋に依頼すればなんとでもなるだろう。


 しかし、準備は必要。


 ダンジョンに行くということで無一文であった俺達は、金の準備や装備の点検等で2日ほどグダニスクに滞在することになったのである。


「やぁやぁ。世界のおさがわせ者君。まさか本当に五大ダンジョンの一角を攻略して帰ってくるとは思わなかったよ。半年前に史上最悪のテロ事件を巻き起こし、連日ワイドショーの顔を持って言った色男がさらなる話題を引っ提げてやって来たという訳だ。面白いことになっているねぇ」

「久しぶりだな。おばちゃん。元気にしていたか?今日は残念ながら土産がないからって落ち込まないでくれよ」

「ただいまー!!」


 声は嬉しそうな、安心したような優しい声をしつつもこの状況を楽しんでいるかのような木偶情報屋。


 半年近く拠点として使っていたグダニスクの街には知り合いが多い。


 俺は“帰ってきたぞ、後すぐにアメリカに行くからよろしく”という旨を伝えに、いろいろな人達のところに顔を出していた。


 ちなみに、この街では俺達が五大ダンジョンに挑んだことが知れ渡っているのか、誰もが俺たちのことを純粋に褒めてくれていた。


 水漏れが酷すぎるが、人の口にとは立てられない。


 趣味でなんとも言い難いピザを売る武器屋や、神の教えを説くはずなのに薬を売って生計を立てるイカれた教会など、俺の事を知っている人達は皆口を揃えて“マジでやったんだな”と驚きを隠さないのだ。


 あの普段はクールなバーテンダーですら、携帯で五大ダンジョンが攻略された事に関するワイドショーを見ていたぐらいである。


 今や、俺達は時の人。


 僅か半年で、二回も世界中から注目を集めてしまっているのだ。


 ただの一般高校生だった俺が今や世界的スター。いやー人生とは何があるか分からないものだね。


 そのケツに向けてガスバーナーを突き立てようとする奴だったり、俺の頭をぶち抜こうとする奴が現れなかったら少しは喜べたのに。


 今日だってリィズと街を歩いていたら、頭のラリったヤク中ジャンキーに絡まれた。


 今頃奴らはアリと仲良く戯れている頃だろうが、この町は相変わらずすぎる。


 そして、絡まれたことで“あぁ、帰ってきたんだな ”となる俺も大概だ。


 このイカれた環境に慣れすぎたな。今なら前の世界のMEX(メキシコ)辺りでも仲良くやっていけそうである。


「人類が500年以上もの間何も出来なかった五大ダンジョンの1つを、たった1ヶ月ちょっとで攻略できてしまうなんてさすがはリーズヘルトが見込んだ男だよ。良かったら話を聞かせてくれないか?久々な遊びに行った祖母に自分の暮らしを話すかのようにね」

「いいぜ。おばちゃんにはでかい借りがあるしな。何から聞きたい?」

「最初から。空の上からダンジョンに降り立ったその時の話から頼むよ」

「そうだな。最初は─────」


 俺は話した。


 このダンジョン攻略で何があったのかを。


 恐らく、この情報は俺達が不利にならない範囲で売られることとなるだろう。しかし、おばちゃんにはこの世界に来てからというもの世話になりっぱなしである。


 偶には恩返しさせてもらおう。


 そんな気持ちで、俺とリィズはこの一ヶ月間の旅のことを話した。


 リィズは大体“グレイちゃん凄いんだよ?”とか“あの腐れファック共はねー”と、何があったかを話していたと言うよりは自分の感想を話していたが。


 それでも、おばちゃんは結構楽しそうに話を聞いていたものである。


 リィズのことがほんとうに可愛くて仕方がないんだろうな。何せ、死んだ自分の娘にとても似ているらしいし、その影を重ねているのだから。


 性格も似ていたのだろうか?地雷原で踊る趣味は無いから聞くことは無いが、気になってしまうのが人のサガというものである。


「────と、言うわけで俺達は無事にダンジョンの攻略を終えたのさ。中々にぶっ飛んだ話だろう?」

「アッハッハッハッハッ!!相変わらず無茶苦茶やっていたみたいだねぇ。こちらの世界では史上最悪のテロリストだと言うのに、ダンジョンの世界では英雄扱いか。皮肉が効いているな。笑いが止まらん」

「何度も言うが、FR(フランス)が吹っ飛んだのは俺のせいじゃないからな?世界がそう勘違いしているだけだ」

「世界がそう勘違いしていようとも、世界中の誰もが勘違いしていたらそれが真実さ。神の元に真実が明らかになる世界であるなら、今頃冤罪を吹っかけられて、臭い飯を食っている奴はこの世に存在しないさね」

「クソみたいな世の中だ。声のでかいヤツほど幸せになれますってか?それで幸せになれたら誰も苦労しねぇんだよ」

「全くだ。さて、そんな世界的大犯罪者様が歴史的快挙を遂げた訳だが、世界の動きが随分と騒がしくなっている」


 500年もの間攻略されることなくこの世界に君臨し続けた五つの角の内の一つが折れたのだ。


 世界が騒がしくなるのは当然と言えるだろう。


 しかし、どのように動いて来るのかは分からない。大体予想が着く国もあるっちゃあるけどな。


「先ずはこの国POL(ポーランド)。この国はどこの誰がダンジョンを攻略したのかわかっているし、その攻略したヤツがあまりにも規格外なことも分かっている。だから、できる限り取り引きを優先して貰えるように動いているな。僅か数ヶ月で極悪都市グダニスクの頂点にたった男を的には回したくないようだ」

「ミスシュルカからも聞いたな。政府が話をしたいって。レイズに丸投げしたけど」

「アッハッハッハッハッ!!ボス本人が出てこないとなると、POLも焦るだろうねぇ。下手に高圧的に出ることも出来ないし、困るだろうよ!!さて、ほかの国々の動きだが、FR(フランス)は未だに誰がクリア出来たのか分からず傍観状態。“自分が攻略した”と名乗り出るアホが何人も居たらしいが、魔力波を計測して不一致のために豚箱にぶち込まれたやつが多くいる」

「どこの世界でもある事だな」

「バカって一定数いるからね。グレイちゃんの功績を横取りしようだなんて、豚箱じゃ生ぬるいよ」


 FRもまさか自分の国を地球の裏側まで吹っ飛ばした奴が、五大ダンジョンを攻略したとは思ってないらしい。


 この真実を知ったらFRの国内は大荒れしそうだな。


 国として認められるにはアーサー曰く世界から三分の二の票を集めないとダメらしいが、FR及び彼らと仲のいい国からはその票をもぎ取るのは無理そうである。


 というか、そもそも“これからここがうちの国だから”とか何も言ってねぇわ。先ずは全世界に俺達がダンジョンを攻略して一国家を築き上げたということを公表しなければならない。


 この世界には動画配信サービスや、SNSなどのツールも多く存在している。


 この世界に来てから全く余裕が無くてほとんど触れてこなかったが、もしかしたら使う機会が来るかもな。


 と言うか、使う機会しか無い。


 あー、国を作るってめんどくせぇ。


 ここら辺は木偶情報屋に頼むか?この人滅茶苦茶顔が広いだろうし、各国とのパイプもあるだろ。


「なぁ、おばちゃん。ダンジョンを攻略したのは俺達だって事を各国に伝えてくれないか?次いでに、あそこの土地は古来より日本のもので人類に帰ってきた今“日本帝国を再建する”ってことも」

「アッハッハッハッハッ!!構わないよ。だが、いいのかい?それをやるとお隣の共産主義の豚コミンテルンが黙ってないだろう?」

「大丈夫だと思うよ。防衛に関してはダンジョンに居た皆に任せているんだ。みんな強いし、何とかなんと思う。それよりも、先にゴタゴタ何か言われる方が面倒事になりそうだからね」

「一理あるか。後から言うのと今すぐに言うのとでは、世界の心象も違う。早めに“ここは俺達の土地だ”と言うのを言っておいた方がいいかもねぇ」

「頼むよ。それで、他の国の動きは?」

「他の国も大半は似たような動きをしている。CH(中国)も今はバルカン諸国とのゴタゴタで下手に手を出せないらしい。流石に色男が声明を出せばこっちを優先するだろうが........これを狙っていたのかい?」


 そんなことを狙って出来るわけないだろ。


 こちとら第三次世界大戦の引き金を作って焦ってるぐらいだわ。


 大量の火薬庫にマッチの火を落とせば、あっという間に弾け飛んで戦争が起こる。


 サラエヴォでオーストリア大公を撃ち殺した方がまだマシだったかもしれん。


 あー、ガヴリロ・プリンツィプ君。今から君が面倒なヤツらの頭をぶち抜いてくれたらなぁ........


 俺はそんなことを思いつつ、無言で肩をすくめる。


 これだけ優秀で頼りにもなるおばちゃんだが、彼女も俺の話を聞いてくれる人では無いので何を言っても無駄だ。


「アッハッハッハッハッ!!この世界が再び戦乱の世を迎えるのはそう遠くないようだね!!あぁ、それと、大半の国々は誰が攻略したのかを分かってないが、POLの他にも真実に辿り着いた奴らがいる」

「随分と賢いんだな」

「そりゃそうさ。相手はなんせ合衆国アンクル・サムなんだからね。どうも色男と色々と話したいらしい。そのために態々私にコンタクトを取ってきたぐらいだ。望むのであれば、今すぐにでもUSAに行けるぞ。しかも、今回の件ではテロ云々の話しは一旦記憶から消し去るとも言っていた。それほどまでに、奴らはこの出来事を重く見ているようだな」


 USA(アメリカ)。


 第二次世界大戦の勝利国であり、ソ連と長い間冷戦を続けた自称“世界の警察”。


 冷戦時代は好き勝手やっていたらしいが、第一次ダンジョン戦争で素早い対応を見せたこの国は今も尚世界の覇権国家として君臨しているのだ。


 軍事力も凄まじく、第二次世界大戦期の全盛期のアメリカよりも今は強いと言われているほどであり、世界の半分と戦争をしても勝てるだけの兵力を持っているとされている。


 この国は多くの配下の国も抱えているということもあり、もし日本を世界に認めさせたいのであれば、絶対に味方に引き入れなければならない国だ。


 そんな国が俺と話がしたいと言う。これは流石に乗った方がいいだろう。


 幾ら世界情勢や政治の動きを読むのが下手な俺でも、このぐらいは分かる。


「USAか。ちょうど用事があったし、向こうが合法的に入国を許してくれると言うのであれば乗らない手は無いか?多少お茶目をしても許してくれるだろうしな」

「観光とかも出来るんじゃない?監視の目は付くだろうけどね」

「ぷはははは!!国家相手に随分と余裕そうでなによりだ。では私から伝えておくよ。恐らく明日明後日には迎えが来るはずだから、しっかりと準備をしておいてくれ。パスポートとかは不要になるだろうがな。あー後、一つ言伝を貰っているぞ。相手はあの三枚舌ブリテンの英雄、アーサーからだ」


 お、アーサーから伝言か。と言うか、アーサーとも繋がりがあるんかい。


 当たり前のように有名人と顔が繋がっている木偶情報屋の顔の広さに驚きつつも、俺はアーサーからの伝言を聞く。


 それは祝福一割、自分のペットの自慢九割であった。


「“おめでとう。グレイなら出来ると思っていたよ。こっちは任せてくれるといい。それとは別件になるんだが、最近フェルがお手を覚えたんだ。すごく可愛くていつも癒されるんだよ。だって僕が仕事から帰ってくると───────────”うん。ペットと仲がいいようで何よりだが、仮にも友人が世界的快挙を成し遂げたのに祝福がこれだけとかアイツも中々に人間が終わってるな。今度あったらイッパツ殴ってやろう」

「というかそもそも、連絡先交換してたよね?普通に電話すればいいのに」

「まぁ、英雄様にも色々とあるんだろ。常に誰かに見られている生活だろうしな。下手をしたら、電話の内容すら常に傍受されている可能性だってある。世界的英雄は大変だよ」


 まぁ、どちらにせよ楽しそうでなによりだ。


 またフェルやアーサーと出会える日を楽しみにしているよ。

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