冤罪
俺の頭にトンネルを開通しようとしたファッキンエルフも捕まえ、城の中での騒ぎは一旦収まった。
あまりに派手に騒ぎすぎたせいで城の中にいたエルフ達が集まってきているが、今回ばかりは完全に被害者である。
今回ばかりはと言うか、今回も被害者なのだが。
なんで俺は毎回行く先々でドンパチの中心にいなきゃならんのだ。今回に関してはなるべくしてなった感があるが、それでも相手が短絡的すぎる。
お前らの辞書に“対話”の3文字はあるのか?俺達だって平和的に解決できるならそれが一番なんだよ。
どうしたものかと困りながらも、王が来るのを待つ。
この状況だけを見たエルフ達が、“やはり人間は野蛮な存在だ”のなんだの言っているが、俺達からしたらむしろエルフの方が野蛮だね。
こうして誤解が生まれ世界は戦争になるのかと、歴史の縮図をひしひしと感じながらタバコを取り出して火をつける。
あぁ、グダニスクもエルフの国もそう変わらねぇ........
「完全に悪役だな。俺達が勝手に暴れたと思われてるぞ」
「冤罪もいい所だ。中世の時代に魔女狩りで処刑された者達の気持ちが今ならわかる気がするよ。今から俺達は水に沈められて、沈んだら無罪、浮かんだら有罪とでもなるのかね?」
「アレ酷いよな。どっちにしろ死ぬじゃねぇか。疑われたさ時点であの世行きが確定してるんだぜ?天国への片道切符が用意されてんならまだしも、その先は地獄だろうしな」
メンソールのスーッとした感覚が鼻をつきぬけ、心が落ち着く。
王様来てくれるかな?最悪、この貰った首飾りを見せれば何とかなると信じたいが、ついさっきガン無視されたのを見るに信用はできない。
今俺達がのんびりとしていられるのは、まだ兵士達が集まってないからだ。ここから先はどうしようかねぇ........
そんなことを思っていると、保守派の長老と思われる奴がこの場にやってくる。
出来ればさきにノース村長あたりに来て欲しかったが、世の中上手くいかないらしい。
「無抵抗なエルフを捉えるなど、やはり人間は野蛮な存在だ!!今すぐにでも王に処刑を求めなければならん!!あぁ、なんと忌まわしい人間達なんだ!!」
「おいおい、急にわざとらしい大根芝居が始まったぞ。誰がポップコーンとコーラを用意してくれよ」
「あんたの能力で出せるだろ。俺たちの分も頼みたいね」
「どうするグレイちゃん。あいつも殺す?」
「やめとけリィズ。俺たちは今からB級映画鑑賞会だ。つまらんかったら寝てていいぞ」
そう言いながら俺はコーラとポップコーンを具現化すると、仲間達全員にそれを配ってポリポリと食べ始める。
立ち見映画とか初めてだな。優雅なベッドに寝転がってみる映画館があるのは知っているけど。
ベッドも用意するか?いや、でも、能力で具現化が出来ないから無理だな。
「見たであろう同胞たちよ!!彼らは無抵抗なエルフを襲い、拘束したのだ!!世界樹様の前で争いを起こすなど言語道断!!今すぐにでも奴らを捉え、処刑しなければならない!!」
「白々しいにも程があるな。奴が主導者で間違いなさそうだ」
「どちらに転んでもいいように、色々と考えたんだろうなぁ........もしかして、エルフってのは暇人の集まりなのか?」
「三流脚本家の集まりなんだろ。で、どうする?このまま行けば、俺達は野蛮な猿として殺処分されそうな雰囲気だが」
ジルハードの言う通り、原罪この場にいるエルフ達からは俺たちに向けての敵意が大きくなっている。
が、俺たちは何もやましい事などしていないし、正当防衛を行使しただけ。ここで逃げては、自分たちの正当性が失われるどころか、ノース村長にも迷惑がかかってしまう。
なので、俺は大人しくこのB級映画にも劣るクソつまらん演説を眺めることにした。
うーん、タバコとポップコーンの組み合わせはダメだな。タバコが不味くなる。
「まだ低予算で作られた映画の方が楽しめるな。ここまで酷い演説は初めてだ。耳が腐る」
「全くだ。実は俺たちの聴覚を奪うために不協和音を聞かせているわけじゃないだろうな?だとしたら相当な策士だ。今すぐにでも耳を塞いでこの雑音を止めたいもんな」
「グレイお兄ちゃんもそう思うか........ところで、私は塩味のポップコーンは苦手なんだ。キャラメル味を所望する」
「悪いが、キャラメルは具現化出来ないんだ。醤油味なら行けるぞ」
「グチャグチャになって食べれなくなるわ。食べ物を無駄にしちゃダメなんだぞ」
意外と真面目で可愛いことを言うアリカ。
キャラメル味がいいと言ってくるところも可愛いし、食べものは粗末にしてはならないと真面目に言うのも可愛い。
アリカの姉代わりとして可愛がっているリィズなんか、アリカが可愛くてポップコーンを食べずにずっとアリカのほぼをムニムニしていた。
リィズは人の温かさを知らずに育った人間だから、余計に素直で人懐っこいアリカの事が可愛く見えるんだろうな。
しかも“お姉ちゃん”と呼んでくれるなら尚更。
リィズは普段俺にべったりだが、その次にベタベタとしているのはアリカだ。
アリカもアリカで、自分を可愛がってくれるリィズの事が大好きでかなりの頻度で遊んでいるのを見掛ける。
もう三流芝居はどうでもいいからこのほのぼのとした空間を眺めてようかな。そっちの方が精神的に優しそうだ。
「キャラメルは持ってないけど、砂糖ならあるよ?掛ける?」
「塩と砂糖を混ぜたら絶対に美味しくないぞリーズヘルトお姉ちゃん。仕方がない。できる限りキャラメルに似せた成分で作ってみるか」
「え。その能力ってキャラメルみたいなのも作れるの?」
「グレイお兄ちゃんほど器用には出来ないけど、私は一度摂取した成分は全て抽出できるんだ。甘味もやろうと思えば作れるよ」
「ほへー、アリカの能力って知れば知るほど便利だねぇ。私の能力は周りまで巻き込むから滅多に使えないよ」
「その代わり、大切な人を守れるじゃないか。私は治すことはできても、守ることは出来ないからな........で、なんでみんなこっちを見てるんだ?大根芝居を見てるんじゃないのか?」
「「「「「飽きた」」」」」
「あぁ、そう........」
口を揃えて言う俺たちに、呆れるアリカ。
だって同じことしか言わねぇんだもんアイツ。要約すれば、“人間はクソ!!エルフは神!!”という事をどうしてあんなにグダグダと言えるのか。
もはや才能の域だよ。素晴らしすぎて涙が出ちゃうね。
しかも、自分に浸っているのか俺達が興味をなくしてリィズとアリカが仲良くしている方を見ている事にすら気付いていない。
自慰行為を大衆に見せつける趣味を持っているとは、はた迷惑なジジィだ。
「........ん、なかなか美味いな。みんなも食べるか?」
「じゃぁ、ひとつ貰うよ。お、結構キャラメルに近いな。これからはキャラメルに困ることは無さそうだ........その不気味な色さえ気にしなければ」
「地球外生命体の血の色みたいな見た目してるもんな。ダメじゃないかアリカ、エルフの血を調味料にしたら、俺達が
「ならジルハードは要らないな。他のみんなで食べたい人はいるか?」
「あ、待て待て待て!!誰も食べないとは言ってないぞ!!」
エルフ達に向かって気持ちよく演説をするジジィと、それをガン無視してポップコーンの味変についてワイワイと騒ぐ俺達。そして、その足元にいるのは無力化されたエルフ。
完全に現場は
そりゃ、爆発音が聞こえたかと思ったら1人で気持ちよくなっているジジイとワイワイとポップコーン出騒ぐ俺たちを見ても、状況を把握するのは無理だよな。俺でも無理だもん。
「おい!!貴様ら!!人の話を聞いているのか?!」
と、ここでようやく自分の話を真面目に聞いていない俺達に気付いたエルフが声を上げる。
「は?1人で気持ちよくなってるジジィの自慰行為を見せられる側の気持ちにもなれよ。人目を気にせずおっぱじめるとか猿かてめぇは。とっとと檻の中に帰って1人で慰めておくんだな」
「っな.......!!貴様、今の状況を分かって言っているのか?!」
いや、このぐらいは日常茶飯事だったので、別に普段と変わらないんですが。
俺はそう思いながら、キャラメル塩味に変身したポップコーンを摘む。
そして、その時であった。
「グレイ殿、少々騒ぎすぎですよ」
エルフの王アバートが現れたのは。
【魔女狩り】
魔女とされた被疑者に対する訴追や死刑を含む刑罰、あるいは法的手続を経ない私刑(リンチ)等の迫害を指す。魔術を使ったと疑われる者を裁いたり制裁を加えたりすることは古代から行われていた。ヨーロッパ中世末の15世紀には、悪魔と契約してキリスト教社会の破壊を企む背教者という新種の「魔女」の概念が生まれるとともに、最初の大規模な魔女裁判が興った。そして初期近代の16世紀後半から17世紀にかけて魔女熱狂とも大迫害時代とも呼ばれる魔女裁判の最盛期が到来した。
保守派の中でも過激的な思想を持つ長老“ロストン”は、この国にやってきた人間を快く思ってなかった。
彼の祖父は人間に殺され、代々“人間は言葉も分からぬ野蛮な種族”として教育されてきたのだ。
幼少期から受けた教育による価値観を変えるのは難しく、更に同じ思考を持つ者がいるのであればその考えは正当化される。
そして、彼は行動に移した。人間は排除されるべき存在。ならば、どんな手段を使ってでも消すべきである。
作戦は完璧であった。エルフ達を突っ込ませ、殺せればそれで良し。殺されれば、目撃者達に人間の悪を伝えることが出来る。
そう。完璧なはずだったのだ。
相手が既に手を打ってなければ。
「へ、陛下........何故こちらに?」
「ふむ。我が住まいで騒ぎが起これば見に来るのが自然の道理。で、何をしているのだ?」
「え、エルフの敵たる人間を始末するつもりでございました。人間は言葉も分からぬ野蛮な存在。忌々しき存在です。そんな者がここに居てはならないのです。見てください!!彼らは我らの同胞を傷つけ殺さております!!」
「なるほど。だそうだグレイ殿。何か言うことは?」
なぜ病気に伏せていたはずの王がここに居るのか。そんな疑問も頭に浮かぶが、今聞くべきではない。
ロストンはそう判断すると、大人しく王の言葉を待つ。
彼は本当に王が病気で倒れていると思っていた。改革派よりの考えを持っているのは確かだが、世界樹が彼を選んだのであればそれに従う。
それが、エルフとしてあるべき姿だと考えているため、呪殺など考えもしたことが無いのである。
「いや、殺してないですよ。そもそも先に喧嘩を吹っ掛けてきたのはそっちだし、俺は一応言ったんですよ?“俺達は王の客人として首飾りを持っている”って。なのに攻撃されたら、抵抗するしかないでしょう」
「ん?殺してないのか?」
「俺も馬鹿じゃないんでね。ここでエルフを殺しはしませんよ。せっかく作り上げた友好関係を崩したくありませんし。流石に怪我はさせてしまっているでしょうけどね」
「ほう?グレイ殿はそう述べているが、何か弁解は?」
「そ、それでも彼らがエルフに攻撃をしたという事実は─────」
ロストンが弁解をしようとしたが、グレイが口を挟む。
「──────そもそも考えてみてくださいよ。これほどの数のエルフが何故俺達の部屋の前に集まっているのかを。エルフに攻撃を仕掛けるにしても、もっと少数を選ぶでしょう?確実に勝てるんだから。態々勝てるか怪しい相手に仕掛けると思いますか?人間ガそこまで愚かで浅はかだと思いますか?」
「........まぁ、正論だな」
「ついでに言えば、外からの狙撃もありました。部屋の中を見てもらえれば分かりますが、内部に壁が散乱してますよ。ちなみに、こいつがその犯人と使用された矢ですタイミングを考えるに
そう言って、気絶したローブのエルフを放り投げるグレイ。
ロストンはその男を見た瞬間に全てを察した。この人間、やりやがったと。
狙撃に関してはロストンも知らない。ただタイミング悪く仕掛けた時間が同じだっただけなのだ。
だが、相手がとにかく悪すぎる。狙撃手の頬に刻まれた竜のタトゥーこれは、世界樹の世界で世界の崩壊を目論む“
この人間は、保守派を潰すために組織との繋がりを無理やり作ろうとしているのだ。
やり口がえげつなさすぎる。たとえ関係がないと証明されても、今後そのような目で見られることになれば保守派の勢力は一気に落ちる。
それは即ち、改革派が保守派に成り代わるということ。
この男は、そこまで理解している上で冤罪を被せようとしているのだ。
もちろん、グレイは単純に状況から見てその可能性が高いと考えていただけである。が、その攻撃はあまりにもクリティカル過ぎたのだ。
「ほう?これはこれは........詳しく調べなければならないな。おい、ロストン長老を捕縛しろ。この襲撃に関わったエルフ達も全てな」
「「「「ハッ!!」」」」
こうして、保守派はたった一手で全てを封じられた。一人の人間の手によって、エルフの勢力図は大きく書き換えられてしまったのである。
後書き。
クリスマスプレゼントとして、主人公達が話す超短編(限定公開)を上げました。ぶっちゃけ、本編とは全く関係のない話しかしていない上にメタイ話をしていますが、それでもいいよと言う方はどうぞ。
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