情報ゲッチュ
エルフの国に来てから、なんかドンパチやらかす回数が増え始めてないか?
五大ダンジョンの一角“エルフの森”に降り立ったときは、エルフとの死闘を繰り広げるものだと思っていたのだが予想していた死闘の繰り広げ方とは大きく異なっている気がしてならない。
だってやってる事ほぼ内戦だもん。地球では犯行声明すら出さない謎多きテロリスト集団として語られる俺が、この世界では国家の為にテロリストと戦うとかいう真逆の出来事を体験している。
未だにテレビ特集が組まれるほどに人気者な俺が、この世界では無血の革命を成功させた英雄として扱われ始めているのだ。
世の中何があるのか分かったもんじゃない。
「エルフの守備隊は優秀だなおい。少し時間を稼いでたら、あっという間にテロリスト共をとっ捕まえてくれたぞ。地球の警察組織にも見習って欲しいね」
「
そのお陰で俺とミルラの2人だけでも対処が可能であり、エルフの守備隊が来るでの時間を容易に稼げたのである。
一方的な攻撃をされたら防ぐ術が無かっただろうが、どうやら彼らにも彼らなりの事情があるらしい。
超遠距離からずっと狙撃してくるなんてことはなく、遠距離からの攻撃は最初だけであった。
世界樹を傷付けないように立ち回るような連中でもないし、何か他の理由があるんだろうな........例えば、民衆の中に同志が紛れ込んでいて流れ弾に当たらないようにする為だとか。
これはあくまでも予測に過ぎないが、実際に有り得る話である。
もしも事実ならば、俺達が思っている以上に根を喰らう者たちの影は多いのかもしれない。
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫だよ。生憎、こういう急な戦いには慣れていてね........どうやらエルフの中にも話の通じない野蛮な連中がいるらしい」
「お恥ずかしい限りです。同じエルフ種という事で同列に扱われてしまうことに怒りさえ覚えますよ。然るべき裁判を押した後、彼らは処刑されるでしょう。エルフの歴史的汚点は消し去らなければなりません」
「安心しろ。少なくとも、俺達は同じエルフだからと言って軽蔑することは無いさ。弱き民を守り、己の正義のために戦うものを馬鹿にするほど俺達も人の道理を忘れたわけじゃない。悲し事に、その道理を忘れた者が一定数存在しているのも事実だがな」
「........私は人間についてよく知りませんが、人も同じようなものなのでしょうか?」
「同じさ。人の数だけ思想があって、人の数だけ正義がある。そして、勝った奴が正義であり、この世界の歴史を作るのさ。どこの世界も“強いやつが正義”なのは変わらんな」
守備隊の隊長を任されているエルフの女性は、俺達に怪我がないかを聞くと拘束したテロリスト共をどこかへと連れていく。
その中にはエルフ以外の種族も混じっているようで、肌が褐色のダークエルフやせの小さいドワーフと思わしき姿が確認できた。
正義に立つ者達は種族を超えた団結ができないと言うのに、悪に立つ側は種を超えた団結によって力を維持する。
なんとも皮肉な世の中だ。
「ダークエルフにドワーフも居るようですね。どうやら、向こう側は種を超えた団結が出来ているようです」
「共通の敵を見つければ、人々だって思想を超えた団結を見せる。あの
「その点で言えばボスは世界最強になりますがね。地球で貴方の命を狙わない組織が存在しないほどには、熱烈な
「ふざけんなよ。俺はただ事故に巻き込まれて生き残っただけなのに、なんでこんな不条理な世界を味合わされなきゃならんのだ。鉄の弾が飛んでくるラブコールなんてごめんだね。まだ生理的嫌悪感を抱く人間からバレンタインでチョコを貰う方がマシだ」
「........?普通、バレンタイは男性から女性へ花と手紙を贈るものでは?」
しまった。そう言えば世界的にはバレンタインって男から女に送るものだったよな。
日本はシャイボーイが多かった為海外の文化が流行ることはなく、仕方がなく男女逆にしてみたら大ヒットという過去があったはず。
そんな文化を持ってしまっから、毎年2月14日に男達は絶望の縁の中でもがき苦しみながら糖分を求めるんだよ。さっさと廃れちまえ。どうせキリスト教信者でも無いんだからよ。
チョコも日本の文化だ。何かと食に煩い日本だからこそ流行った文化だと言えるな。
「あー........俺のいた孤児院では逆だったんだよ。女が男を思い通りに動かす道具としての傀儡方法の1つとして、そう教えられてたんだ。チョコは糖分を接種させることによって簡易的な薬漬けにする手段のひとつだな」
「なんですかその
「最早孤児院そのものがダンジョンに匹敵するヤベー場所じゃねぇか。俺はサタンの末裔でもなければ、
「ですが、世の中には本当に悪魔崇拝を行い、この世界に悪魔を顕現させようとする集団も存在しますからね。“悪魔崇拝者達がダンジョンを呼び寄せた”なんて言う陰謀論なんかもあるんですよ。しかも、USA(アメリカ)ではわりと主流の考え方になっていたりします」
やば過ぎ。
流石は進化論裁判を巻き起こした国だ。科学的根拠のない“創造論”を本気で信じる者が四割もいるとか言う国は、考える事が一味も二味も違うな。
ある意味尊敬するよ。まじで。
「初耳だぞそれ。人間の想像力は神をも超えるな。流石は脳内で神を作り出して集金作業に勤しむ愚か者を生み出した人類だ。その思想の広さだけは尊敬できるね」
「私もボスも一応人間ですけどね?」
「悲しいことに、俺達もその枠組みとして見られるわけだ。エルフたちと同じようにな」
俺はそう言いながら、タバコに火をつけるとゆっくりと煙を吸って吐き出すのであった。
あぁ、どこの世界もやってることが変わらねぇ。
【進化論裁判】
アメリカ合衆国で制定された、進化論を学校教育の場で教えることを制限する法律、いわゆる反進化論法に対する一連の裁判のことをいう。
殆どの日本人からすれば馬鹿らしい裁判であるが、“神”という存在を真面目に信じるUSAでは1925年頃には学校教育で“進化論”を教えることを禁ずる法律を制定した“反進化論法”が生まれたりもしている。
その後、1925年の“スコープス裁判(聖書の正しさを主張する検察側と進化論の正しさを主張する弁護側のプロパガンダ合戦)”や1981年の“アーカーソー州授業時間均等法裁判(公立学校教育において進化論と創造科学を均等な授業時間で教えることを定めた法律における裁判)”を行っていたりする。
現在でもアメリカ国民の4割以上が“創造論(神が人を創造した)”を信じており、またいつの日か裁判が開かれる日が来るのかもしれない。
根喰い達の奇襲を受けた俺は、その後アバート王に呼び出されていた。
呼び出された理由はもちろん、つい先程あったテロリスト共の襲撃だろう。
アバート王は俺の体に怪我が無いかを確認し俺がピンピンしているのを確認した後、席に座らせると本題に入る。
「相変わらずやると事が早すぎる。私を過労死させたいのかね?」
「冗談が言えるほど元気ならば、問題ないでしょう。もっと働いてください」
「フハハ。これ以上働いたら本当に死ぬぞ。さて、グレイ殿が動いてくれたおかげで根喰いの連中をある程度捉えることが出来た。どうも奴らはグレイ殿のことを相当警戒しているように見えるな。今の今までほとんど動きを見せてこなかった連中が、水を得た魚の如くピチピチと跳ね出したのだ」
「気色悪い魚ですね。料理されても食べたくないほどには」
「同感だ。そして、その魚の中にはエルフ以外の種族も存在していた。ダークエルフとドワーフの二種族だ」
確かにエルフとは違う存在を見たな。想像通りの見た目ではあったが、少しだけ感動したものである。
出会いが最悪すぎて彼らとは仲良くなれそうにないが。
「邪神の討伐には全種族の団結が必要不可欠。そこで、今日よりグレイ殿達にはダークエルフ、ドワーフ、タイタンの三種族との協力関係を結んでもらいたい。要は、外交だ」
「........一応聞くのですが、俺は人類代表です。なのにエルはの外交官として他国を訪問するのですか?」
「当たり前だろう?貴殿は既にエルフの友。ならば、エルフとして扱っても問題なかろう!!長老会でも既に賛同を得られておるしな!!」
いや、そんな胸を張って言うことじゃないんですが?
どう考えてもおかしいだろ。その国政を持たないやつが外交官をやるなんて。
日本の外交官に中国国籍のやつを置くのと同じだぞ?両親が中国国籍で日本生まれ日本育ちとかそういう次元じゃないよ?
1度友好的になったエルフはここまでバカになるのかと思いつつも、どうせ断れない依頼なので首を縦に振るしかない。
要は、“お宅の国からテロリストが生まれてんだけど、一緒に消さなくていいの?国の恥だよ?”と言ってこいという事なのだろう。
国にとってメンツは命。世界に通用する権力を持ったマフィア集団が“国”なのだから、その国でメンツが潰れるような事は決して許さないだろう。
王の客人としてこの国に滞在している俺達に、危害を加えようとした保守派のエルフとか酷いことになってるもんな。
既に半数が処刑されたと聞いたぞ。エルフの国も殺伐としてらァ。
「まぁ、頼まれたら行きますが、どこの国から行けばいいですかね。我々はこの世界のことを知らなさすぎる。少しぐらいご享受願ってもバチは当たらないでしょう?」
「フハハ!!安心したまえ!!流石にそれはこちらも理解しているから、このようなものを持ってきたぞ!!」
そう言って王が取り出したのは、ひとつの資料。
パッと開いて見てみると、この世界の地図や種族についてまとめられた本であった。
サラッとエルフのところに国家機密っぽいことが書いてある気がするが........うん。まぁ、気にしない方針で行こう。
「この世界についてはこの資料でだいたい分かるだろう。一応国家機密扱いなので持ち出しは禁止だが、自分の部屋で見る分にはいいぞ。グレイ殿の事だから、様々な事に使えるだろうしな」
「........有難く使わせて頂きますよ。出発時期とかは決まっているのですか?」
「そこら辺は全てグレイ殿に一任しよう。私の勘が言っているからな!!グレイ殿に全て任せた方が良いと。だが、1人同行役をつける。他種族にも顔が聞く者で、スムーズに話が通せるだろうからな」
「それは有難いです」
「ちなみに、ノースの事だから宜しく」
........あの爺さん、くっそお偉いさんじゃねぇか。
俺は俺が想像していた以上にノース村長がお偉いさんであった事に呆れつつも、その資料を持って仲間たちの元へと帰るのであった。
さて、これでまた世界が動きそうだな。ところでこのダンジョン、攻略方法が面倒すぎないか?
後書き。
今年最後の更新です。こんな私の趣味100%の小説にお付き合い頂き、ありがとうございます。もっとヤベー発言させたいなぁと思いつつも、理性と戦う毎日。ラインを見極めるのが難しいよ。来年は投稿ミスが出ないように頑張ります。まずはそこからだよね。
それでは皆様、良いお年を‼︎
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