初見殺しの暴力(いつもの)

 

 日本国の領土が正式に俺に返還されたり、エルフの外交官とか言う意味のわからない立場になったりとハチャメチャな契約を結んで帰ってきたレイズとレミヤを適当に褒めた後。


 俺は自由に出歩けるようになったエルフの国を見て回ってみることにした。


 ここ一週間近くは保守派の暴動やら暗殺を警戒しなければならず、エルフの王であるアバート王からも“ちょっとで歩くのはやめてね”と言われていたので大人しくしていたのである。


 流石に王のお膝元で騒ぎを起こすバカはそう何人も居らず、襲撃はあの1回だけであった。


 うん。まぁ一回でも起こっている時点でかなりヤバいのだが、元々世紀末な世界だ。


 モヒカン頭に肩パッドを装着して火炎放射をばら撒きながら“ヒャッハー”している奴らがこの世界には溢れているからな。この世界になれてしまえば、そこまで気にすることでもない。


「やっぱりまだ注目を集めるな。人間という種族は、檻に入れられた中国のマスコットパンダの様に珍しいらしい」

「残念な事に、安全な環境はありませんがね。それにしても、リーズヘルトさんが着いてこなかったとは驚きですね。あの人の事ですから、てっきり着いてくるものだと思っていました」

「リィズは........まぁ、あんな性格だからな。下手に出歩かせると大抵騒ぎを起こす。どうせ今頃ベランダから俺たちを見ているだろうよ」


 エルフの国を観光しようと街へと出た俺。その護衛にはミルラを付けている。


 リィズは問題児だし、他の面々は何やらやるべき事をやるとか言って勝手に行動しているので、消去法で護衛のエキスパートを連れ歩くことになったのだ。


 今回はミルラと行動することが多いな。リィズが基本的にアリカの面倒を見てくれるので、リィズと二人っきりで動くことが少し少なくなっている。


 とは言っても、寝る時は一緒だしずっとベタベタしてはいるが。


 ダメだな。リィズが居ないと生きていける気がしない。お互いがお互いに依存しあっている関係なので、今後死ぬまで俺とリィズが離れることは無いだろう。


「森が綺麗だな。木漏れ日が心地いい。エルフと言えば森の精霊とも言われる種族。想像通りで少し安心するよ」

「人の骨で家を作り、水の代わりに血を啜るエルフとか嫌ですもんね。確かにイメージ通りではありますよ。頭の悪さを除けば」

「あれはごく一部の話だろ。ひとりで気持ちよくなってるジジィと、この街で暮らすエルフ達を一緒にしたら失礼だぜ。同じ人間だからって、ヒトラーとマザーテレサを同枠に当てはめるのは失礼だと思わないか?」

「........確かにそれは失礼ですね。もっと大きな枠組みで言えば、同じ生命だから人も魔物も変わらないとなりますし」

「その思想の行き着いた先が、動物愛護団体だ。俺も魔物飼っている身ではあるが、だからと言って人と同じように“人権”を持っているとは思わないね。それは魔物への冒涜だし、人の傲慢だ。世の中にはそれが分からないやつが多すぎる。可愛いは正義なのは認めるがな」

「そういうものですかね?」

「ウリ坊をヨチヨチして頬を溶けたマシュマロのようにしていたのは、どこのどいつだ?あのウリ坊は可愛さという武器を使って生存競争を生き抜いたんだよ」

「む........その話はやめてください。あれは気の迷いです」


 少し恥ずかしそうに頬を赤らめながら、ウリ坊と戯れた日を思い出してそっぽを向くミルラ。


 この九芒星エニアグラムの中では一番新参者の彼女だが、それなりに馴染めているようで何よりである。


 可愛い物が好きで、こっそりペンギンのぬいぐるみを買っていると吾郎爺さんから聞いた時は傑作だったな。いつの日か、その話題で弄り倒してやろう。


 俺はそう思いながら、木の上に止まる小鳥を見る。いいな、お前達は。何も悩み事がなさそうで。


「エルフもいつの日か、あの小鳥に権利を求める日が来るのかねぇ........今の所菜食主義者ヴィーガンのエルフを見た事は無いけど」

「エルフは植物もまた生命と言う思想を持っていますから、動物が可愛そうという理由で肉を食べなくなるという事は無さそうですがね。菜食主義者ヴィーガンが全て悪いとは言いませんが、他人に思想を押し付けるカスは消えて欲しいものです」

「全くだ。人間が生態系の頂点にたった偉大なる種族と勘違いし、他種族を管理する神にでも成り上がったかのような傲慢さを引け散らかすとは同族として恥ずかしいよ。そう言えば、あのクソッタレのグダニスクを出る少し前にUSAで大規模なデモ活動があったらしいな。マクドナル〇本社に2000人以上の抗議者が押し寄せてたらしいぜ」

「流石は自由の国と言われるだけはありますね。自分の愚かさを引け散らかすのも本人の自由という訳ですか。神が聞いたら呆れそうですよ」


 そんなどうでもいいことを話しながらエルフの国を観光していると、ふと小鳥が糞を垂れ流しているのが目に入る。


 このままだと、ミルラの頭の上には白いインクが塗りたくられる事になるだろう。


 流石に二十代前半の女性の頭の上に糞を垂らす訳にも行かない。部下の危機はボスが守る!!ということで、隣を歩いていたミルラを手元に引き寄せた。


「わっ........何をするんですか急に。逢い引きですか?申し訳ありませんが私は──────」


 ブォン!!(ミルラがいた場所に何かが高速で通過する音)


 ピュー!!(通過した後どこかへと飛んでいく音)


 ドガァァァァァァァァァン!!(どこかへぶつかって爆発する音)


 ........ンンン??何が起きた?


 ミルラがクソほどつまらないジョークを飛ばそうとしたその瞬間、ミルラが歩いていた場所に凄まじい勢いで何かが通過して行ったのが見えた。


 恐らくは矢が吹っ飛んできたのであろう。もしミルラの頭にタッチダウンを決めれば、晴れてミルラは赤い水を吹き出す噴水へと転職したわけだ。


 で、その矢は街の奥の方に消えて大爆発を巻き起こす。なんというか、この惨状を見て“お、懐かしい”と思ってしまう自分が嫌になるな。


 グダニスクにいた頃は毎日見ていた光景なだけに、欠片も驚きが出てこない。


 むしろ、懐かしみを感じるとか感情が死んでいないか?


「──────ありがとうございます。ボス。護衛対象に命を救われる護衛など、生涯の恥ともなる傷ですが命の方が大切ですからね。と言うか、よく分かりましたね。流石はボスですよ」

「........毎日献身的な祈りを神に捧げたお陰だな。ミルラも祈れば視力が良くなるかもしれんぞ」

「ご冗談を。ヨハネの福音書の読みすぎですよ。ボスはいつから神の存在を信じるようになったのですか。意外と霊的存在スピリチュアルを信じるタイプの人間ですか?」

「意外とな。神な存在そのものは信じているさ。信仰はしないがね」


 何せ一度出会ってますから。と言った所で頭のおかしい奴だと思われるので俺は何も言わない。


「さて、故郷たるグダニスクを思い出させてくれる素晴らしい歓迎をしてくれたファック野郎はどこにいやがる。そのケツにバーナーをぶっ刺して丸焼きにしてやるよ。内部からじっくり焦がしてな」

「方角的にあちら側からですが........それよりも今は私たちの周りに集まり始めている彼らをどうにかするのが先決では?ボスを死の舞踏会ダンスパーティーに誘いたくて仕方がない男性達で溢れていますよ」


 ミルラの言う通り、矢が外れた直後にゾロゾロと現れ始めた黒いローブを纏うもの達が俺達を囲い始めている。


 結局ここでもこれかよ。最初の方は割と平和的だったのに、気付けばドンパチやらかす事になってんのか。


 俺は深くため息を着くと、服の中でスーピーと寝ていたスーちゃんを起こしながら苦々しく呟いた。


「俺は招待状を受け取ったつもりは無いんだがなぁ........よう、腐れエルフ共ハロー、マザーファッカー。俺はアンタらの死の舞踏ダンスパーティーを受けた覚えもなければ、そもそも招待状すら貰ってないんだが?」

「この世界に悪をもたらす存在に死を」

「あーだめだ。人の話を聞かずに手を繋いでくるタイプだ。ほら、ミルラ何とかしてくれよ。先ずは話ができるようにしてくれないか?」

「生憎私はハイジ・ライトではありませんので、残念ながら家畜にも劣る豚以下の動物の言葉なんて分かりませんよ。まだ詐欺師の方が話せます」

「それは残念だ。レイズの方が良かったかもしれんな」


 俺はそう言いながら、この状況をどうやって逃げ切るのかを考えるのであった。




【ハイジ・ライト】

 1965年カルフォルニア州生まれの女性。動物と心を通わせて対話ができる能力(テレパシー)を持っているとされており、日本でも“天才志村動物園”に出演したことがある。

 ヤラセかどうかを確認するのは現状不可能であり、賛否両論があるのが現状だ。




 街の観光に出たら、ドンパチになったでござる。


 まぁいつもの事なのであまり動揺は無いが、“エルフな国まで来てこれか........”という落胆はあった。


 だって地球といた頃とやってることが同じなんだもん。もう少しパターンを捻って来いよ腐れファック共。


「こういう時、事前の準備が役立つよな」


 徐々ににじり寄ってくるローブの集団。しかも相手はそのほとんどがおそらくエルフであり、魔弾を軽々と弾くような強者ばかり。


 グダニスクのように全て皆殺しはどう頑張っても無理なので、俺は逃げに徹することにした。


 ピギーを使うかどうか迷ったが、ピギーは最終手段。この世界に死をばら撒く存在は、折角友好的になってきたエルフとの関係にヒビを入れる可能性もあるのだ。


 俺は、予め作っておいたパイプ爆弾をばら撒くと同時に、起爆。


 火薬量も一切考慮していない超危険物はドガァァァァァァァァァン!!と弾け飛ぶと、数名の敵を巻き込んで煙を上げる。


 が、この一撃で殺せるほど相手も弱くないだろう。


 というわけで、逃げるぜ!!


「道を開けミルラ」

了解Yes sarボス」


 ミルラが天使を展開し、敵を押し退けながら道を開く。爆音を奏でたパイプ爆弾に一瞬ひるんだ隙を見逃さなかったミルラは、数人を切り裂くとそのまま俺の腕を引いて真っ直ぐに走った。


「逃がすな!!追え!!」


 俺達に逃げられると悟った彼らは、先程の慎重な動きから一気に大胆な動きへと変わる。


 が、それを俺が予想していないわけが無いだろう?


「ほれ、昔懐かしの玩具箱トイボックス

「グッ!!」

「ウゲッ!!」

「グハッ!!」


 対人戦最強戦術、ワイヤー戦法。


 相手が動き出す瞬間を狙ってワイヤーを足に絡ませることにより、転ばせることが可能な妨害攻撃だ。


 さらに、嫌がらせとしてボンドを地面に撒けば完璧。


 モタモタとワイヤーを解こうとすると、ボンドが固まって動けなくなるしその場で勢いよくたっても足にワイヤーは絡まり続ける。


 リィズのように力技でワイヤーを引きちぎられると意味が無いが、その引きちぎる時間を確保出来ただけで俺の勝利なのだ。


「えーと、炎はさすがに不味いから、この辺とかかな?」


 俺は更に追い打ちとして大量の石を具現化。


 古来より遊ばれてきた世界最古の玩具は、元より獲物を狩る武器である。


 上空から両手で持てるほどの大きさの石を落としてやれば、たとえ魔弾を弾くほどの存在でも衝撃ぐらいは簡単に通る。


 上手く行けば殺せるだろうし、殺せずともダメージにはなるはずだ。


 数を用意すれば生き埋めにもできるからな。どれも初見殺し感が強すぎて運用に困ることが多いけど。


「相変わらずボスの能力は多彩ですね。やはり大道芸人を目指すべきですよ」

「この仕事が食いっぱぐれたら考えてみるよ。そら、転べ」

「ウガッ!!」

「........何人か気絶者や死者が出そうですね。ボスの前ではかの五大ダンジョンの魔物達も遊び道具に成り下がるという訳ですか」


 こうして、俺は初見殺しの暴力で何とか包囲網を突破するのであった。

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