短絡的襲撃


 なんか気付いたら目の前が爆発してたわ。


 部屋にタバコの匂いを付けるのは不味いかなと思ってベランダでタバコを吸い始めたところ、急に目の前が爆発した。


 ジルハードとミルラが守ってくれた為俺に怪我はないが、流石に急な爆撃は普通にビビる。


「怪我は無いな。目の前まで攻撃が来ていたと言うのにほぼ無反応とかキモが座りすぎじゃないか?私ですら少しビビったというのに」

「いや、普通にビビったよ。怖かった」

「なら少しは怖がってるフリでもしろよ。眉ひとつ動かさずタバコを吸い続けられる様なやつがビビってるように見えるわけないだろ?」

「タバコって偉大だな。吸う?」

「いや、いいわ。昔嫁に“タバコの臭いが嫌い”って言われてから禁煙することにしてるんでな」


 そう言ってボスのタバコを断るジルハード。


 一応マフィアのような組織だと言うのに、ボスのタバコに付き合えない部下を持つとか俺も不幸者だな。


 というか、禁煙の理由が可愛いかよ。本当に心の底から嫁さんに惚れてたということがよく分かる。


 一度会ってみたかったな。こんな人間のクズが集まるような場所に馴染める男を、真人間に戻した姐さんと話してみたかったものだ。


 俺はジルハードの嫁さんのことを考えながら、吸い終えたタバコの吸殻をスーちゃんに処理してもらうと部屋に戻る。


 爆発の威力は相当強かったようで、部屋の中にあったベッドやイスが物の見事に吹っ飛んでいた。


 俺に爆風がほとんど来なかったことを考えると、ミルラの天使の性能が凄まじい事がよく分かる。


 建物の壁を吹っ飛ばせるだけの威力を持った攻撃をほぼ完璧に防ぎ切るとは、さすがは元エリートPMCだ。


「助かったよミルラ。天使は優秀だな」

「試したくせによく言いますよ。少しでも遅れたらボスは木っ端微塵になっていたんですよ?もう少しご自愛ください」

「........???まぁ、もう少し気をつけるよ」


 試したって何を?俺はただベランダでタバコ吸ってただけなんですが。


 そう言えばジルハードも同じことを言っていたなと思いつつ、俺は無造作に腰から愛銃を取り出すと扉に向かって打つ。


 パン!!と弾ける音と共に扉にトンネルが出来上がり、扉を貫通した魔弾が扉の向こうでこちらを見ていただろうエルフを撃ち抜く。


 先程影の中にいたナーちゃんやピギーから“扉の外に敵意を持った存在がいる”と報告を受けたのだ。


 こういう時はどうせ敵なので、問答無用で撃ち抜いた方が早い。


「グッ........!!」


 扉の向こうから、弾丸を食らって苦しそうな声が聞こえる。


 一応、頭を狙ったはずなんだけど弾かれたか?魔弾を弾けるとかエルフってヤベーな。


 俺のイメージだとエルフって体は柔いイメージがあるというのに。


「........はぁ、グダニスクから離れてようやくドンパチからも離れられると思ったのに、またこれか。今度はなんだ?過激派右翼か?保守派が革命を起こそうとしたらダメでしょうに」

「どこの世界も過激派は世界の癌だな。アメリカ同時多発テロとかがいい例だ。また世界貿易センタービルにでも飛行機を突っ込ませんのか?いや、エルフだから世界樹に矢でもぶっ刺すのか?」

「どちらにしろ、あまり悠長にできる状況ではありませんね。どういたしますかボス」

「殺すと面倒になりそうだし、殺さず無力化で。こいつらワイヤーでぐるぐる巻きにしたら捕縛できるかね?」

西部劇の俳優カウボーイのように縄なげでもしたら行けるんじゃねぇか?レイズ、俺達で無力化するぞ。ミルラはボスとアリカの護衛だ」

「準備は出来てます。殺さず捕縛は結構面倒ですが、室内戦であれば得意分野ですよ」

「じゃ、行くか。とりあえず王に報告かね 」


 俺がそう言うと、レイズが扉を蹴っ飛ばして扉の裏に待機していたエルフ達に向かって軍用魔弾を乱射する。


 元エリート軍人ということもあり、その一連の動きは淀みなく鮮やかであった。


 本当はピギーを鳴かせる方が早いんだが、あまりにも強すぎて使えないんだよね。ごめんなピギー。


 お前、存在自体がチートなんだ。


「守れ!!そして殺せ!!家畜にも劣る猿を生かす価値などない!!」

「酷い言われようだね。俺からすれば、独善的な価値を押し付けて相手の話も聞かずに殺そうとするお前らの方が家畜にも劣ると思うんだが?ほら、猿がエルフの言語を話してんだからお話しようや」

「ふざけるな!!貴様らを生かす価値などない!!」

「おい聞いたかアリカ。同じ言葉が話せるのに対話の意思がないぞ。頭のラリったヤク中ジャンキーですら、ベーコンポテトパイの値段を聞くぐらいはできるのにな」

「エルフってのも野蛮な種族だな。道理で第一次ダンジョン戦争が起こる訳だ。どちらもお互いを知能ある生物として見てないんだからな」

「全くだ。おいエルフのファッキンゴミ共!!念の為に言っておくが、今の俺たちに手を出すとアバート王すらも敵に回すぞ!!この首飾りが目に入らねぇのか?!」


 俺はそう言いながら王から貰った首飾りを見せつける。


 これで引き下がってくれるなら誤解だったとして済ませてもいいが、まぁ話が通じる連中であればこんな短絡的な襲撃計画を考える訳が無い訳で。


「猿のくせに頭は回るようだな!!だが、そんな偽物に騙されるほど我々は馬鹿では無い!!大人しく死ね!!」

「どうやら猿よりも頭が回らない高貴な種族様みたいだな。頭ぶち抜いて一旦脳みそ見てもらった方がいいんじゃないか?」

「もう手遅れですよボス。あぁ言う輩は何を言っても自分の信じたいことしか聞く耳を持ちませんので」

「羨ましい耳をしてんな。削ぎとって付け替えたら俺も都合のいい世界が見られるようになるのか?」

「ハハッ!!これが都合のいい世界に見えるなら目ん玉も変えるべきじゃないか?」

「確かにそうだな」


 俺はそう言いながら無力化されていくエルフ達を、素早くワイヤーでぐるぐる巻きにして捕縛していく。


 なんと言うか、あまり強くないな。


 おそらくだが、エルフの力が十全に発揮できる環境ではは無いのだろう。


 エルフの強みは何かと聞かれれば、それは圧倒的な射程から放たれる高火力の魔法や矢である。


 仮にもこの場はエルフの王が住まう場所であり、何より近くに世界樹という神が存在する。


 例え神の名のもとに自分が正義に立ったとしても、神を傷つけるような真似はできない。


 そんな配慮を感じられた。


「弱い........というより加減してるな。あの馬鹿げた強さの矢をバカスカ撃たれたらかなり苦しい戦いになるはずなんだが、室内戦かつ王の膝元だからか全員ナイフを持って突撃してくるだけだ。何人かは骨があるやつもいたが、リーズヘルトや爺さんと比べるとな........」

「俺でも無力化できたっすからね。身体強化を使っているようにも見えないっすし、これが本当に攻略不可能とまで言われたダンジョンなのかは疑問っす」

「仮にも神のおひざもとだからな。イスラムのテロリストだって、アッラーの聖地では銃を乱射できないのと同じなんだろ。ほら、俺達の真横には有難い世界樹様がいるんだしな」

「あー、なるほど。その可能性は高そうだ。となると、矢を打ち込んで宣戦布告してきたファック野郎に向かって行ったリーズヘルト達は大変かもな。場所がかなり離れてただろあれ」


 え、どこから狙撃されたのか分かってんの?俺は全く分からなかったんだけど。


 相変わらずウチの戦闘員のスペックが高いなと思いつつ、俺は近くでミノムシのように転がされたエルフの一人の顎を蹴っ飛ばして気絶させるのであった。


 魔法を使われても困るから、念の為にね。




【アメリカ同時多発テロ】

 2001年9月11日にイスラム過激派テロ組織アルカイダによって行われたアメリカ合衆国に対する4つの協調的なテロ攻撃。9.11事件と呼称される場合もある。

 一連の攻撃で、日本人24人を含む2,977人が死亡、25,000人以上が負傷し、少なくとも100億ドル(日本円換算114兆6595億円)のインフラ被害・物的損害に加えて、長期にわたる健康被害が発生した。アメリカの歴史上、最も多くの消防士と法執行官が死亡した事件であり、殉職者はそれぞれ343人と72人だった。また、この事件を契機としてアフガニスタン紛争 (2001年-2021年)が勃発し、世界規模での対テロ戦争が始まった。我々人類が忘れてはならない事件である。




 グレイを狙撃したエルフを追いかけるために外へと飛び出したリーズヘルト達は、完全に気配を消して森の中で潜むエルフを探し続けていた。


 矢がグレイに到達してからわずか十秒足らずでその場へと来たリーズヘルトが最初に感じとったのは、匂い消しのために使ったであろう消臭の匂いだ。


(匂いを消された。鼻は使えないか)


 リーズヘルトは様々な魔物の特性を引き継いだ特殊個体。もはや人間と言っていいのかも怪しい彼女の鼻は、犬よりも鋭く一度覚えた匂いは必ず見つけ出すほどである。


 が、最初の匂いを消されてしまってはどうしようもない。


 リーズヘルトは静かに森の中を見渡しながら、使える能力を全て使って周囲を探っていた。


「フォッフォッフォッ。足、速すぎんかの?」

「黙れジジィ。グレイちゃんに矢を撃ち込んだクソ野郎を探してんだから」

「了解じゃ」


 その数秒後、リーズヘルトはある場所に向かって近くに落ちていた枝を投げる。


 カッ!!と、枝をどのような投げたらそうなるのか分からない威力で木に突き刺さった枝。


 そして、その真横から赤い血が滴り落ちる。


「透明化の魔法を使ったのに位置がバレるとか嘘だろおい」

「見つけた。逃がさねぇぞ」


 全身のありとあらゆる機能を使って見つけ出した敵。ギリースーツのように緑色のローブを身にまとった狙撃手を見つけたリーズヘルトは、素早く狙撃手の場所まで跳躍すると拳を振るう。


「死ね」

「フォッフォッフォッ、それはちと不味いじゃろ」


 殺す気満々で振るわれた拳。しかし、それは吾郎の手によって空を切る。


 リーズヘルトがエルフを殺す気だと気付いた吾郎は、素早く剣を振るうをエルフが乗っていた木を切り倒したのだ。


 その間、僅か0.01秒未満。


 神速にも至る老人の一刀はあっという間に木を切り倒し、その気に乗っていたエルフを地面に落とす。


「殺すのは不味いと言われたじゃろ。生け捕りじゃ生け捕り」

「そうだった。つい殺す気で殴ろうとしちゃった」

「捕獲ならおまかせを。周囲の逃げ場をなくします。相手はエルフです。反撃の余地なくたたみましょう」

「もう私は行くわよん!!」


 銃火器を能力によって具現化し、エルフの退路を塞ぐレミヤ。


 エルフの判断も早く何とか逃げ道を確保しようと魔法の準備に入ったが、相手が悪すぎた。


 Sランクハンター以上の実力を持つと言われる存在が3人。いくら魔法に優れ、強いエルフと言えどたった一人で3人を相手にするのは無謀にも等しい。


「させないわよん」

「させぬわ」

「はっ?!........ゴフッ!!」


 生きた伝説による2度目の抜刀。それは魔法を準備していた魔力を切り裂き、一瞬ひるんだ隙にローズが拳を叩き込む。


 本来、魔法を準備段階で切り裂く事など不可能だ。しかし、この生きた伝説は第二次世界大戦時に刀ひとつで敵軍に突撃し、大暴れした頭のイカれた存在。


 銃弾を生身の人間の時代に切っているのだが、魔法も切り裂けるのが道理と言わんばかりに魔法も切り裂く。


 そして、エルフの体がくの字に曲がった瞬間リーズヘルトが後ろへと曲がって後頭部に加減をしながら蹴りを切れて気絶させる。


 連携が始まって1秒。たった1秒で全てが決まってしまった。


「流石に1人だけが相手なら余裕だね」

「フォッフォッフォッ。ここにおる人材も世界最高峰に近いからのぉ、これだけいて負けた日には、本格的に人類が滅ぶわい」

「ともかく、こちらは終わりました。早くボスの元へと戻りましょう。先程からあちらからも戦闘音が聞こえますしね」

「まぁ、ボスなら大丈夫でしょう。弱いけど馬鹿ではない人よん。どうせ室内では下手に暴れられないことを逆手にとって好き勝手やってるわん」

「やってそうだね。グレイちゃんだし」

「やってそうじゃのぉ........主のことだし」


 こうして、リーズヘルト達も相手を捕縛することに成功し、一気に状況が動き始めようとしていた。





 後書き。

 ちなみに、エルフはちゃんと強いです。近くに世界樹があるので、本気にならないだけで。

 それをも予測して戦う場所を選ぶなんて、流石グレイ君‼︎

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