保守派と改革派


 エルフの国へと足を踏み入れた俺達。


 ジルハードに少し余計なことを言って暴走させてしまったが、少し時間が経てば正気に戻ってくれた。


 いやー、ジルハードの娘の話はダメだな。欠片も人の話を聞きやしねぇ。


“今から娘の所に行ってくる!!”とか言い出した時は、本気で頭を殴ってやろうかと思ったレベルだ。


 結局、リィズにぶん殴られていたが、それ程までにジルハードの頭はおかしくなってしまっていた。


「見られてるな。ノース村長がいてくれるから見られているだけで済んでいるが、敵意も感じる。村のようにエルフたちと話すのは厳しそうだ」

「だね。でも、結局は王様を何とかして信頼を得られればなんとかなる。アリカの頑張りにかかってるかもね」

「あまりプレッシャーをかけないでくれリーズヘルトお姉ちゃん。それは私が1番よく分かってるんだからな」

「そんなに背負わなくてもいいぞアリカ。ダメならダメで他の手もあるだろうしな。そこまで気負うような事じゃないさ。最悪の場合は、全員ぶっ殺せばなんとかなる」


 エルフの国の中を歩く俺たち。


 エルフの国は、俺が想像していたようなファンタジー溢れる街並みになっており、そこには多くのエルフが街を歩いている。


 大木を切り抜いて作ったと思われる家や、木の上に建てられた家。普通に地面に建てられている家など、あの簡素な村からは想像出来ないほど様々な場所に家が建てられエルフが暮らしている。


 そして、ジルハードの言う通り俺達は完全に見せ物になっていた。


 元々敵対しているはずの人間がエルフの国へと入ってきているのだ。興味本位で見たくなるのはエルフも人も変わらないらしい。


 さらにジルハード曰く敵意も感じるらしいので、あの村のように平和的な交流が必ずしもできるとは限らないだろう。


 むしろ、戦争をした敵として襲ってくる可能性だってある。


 気分はアレだな。水族館でお散歩を見世物にされるペンギンだ。


 俺は何かと目立って人目に晒されることに慣れているから特に何も思わないが、少しだけペンギンの気持ちが分かった気がする。


 ごめんよペンギンさん。こんなにも視線に晒されていただなんて、お前達も大変だな。


 困ったら言ってくれよ?解放してやろうと思えばできるから。


 そんなアホなことを思いつつ、仲間たちと共にエルフの街を歩いていくと1つの大きな木が見えてくる。


 森の中のため視界が悪くダンジョンに入って直ぐには見えなかったが、ある程度まで近づけば見えてくるらしい。


 地球に存在する大木なんかとは比べ物にならないほど大きく、見上げてもなお頂上が見えないその木。


 枝分かれしたその木々から生い茂る葉っぱはどの木よりも生命力を誇っており、見ているだけで“生きている”という事がわかる。


 一目見たら誰でも分かるだろう。これが、エルフ達が言っていた世界樹だ。


 このダンジョンの中の世界でもっとも神に近く、そしてこの世界に生きるもの達を守る木。


 実際に神を見たことがある俺でも納得してしまう程の神聖さを持つこの世界の守護者が、確かに存在していた。


「凄いな。地球じゃ決して見ることの出来ない馬鹿でかい木だ。これが世界樹って奴なんだろ?」

「大きいね。神話の世界に出てきそうな程壮大だし、イメージにピッタリだよ。しかも、この世界にはエルフ以外の種族も居るんでしょう?って事は、やっぱりグレイちゃんの言っていた通りこの世界は世界樹ユグドラシルに近い世界かもしれないね」

「ボスが“神話の世界”って言った時は確信が持てなかったが、確かにこれはあの九つの世界に出てくる世界樹と思っても仕方が無いな。となると、この世界樹の下にも上にも世界があるのか。まさか、神も存在しているのか?ヘルヘイムや、ニヴルヘイムなんかもありそうっちゃありそうだよな」

「ただエルフが出てくるダンジョンかと思えば、このダンジョンも神話の世界のダンジョンだったって訳っすか。呼び名を変えないといけないっすね。このダンジョンは“エルフの森”ではなく“世界樹ユグドラシル”と言った方が正しいっすよ。そして、その事を知る人間は今の所俺たちだけ。全世界が500年かけて調べてきた五大ダンジョンの真実よりも、攻略を初めて僅か二週間足らずの俺達の方が真実に近いだなんて凄いっす」

「あの葉っぱを採取してみたいな。神話に語られる世界樹が、本当に噂されるような効力を持つのかすごく気になる。全てを癒す万能薬エリクサーになるとは聞くが、本当に作れるものなのか?」

「........あの木、膨大な魔力を含んでいますね。しかも、軽く計測した感じ天文学的数値レベルの魔力です。あの木1つで地球に存在する全魔力を超えます。文字通り、格が違いますね」

「これが世界樹。お爺さんはここに来たことがあるのよねん?」

「フォッフォッフォ。あの頃は必死すぎて何があったのかなんぞ覚えておらぬわ。湖があったことぐらいしかの」

「こんな世界もあるのですね。普通に生きていれば経験することの無い景色........これは、良き経験かもしれません」


 あまりにも圧倒的すぎる存在感を放つ世界樹を見上げ、圧倒される俺達。


 でも、存在感だけで言えばピギーの方が上なんだよな。ピギー曰く、ピギーは今封印状態にあるらしい。


 封印されてもなおこの世界樹を超える存在感を放てるとか、お前ヤバすぎね?封印が解けたらどうなっちまうんだよ。


 尚、ピギーの封印はピギー本人も望んだことらしいので少なくとも俺が死ぬまでは解くことは無いらしい。もし封印が解けると、俺を含めてこの世界が死ぬんだとか。


 まぁ、ピギーは一人ぼっちが嫌いだもんな。少なくとも、俺が死ぬまでは一緒に居てあげるよ。


(ポヨン!!)

「ナー」


 俺の服の中に隠れているスーちゃんとナーちゃんも、凄まじい存在感を放つ世界樹を見て軽く興奮している。


 スーちゃんの場合は“食べたら美味しいかな?”とか思ってそうだが、ナーちゃんは純粋に驚いていた。


「ホッホッホ。我らが世界の守護者はどうかね?」

「凄いですね。こんなにも巨大で神々しい木を見たのは初めてですよ。何故、エルフやその他の種族が世界樹を神として信仰するのか分かった気がします」

「儂らはいつの世もこの世界樹に守られていたのだ。世界樹無くして繁栄は有り得ぬ。だからそこ、今起こっている問題をなんとしてでも解決し、この世界に平穏を守らねばならん」

「........エルフ同士で争っている場合では無いですね」

「全くだ。だが、悲しい事にそれを理解していても異なる思想はぶつかる。グレイ殿の話を色々と聞くに、人もエルフもそう変わらんのかもしれぬな」

「ノース村長の言う通りですね。人が団結するのはそう簡単な事では無いのです。だから、争いが起こる。政治において、思想の統一が重要だと言われる理由がよく分かりますよ。それが正しいかはさて置きね」

「ホッホッホ!!思慮深い生命が存在する時点で、真の意味での正解は無いのかもしれんの。世知辛い世の中じゃろうて」


 世界樹に驚く俺たちを見ながら、ノース村長はそう言いながら笑う。


 エルフも人もそう変わらない。言葉を話し、集団で生活し、いがみ合い時に協力する。


 それが、この世界なのだ。思考を持った時点で、人とさほど変わらない未来を辿る。


 頭のいいイルカとか、群れの中でイジメとか起こるらしいからな。しかも、結構エグいことをやるらしいし。


 そんなことも思いつつ、俺達はエルフから視線を集めつつこの国の王に会うため足を進めるのであった。




【世界樹】

“エルフの森”ダンジョンに聳える巨大な木。地球に存在する全ての魔力を合わせても世界樹に内包されている魔力には及ばず、この世界樹が世界を作っている。世界樹の葉一枚ですらSランクハンター以上の魔力が内包されており、そんな環境下で育った生命は当然信じられない程の魔力を手にする。

 エルフが馬鹿げた強さを持っているのは、世界樹のおかげと言っても過言では無い。



 エルフの国を歩いていくと、世界樹の周りに沿って建てられた建物が見えてくる。


 恐らくあそこが城なのだろう。神聖視する世界樹から最も近い場所に城を建てる。世界樹を信仰するものからすれば、世界樹に最も近いところが神の居場所となるのだろう。


 そんなエルフの城であるが、正直城と言うよりかは大きなログハウスと表した方が近い。


 エルフの国の建築物は少し人間と違っていた。


「何事も無く本当にエルフの本拠地まで来れちまったな。ここで王を暗殺でもしたらゲームクリアになるんじゃないか?」

「ダンジョン攻略から暗殺ミッションに変わったって事っすか?ですが、エルフの王がボスとは限らないっすよ。ボスの話曰く、この世界は神話の世界。どうするんすか?世界樹ユグドラシルに存在する天上の存在がボスとかだったら」

「変なこと言ってんじゃねぇぞ三等兵アーミー。グレイちゃんの計画を少しでも邪魔したらぶっ殺すからな」

「分かってるって。流石に俺とそこまで頭がぶっ飛んでるクレイジーな訳じゃない。ちゃんと大人しくしているさ。何せ、病状の王がこのダンジョンのボスとも思えないしな」


 エルフの王が住まう場所でコソコソと話すジルハード達。


 ダンジョンの外にエルフが出てきていたので、エルフの森と名付けられたこのダンジョンだが、実際にダンジョンの中にハイレバ様々な種族の魔物が存在している。


 つまり、正面から殴り込んでもエルフの王がボスとは限らないのだ。


 ダンジョンに出てくるボスってかなり分かり難いらしいからな。他の魔物よりも強いから“ボスなんじゃね?”と言われることが多いのだが、時には“え?こいつがボスだったの?”みたいな事も多くあると言われている。


 つまり、誰も正確にどの魔物がダンジョンボスとして存在しているのかは分からないのだ。


 本当、面倒な世界だよ。ゲームのダンジョンのようにボス部屋を用意して置いてくれ。


 レッドドラゴンの時とかは分かりやすかったんだからさ。


 そんなことを思いつつ歩いていると、ノース村長の前に1人の年老いたエルフがやってくる。


 明らかにこちらを敵視した視線と、その護衛。


 自己紹介されなくともわかる。コイツは保守派のエルフだ。


「何故神聖なる地に猿にも劣る野蛮人共が入り込んでおるのだ?ノース、貴様のペットか?」

「口を慎めガードン。儂の客人だと言うのが見て分からぬか?........あぁ、老眼で見えなかったなそう言えば。何も見えなくなる前に引退したらどうだ?」


 早速バチバチにやり合う2人。


「殺す........」

「落ち着いてくださいリーズヘルト先輩。ここで騒ぎを起こすと主人マスターの計画に支障が出ます」

「........分かった」


 リィズが一瞬ガードンと呼ばれた老人エルフの言葉に反応して動きそうになっていたが、レミヤが慌てて止めてくれた。


 よくやったレミヤ。今月の給料をアップしてあげるぞ。


「吠える事しか脳のない猿を見せびらかして野蛮人博覧会でも開く気か?客人と呼ぶには些か程度が低すぎるだろうに。どうせ我々の言葉も分からぬ家畜だろう?」

「同じ言葉が話せても話が通じないよりかはマシだと思うがな。むしろ、同じ言葉が話せる方が胸糞悪いとは、世の中不思議なものだ。世界樹様もさぞ頭を悩ませておるだろうよ」

「なんだとくたばり損ないのジジィが........改革派という名のテロリスト共が調子に乗ってんじゃねぇぞ」

「退化と言うなの停滞を選び、先に進むことを恐れた玉無しが何を言っても無駄だな。実は女だったりせぬか?夜な夜な隣の男共と遊ぶのはさぞ楽しいだろうよ」

「あ"?どうやら今ここで死にたいようだな?ぶっ殺してファックでもされればその頭も少しはマシになるかの?」

「ホッホッホ。やれるもんならやってみぃ........その時は貴様の首諸共この地の肥料にしてやるわい」


 ........どこの世界も殺伐としてんな。あの平和な村に帰っていいですかね?


 恐らく自動翻訳が勝手に変換してくれているのだろう。エルフ語では絶対に言わないであろう“ファック”とか聞こえてくるんだけど。


 エルフスラングも汚ぇな。グダニスクとそう変わらないんじゃね?


「ノース村長。サッサと行きましょう老害動物園は見飽きました」

「ブホッ!!ホッホッホ!!確かにそれもさうじゃな。では、儂らはこれで。まだ絡んでくるなら無視するからの」

「........チッ、くたばれ死に損ないが」


 クソくだらない言い合いを見ていてもいいが、グダニスクとやってることが変わらないので俺はノース村長に会話を切り上げてもらうように告げる。


 保守派のガードンは最後の最後まで俺達を睨み続けていたが、これ、面倒事が飛んできそうで嫌だな。

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