方針


 若きエルフであり、偶々出会って仲良くなったリードとエジスト。


 彼らは相当俺のことが気に入ったのか、“明日も来るよ”と言って大きなイノシシを引き摺りながら帰って行った。


 時刻は既に午後五時過ぎ。エルフの村での生活がどのようなものなのかは知らないが、あのイノシシを解体して料理をしなければならない時間もあるのでここで別れてしまうのは仕方がない。


 大体30分ほど話せただけでも、大きな進歩だ。何より、戦わずして攻略するという手段も見えてきてるんだからな。


「........肝が冷えたわん。でも、敵意は感じなかったわねん」

「ダンジョンから出てくる魔物が全て敵対的という訳でも無いしな。ほら、スーちゃんとかナーちゃんは仲良くしてくれるだろう?それと同じだろ。多分」

「言葉が通じるからと言って、五大ダンジョンで対話を試みているのは普通に頭がおかしいわよん?焚き火を囲みながら仲良く話している姿を見た時は本当に心臓を悪かったわん」


 そう言いながら深くため息を吐いて地面に座り込むローズ。


 ローズが帰ってきてから、俺が翻訳係をしながらリード達との交流を深めた。


 あまり踏み込んだ話題は出さないように気をつけつつ、色々と話してみた結果分かったことは二つ。


 リード達は若いエルフの村を作っているという事と、村で病が流行り始めているということである。


 本当はもっと踏み込んだ話をしたかったが、何事にも順序がある。相手が口を滑られてくれるまではゆっくりと仲良くなるのが得策だな。


 明日は村に連れていってくれるみたいだしできる限り少人数かつ、マトモに話せるやつだけを連れていこう。


 何かと“契約”で相手を縛れるレイズと、子供ということで油断して貰えそうなアリカ。そして、護衛役にミルラでも連れていくか。


 間違ってもリィズや吾郎爺さんを連れて行ってはならない。リィズは沸点が低すぎるし、吾郎爺さんは積年の恨みとかありそうだし。


 みんなが揃ったら先ずは吾郎爺さんの説得から始めるか。祖国をエルフに蹂躙され、更には2度もカチコミをかけた爺さんが大人しくしてくれるかどうかは怪しいが、それでも今は殺し合いを演じる利益がない。


 最悪爺さんに殺されるかもしれんなと思いつつ、俺は今後の事を考えた。


「ダンジョン攻略は必ずしもゲートを閉じさせる必要はなかったよな?」

「そうねん。ボスを倒すことが絶対条件ではないわん。USA(アメリカ)のとあるダンジョンでは、ダンジョンの魔物........確か獣人ビーストと言われる魔物と友好関係を結んで様々な貿易を行っていると聞くわよん。しかも、ダンジョンはクリア扱いされているわねん。ダンジョンがクリアされると、ゲートの色が青から緑色に変わるとも言われているわよん」


 五大ダンジョンのことを調べていた時にちょろっと見た覚えがある。


 USAのダンジョンの中には、ゲートが開かれたまま攻略が完了しているダンジョンがあるのだと。


 基本的にダンジョンを攻略すると、ゲートが閉まって二度とその世界に足を踏み入れることが出来なくなる。


 だから、国が管理するダンジョンではボスの討伐が禁じられている訳だが、世の中何事にも例外はあるのだ。


 その中の一つがUSAのダンジョン。


 獣人ビーストと呼ばれる魔物が出てくるダンジョンで、出現当時はハンターとの戦争になりかけたらしいが、何故か仲良くなって貿易を始めたそうだ。


 そして、いつの間にかダンジョンは攻略扱いになり、今もUSAと交流を続けているらしい。


 つまり、戦わずして攻略する事も可能ではあるのだ。


 平和主義者である俺にとって、戦わないという選択肢があるのは有難い。今回のダンジョンも上手く行けば戦わずに何とかならないかな?


「よし、俺達はできる限りエルフと友好的な関係を築いて戦わない方針で行こう。今まで殺しあって来てダメだったんだから、次は和解の道を探すのが賢い人間ってものだろ?」

「ま、まぁ、私はグレイちゃんに従うわよん。事実、グレイちゃんのお陰でエルフとの接点も出来たわけだしねん」

「明日エルフの村に連れてってくれるらしいし、皆に話すか。上手く行けば、戦うことなく全てを終えられるぞ」


 この時ローズは言わなかったが、後で俺は知ることになる。


 ボスを倒す方針の方が、圧倒的にダンジョンクリアが簡単であったということを。


 獣人達と貿易を結ぶUSAも、相当な被害を出して今の関係を築いていたという事を。


 俺は楽をしようと思って、修羅の道を選んだのだ。




獣人ビースト

 USA(アメリカ)にあるとあるダンジョンに出てくる魔物。人型の魔物であり、見た目は動物の特徴を持ちながらも二足歩行で歩き言葉を話す。

 ファンタジー世界に出てくる耳と尻尾だけが生えた獣人ではなく、しっかりと獣。




 エルフのお兄さん達と別れ、しばらくローズと話していると狩りを終えた皆が帰ってくる。


 リィズとアリカは沢山の草を持ち帰り、ほかの面々はそれぞれ獲物を狩ってきていた。


 一人一匹狩って来てねとか言ってないのだが、何故か大小あれど獲物を狩ってきている。


 みんな狩人としての才能があるなーと思ったが、そういえば俺達一応ハンターではあったなと思いながら焼肉パーティーを開いていた。


 お、この鹿肉うめぇ。鹿肉って生臭いイメージがあるんだけどな。


「────というわけで、明日エルフの村に行ってくるわ。レイズとアリカとミルラは俺と一緒に行くぞ」

「ごめんボス。何が“という訳で”なのか全くわからんし、エルフの村ってなんだよ」

「いや、お留守番してた時にエルフに出会ってな。なんか仲良くなったら、村に招待してくれる事になった」

「おい誰か通訳を連れてきてくれ。ボスが何を言っているのか意味がわからんぞ」

「えーと、エルフにあったのですか?」

「会った」

「で、仲良くなったのですか?」

「なった」

「そしたら明日村に連れていってくれる事になったと?」

「そゆこと」

「だそうです。ジルハードさん」

「意味わかんねぇよ!!」


 焼いた肉をパクパク食べながら騒ぐジルハード。相変わらず元気で煩いねぇ。


 ジルハードは塩をつけた鹿肉を食べながら、天を仰ぐ。


 そして、頭の中で情報を整理しつつ疑問をぶつけてきた。


「ボス。先ずエルフに会ったんだな?」

「何度もそう言ってるだろ?お前の耳は飾りか?」

「よしOK。そこまでは理解できた。で、エルフと言えばこのダンジョンに出てくる魔物だよな?」

「そうだね」

「殺し合いには?」

「ならなかったな。言葉が通じたし」

「........なるほど?言語はなんだった?」

「知らん。強いて言うならエルフ語じゃね?」

「........???」


 俺の返しが理解できなかったのか、首を傾げるジルハード。


 でも、俺は事実しか言ってない。これ以上説明するのは難しいぞ。


 と、ここでリィズが口を挟む。普段ジルハードにキツく当たるリィズであるが、今日は大人しめであった。


「グレイちゃんは言語理解の能力が高いんだよ。そう思っとけ三等兵アーミー。お前はグレイちゃんの指示に従うだけでいいんだからさ」

「それは分かってるが、詳しい状況を聞きたいのが兵士のサガだ。ボス、エルフの言葉が分かるのか?」

「一応は。ま、これについては詳しく聞かないでくれ。ボスの企業秘密だ」

「で、仲良くなったと........まぁ、いいや。ボスを理解しようとするだけ無駄か」


 流石に“神様に言語チートを与えられたので!!”とか言えないしな........


 ボスの秘密ってことでよろしく。


 ジルハードは喉に突っかかりを覚えながらも、一先ずは状況を飲み込んでくれた。


 恐らく、俺の秘密には決して触れてはならないと察したのだろう。


 長年こちら側の世界で生きているだけあって、引き際はちゃんと分かっているらしい。


 あまりにしつこいと、全てを知っているリィズが殺すかもしれんからな。


 さて、大体の説明は終わったので、今後の方針を仲間達に話す事にした。


 俺が目指すのは平和的攻略。これが出来れば万々歳である。


「今後の方針は、一先ずエルフと仲良くしながら色々と情報を集めようかと思っている。吾郎爺さんには悪いが、エルフを殺すような真似はしないで欲しい」

「フォッフォッフォ。儂は構わんよ。儂はこの地に再び大日本帝国を再建したいだけなのでのぉ........その過程や手段は全て主に任せるわい。昔はエルフに恨みを持っていた時もあったが、長い年月殺意を持ち続けるのは難しいのでの」

「すまんな。でも、必ず祖国は取り戻してやる。少なくとも、俺達が堂々とこの地を踏めるぐらいにはな」

「フォッフォッフォッ!!それで十分じゃろうて。そもそも、儂は二度も挑んで二度とも失敗した身。違う方法で攻略を試みるのも必要じゃ」


 そう言いながら、肉をつまむ吾郎爺さん。


 意外にも、吾郎爺さんは冷静で落ち着いていた。


 仲間たちの仇や復讐には走らず、目標のために己を殺す。


 中々それが出来る人間は少ない。それができるからこそ、枯葉今も尚現役で戦い続けられているのかもしれんな。


「まずはボスを殺さず平和的に解決できる方法を探ろう。エルフは話が通じる奴もいる事がわかったし、上手く行けば簡単に攻略を終えられる。狩りに敵対したとしても、エルフのことをある程度聞き出せれば大きなアドバンテージとなるしな」

「で、その作戦の最初が村に行くことっすか。なんで自分が?」

「もしかしたら“契約”を使うかもしれないから........かな。まぁ、使うことは無いと思うけどね」

「........なるほど。分かりました。しっかりと準備しておくっす」


 レイズは真面目な顔で頷くと、コーラを飲みながら何やら準備を始める。


 ま、レイズは賢いし大抵の事は任せてもええやろ。なんか毎回余計なものまで着いてくるが、俺の不利益になることはまず無いしな。


「ちなみに、エルフからは何を聞いたんだ?ただ世間話でもしてたのか?」

「そうだな。エルフは長寿な種族だから、50年生きても半人前らしい。大人として認められるのは100歳を超えてからだそうだ。寿命は大体400年ほどで、爺さんとやり合ったエルフたちはほぼ死んでいるだろうな。それと、やはりダンジョンの中にエルフの国があるらしい。この地はクソ田舎だってよ」

「まぁ、だろうな。ここが都会だったらエルフの感性を疑うね。ともかく、色々な情報を取れそうだな。薬草の話とかもできるかな?」

「その前に言語を覚えなければなりませんよ。ボス、教えていただけますか?」

「ん?いいよ。文字は分からないけど、言葉は分かるし。ちょっとした言葉だけ教えようか」


 こうして、俺達の夜は過ぎていく。そして、エルフの村へと行く日がやってきたのであった。

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