何言ってんだこいつ


 レイズとレミヤに全てを任せ、暇つぶしにスーちゃんやナーちゃんの遊ぶ。


 どうせ俺は下手に動くと騒ぎしか起こさないので、特にやるべきことも無くダラダラと時間を潰していた。


 今回のエルフの騒動で身に染みて分かった。俺はどうも厄災を呼び結果的に上手い方向に転がるらしい。


 悪運が強いなんてもんじゃない。きっとこれは神のイタズラだ。


 悪運の強さだけで何とかこの世界を生きている俺に、いつの日か幸運の女神が微笑む日が来るのだろうか?今は愉悦の神に愛されている気分しかしないよ。


「ナー?」

「人生ってのは大変だな。大半は不幸で埋め尽くされ、その中に混じる一雫の幸運を噛みしみて人々は生きる。その幸運が“何とか生き残った”と言うだけなら最悪もいいところだよ。俺だってハロウィンを満喫してクリスマスを祝いたいね」

「ナー!!」

「あはは。ナーちゃんには関係の無い話か」


 クソッタレな人生を歩む俺の数少ない幸運。それは、仲間達である。


 大抵出会うやつは頭のネジが外れた思想家やヤク中ジャンキーばかりだが、仲間になるやつは良い奴が多い。


 ボスの話を聞かずに暴走するという素晴らしい欠点を除けば、良き人に恵まれただろう。


 ボスの話を全く聞かずに暴走すると言う点を除けば。


 ルーベルトとの出会いが1番マシだったんじゃないか?俺の異世界生活の最高潮は、FR(フランス)にケツを追われる前の2日間だけだった気がするぞ。


 そんな半年前の事を懐かしんでいると、レイズとレミヤが帰ってくる。


 さて、俺がくそ適当に“よろしく”と言って任せたが、どんな結果を持ってきてくれたんだろうか。


「おかえり。どうだった?」

「完璧っす。ボスの指示通り、全てを手に入れたっすよ」

「アバート王との信頼関係を築けた事により、私達への警戒心が完全に取り払われていました。お陰で、エルフの後ろ盾及び日本国の領土を取り戻せたかと」

「うんうん。おつかれ?」


 何言ってんだこいつ。


 エルフの後ろ盾はまだ分かる。何?“日本国の領土を取り戻せた”って。


 頭の中に?が浮かびつつも、とりあえず適当に頷いた俺。


 そんな疑問を解消するかのように、レイズがエルフの王と結んだ契約書を俺に見せてきた。


「これが今回エルフの国と結んだ契約っす。簡単に言うと、俺達はエルフの外交官でありながら人類の代表。エルフが支配していた日本国の領土はボス個人に返還され、エルフは事実上の移民として扱うことになってるっす。とは言っても、法律も何も制定していないのでほぼ何も変わらないっすけどね」

「........なるほど?」

「これは既に長老会で決定されていた事項だったらしいです。なんでも、私達との友好の証として領土を正式に返還すると言っていました。元々人類の領土だったというのに、何様のつもりで戯言をほざいているのかと一瞬思いましたが、どこの世界も勝者が歴史を作るようですね。正義は我にあり!!という訳です」

「よって、ボスはこの世界において人類の王として扱われるっす。しかも、エルフを代表した外交官まで務めるので、エルフの国もボスの手駒になったって事っすね。流石はボス。僅か1週間ちょっとでエルフの国を実質的に乗っ取ってますよ」

「うんうんそうだね?」


 俺は適当な返事をしながら、小難しく書かれているレイズの契約書を眺める。


 やべぇ、何一つ言っている意味がわからねぇ。


 えーと、つまり、俺達は人類の代表としてこの世界では認識されていると。


 ふむふむ。これはまぁ、良しとしよう。実際、現状俺達が人類の代表としてこの場にいる訳だしな。


 なんか“俺達を介さずその他人類との交渉は応じるべからず”みたいな内容が見えるが、それは置いておく。


 で、次。日本国の領土を“俺個人”に返還。


 意味がわかんねぇよ。人類に返還ならまだ理解できるが、なんで俺が日本の土地全ての所有権を持つことになってんだよ。


 世界広しと言えど、国家ひとつ自分の領土と主張するのは無理がありすぎる。


 15世紀のヨーロッパ貴族か俺は。


 しかも、こっちの世界での話だから地球での意味が無いでしょうが。いや、エルフの王に返還させたという事で、他国から文句を付けられないようにしているのか?


 いやでも、無理があるな。“古来より日本は我々の土地であった”とか言い出すような奴らがお隣に存在するもんな。


 中華人民共和国って言うんですけど。


 本当に日本と言う国は隣国に恵まれていない。かの有名な福沢諭吉が“不幸なるは近隣の国にあり”という訳だ。少し意味が違うけれども。


 ちなみに、何かと反日国家の代表とも言えるKOR(大韓民国)及びその北の国は仲良く滅んでいる。


 第1次ダンジョン戦争時代、朝鮮戦争による国のダメージが大きかった両国は突如として現れたダンジョンに対応出来ずに滅びた。


 現在もダンジョンが多く蔓延る地域であり、ダンジョンから溢れた魔物を食い止めるべくCH(中国)が国境沿いでハンターを展開しているのが現状である。


 あの世では仲良くしていてくれよ朝鮮人。


 話が逸れたな。


 で、日本国を取り戻したかと思えば次は人類の王だ。


 何言ってんだこいつ。俺が全人類の王とかブラックジョークにもなりゃしない。


 こちとら世界最悪のテロリストだぞ?誠に不本意だが。


 アバート王は俺の事をアレクサンドロス三世とでも思っているのだろうか?俺はマケドニアの王でもなければ大英雄でもねぇよ。


 どんなに頑張ってもカルロス四世辺りが限界だよ。


 人類の代表はまだいいが、王として担ぎ上げられるのは勘弁願いたい。おそらく、この“王”としての立場があるから俺個人に土地を返却したんだな。


 そして1番意味がわからないのは“エルフの外交官”である。


 いや、俺は人間なんですが。


 今までの条件はまだ理解できなくはない(それでも十分おかしいが)。が、これはどう考えてもおかしいだろ。


 人類の外交官と立場なら理解できるが、なぜにエルフの外交官なのだ。


 要は、俺達がエルフの国としての意見を他国に言えるってことだろこれ。


 見方次第では国を乗っ取っていると言っても過言では無い。その気になれば、他国との戦争にまで発展させられるのだから。


 呪いによって頭まで侵されたかエルフの王よ。一旦寝ようぜ。頭がおかしくなってる。


 しかも、何がやべぇって、レイズの能力によってこの契約書は作成されたという事。


 後で相手が何を言ってこようが、この契約は絶対であり確実に行使されることになるのだ。


 しかも、ちゃっかりエルフと俺達の友好まで組み込んでるし。エルフの王が俺達と敵対することは許されないみたいなことまで書いてある。


 レイズ君?俺はこんな事望んでないんだが?


「ほぼ完璧にできたと思うんっすけど、何か不備でもありましたかね?レミヤ姐さんとかなり議論して作ったものなんですが........」

「あーうん。よくやった。俺の思いどおりに事が運んでくれて嬉しいよ(適当)」

「お役に立てて光栄です主人マスター。これでこの世界の問題を解決した暁には正式に日本国を取り戻せます。地球での仕込みも既に済ませているでしょうし、楽しくなりそうですね」


 うん。もうそういう事でいいや。


 人間、諦めが肝心と言うし、俺の精神衛生上これ以上の負担は良くない。


 なるようになるやろ知らんけど。


 俺は主人が投げたボールを拾って“褒めて!!”と尻尾を振る子犬のように、目を輝かせながら褒められるのを待っているレイズとレミヤを適当に褒めると、この契約書の事は一旦頭の片隅においてナーちゃんの背中を撫でるのであった。


 ほんと、どうしてこうなった?




【カルロス四世】

 スペインの王。鈍感で馬鹿正直な性格であり、父と話す時でさえ「カルロス、お前は馬鹿だな」と言われるほど。公務は王妃とゴドイと言うお気に入りに任せ、狩りに専念して居たという。それでいながら、王は王権神授説を信奉し、自分が神聖な存在だという信念があった。王権が非常に強力に映ることがとても重要だと考えていた。

 愚王と呼ばれることは無かったが、現在では多くの人から愚王と思われることが多い。




 レイズとレミヤの暴走により、この世界で人類の王となった俺。


 ほんとこの先どうするねんと思いつつも、俺は一先ずこの契約について仲間たちに話すことにした。


 契約内容を公表するかしないかは個人の自由っぽかったので、仲間達には調べた方がいいだろうということである。


「ボスがついに人類の王になったのか。これからはボスじゃなくて“キング”と呼ぶべきか?」

「ふざけんじゃねぇ。俺は王の器じゃねぇよ。精々木っ端のマフィアを纏めるのが限界だ。ただでさえキャパシティをオーバーしているのに」

「まぁ、この契約の人類は私たちだけのように思えますがね。それよりも、なんですかこのエルフの外交官って。どう見てもヤバくないですか?」

「エルフの頭もついに狂ったか........いや、元から狂ってるな。世界樹とかいう燃やせば終わりの木を神の如く崇め奉るんだから」

「それで言えばいもしない虚像を崇める人間の方が狂ってるけどな。偶像崇拝の方がまだマシだ。物があるからな」


 契約内容を読んだ仲間達は、もちろんその内容に驚きを隠せなかった。


 それはそうだろう。頭が正気ならこんな契約を間違っても結ばない。


 居酒屋で酔っ払ったおっさんが結んだマルチの契約書のほうがまだ現実的なのだ。


 しかし、そんなイカれた契約を見て涙する者も存在する。


「........儂が500年をかけてもなし得なかった日本国の再建を、僅か数週間の内に成し得るとはの。まだ地球での認知はされておらぬが、最も大きな課題を乗り越えたとなれば儂は........儂は涙で前が見えん」


 そう言いながら真っ黒な袴で顔を上げると隠す吾郎爺さん。


 土地の返還はつまり日本国の返還。元も勝手にエルフが占拠していただけなのだが、それでも正式に俺達がこの手で取り戻した偉大なる祖国の欠片である。


 課題は多く残っているが、それでも大きな進歩に違いない。


 人類が500年かけてもなし得なかった快挙を、俺達は成し遂げたのだ。


「そう言えば爺さんは日本国出身だったな。土地はボスのものなんだが、どうするんだ?」

「そりゃ、日本は再建するさ。少なくとも、第二次世界大戦後の日本までは復活させたいね。その為には他国からの認証を受けなきゃならん。面倒な作業がまだまだ多そうだ」

「それよりも先にこのダンジョンの攻略だけどね........グレイちゃんのおかげでこの世界を割と自由に歩き回れるようになった。次はどうするの?」


 俺の後ろにベッタリとくっ付いたリィズが次の目標を聞いてくる。


 次は他種族との交流かね?この世界にはエルフ以外にもドワーフやタイタンダークエルフが存在している。


 ニーズヘッグと戦うことを想定するのであれば、戦力があることに越したことはない。


 エルフの外交官とかいう意味のわからん役職まで貰ったのだから、それを活かして世界平和でも目指してみるべきだろう。


「世界平和を目指すか。他種族も上手く引き込んでこの世に蔓延る悪をなんとしてでも排除しなければな」

「じゃ、そんな感じで動くか。取り敢えずは待機か?」

「あと数週間もすればエルフの王の体調も戻るだろうし、それまでは大人しくしておくぞ。ここで騒ぎを起こしてエルフから不信感を買うのは不味いからな」


 俺はそう言うと、せっかくだしエルフの国の観光でもしてみるかと思うのであった。

 




後書き。

グレイ君。実質的に日本を取り戻す。多分これが最短です。

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