エルフの国へ


 病に犯されたエルフの王を助ける為、俺達はエルフの国へと向かうことになった。


 村長が王と仲のいい人だとは思わなかったが、なんかいい感じに全部進んでいるので深く考えないようにはしている。


 もう流れに身を任せよう。そうしよう。


 今までもなんやかんや綺麗に纏まってたし、もうこれでいいや。


 そんな投げやりな思考になりつつ、俺達はエルフの国と人間の世界を繋ぐダンジョンへとやってきた。


 青森から東京まで歩いて移動するのはキツイのでは?と思ったが、どうやらエルフの魔法はかなり便利であり現在の地球では考えられない“転移魔法”が存在していた。


 個人で使うのは難しいらしいが、ノース村長の話によると特別な魔法陣と莫大な魔力によって使えるらしい。


 あまり気軽には使えないのがネックとは言っていたが、この距離を一瞬で移動できる時点でかなりのものだ。


 この魔法ひとつで戦争の在り方が変わるぐらいには、エルフの魔法は可能性に満ちている。


「こんなにも早くダンジョンの入口に来られるとは思ってなかったな。最初降下する場所を決めた時は年単位での移動を覚悟していたと言うのに、これも想定通りか?ボス」

「偶然に決まってるだろ。俺を預言者ノストラダムスとでも思っているのか?この先の未来なんざ神にすら分からねぇよ」

「そうは言っても、あまりにも順調すぎるじゃねぇか。ボスは今までもありとあらゆる事を予知して実行してきた実績があるしな。みんな分かってんだぜ?ボスは自己評価が低すぎるってことをな」

「その目ん玉抉りだして眼科にでも行け。何も見えてないその目は飾りだろ」


 巨大なダンジョンの入口の前に立つ俺達。


 ダンジョンの大きさは今までに見た事がないほど大きく、城が丸々ひとつすっぽり入るんじゃないかと思う程に大きい。


 そんなダンジョンの入口を見上げながら、ニヤニヤと俺に話しかけるジルハードには軽くウンザリしていた。


 いつもそうだが、こいつらは俺の事を過大評価しすぎである。


 偶々エルフに出会い、偶々出会ったのが改革派と呼ばれる友好的なエルフで、偶々俺がエルフの言葉が話せて、偶々その村の村長が黒王とお友達だったと言うだけなのに、なんで全て俺の計画通りみたいな流れになってんの?


 べつに勘違いしてしまうのはいいが、俺の言葉を全く信用しないのは勘弁して欲しい。


 俺は嘘っぱちの大預言者ノストラダムスでもシャーマンでもイエス・キリスト無いのだ。


 ただの一般高校生に一体何を求めているんだこのアホ共は。


 ジルハードだけが勘違いするならまだ我慢したが、俺以外の全員が“ボスすげー”ってなるのは勘弁して欲しい。いやほんとに。


 既に膨れ上がりまくっている俺への期待値が、さらに膨れ上がりすぎて怖いよ。


 こいつらマフィアの癖に人を信頼し過ぎだ。なんで俺がこんなにも評価されているのか、コレガワカラナイ。


「ボスの過小評価は相変わらずっすね。一応ボスは、たった数ヶ月で世界最悪の都市のトップに立つだけの実績があるんすよ?」

「グレイちゃんにとってはこのぐらい当たり前なんだよ。当たり前の事をやって褒められても嬉しくないでしょ?それと同じなんじゃない?私達とは格が違うんだよ格が」

「格が違い過ぎて大変よねん。私達はついて行くのが精一杯だわん」


 俺はお前達の考えについていけなくて困ってるよ。


 あー、頭が痛くなってきた。


 俺はタバコに火をつけ、ゆっくりと煙を吸う。


 こういう時のタバコは現実逃避をさせてくれる。流石に薬物に手を出とあのクソッタレの街でよく見たジャンキー共の仲間入りになってしまうのでやらないが、ニコチンならセーフセーフ。


 もうタバコが無いと生きていけないな。ルーベルトめ。子供になんてことを教えたんだ。


『ピギィ?』

「心配してくれてありがとな。でも、大丈夫だよ。こう言うのはいつもの事だから。かなり諦めてる」

『ピギィ........ピギッ!!』

「あはは。頑張るよ。ごめんなピギー。中々呼び出してやれる機会が無くて。また遊ぼうな」

『ピギー!!』


 仲間のアホさ加減に疲れていると、俺の右手に宿るピギーが心配してくれる。


 常に死の感覚が付きまとうヤバい子だが、俺が疲れている時に心配して声をかけたり励ましてくれるいい子だ。


 このファミリーの中で1番まともなのがピギーやスーちゃん達って、このマフィア終わってないか?


 この子達は俺の話をちゃんと聞いてくれるし、大体のことを察して慰めてくれたり遊んでくれたりする。


 グダニスクにいた頃も、誰もいない所でひっそりと慰めてもらったこともあった。


 リィズもリィズでなんやかんや俺の事を慰めたり優しくしてくれるが、盲目の狂信者の為、こういう時はマジで話を聞かない。


 それでもリィズはマシな部類なんだけどね。1番話を聞かないのはレミヤかもしれん。


 何をやっても全肯定。全ての道は俺に通ずるみたいな考えをしている為、本当に俺が何を言っても話を聞かない。


 もうこの組織でやって行ける自信が無いよ。誰もボスの話を聞いてくれないんだから。


 俺を癒してアーサー!!また愚痴を聞いてよ!!


 俺はのメンタルが徐々に悪い方向に向かっていると、ノース村長が戻ってくる。


 人間を正式に国へと招く為の手続きやらなんやらをしなければならなかったらしく、一旦放置されてたからね。


 ちなみに、ノース村長は本当に偉い人だったらしく、人間を連れてきたノース村長を見て怪しんでいたダンジョンの管理人が途中から顔を真っ青にしてペコペコと頭を下げていた。


 独断で人間を連れてこられるような人なので只者ではないと思っていたが、俺が想像している以上にこの人は凄い人なのかもしれない。


「手続きが終わったぞ。この首飾りを掛けておけば、一先ずはお主らに手出はできぬはずだ」

「これは?」

「儂の客人を表す首飾りだの。本物かどうかを認識するための魔法が織り込まれているが、それ以外は特に何もないただの首飾りだ。全員掛けておけば、いきなり殺される事もない。頭の弱い保守派の連中に少し絡まれるかもしれんがな」

「........なるほど?取り敢えず首にかけておくよ。ここで嘘をつく必要も無いしね」

「できる限り保守派とは揉め事を起こして欲しくないが、ほぼ間違いなく起こるだろう。だから、絡まれても殺しさえしなければ好きにやってくれて構わん。言葉の通じんエルフはエルフにあらず。叩きのめさなければ、奴らはまともに会話も出来んのでの」

「気をつけるよ。暫くはノース村長と一緒に行動しようかな」


 これ、絶対に頭の悪いエルフに絡まれるよ。しっかりフラグが立っちゃったよ。


 俺はこの先まず間違いなくエルフと揉める瞬間が来るんだろうなと思いつつ、首飾りを受け取ってダンジョンの中へと入るのであった。




【ノストラダムス】

 ルネサンス期フランスの医師、占星術師、詩人。また、料理研究の著作も著している。日本では「ノストラダムスの大予言」の名で知られる詩集を著した。彼の予言は、現在に至るまで非常に多くの信奉者を生み出し、様々な論争を引き起こしている。

 特に有名な預言者が、“1999年7月に人類が滅亡する”と言うもの。日本でのオカルトブームの先駆けとなり、映画まで公開されいる。




 エルフの国へと足を踏み入れた俺達が最初に見たのは、視界一面に広がる鮮やかな緑であった。


 外の世界にあった森とは待つ全く違い、神聖さを感じるレベルの綺麗な緑であり、その木々が“生きている”という事がよく分かる。


 かつて栄えた偉大なる国日本の首都東京も、長い歴史の中でほぼ全てが森と化していたが、ここはそんな東京では感じられない程に綺麗で美しかった。


 おぉ、初めてダンジョンに潜った時よりも感動しているぞ。空気が新鮮だし、何より自然がとても綺麗だ。


 エルフと言えば綺麗な森と言うイメージがあったが、これはそのイメージにピッタリな森である。


「綺麗だな。私の知らない木々だ」

「また暴走するなよアリカ。ここはすでに敵陣だ。この前みたいにはしゃぎまくると今度はヤバいことになるかもしれんぞ」

「さすがに弁えているさ........少々下着が怪しいがな」

「........あぁ、そう........」


 なんとも返しづらいアリカのコメントに、適当に頷くしかできない俺。


 こういう時どうやって返せばいいんだ?こちらの世界に来る前までほぼ女の子と話してこなかったからか、話し方がわかんねぇよ。


 誰か助けてと心の中で思ってしまうが、そもそもこのロリっ子の性癖が可笑しいのだ。俺は悪くない。


「ここがエルフの森........ついに五大ダンジョンの中に入れたんだな。しかも、全く戦闘もなしで。俺の夢がひとつ叶った気分だ。ボスに着いてきて良かったぜ」

「ジルハードは五大ダンジョンを見に行くのが夢だって言ってたね。懐かしいよ。三等兵アーミーに出会った日が」

「あの頃は酷かったな。特にリーズヘルトが暴れ回りまくってたから、俺も困ってたぜ。今じゃ慣れちまってなんとも思わなくなったがな」

「あ?喧嘩売ってんのか?なんなら今ここで夢の果てを見せてやってもいいんだぞ?」

「なんで急に喧嘩腰になるんだよ。単純に事実を言っただけじゃねぇか」


 五大ダンジョンに行こうぜと誘ってくれ、リィズを除いて一番最初に仲間になったジルハード。


 彼の夢は五大ダンジョンを見に行くことであり、この光景を見られただけでも夢のひとつが叶ったと言えるだろう。


 ガキみたいな夢を掲げて俺達とバカ騒ぎしてるんだがら、そりゃ感動に浸りたくもなるものだ。


「ありがとなボス」

「どういたしまして。だが、まだ四つ残っているし、ここも攻略してない。勝手に死んだらその死体を変態共に売り付けてファックさせるからな」

「おー怖い怖い。俺の身体は嫁のもんなんでな。そいつは勘弁させてもらおう。寿命で死ねば、ボスも墓を立ててくれるのか?」

「墓標にはなんて書けばいい?」

「“史上最悪の馬鹿、ここに眠る”でよろしく」

「........もっと、こう、かっこいい感じので決めろよ。あの世の嫁さんが泣くぞ」

「そうか?俺らしいと思ったんだがな」

「ま、その話はもっと先の話だ。お前の子供が孫を産んでくれて、ジルハードが死ぬほど孫を甘やかす未来よりもずっと先のな」

「は?うちの子は男とか作らないが?作ったとしたらボスもリーズヘルトもみんな巻き込んでその男をぶっ殺しに行くが?」


 子供の話に触れると、急にキレるジルハード。


 そうだった。こいつ、子供の話になると滅茶苦茶沸点低いんだった。


「なんだ?お前まさか、“パパと結婚する!!”って言う幼き時の子供の戯言を本気にするタイプか?医者に頭の中を見てもらえよ。もう手遅れだろうがな」

「流石にそれは無いわ........ジルハード、流石にそれは無い」

「ちょっとそれはやめた方がいいっすね。ガチで嫌われますよ」

「子供にとって親の束縛は毒でしかないぞ。その彼氏がジルハードの娘を鴨だと思ってんなら別だが、本当に愛し合ってるならそっとしてやれ。過干渉な父親は、娘から死ぬほど嫌われるぞ」

「冗談とかではなく、本当に辞めた方がいいですよ。アリカの言う通り、女を穴としか思わないクズなら殺していいですが」

「ちょっとそれは無いわねん。愛に干渉する親は嫌われるわよん」

「私はノーコメントで」

「フォッフォッフォ。儂もノーコメントで」


 娘に彼氏が出来たらぶっ殺すと言い始めるジルハードに大ブーイングを浴びせる俺達。


 ジルハードの言い方が冗談ではなかったので、みんな割とマジめに止めようとしていた。


 確かにどうしようもないクズなら殺してもいいが、普通の恋愛をしてるなら辞めてやれよ。娘さん泣くぞ?


 しかし、この親バカには全く話が通じない。


 一昔前の頑固親父のように、ジルハードは首を横に振った。


「男なんてみんなクズだ!!そんなクズと付き合うなんて絶対に許さんぞ」

「........自分がクズなやつが言うと説得力が違うな。その理論で行けば、俺達もクズか」

「あながち間違ってないのがなんとも言えないっすね。少なくとも、俺もボスも世間一般から見たらクズの部類でしょうし」

「私は違うわよん?私は心は女だからねん」

「フォッフォッフォ。否定はせんな」

「だろ?だからうちの子に男が出来たらぶっ殺してくるさ。絶対にウチの子を守ってやる」


 あぁ、これはもうダメだ。手遅れだ。


 俺は全てを諦めると、どうかこの世界のどこかで暮らしているジルハードの娘さんが幸せになれるように神に祈っておくのだった。

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