世界樹戦争開戦
戦争の始まりは意外としっかりしている事が多い。ちゃんと宣戦布告をし“今から攻撃しますよー”と伝えてからその国を攻撃する。
地球では戦時国際法とか言ういざ戦争となれば誰も守らないような法律が世界では定められており、戦争の際はその法律をできる限り守る義務があるのだ。
まぁ、それを全部しっかりと守っているところなど見た事がないが。
日本が降伏した後も北海道を攻撃し続けたソ連や、戦争時の民間人への攻撃。法律であるにもかかわらず誰にも捌くことの出来ない法律というのは、クソの足しにもなりはしない。
一度どこかの国が核を使えば他国も核を使い、民間人を“軍人”として殺せば周囲の人間も民間人を殺す。
それが戦争という物だ。だれもがお行儀よく法律を守っているならば、今頃戦争は起きないしそもそも世界は平和の元綺麗に回っている。
そして、この世界でも同様のことが言える。一応、この世界でも軍事的衝突がある場合は宣戦布告や様々な取り決めがあるらしいが、最低限すらも守られることは無い。
それが、この世界の崩壊を目論むテロリスト相手ならば尚更に。
宣戦布告などと言う警告もなければ、核の使用を禁止する法律もこの世界にはあって無いようなものであった。
「これより!!我ら世界樹同盟は邪神ニーズヘッグの討伐及び邪神を崇める背信者共の駆逐に入る!!」
総勢五万人の兵士達が見ている中、簡易的な壇上に上がり声を張り上げるのはエルフの王アバート。
移動から1夜明け、遂に戦争へと突入するその前に兵士達への声がけをするべきだと判断した王達はその手に持った武器を掲げながら拳を握る。
「これは世界の命運を分ける戦いだ!!負ければ我らだけでは無く、その家族、同胞達までもが死ぬ!!絶対に我らが勝たねばならぬ!!そして、我々が英雄として祖国へと凱旋をするのだ!!」
「「「「「ウヲォォォォォォ!!」」」」」
アバート王の言葉に、五万人の兵士達が叫ぶ。
そこに種族の垣根はない。昨日、全ての種族を交えたペアを作らせてちょっとしたゲームをやらせたかいがあったかもな。
俺の能力はハッキリ言って戦闘では使い物にならないが、多くの人達と仲良くなる事に関してはかなり使える。
文字が書かれたトランプとかだと分かりにくいので、サイコロを使った超簡易化したチンチロ(賭けは無し)を遊ばせてやったら、思っていた以上に皆がハマってしまったのである。
サイコロを三つ振らせて、出た目で勝敗を競う簡単なゲーム。
ルールもゾロ目か目あり位しか入れず、役が揃わなければ三つのサイコロの合計が1番多かった奴が勝利。
それを色々なペアで組ませながら、適当に楽しませたら大盛り上がりしてくれたのだ。
どうやら、この世界の娯楽はかなり少ないらしい。
タイタン達が大きすぎて最後をろ転がすのが難しいという問題こそあったものの、それも他のもの達がサイコロを手渡してあげたりして何とか上手くやっていた。
やはり、熱くなりすぎない程度のゲームをやらせるだけで人々の距離が縮まるのはどこの世界でも同じらしい。
俺も王達とチンチロをやったのだが、ほどよく負けてあげた。
その気になればほぼピンゾロを出して勝つとかもできたが、金が掛かってないのであれば雰囲気をぶち壊してでも勝つ理由はない。
そんなこんなでお互いの偏見や遺恨を乗り越え、真の意味で団結した彼らはエルフの王の演説にすら大声を上げて拳を振り上げるほどにまでなったのである。
「これでこの世界で賭博が流行ったら笑えるな。ドワーフ達は早速サイコロを作ろうとしているし、中にはプラスチックに興味を持った者も多い。賭け事で回る世界にはならないで欲しいよ。絶対治安が悪くなる」
「ナー?」
「そう言えば、ナーちゃん達もやってたな。リィズとアリカと一緒に。誰が勝ったんだ?」
「ナー!!」
「おぉ、そうか。ナーちゃんが勝ったんだな。すごいじゃないか」
どうせ兵士たちを盛り上げる演説など俺がする意味も無い。なので、俺は可愛らしく甘えてくるナーちゃんやスーちゃんと遊んだいたのだが........
「グレイ殿。貴殿が最後だ。なにか盛り上がることを頼む」
「え?俺もやるの?」
「当たり前だろう?この同盟の盟主はグレイ殿、貴殿だ。盟主がまとめ上げなければ、兵も力を発揮できないというものだよ。ホイ、音声拡張の魔法。最後にビシッと決めてくれ」
「........」
ほかの王達に“やりたくないんだけど”という視線を向けるが、残念なことに彼らも同じ考えなのか静かに頷くのみ。
うわー、五万人の前で演説とかしたくないよ。俺はクラス発表会ですら面倒くさくてズル休みするような男だぞ?
ちなみにその日は徹夜でモンスターを狩っていた。やったね。親の頭がぶっ飛んでて面倒事しかない日は休めるから。
ちなみに、中学校の卒業式もダルくて全部休んでいる。遊びたいやつはその日の午後に誘えば来てくれるからな。卒業証書とかも後で受け取ればよかっただけだし。
そんな男が五万人の前で何を語れと言うのか。
仕方がないから、適当な事でも喋って終わるか。この前の詐欺演説のような盛り上がりも無しに、薄い事を話しておこう。
「あー、どうも。人類の代表グレイだ。昨日の
俺のクソやる気のない演説に誰もがシーンなる。まぁ、当然の反応だろう。
ほかの王達が“討伐殲滅!!”とか言っている中、“遊びたかったら勝って生き残ろうね”とか気の抜けることを言っているのだから。
どうせ誰も話すら聞いてないやろ。俺がそう思った矢先、1人の兵士が静かに剣を掲げた。
彼には見覚えがある。滅茶苦茶運が悪くて、毎回負けまくっていた若めのダークエルフだ。コミュニケーションが得意なのか、彼がいた組では笑いが絶えなかった記憶がある。
何をしてんだ?と思うと、他の兵士たちも静かに武器を天に掲げる。
そして、5万人の兵士達が盛り上がることも無くただ静かに武器を構えるだけであった。
何なのこれ。この空気をどうしたらいいの。
どう対処したらいいか分からずにいたその時である。
俺でも感じられるほど大きな気配が、こちらに迫ってきていたのだ。
さぁ、世界の命運を分ける一戦だ。邪神ニーズヘッグよ。おまえは神の器なのか?
【戦時国際法】
戦争状態においてもあらゆる軍事組織が遵守するべき国際法である。戦争法、戦時法とも言う。ここでは戦時国際法という用語を用いる。戦時国際法は、戦時のみに適用されるわけではなく、宣戦布告されていない状態での軍事衝突であっても、あらゆる軍事組織に対し適用されるものである。
エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、タイタン、そして人間が手を組み世界樹の下層へと降りてきたという事は、
どれだけ上手く隠したとしても、物資の流れや人々の動きからある程度のことは推測できてしまう。
だからなのか、国は戦争を始めるということを一切隠さずできる限り迅速にことを進めてきた。
そして、その考え方は正しく、想像以上に早いペースで下層へと乗り込んできた彼らに
「想像の倍は早い。タイタンは強き者しか認めない種族ではなかったのか?あっという間に陥落させられているではないか」
「平和ボケしたせいか、強さとは何かを忘れてしまったようだな。これは誤算だった。だが、ギリギリ間に合ってよかったじゃないか。認識阻害の魔法を敷き終えて、ニーズヘッグ様と連中がかち合わせそうな場所から少し離れた場所で待機。これで、奴らが弱ったところを後ろから奇襲する事が出来る」
「だが、油断は禁物だ。よほど本気で戦いに来ているのか、どの国も戦力の半数以上を持ってきている。本国の防衛が薄くなっているだろうが........結局のところ奴らを仕留めねば我々に勝ちはありえない」
国家戦力の半数以上を持ってきたということは、それだけ自国の防衛が弱くなったということ。
相手の戦力を減らすことを考えれば、本国への奇襲も十分に考慮に入れるべき選択肢だ。
しかし、あまりにも早すぎる展開に
わずか一週間で必要なものを全て持って下層へと降りてこられれば、戦闘計画もままならない状態での国への奇襲など全く通用しないのだ。
この世界のものたちは、訓練を積んでいない一般市民であろうと人によってはAランクハンター以上の実力を持つ。
国が団結して戦われてしまえば、
そんなことを話しながら静かにその時を待っていると、遂に遠くから世界樹同盟の軍勢が見えてくる。
そして、その対面からはニーズヘッグがゆっくりと空を漂って飛んでいた。
世界樹の根を喰らい、世界の安寧を崩す者ニーズヘッグ。
龍と言うには少々カラフルすぎる其の邪神は、ゆっくりと飛び回ると殺気立つ集団を見つける。
しかし、攻撃はしない。
ニーズヘッグは明確な攻撃をされない限りはただひたすらに根を食う龍。本能のままに生きるこの龍は、世界樹同盟に先手を譲ったのだ。
「始まるぞ。皆の者も準備をしておけ。ニーズヘッグ様が必ず優勢になるだろうから、そのあとを狙って我々は奇襲を仕掛けるのだ」
「「「「了解」」」」
世界樹同盟の面々はニーズヘッグを視認すると、陣形を組みながら最初の一撃を放つ準備に入る。
遠距離攻撃に優れたエルフの魔法とドワーフの技術によって作られた弓が合わさり、矢は流星となってニーズヘッグの体を貫........けなかった。
何本かはニーズヘッグの体に刺さるものの、圧倒的な鱗を前にその殆どが弾かれる。
そして、攻撃をされた事によりニーズヘッグも世界樹同盟の面々を敵として認識し、本格的な戦いが幕を開けた。
「Gyraaaaaaaaaaaaaa!!」
それなりに遠くにまで離れているのに聞こえてくるニーズヘッグの咆哮と同時に、幾つもの魔法陣が展開されて大きな石が空から降り始める。
更にはニーズヘッグが口を大きく開けて、エネルギを圧縮し始めた。
ドラゴンブレス。
世界最強と名高い龍の一撃が、世界樹同盟達に向かって降り注ごうとする。
が、しかし、それをあの男が許すはずもない。
世界を3度滅ぼした存在が、ただ一つの世界でおこがましくも神とあうなを与えられた存在如きに遅れを取るはずもなかったのである。
「ピギェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」
刹那、世界樹の下層に死が響く。
その場にいた誰もが膝を着き、その場にいた誰もが胸を抑えながら倒れ込む。
実際に殺される訳では無い。その存在の力は厳重に封印されており、
しかし、この嘆きはありとあらゆる物を消し飛ばす。
空から降ってきた巨大な石は砕かれ、更にはニーズヘッグが集めていたエネルギーすらも容易に消し去る。
そして、
「みーつっけた」
邪悪な存在が世界を支配する中、平然とその場でたちながらニーズヘッグを見ていた一人の男がこちらを向いてそう呟いたように見えた。
そして、辛そうな顔をしながらも何とか動ける少女が素早く近づくと、その細身からは考えられない腕力で
(........っ!!動けない!!動かなければ殺られる言うのに、死の恐怖から全身が固まって動けない!!)
「アッハ!!死ねよ豚共が!!頭にケツ穴開けて地獄でファックされてろ!!“
死を感じていようが呼吸はする。そして、呼吸をする生き物であり、味方から離れた場所に一人で突っ込んだ少女にとって、この状況は自身の能力を活かす持ってこいのシチュエーションであった。
胞子が肺に入り込み、肺から羽化した蜂達は母体の首を噛み切って生まれる。
ボトボトと首が落ちてゆくその光景は、地獄を見ているよりも酷くそして無惨であった。
「うっ........っつ、まだ全然なれないけど、この中で動けるだけ成長したかな?ほら、お前らも死ねよ」
なんの躊躇いもなく同胞たちを殺していく少女。返り血が頬に付き、純白の少女に赤いドレスが絡みつく。
(バカな........馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!これ程までに力を持った存在がいてなるものか?!これは正義では無い!!悪だ!!)
幹部の1人はそう心の中で思うものの、所詮は動けぬただの豚。
その命はいとも簡単に消え去り、
後書き。
戦いすらさせてもらえない出オチ要因、ヘッグさん。南無。
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