エルフの村
翌朝。俺達はリードとエジストを待ちながら暇潰しにトランプで遊んでいた。
ゲームをやっても良かったのだが、途中でさっさと辞められるトランプの方がいいかなと思いトランプを具現化したのだ。
どうせエルフのお兄さん達が来るまでは暇だしのんびりとさせてもらうとしよう。
「はい揃った。俺の勝ち」
「........なぁ、これで五連続でボスが一番なんだが?強すぎだろ」
「イカサマ無しのババ抜きなんっすけどね。毎回強すぎやしないっすか?」
「ハッハッハ!!俺にトランプゲームで勝とうとするなんて、100年早いね。ゲームだけは得意って言ってるだろ」
カードを揃えて1番に上がった俺は、ケラケラと笑いながら捨てられたカードを集めて纏める。
今やっているのはババ抜き。
単純で運ゲーなところもあるが、俺がゲームで負けるはずもない。と言うか、負けられない。
このファミリーの中で俺が唯一ボロ勝ちできるのがゲームなのだから、絶対に負ける訳には行かないのだ。
ここで負けたら俺の存在意義が無くなってしまう。
そんなことを思いつつ仲間達がワイワイとババ抜きを楽しむ様子を眺める。
命懸けで五大ダンジョンに挑んだはずなのに、全くと言っていいほど戦っていない。
実に平和でいいじゃないか。あのクソッタレのグダニスクの街とか二度と戻らねぇよ。
街を歩けば銃弾が飛び交い、脇道に逸れれば死体の山が転がる街に誰が戻りたいというのだ。
しかも、ここならある程度自由に動き回れるし、最高だな!!
この世界にやってきて血と硝煙の匂いばかりを嗅いできた俺にとって、この場所は
あぁ、このまま何事もなく攻略できて日本という国を再び作れたりしないかなぁ........
もっと欲を言えば、エルフが皆友好的で人類みな兄弟のようなノリで来て欲しい。
リードとエジストはかなり友好的なエルフであったが、皆が皆聖人とは限らないから無理だろうけど。
そんなことを思いつつ時間を潰していると、俺のボディーガードをしてくれているスーちゃんとナーちゃんが気配に反応して森の奥を眺める。
この反応は誰かが来たということ。そして、ここに来る人と言えば1つしかない。
「よぉ。約束通り来たぜ」
「昨日は助かったよ。お陰で昨日は肉をたらふく食えたからな」
「昨日ぶりだな。元気そうでなによりだ」
森の中からトコトコとやってきた二人のエルフ。
言語が全く違うというのに、俺には当たり前のように理解出来てしまう辺りやはり言語チートは凄まじい。
ラブユー神様。いつも愛してるから、こんな感じでデレてくれ。
「今日は狩りはいいのか?」
「今日の当番は別の人さ。毎日走り回ってたら幾ら俺たちと言えど疲れ果てる。大変なんだぜ?ちょっと手加減を間違えると獲物が弾け飛ぶから、手加減が難しいんだ」
「だな。お陰で魔法も殆ど使えないし、最初の頃はよく獲物を爆発させてたっけ」
「お、おう?それは大変そうだな」
ごめん。獲物を爆発させたって何?
力が強すぎて、手加減しなければ食べられなくなってしまうと言っているように聞こえるんだが?
化け物すぎだろエルフ。
俺がスーちゃんたちの力を借りてようやく倒せるような相手を手加減して倒せるのか。
素材に気を使うだけの余裕があるとか羨ましいなおい。
俺なんて毎日を必死に生きているというのに。
五大ダンジョンと呼ばれる所以を少しだけ垣間見た俺は、適当に愛想笑いをしておく。
俺はよく分からんが、なんかメッチャ強いのかもしれんな。
「それで、グレイの後ろで俺達をジロジロと見ているのが昨日話していた仲間か?ローズ........だったけ?も見えるな」
「そうだ。村に連れていってくれるって話だったが、さすがに全員を連れていく気は無い。村の人達を怖がらせるかもしれんからな。俺を含めて四人で行きたいんだが、可能か?」
「問題ないぜ。昨日、村長にも話して許可は貰ったんだ。ウチの村は改革派のエルフが多いからな。友好的な人間に会ってみたいってエルフは多いんだぜ?」
「改革派?エルフにも派閥があるのか?」
改革派。又の名を左翼。
“左翼”と聞くと聞こえは悪いが、元は保守派と改革派を表す言葉である。
今日では“左翼と言えばテロリスト”というイメージがどうしてもついてしまうが、左翼にも色々とあるのだ。
「そうだ。エルフにもいくつか派閥があってな。俺達のように現状のままではダメだと考え外の世界に目を向ける“改革派”と現状の維持こそがエルフや世界樹を守ると考える“保守派”そして、そのどちらにも付かない“中立派”が存在するんだ。保守派は老人のエルフ達が多くて、改革派は若者のエルフが多い。中立派はどっこいどっこいかな」
「人間とそう変わらないんだな。人間の政治も似たようなもんだぜ。もちろん、違う部分も多くあるだろうがな」
「やっぱり人もエルフもそう変わりないのかもしれないね。そこら辺の話はまた詳しくしてやるから、今は村に行こう。既に噂が広まっちまって、皆グレイたちを待っているんだ」
「そうなのか?なら、急がないとな。レイズ、アリカ、ミルラ。準備しろ」
「「「はい」」」
素直に俺の指示に従うレイズ達。
エルフの中にも派閥があり、保守派と改革派で別れているのか。
今の会話からかなりの情報を得られたな。恐らく、昨日話してもらった“世界樹”が大きな鍵になりそうである。
“現状のままではダメだ”と言ったということは、今現在何かしらの問題が発生していると言うこと。
今エルフは、その問題を外部からの協力を得るか内部だけで解決するのかで揉めていると考えられる。
政治はあまり得意じゃないから、難しいな........あー、推理ゲームとして考えよう。そしたら、分かりやすくなるかも。
今から俺はシャーロック・ホームズ。頼れる相棒ワトソン君は居ないので、今回は1人での事件解決に動くとしよう。
今の情報から推測するに、エルフは内部分裂を起こしつつある。
その原因も今の会話から何となく察せた。
恐らくは、世界樹に何らかの異変があったのだろう。
そして、その異変を解決するためにどうするのかを話し合っている最中。という訳だ。
なら、俺達がやれる事は信頼作りと改革派に取り入る事だな。上手く行けば、エルフの本拠地に行ける可能性も十分にある。
「準備が終わったよ。おまたせ」
「よし。なら行くぞ。他のみんなは拠点の警備を。必要なものは全て具現化して置いてあるから、困ることは無いはずだ。留守を頼んだぞリィズ」
「待ってるよ。気をつけてね」
俺は優しい笑みで返してくれるリィズに軽く手を振りながら、エルフの村へと向かうのであった。
さて、今更ながらこれが罠だったらどうしようとか思い始めたんだけど、どうしよう?
【変異鹿】
イノシシと同じく、この過酷な環境を生き残るために進化した鹿。性格は凶暴になっており、角は相手を刺し殺す為に使われる。体長は3~5メートルほど。
一体一体の強さはそこまでだが、基本的に群れで行動する為かなり厄介。だか、其の肉はかなりの絶品。鹿肉とは思えないほど柔らかく、臭みもない高級肉である。
エルフの村は俺たちの拠点かは5kmほど離れた場所に存在していた。
周辺の安全を確保する為に色々と探索はしたのだが、こんなの見つかるわけが無い。
何故かって?
エルフお得意の魔法とやらで、村の周囲を霧で覆って隠していたからだ。
確かにこちら側に霧が発生していると言う話は聞いたが、“ま、結構遠いしてほっといていいよ”と言ったらコレだよ。
良かった、中を探索させなくて。探索させていたら、エルフと敵対ルートを取るしか無くなるところだったな。
「これがエルフの村っすか。思っていたよりも普通っすね」
「レイズと同意見だ。大木の中に家を作ったりしているのかと思ったが、割と普通の家が普通に並んでいるだけだな。違う点があるなら、家が全て木造りという事ぐらいか」
「自然と一体化すると言うよりは、必要最低限の自然を貰って生きていると言った感じですかね。想像以上に普通で驚きましたが、確かに自然を大切にしているようにも見えます」
エルフの村は結構普通であり、俺達がよく想像する村とさほど変わりはない。
森の中に建てられた村ということで自然を存分に感じられるが、それ以外は特に何も無かった。
「リード!!そいつが昨日言ってたお客さんかい?」
「そうだぜバレッタ。人間のグレイだ。昨日仲良くなった。こいつは俺達の言葉を話せるから普通に会話できるぞ」
初めて見る人間を人目見ようと、わらわらと集まってきつつも距離をとっているエルフ達。
リードによれば、“人間は話の通じない野蛮な生き物”と思われているらしいので仕方がなかった。
「なんというか、見世物にされる動物の気持ちが少しわかるな。何か一芸でもした方がいいか?」
「辞めてくださいっすボス。下手に相手を刺激したら戦いになるかもしれないんっすよ」
「でもまぁ、気持ちは分かるな。人間動物園に連れていかれる
「逃走経路はおまかせを。ですが、あの霧の中を突っ切るのは怖いですね」
エルフが集まって見世物になる気分はあまり良くない。だが、未知なる存在を目にすれば確かに気にもなるだろう。
目の前に脅威が迫っているというのに、スマホを構えるどこぞの世界よりは幾分かマシである。
自分の命よりも動画を優先するとか、俺には理解できないね。
そんなことを思っていると、リードが1人のエルフを紹介してくれる。
相当な美人であり、街中で歩けば誰もが振り返りそうなほど綺麗な女のエルフであった。
「こいつはバレッタ。ウチの村で女たちを纏める言わばボスだ。なんなら男連中も怖くて近づけやしない。乱暴が過ぎて婚期を逃したアホだ」
「ぶっ殺すぞ?と言うか殺す。私の魔法でその頭を弾け飛ばして森の肥料に変えてやるから大人しくしてやがれ」
「おー怖い怖い。逃げよっと」
ピキリと額に青筋を浮かべたバレッタは、こっそりこの場を離れようとするリードの首をふんづかまえながら俺たちににっこりと微笑みかけて握手を求める。
リード達とであった時もそうだが、エルフにも握手の文化はあるんだな。
「私はバレッタ。あんたがグレイだね?あまり強そうには見えないが........まぁ、よろしく頼むさ。私は今からこのアホをシバくから、ちょいと失礼するよ」
「よろしく。ミスバレッタ。そこのアホには何してもいいけど、俺たちまで殴らないでくれよ。俺はか弱き人間なんでな」
「アッハッハッハッハッ!!自分で自分の事を“弱い”と言うやつは、大抵強い。自分の弱さを知っているからね!!じゃ、私はここで失礼するよ。そこのでかい家が村長宅だから行くといい。リードの事を聞かれたら、森の肥料になったと答えておいてくれ」
「わかった。リード。墓にはなんて書けばいい?」
「助けてくれグレイ!!」
「オーケー、“助けてくれグレイ”と書けばいいんだな。それじゃ、
“あぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!”と悲鳴をあげながらどこかへと消えていくリード。
案内役が消えてしまったが、まぁ、あれはリードが悪いので仕方が無い。
今のやり取りを見ていたエルフたちも、“今のはリードが悪い”と顔に出ていた。
「えーと、ボス。何があったんですか?なんかすごい美人なお姉さんにリードが連れていかれたんすけど........」
「“婚期を逃した女”って言ったから、殺された。良き友人を失ってしまって心が痛いよ」
「それはリードが悪いな。あの女の人はなんて名前でなんだ?」
「バレッタと名乗ってたな。なんでも、女エルフ達の纏め役らしい。リード曰く、乱暴すぎて婚期を逃したんだとか」
「あぁ、そういう事ですか........確かに暴力的な女性は好まれませんよね。特に、常に共に過ごすのであれば尚更。そう言う趣味でもあるなら別ですが」
エルフ語で話していたので、会話の内容が分からなかったレイズ達に簡単に説明してやると、レイズたちも“リードが悪い”と意見が一致する。
今のはリードが悪いが、俺は何となく察してしまった。
多分、リードはバレッタのことが好きなんだろうなぁと。
不器用なやつだ。察してくれの精神では、相手はその気持ちに気づかないと言うのに。
助言してやる義理もないので何も言わないが、俺は心の中でリードを応援しつつこの村の村長に会いに行くのであった。
さて、ここからが攻略スタートだ。約立たずながらも、頑張るとしますかね。
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