VIP対応


 おばちゃんから世界各国の動きを聞き、想像以上に面倒事が多くなっていることが認識できてから2日後。


 レイズと爺さんはPOL(ポーランド)政府に交渉をしに行くこととなり、俺達は合衆国の鷲アンクル・サムへと旅立つ事になった。


 俺がダンジョンを攻略したと言う話をおばちゃんに広めてもらった事もあり、今やテレビをつけると全ての番組が俺達の話題で持ち切りとなっている。


 2日前までは一部の国しか知らなかった真実を、全世界が知ったのだ。


 半年前にFR(フランス)の四分の一を吹っ飛ばし、犯行声明すら出さなかった頭のイカれたテロリストが五大ダンジョンを攻略し、更にはこの土地を自分達の領土として国を建てるというのだから驚かないわけが無い。


 昨日、おばちゃんの元に顔を出したら“凄い数の連絡ラブコールが来ている”と楽しそうに言っていたっけ。


 おばちゃんと俺たちの繋がりは結構バレているみたいだな。


 正直どうでもいいが。


 リィズが生きている限りは、おばちゃんも俺たちの味方をしてくれる。


 多少情報を話すことはあっても、俺たちが不利になるような事は話さないだろう。


 半年しか付き合いがないが、それは分かっているつもりだ。おばちゃんも人なので、金がなければ生きていけない。


 ちなみに、俺とコンタクトを取りたがっている国からの連絡はほぼ無視するように伝えた。


 唯一、GBRからの連絡だけは対応するとは伝えてあるが、今の所連絡が無いのを見るにアーサーが上手くやってくれているのだろう。


 また暇になったら、アーサーに連絡してみようかな。フェルも元気にしているだろうしね。


「........で、俺達を国に招きたいと最初に言ってきた“合衆国アンクル・サム”は、とんでもないものを用意してきてんだな。これ、目立ちすぎじゃね?」

「超VIP対応だな。これ多分、各国の要人を乗せる時に使われる専用のプライベートジェット機だぞ。これ一つ飛ばすだけでかなりの手続きと金が掛かるはずだ。しかも、衛生妨害用の1番グレードが高いやつ。これだけで、向こうがボスとの対談をどれだけ真剣に臨んでいるのかわかるな」

「これ、そんなに凄いやつなのか?そこら辺はよく知らないんだが」

「空からの監視を欺く特殊な魔道具ジャマーに、私達七人を乗せるだけなのにこの大きさ。現在私がインターネットで検索しても出てこないほどに機密性が高いというのを見るに、恐らく大統領用プライベートジェットと何ら変わりないものです。何があっても中の人を守れるように特殊な合金が使われているようにも見えますし、多分機体の値段だけで数百億掛かるレベルですね」

「ほへー、私が本気で殴っても大丈夫なのかな?」

「やめとけリーズヘルト。あれはあくまでも機銃とかを想定して作っているだけであって、お前のような規格外を相手にする事を想定して作られてない。殴って賠償とか言われたらボスに迷惑が掛かるぞ」

「なら辞めとく。グレイちゃんに迷惑は掛けられないしね」


 POLのグダニスクに作られた違法の発着場。そこには、見たこともないようなしっかりとした飛行機が止められていた。


 ジルハードやレミヤの話を聞くに、この飛行機はそんなに気軽に飛ばせるようなものでは無いらしい。


 しかも、大統領専用機と同等ってヤバすぎでしょ。どんだけ俺達のことをVIP対応してくれるんだこの国は。


 それ程までに、俺達がやった事は世界を揺るがしているのだろう。


 しかし、流石にこれは大袈裟すぎる気もするな。俺、ただの一般高校生なんですけどね?


「懐かしいですね。私が現役の頃、似たようなプライベートジェットに護衛として乗ったことがありましたっけ。凄まじいですよ。飛行機に乗っているのに、地上で暮らしていると錯覚するほど静かで揺れない飛行機だった記憶があります」

「そういえばミルラは元護衛専門のPMCだったわねん。どう?今回は護衛をされる側よん?」

「成り行きで就職したらこうなるとは思ってませんでしたね。護衛される側の感動を味わうよりも先に“どうしてこうなった”という思いの方が強いですよ。給料は悪くありませんが、命が幾つあっても足りない仕事です。いや本当に」


 それは俺も思うよ。ほんとどうしてこうなった?


 神のイタズラで転生させられたら、世界的テロリストになって気づけば今はUSAからVIP待遇を受けることになっている。


 もう何が何だか分かんねぇよ。さらに言えば、世界中から恨みを買ってんだから笑えない。


 特にアジア諸国からの恨みが大きく、共産主義コミンテルンの飼い犬である小さなアジアの国々が少々怪しい動きをし始めているらしい。


 割とマジめに第三次世界大戦が起こるかもなと木偶情報屋も言っており、俺はこの世界の戦争の引き金になり掛けていた。


 あー、ガヴリロ・プリンツィプ君。助けてくれ。俺は君と同じく世界戦争の引き金を引いてしまいそうだ。


 今からオーストリア大公夫妻を殺したら何とかならんかな?いや、それはそれで世界大戦が起きるか。


 このままだと本当に歴史の教科書に名前が乗ってしまいそうだと思いつつ、止まっている飛行機をぼんやりと眺めていると護衛を連れた如何にも偉そうな男が降りてくる。


 流石に大統領がこの場所にやってくる訳では無いが、USAでもかなり偉い人なんだろうな。


「WOW。アルトニー・ブルケンじゃねぇか。想像以上の大物が出てきたな。合衆国の国務省DOSそれもトップだぜ?」

国務省DOS長官って言うと........あのトーマス・ジェファーソンが初代を務めた?」

「そうさ。あの2ドル札に肖像画が書かれた3代目大統領が初めて務めた役職だ。本来こんなところに顔を出していい相手じゃない。こんな大物が出てくるとは予想外だぜ」


 アメリカ合衆国国務省DOS


 日本で言う外務省と同じような組織であり、USAの行政機関の1つ。


 外交政策をする事が主な仕事で、確か1789年頃に設立された組織である。


 そして、その中で最も偉いのが国務長官と呼ばれる者。


 3代目大統領トーマス・ジェファーソンが初代を務めた、700年近くも歴史のある組織である。


 そんな大物がやってくるとは、ジルハードの言う通り予想外だ。いや、そもそも誰が来るとか想定してなかったから予想外もクソもないか。


「誰なんだあれ?」

「知らないんですか?アリカ。彼は裏金問題で政治から干されかけた癖して、ギャングから力を借りて元の椅子に返り咲いたクソ野郎ですよ。メディアにすら脅しをかけて情報規制をしている辺り、本当に腐った生ゴミです。ですが、その外交の腕だけは確かなようで支持率もそれなりに高いそうですね」

「へぇ。興味無いからマジで覚えてないな。というか、USAの大統領の名前すらちょっと怪しいぞ。なんだっけ、ショー・フリテンだったけ?」

「それ、本気で言ってます?現在の合衆国アンクル・サムの大統領はジョー・ハルデンですよ。既に80近いジジィの癖して、未だに権力にしがみつく老害ですね。まぁ、政策は可もなく不可もなくで、平凡な政治家と言われることが多いです。弱腰なところが問題ですがね」


 うーん。なんだろう。色々とツッコミを入れたいが、それはやめておこう。


 なんか似たような名前の大統領が前の世界にいたような........きっと気のせいだな!!


 もしかしたら平行世界の某大統領なのかもしれない。俺はそんなことを思いながら、国務長官がこちらに歩いて来るのを待つのであった。




【トーマス・ジェファーソン】

 1743年生まれのアメリカ合衆国の政治家。第3代アメリカ合衆国大統領(1801年 - 1809年)で、「アメリカ独立宣言」の起草者のひとりである。

 初代国務長官、2代目副大統領を務めた一人でもあり、肖像画が紙幣に使われている。




 アメリカ合衆国国務省DOS長官アルトニー・ブルケンは、今回のかとの重要性をよく理解していた。


 相手は世界最悪のテロリストにして、人類が500年掛けてもなし得なかった偉業を成し遂げた世界のおさがわせ者。


 昨日、国を出る前に送られてきた“建国宣言”については、思わず飲んでいたコーヒーを吹き出してしまった程だ。


 一介のテロリストが自分たちの国を持つ。


 本来ではありえない話なのだが、しっかりと納得してしまいそうな理由とともに建国を宣言している辺り、この男は侮れないと理解していた。


「初めましてミスターグレイ。私はアメリカ合衆国国務省DOS長官アルトニー・ブルケンです」

「ご丁寧にどうも。グレイだ」


 やる気がなさそうな、どこか面倒くさそうな雰囲気を出しながら言葉を返してくるグレイ。


 アルトニーは、相手の考えが分から無かったが、とりあえず五大ダンジョンの1つを攻略したことについて触れる。


 彼は純粋にこの出来事に関してはグレイのことを尊敬さていた。アルトニーは昔、秘密裏に軍を動かしてエルフの森ダンジョンの調査をしようとしたものの、上陸すら許されず多くの兵を失ったのだ。


 彼は未だにその事は悔いており、自らの愚かさを思い知ったのである。


 毎年彼らの命日には、花束を添える。


 ミルラが言っていた通りギャングとの繋がりも濃いと言えば濃いが、彼は真のクズになりきれない偽善者でもあった。


「先ずはおめでとうございます。人類がなし得なかった素晴らしい偉業をなしとげ、無事に帰還してくるとは。心からの祝福をお送りしたい」

「それはどうも。運が良かっただけだったけどね。それで、俺たちに話があるんだって?なんの用?」


 ピクッと、一瞬アルトニーの頬が引き攣る。


 あまりにも態度が舐め過ぎてないかと。


「........昨日、建国宣言をなさいましたね?もし正式に国家として認められる事となれば、我々と取り引きをして頂きたいのです」

「........あぁ、ダンジョンの資源を買い取るよって事か。それ自体は良いけど、それよりも問題は俺たちの国が国として認められるかどうかだよね?世界の警察ことUSAとしては、そこら辺はどうなのさ?」

「昨日の今日の事でして、まだ話が纏まっておりません。ですから、一度我が国に来ていただきたいのです」

「観光とかしてもいいのか?ちょっと俺達もお宅の国に入用があってね。自由に出歩いてもいいなら行こうかな。監視をつけてもいいからさ」


 コイツ、本当に今自分が置かれている立場を分かっているのか?


 アルトニーは今にも欠伸をしそうな顔をしているグレイを見て心配に思ってしまう。


 調べた限り、彼は至る所から恨みを買っている。


 CH及びアジア諸国、FR及びヨーロッパ諸国、MEX及び中央アジア諸国。


 分かっているだけでも、これだけの国々に彼は命を追われる立場であるのだ。この街は政府や国家の介入を絶対に許さない街だから大手を振って歩けるが、生憎USAではそんなに甘い対応は許されない。


 というか、一体何をやったらここまで敵を作れるんだとアルトニーは思っていたほどである。


 軽く二桁を超える国から命を狙われるとか、正気の沙汰ではない。


 なにが一番正気では無いのかと言うと、これほど複雑な状況に置かれているにも関わらず、へらへらとしているこの男が一番正気では無い。


 挙句の果てには“観光していい?”と聞くその胆力。


 頭のネジの代わりに、マリファナでも詰めてんのかと思うほどである。


「........手配はしてみますが、何があっても自己責任になりますよ?それと、USAの法を破れば法の下罰せられますが........」

「大丈夫大丈夫。観光するだけだから」


 アルトニーは後悔するだろう。この頭のイカれた男が、世界的テロリストが大人しくするわけが無いのだ。


 しかし、彼は無意識の内にグレイをただの少年として見てしまった。


「そうですか。では一先ず行きましょう。お連れの方々もどうぞ」

「あー、タバコって吸っていい?」

「........意外とそこら辺はしっかりしているのですね。構いませんよ。プライベートジェット機ですし」


 この判断が、後にUSAの勢力図を書き換えるかとになるとはまだ誰も知らない。




 後書き。

 流石に、現在もご存命の人の名前もガッツリ使うのは怖いよ。と言うわけで、多少パクった名前にしてます。

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