目を覚ませアホ共


 ノース村長との会話ゲームを終えた俺は、村の滞在を許されたのでリィズ達も連れて村でエルフ達と友好を深めていた。


 リィズや爺さんには耳にタコができるほど“騒ぎを起こすな”と言いつけ、できる限り俺と一緒に行動してもらっている。


 マジでいい感じだからやらかさないで欲しいのだ。俺も人の事は言えないが、今一番やらかす可能性が高いのはこの二人である。


「へぇ?エルフの国以外にも他の国があるんだな。どんな国があるんだ?」

「ダークエルフの国や巨人が住む国、ドワーフなんかもいるぞ」

「色々な種族の国があるんだな。みんな世界樹の恩恵を受けて暮らしてるのか」

「そんな感じだな。だからこそ、世界樹を守る必要がある........んだが、大体みんな仲が悪い。だから、新たな風が必要だと考えているのさ」

「なるほど。だから改革派が出来たんだな。そっちの世界も大変だな」

「全くだ。皆仲良く手を繋いで平和を歌う事すりゃできやしない。種族のプライドだのなんだの言ってな。面倒な世界だよ」


 この村に入ってきてから1週間ほど。最初に仲良くなったリードからかなりの情報を引き出せていた俺は、とある推測が頭に浮かんでいた。


 村長と話していた時は確信がなかったが、今なら確信を持って言える。


 このエルフの森ダンジョンは、恐らく世界樹ユグドラシルをベースにしたダンジョンだ。


 エルフに世界樹。更に巨人族やダークエルフやドワーフまで。


 そして、俺たちを含めた人間の世界。


 ここまで来れば、いやでも想像してしまうだろう。


 九つの世界が存在し、世界樹と共に生きる世界を。


 神話の創作物として書かれていたものが、この世界では存在している。


 IND(インド)辺りに存在するダンジョンに、神話をモチーフにしたのでは?と思われているダンジョン“黙示録”もあるらしいし、このダンジョンも神話をモチーフにしているのでは無いだろうか?


 俺にしては冴えてるな。となると、世界樹の問題はニーズヘッグが根を食ってる事ぐらいか?


 ........やばくね?ニーズヘッグってめちゃくちゃ強くね?


 実際に見てみないとなんとも言えないが、少なくともあのレッドドラゴンより強い気がする。


 と言うか、絶対に強い。


 もしかして、難しいルートを辿っているのではないかと少し思いつつもまだ確定した訳じゃないしなと、思い直しリードと会話を続けた。


「それにしても、平和な村だな。正直、もっと殺伐としてるかと思ってたよ」

「お前はエルフをなんだと思ってるんだ?血で血を洗う戦争は人間たちとやったのが最後だよ。その時はまだ俺は生まれてなかったがな」

「俺も生まれてねぇな。なんなら先祖の先祖すらも生まれてない。俺たちにとっては、遠い過去の話だわな」

「全くだ。頭の硬いジジィババァ共には隠居してもらいたいね。村長を見習って欲しいぜ」


 そんなことを話していると、後ろからリィズが肩を叩く。


 何かと思って振り返れば、リィズは今の会話の内容を確認してきた。


「今の話、エルフ以外の種族が存在していて最後に戦争をしたのはダンジョン戦争した時って内容?ちょくちょく聞き取れなかったけど、そんな感じの話をしていた気がする」

「大体あってる。すごいなリィズ」

「えへへ。表向き市民行動サービスSACとして居た頃は、色んな言語を覚えさせられたからね。こう言うのは得意だよ。おじちゃんも分かってたみたいだし」

「フォッフォッフォ。敵国の言葉は分かった方が良かったからのぉ。英語や中国語は頑張って覚えてたわい。懐かしいのぉ........」


 まだエルフの言葉を教え始めて一週間ポッキリだというのに、俺の仲間たちはあまりにも優秀過ぎた。


 リィズやレイズは元々軍人の為他国の言語を覚えさせられる機会が多く、ミルラも元PMCで世界中を飛び回っていたので言語理解が早い。


 爺さんは戦争をやっていた時代に、敵国(主にアメリカと中国)の言葉を理解するために必死で言葉を覚えたそうだ。そのノウハウが蓄積されているので、エルフの言葉をサクサクと覚えてしまう。


 レミヤはそもそも人工知能があるので、それに学習させることで俺と同じぐらいに話せるし、アリカは普通に頭がいい。


 ローズは各国から指導をして欲しいとやってくる人が多かったため多言語に優れていた。


 俺は神様チートで何とかなっているが、ジルハードはかなり苦労している。


 ジルハードも二か国語話せるので普通にすごいのだが、やはり他の人たちと比べると頭も固く物覚えも良くない。


 会話には苦労しているが、持ち前の性格とジェスチャーで全てを補うとか言う荒業をしていた。


 俺なんて英語すらまともに覚えられなかったのに、なんでコイツらこんなに優秀なんだ。


 元々ハイスペックな奴らの集まりだとは思っていたが、ハイスペにも程があるだろ。


 まだエルフの言葉を覚え始めてから一週間ちょっとですよ?なんで当たり前の様に会話ができるんですかね?


 これで社会性があれば表社会でも生きていけそうだが、生憎全員どこかの頭のネジがぶっ飛んでいるので表社会では生きられない。


 1番まともそうなミルラも何かとやばい言動をするので、彼女はもらい事故を受けてなくともこちらの世界に来ていただろう。


 グダニスクに居た時とか酷かったからな。“私常識人ですよ”と言った顔をしていた癖に、あっさり街に馴染んで絡んできたヤツをぶっ殺してたからね。


 人を殺して“小銭稼ぎにはいいですね”と真顔で言う奴がまともなわけが無い。


 仲間達が想像以上にハイスペで、それと比べたら俺は型落ちのノーパソにも劣ると思っているとリードが再び話しかけてくる。


「そういえば、アリカお嬢さんのおかげで流行りつつあった病が治ったな。みんな感謝してたよ」

「アリカは薬を作るのが得意だからな。ちょっと頭がおかしいところもあるけど、基本はいい子だし可愛がってやってくれ」

「この村にも薬師はいるんだが、そいつが驚いていたよ。なんでも、自分の体で薬の効力を確かめようとしたとか何とか。“頭がイカレてやがる”って驚きつつも、感心していたぞ」


 エルフの村で生活をするようになり、狩りや畑の手伝いなどをするようになった俺達だが、その中でもアリカの活躍は凄まじかった。


 薬草の研究員であり、その能力で上級治癒ポーションすらも作れてしまう天才少女はこの村で流行りつつあった病をあっという間に治し予防薬まで作ってしまったのだ。


 お陰でアリカは村のヒーロー的存在となり、今やエルフ達はアリカに頭が上がらない状況になってきている。


 人懐っこい性格も相まって、ちょっとしたアイドルになっていた。


 本人は全く気にした様子もなく、なんなら“みんなが沢山薬草をくれるから、実験ができて楽しい!!”とはしゃいでいたが。


 それにしても、エルフにすら“イカれてる”って言われるとか凄いな。


 実はこのファミリーの中で一番頭がおかしいのはアリカなのでは無いだろうか?


 そんなことを思いつつリードと今日の狩りに出掛けようとしていたその時であった。


 この村の村長であり、俺達に友好的なノースお爺さんがやってきたのは。


「ちょいといいかの?話がある」

「俺たちにか?狩りがあるんだが........」

「いいよグレイ。元々は俺たちだけでやってた物だしな。グレイ達のお陰で随分と狩りが楽になったが、困ることは無いさ」

「本当か?そう言って一昨日、イノシシにケツを追いかけ回されていたのはどこのどいつだ?挙句の果てには獲物を爆発させやがって。狩人を名乗るには実力不足だろ」

「あ、あれは久々にバレッタがいたからだ。俺のせいじゃない。あの脳筋ゴリラが全部悪いんだ」

「........ふーん。リードがそういうならそういう事にしておいてやるよ。後でチクッとこ」

「ちょ、グレイ!!待て!!バレッタには言うなよ?!」

「ん?なんの話しかわからんな。ねぇ?バレッタさん」

「全くだ。私にはなんの話かわからんな。なぁリード。誰が脳筋ゴリラだって?」


 ピキピキと青筋を浮かべながら、リードの後ろに立つバレッタ。


 村長に話しかけられた際に、偶々俺たちの後ろにいたのだ。


 いやー失言しちゃったね。あとは頑張って。


 不味いと思ったのか全力で逃げ出そうとするリードと、それを許さないバレッタ。


 リードはあっという間に捕まえられて、ニッコリと笑ったバレッタに連れていかれてしまった。


 幸運を祈るグッドラックリード。君の尊い犠牲はあと五分ぐらい忘れないよ。


「ホッホッホ。リードも相変わらずだの。あんなアプローチの仕掛け方では逆に嫌われるというのに」

「やっぱりそうなんですね。リードは随分と子供ですね」

「昔から何かと面倒を見ていた姉のような存在だ。結婚の話が来ても断り続けているのを見るに........脈はあるかもしれんな」

「へぇ。それは楽しみだ。ぜひ、結婚式には俺達も呼んでくださいよ。人間代表としてね」

「ホッホッホ!!それはまだ先の話になりそうだの!!さて、ちょいと話すのするかの。既に貴殿のお仲間も集まっておるのでな」


 こうして、俺はリードの恋が祈ることを祈りつつノース村長の後ろを歩くのであった。




世界樹ユグドラシル

 インド・ヨーロッパ、シベリア、ネイティブアメリカンなどの宗教や神話に登場する、世界が一本の大樹で成り立っているという概念、モチーフ。世界樹は天を支え、天界と地上、さらに根や幹を通して地下世界もしくは冥界に通じているという。




 村長に連れられて村長宅にやって来た俺たち。既にアリカやジルハード達も集まっており、村長が今から大事な話をするのだと言うことが見て取れる。


 かなり友好的な関係を築いてきたつもりなので、急に“くたばれクソどもFuck you”と言われることは無いだろうが、何の話かは検討がつかない。


 やべぇ、どこかでルート選択をミスったかなと思いつつ、俺は大人しく椅子に座った。


「態々呼び出してすまんかったの。あまり大声で話せるものでも無いのでな」

「お気になさらず。お世話になっている立場ですし」

「そう言って貰えると助かるわい。で、早速本題に入るとしようかの。既に知っているとは思うが、儂らの王は病に犯されておる。今も床の上で倒れており、統率者が居らぬ状況だ」


 お、珍しく俺の推測が当たってたな。


 国が二分する理由は幾つかあるが、真っ先に考えられるのが指導者の不在だ。


 いつの世も、頂点に立ち皆を率いるものがいなければ組織は崩壊する。


 それはエルフと言えど変わりはない。


「しかし、次の王がまだ決まらぬ状況であり、更には内部分裂まで始まっておる。このまま行けば、エルフの国は内戦に突入する可能性も大いにある」

「人間からしたら美味しい話ですね。その内戦中に攻めこめば、このダンジョンを攻略できる可能性が上がりますよ」

「ホッホッホ。お主がエルフを殲滅する気なら、既にこの村は滅んでいる。そうだろう?」

「........」


 俺は何も答えなかった。


 エルフと一緒に暮らして情が沸いた........と言う訳では無い。せっかくの平和なんだから、平和を楽しみたいと言うのが本音である。


 戦闘は最終手段。殺らなければならないのであれば、俺はヘラヘラしながらリードも撃ち殺すだろう。


 実力的にできるかどうかは怪しいけど。


「そこで、儂は王を病から治す手段を考えた。そこのお嬢さんは長年生きてきたエルフよりも知識が豊富でこの村で流行りつつあった病を治すどころか、予防薬まで作る天才児。そのような子ならば、王の病も直せるのではないかと考えたのだ」

「病気による、が、できなくは、ない。少なくとも、進行を、抑える薬は、作れると思う」


 なれないエルフ語で話すアリカ。


 本当に凄いよ。まだ1週間程度しか経ってないのに、ここまで別言語を話せるのは天才の領域を超えている。


 ジルハード、俺たちは頑張って言葉を覚えような。なんか、ジルハードに親しみを覚えるよ。


「ふむ。ならば、行くとしよう。エルフの国の王都、世界樹の見える場所へ。人間が立ち入るのは本来不可能なのだが、わしはこう見えてもそこそこ偉いのでな。儂がいればなんとでもなるはずだ」

「本当ですか?なら、お願いしたいですね」

「任せるといい。儂と央は旧知の仲。今も昔のあ奴は儂の友よ」


 もしかして、俺滅茶苦茶運が良かったのでは?


 こんな辺鄙な場所の村の村長が実は超お偉いさんでしたとか漫画の世界かよ。


 こうして、俺達はエルフの森に来てから2週間足らずで本拠地に乗り込むことに成功したのである。


 仲間たちから“さすがボス!!全て分かってたんですね!!”と言いたげな視線を感じるが、それは見て見ぬふりをしておいた。


 分かっててやってる訳ないだろ。いい加減目を覚ませアホ共。

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