試す(違う)


 エルフの王が呪殺されかけていたという事を把握した俺達。アバート王に裏切り者の捜索を頼まれたが、正直俺達がコソコソと動くにはあまりにも目立ちすぎる。


 夜中に金ピカの装飾を身に纏いながらスポットライトを浴びるぐらいには目立つのだ。王に頼まれた手前、了承してしまったが今できることは少ない。


 そもそも俺達は、エルフの国について知らなすぎるのだ。保守派と改革派が存在しているのは知っているが、それ以外の事は何も分からないのが現状。


 そんな中で犯人探しなどできるわけも無い。


「もう王の信用を勝ち取ったのか........まだエルフの国に来て2日目なんだけどな」

「相変わらずボスの行動は早すぎるっす。これで事実上ほとんどのエルフ達よりも立場が上になったんすよ?もし俺達に攻撃を仕掛けた勢力が出てきたならば、それを殲滅しても良いと言う免罪符を既に獲得したっすよ。控えめに言って、頭がおかしいっす」

「皆がダンジョンを攻略しようとしている中、1人だけRTAリアルタイムアタックをしていますね。五大ダンジョンの攻略チャートでも組むつもりですか?」

「誰が走れるんだよそのチャート。誰か1人でも攻略して時点でゲーム終了じゃねぇか」


 エルフの国へとやって来た2日目。俺は仲間達に情報を共有すると、今後どう動くかを考えていた。


 膝の上で喉をゴロゴロと鳴らしながら寝転がるナーちゃんとポヨポヨ揺れるスーちゃんを撫でながら、俺は欠伸を噛み締める。


 どうしようかな........取り敢えず王様の好感度は爆上げしたが、王の体が良くなるまでは下手に動けない。


 あのまま王を殺すという選択肢もあったのだが、このダンジョンのボスがエルフの王ではなかった時が困るし。


 なんでこの世界のダンジョンはゲームのようにボスにマークを付けてくれないんだ。ボスマークが付いていてくれたら、もっと簡単にことが終わるかもしれないというのにさ。


 王を殺そうとする勢力がエルフの国に存在していることは分かった。しかも、それはエルフ上層部にまで食い込んでいるのだろう。


 王と面会できるような立場の者でないとあの呪いは仕掛けられないだろうし、そもそも敷地にすら入るのは難しそうだった。


 エルフの王が死んで誰が得をするのか。改革派側しか見ていない俺からすれば、犯人は保守派のエルフとしか思えない。


 例えば、王が改革派寄りの考えを持っていると知り、邪魔になったから排除しようとしたとか........


 そんなことを考えつつも、俺はナーちゃんを抱き上げると優しく抱きしめる。


「疲れるな。癒してナーちゃん」

「ナー」


 今後のことを考えると頭が痛くなってくる。


 ここ数日ぐらい、急展開が続いて頭の整理が上手くつかない。


 俺はこういう情勢を読むのがあまり得意では無いのだ。政治シュミレーションゲームとかできなくは無いけど、あまり得意な部類では無い。


 ガッツリ心理戦をやるゲームとかは得意なんだけどなぁ........格ゲーとか。


 相手の癖を読み、それに合わせて技を振るう。そのぐらい簡単な仕組みなら問題ないのだが、政治は複雑も複雑。派閥の中にさらに派閥があり、その中にさらに小さな派閥が存在していてその動きを読むのは不可能に近い。


 うーん、苦手だ。見たこともないやつの動きを予測するのは難しいし、何よりどんな組織にも想像がつかない程の馬鹿が存在している。


 そんなやつの動きまで読めるかっつーの。俺は未来予知の能力なんて持ってねぇんだよ。


 ナーちゃんに優しく抱きしめられ、頭を撫でられながら癒される俺。


 やはり、こういう時に必要なのが癒しだな。ナーちゃんマッマは全て分かっていて俺の事を慰めている気がするのでとても落ち着く。


 スーちゃんはよく分かんないけど励ましてあげるみたいなスタンスであり、それはそれで癒されるというものだ。


 ピギーは........癒されるというか、死を感じる。


 慣れたからそこまで恐怖は無いが、癒されるとは違うよな。よく心配はしてくれるけども。


「グレイちゃん、これからどうするの?暴れる?それとも大人しくしてる?」

「暫くは大人しくしていよう。俺達はエルフの国にとっては敵として認識されているからな。先ずは、仲良く話せそうな改革派のエルフとの交流を深めて万が一の時に庇って貰えるようにしたい。保守派は間違いなく喧嘩を打ってくるだろうから、間違っても喧嘩は買わないように」

「はーい。頑張って我慢するね」

「皆も一時の身の任せで馬鹿なことをしないように。特にアリカ。世界樹が目の前にあるからって採取しようとかするなよ」

「え、ダメなの?」

「ダメだよ?むしろ何でいいと思ってるの?」


 素で聞き返してくるアリカ。


 この子、世界樹の葉っぱとか枝を採取する気満々だったよ。良かったさきに忠告しておいて。


 この植物性愛者デンドロフィリアめ。珍しい植物を見たら直ぐに採取して興奮するんだから油断ならない。


 人間×木とかどこの層に需要があるんだよ。まだ殺人スナッフビデオのほうが需要があるね。


「レミヤ、そのどうしようもない子をちゃんと見張っておくように。問題行動を起こしたら怒るからな」

「承知いたしました。アリカ、大人しくしていましょうね。近いうちに採取出来ると思いますから」

「むぅ........研究したいのに」


 しょんぼりとするアリカを見るのは心が痛かったが、このダンジョンに来た時のようなテンションになられても困るので俺は心を鬼にするのであった。


 ちょっとタバコ吸ってこよう。頭がスッキリしないや。


 部屋で吸うのはちょっと気が引けるし、臭いが付かない外で吸おっと。




【魔法】

 エルフが使う魔力を応用した技術。魔力で魔法陣を描く事で発動させることが出来、様々な現象を引き起こせる。人間も魔法陣を物に刻むことで様々な道具をつくりあげたが、それのもっと難しいバージョンと思えば大差ない。

 エルフの魔法技術は第一次ダンジョン戦争でも活躍し、あまたの人間を地獄へとたたき落とした。

 尚、吾郎はこの魔法を魔力を持たない人間だった時代に切り裂いて突撃している。普通に化け物だし、人間にできる芸当ではない。




 エルフの国に来て2日目のリーズヘルト達は、あまりにもサクサクとことを運ぶ自分達のボスの手腕に恐れおののいて居た。


 決して本人は認める気が無いが、傍から見ればグレイの行った事が偶然であろうと必然であろうと普通の人間にはないしえないことである。


 あまりにも馬鹿げた速さでエルフの王からの信頼を勝ち取ったグレイを見たリーズヘルト達は、次に自分達が何ができるのかを話し合っていた。


 もちもん、グレイがタバコを吸いにベランダに出た時を狙って。


「これ以上グレイちゃんの足でまといになりたくない。何とかして、王を暗殺しようとした犯人を見つけるか、このダンジョンのクリア条件を見つけなきゃダメ」

「今のところボスしか活躍してないもんな。あとは、エルフの村で信頼を獲得したアリカぐらいか?俺なんて未だに言語が分からんし、コミュニケーションをとるのが大変だぜ」

「こっそり私に言葉の勉強を頼みに来るぐらいですからね。早く覚えてくだい。主人マスターのお荷物になりますよ」

「なりたくてなってるんじゃないから許してくれ。オッサンの頭は子供の頃のように知識を沢山詰め込める訳じゃないんだ」

「歳だな。月日とは怖いものだ」

「全くねん」


 サラッとこそ勉していた事をバラされるジルハードだが、ジルハードも常人に比べてかなりの速さで言語を習得している。


 どこぞのチート保持者や天才達とは違い頭の出来は一般人のさほど変わらないものの、それでもジルハードは何とか食らいついているのだ。


 ジルハードからすれば、高性能AIを積んでいる方が卑怯である。


「エルフの国はに分されつつある。ボスのやり方で行けば、二分するのは不味いんだろうな。どうするべきかね?」

「やはり、エルフの王を暗殺しようとしたやつを見つけるのが早いだろうな。単独でこんなとこをする愉快犯がいるとも思えんし」

「それ、FR(フランス)の四分の一を吹っ飛ばしたボスの前で言えるか?」

「........無理だな。そういえばグレイお兄ちゃんは世紀末に生きる愉快なテロリストだったな」

「まぁ、ボスほど頭のイカれた奴がエルフの国にいるとは思えん。相手は態々病死に見せかけて殺そうとするぐらいだし、どこかしらの組織の思惑があるんだろうな」

「問題はどうやって炙り出すかねん。どうしましょうか?」


 犯人の想像をどれほどしたとしても、肝心の犯人が捕まえられなければどうしようもない。


 どのように相手を誘き寄せるのかを考えていると、リーズヘルトがなにかに気づいたかのように窓の外でのんびりとタバコを吸うグレイを見つめた。


「もしかして、グレイちゃんは既に炙り出しをしている?自分を囮にして攻撃を仕掛けてくるエルフが居ないかを待ってるんじゃない?だってほら、わざわざ外でタバコなんて吸わないでしょ? 」

「フォッフォッフォッ........確かにそうじゃの。普段ならば部屋で吸っておるわい」

「これは私達を試してるんだよ。私達がグレイちゃんの意図に気づけるかの訓練も同時に行ってるんだ」

「なるほど。どうやらボスはあまりにも無能すぎる俺達を鍛え直そうとしている訳か。恥ずかしい限りだぜ」


 もちろん、見当違いもいいところである。


 グレイは単純に“城の中の部屋でタバコを吸うのは迷惑かな?”と気を使ってベランダでタバコを吸っているだけなのだ。


 しかし、ボスを盲信する狂信者の言葉が伝染し、やがて彼らは自分達が試されていると勘違いを始める。


 このまま何事も起きなければ、リーズヘルト達の勘違いで済んだだろう。


 しかし、このグレイと言う男はこういう時に必ず部下が望む自体を引き起こす。


「────っ!!来た!!」


 最初に異変に気づいたのはリーズヘルトだ。


 はるか遠くからグレイを狙った殺気を本能的に察知し、誰よりも早く動き始める。


 そして、それを見た者たちも素早く動き始めた。


 リーズヘルトの動きに合わせてベランダへ飛び出ると同時に、呑気にタバコを吸うグレイの目の前に迫っていた1本の矢をジルハードが掴み取る。


 更に、強大な魔力による爆発を防ぐためにミルラが天使を展開。


 グレイを覆うように天使達は盾を構え、爆風をその身で受け止めた。


「やっぱり正しかったね。おいゴラァ!!この場所に鉛玉ぶち込んでおいて逃げようとしてんじゃねぇぞ!!」

「フォッフォッフォッ!!逃がさぬぞ」

「間違っても殺してはダメよん。貴重な情報源なんだからねん」

「魔力による目標ターゲットの補足に成功。ガイドします。着いてきてください」


 グレイが守られた事を確認した戦闘員の4人が、ベランダから飛び出して襲撃者の元へと一直線に向かう。


 彼らの頭の中は、“リーズヘルトの言うことは正しかった”で統一されていた。


 我らがボスはこれを機に自分たちを試すつもりだ。ここで失望されてしまえば、再び居場所を失う可能性がある。


 言葉巧みに仲間達の心を縛り付けた無自覚な人たらしによって作り上げられた狂信的な組織は、ボスの意思をしっかりと汲み取り1つになって動き始める。


「ボス。怪我はないか?」

「なんか急に爆発して焦ったわ。怪我は無いけど、びっくりした」

「ハッ........俺たちを試していたくせによく言うぜ。アリカ!!念の為に回復ポーションを作ってくれ」

「もうやってる。人体が欠損しようが、その部分を持って帰ってきてくれればくっつけられるぞ」

「俺は今から来るエルフ達の対応をしておきます。エルフ語は相当話せるので、問題ないかと」


 素早く自分たちのやる事を把握し、実行していくリーズヘルト達。


 グレイは“なんか爆発したな。びっくりしたぜ”と言っていたが、全て分かった上で言っているのだろうとジルハードは推測した。


 グレイと出会って半年足らず。毎度毎度滅茶苦茶な方法で全てを手に入れてきな優秀すぎるボス。


 グダニスクにいる時はその殆どをボスに任せてしまっていたが、今度からは自分達でも動けるようにしなければならない。


 それが、ダンジョンを攻略するという事なのだ。


(これを機に、俺達を鍛え上げるつもりか?容赦のないボスだぜ。まさか、自分を囮にすることすら伝えずベランダに出るとはな........それだけ信頼されているのか、それとも狙撃されても問題ないと判断したのか。ボスの見えている未来が俺には未だにわかんねぇよ)


 ジルハードはそう思いながら、掴み取った矢を証拠品としてボスに渡すのであった。

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