無駄に冴える時
好きな子にちょっかいをかける小学生男子の様な恋愛をしているリードに哀悼を捧げつつ、俺達はこの村の村長に合うため少し大きめの家を訪れていた。
この村は改革派が多く集まる村であり、現在エルフ達は何かしらの問題を抱えていると思われる。
上手く入り込むことが出来れば、彼らに恩を売り付けつつエルフのダンジョンを攻略出来るかもしれない。
そんな小さな期待を持って俺は村長宅の扉を叩いた。
「ごめん下さい。リードに連れられてやったきたグレイという者です」
「開いておるから入ってくるといい。よく来たなお客人よ」
コンコンと軽くノックをし、中にいるであろう人に呼びかけると返事が返ってくる。
声が随分と年老いている。若いエルフが集まる村とは聞いたが、どうやら村長はご老人のようだ。
入る許可を貰ったので、俺は一応仲間たちに“失礼のないようにね”とだけ言って扉を開ける。
ファミリーの中でも常識人枠を連れてきたつもりではあるが、アリカの様に暴走する可能性も否めないからね。
一番失礼をしそうなのが俺なんだけどさ。
部屋に入ると、そこには1人の老いたエルフが椅子に座っていた。
目も細く、髪も白い。皺くちゃなその見た目は、誰がどう見てもご老人である。
「よく来てくれた........ところで、リードとエジストはどうしたのだ?」
「あー、バレッタという女性に連れ去られました。自身の好意を察して欲しいのか、“根気を逃した女”と言ってしまったので........」
「ホッホッホ。それはリードだの。普通にアイツが悪い」
長く整えられた白い髭を擦りながら笑うお爺さん。
良かった。怖そうな人では無さそうだ。
「取り敢えず座るといい。色々と話をしたいとは思うが、まずは茶の1つでも出して歓迎してやらねばな」
「お気遣い感謝します。村長」
村長はそういうと、ゆっくりと立ち上がって後ろにある台所へと向かう。
ゴホッと咳をするご老人にお茶を用意してもらうというのは少々申し訳なかったが、客人がここで出しゃばる訳にも行かないので大人しく椅子に座って待つことにした。
「ボス。なんて言ってたんですか?」
「歓迎する。お茶を出してやるから待ってろだってさ。かなり優しい言葉遣いだ。いきなり頭を吹っ飛ばされることはなさそうだよ」
「どこぞのイカれた街じゃないんだ。急に強盗がカチコミに来ない限りは、そんなことにはならんだろ」
「あの街に染まりすぎたな。今もどこからか
「ご安心を。私が護衛をした際に何度も襲撃にあってきましたが、誰一人として殺させることは無かったので」
「頼もしいな。ミルラを雇ってよかったよ。ほら、俺を護衛してくれる奴って大抵頭のネジが外れてるから、ミルラの様な常識人がいてくれると助かるんだ」
「私が常識人扱いされている時点でだいぶ終わってますけどね。大丈夫ですか?この組織」
俺も不安で仕方がないよ。一応、3日経っても戻らなかったら勝手に動いていいとは言っているが、あの狂犬リィズちゃんが大人しく待てをできるのかが心配で仕方がない。
だが、連れてきたら連れてきたで絶対に問題を起こすので連れてこられない。
爺さんもちょっとやらかしそうで怖いし、その為に2人を止められるであろうジルハードやローズ等、戦いに強いやつを残したが........不安なものは不安である。
大丈夫だよな?やらかさないよな?
そんなことを思いつつ待っていると、村長がお茶と菓子を用意して帰ってきた。
「エルフの中ではよく飲まれるお茶と、それに合う菓子だ。人間の口に合うかは分からんが、ゆっくり味わってくれ」
「ありがとうございます」
俺はそう言いながら、早速お茶を頂く。
毒が入っている可能性もあるが、少なくとも村長に敵意や殺意は感じなかった。
お茶の味は普通。こちらの世界ではほぼ飲むことは無い日本の緑茶の味がする。
懐かしいな。爺さんが飲んだら涙を流しそうだ。
「うっ........正直苦手な味かも」
「アリカにはこの味は早かったか。他は?」
「俺も正直ちょっと........よく飲めますねボス。訓練生の時に飲まされた泥水よりはマシっすけど」
「私は普通です。仕事柄もっと不味いのも飲んでます。私も、泥水をすすった事もあるのでそれよりは全然いけますね」
「........今度私も泥水とかすすった方がいいのか?」
「辞めとけアリカ。お前は軍人やPMCじゃないんだから。無理する必要は無いぞ」
日本人でも緑茶はダメという人は居るのだ。これはアリカが悪い訳では無い。
真面目に泥水をすすろうかと言い始めるアリカをとめつつ、俺は村長との話を始める。
先ずは何から話すべきかな........出来れば、情報を多く仕入れたいけど。
「美味しいお茶ですね」
「ホッホッホ。隣のお嬢さんには合わなかったようだかね。さて、自己紹介をするとしよう。儂はこの村の村長であるノース。好きなように呼んでくれるといい」
「俺はグレイです。こちらの少女がアリカ。そしてレイズとミルラです。よろしくお願い致します。ノース村長」
そう言って俺とノース村長は握手を交わす。
滑り出しは上場。ここからはアレだな。好感度上げゲーだな。できる限り最適の選択をし続け、好感度を必要最低限まで上げなければならない。
しかも、“
俺はギャルゲーとかもやった事があるが、結構苦手な部類なんだよなぁ........女心は一生分かる気がしないよ。
今回の相手は爺さんだが。
「さて、自己紹介も住んだところで、色々と話してみるかの。友好的な人間が来てくれるとは、儂も予想外であった」
「こちらも、友好的なエルフと出会えるとは思っていませんでしたよ。お互いにお互いを敵として認識しあっていた仲ですからね。リード達と最初に出逢えたのは運が良かったです」
「ホッホッホ。儂らは“改革派”と呼ばれる現状の打破を目指す者達の集まりだからの。特に、人間との交流や技術のやり取りは必要なのではないかと考えるものが多いのだ」
「良き考えかと。しかし、それにはリスクが常に着きます。だから、現状の維持を考える“保守派”も生まれる。どちらも一長一短ですがね」
「保守派の意見を分からなくは無いがの。人間と言えば、500年ほど前に戦争をした相手。今も尚、時折少数の人間がこちらにやってくることがある........グレイ殿は何をしにこの場所へと来たのだ?」
さて、最初の選択か。
ここで嘘をつくか素直に話すか。
どちらがノース村長の心を掴めるのか。この最初のルート選択で、全てが決まる可能性もある。
慎重に行かなければならないが、あまり時間をかけて答えすぎるとそれそれで怪しい。
それに嘘は後でバレる可能性が高いと考えると、ここは正直に話すべきだろう。
「このダンジョン........エルフの森を攻略しに来たんです。ダンジョンって分かりますかね?」
「ホッホッホ。分かっておるよ。あの世界樹とこの地を繋げる門のことだの。しかし、随分と素直に言うのだな。正直、嘘をつくと思っていたぞ」
「嘘をつけるならつきたいですよ。ですが、嘘とはいずれ真実の元に晒される。ならば、最初からつかない方がマシです」
「ホッホッホ。若いながらによく分かっておる。村の若いもんにも見習って欲しいな」
そう言いながら、上機嫌に話すノース村長。
よし、最初の選択肢は間違えなかったな。この調子で、会話ゲームを続けるとしよう。
ゲームだと思えば、多分なんとかなる。
「最初はエルフたちと戦い、勝利を収めることでこのダンジョンの攻略をしようと思っていたのですが、リード達と出会いエルフもただの魔物では無いと言うことが分かりました。見た目が違うだけで、人とさほど変わらない。ならば、友好的な関係も築けるのでは無いかと思ったのです」
「ふむ。それで?」
「ですから、先ずは我々人間の事を知ってください。その代わり、エルフのことを教えてください。仲良くなる為には、先ずお互いを知らないとダメでしょう?」
「ホッホッホ。確かにそうだの。儂らはお互いのことを知らなさすぎる。先ずはお互いを知ることから始めるかの。その後のことは、その時考えれば良い」
こうして、俺とノース村長の会話ゲームは進んでいくのであった。
【エルフの改革派】
人間達との交流を持つべきと考えるエルフ達のことを指す。現在、エルフの国では問題が起きており、それを解決するためにいろいろな案が出されている。
エルフの力だけで問題を解決しようとする保守派と、人間や外の者たちから力を借りようとする改革派。
この二つが現在衝突しており、エルフの国では大きな問題になりつつある。
改革派が集まるエルフの村で村長を務めるノースは、エルフの言葉を当たり前のように扱うグレイを見て“普通の人間”と判断していた。
噂に聞いていたほど野蛮な存在では無いものの、何かしらの覇気があったりする訳でもない。
ただ普通に会話をするだけで、何一つ特筆した点もない。
それがグレイと言う男の評価であった。
「なるほど。エルフはその世界樹を神聖視しておられるのですね。リードからも似たような話を聞きましたが、実の神のように崇めているとは思いませんでした」
「ホッホッホ。若いエルフは信仰心をあまり持たぬからの。これはいつの時代も同じなのだ」
しかし、話の聞き方や話し方は上手い。
こちらの話を否定することはない。しかし、全ての話に首を縦に振ることもない。
こちらの話をしっかりと聞き、自分なりの意見やエルフに対しての価値観を話す彼はまるでノースの心に入り込むかのように侵食を始めていた。
そして、ある程度話を終えたその時、侵食し続けた心を完全に奪い去る。
「世界樹........ユグドラシル........巨人族やドワーフの世界?となると、世界樹の原因は根を食らうニーズヘッグ?内部分裂の原因は王の不在か?統率者が居ないから意見が纏まらない?王はいる........病気か?」
ボソッと呟いたグレイの言葉に、ノースの体が固まる。
幾つか分からない言葉もあったが、その呟かれた全ての言葉が合っている。
現在エルフの国では、世界樹と呼ばれる巨大な木がニーズヘッグと呼ばれる龍に食われ始めているのである。
しかも、こんな時に王は病気で倒れ、エルフ内部では分裂が始まっていた。
(ニーズヘッグの話も王の病気の話もしておらぬのに、完璧に言い当ておった。この男、普通の人間かと思ったが、相当頭が冴えるのだな........)
実際、この時のグレイは有能であった。
この状況を推理ゲームと考え、ありとあらゆる可能性を考え続ける。
最初は頭の中だけで考えていたのだが、思わずポロッと言葉が漏れてしまったのだ。
しかも、エルフ語で。
ゲームだけは絶対的な自信を持つグレイが、この会話をゲームだと認識した時点でグレイは珍しく覚醒したのである。
まぁ、ポロッと呟いてしまったのは無意識下での出来事なのだが。
「我々がお手伝い出来ることはありますかね?出来れば、他にもいる仲間たちと共にもっとエルフのことを知りたいのですが........」
「........では、暫くの間この村に滞在するといい。皆も人間の事を知りたいだろうからの」
「感謝します。ノース
それは、グレイが昔やっていた推理ゲームの名残り。
推理ゲームと思ってしまうがあまり、間違えて言ってしまった失言。
グレイは言った後に心の中で“ミスったぁぁぁぁぁぁ!!”と叫んでいたが、グレイはこういう時の運がいい。
事実、ノースはエルフの国では“長老”と呼ばれる貴族の様な立ち位置にいるのだから。
態々他のエルフ達にも隠して居ることまで言い当てられてしまったノースは、驚きを通り越して感心する。
自分に失言は無かったと言うのに、それでも見抜いてくる洞察力。
この人間は只者ではない。そして、彼こそが今後エルフの未来を救ってくれる英雄なのだとここで確信した。
(実に素晴らしい人間だ。ここで出会いたのは神の思し召しかもしれぬな)
ノースはそう思うと、改革派の長老達と今後の動きについて相談をしようと心に決めるのであった。
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