言語チートって強い
クソでかいイノシシが突撃してきたかと思えば、エルフに出会った件。
爺さんの話によれば、エルフはかなり強いらしい。
並外れた身体能力と人間以上に優れた魔力操作。そして、能力とは違う別の理論で放たれる魔法のような技術等。
何百年とこの世界に居座り続けるだけの強さを、エルフ達は持っている........らしい。
俺の前に現れた二人のエルフも、相当な強者なのだろう。
強い者が放つ独特のオーラとかは俺には分からないが、この世界では弱い部類の俺よりも強い事ぐらいはわかる。
うーん、どうしよう?
ピギーに出てきてもらって確定スタンを決めた後、拘束して始末してもいいが、ピギーの“圧”は周囲に一切の配慮がない。
この近くにさらにエルフがいた場合、俺たちの居場所を知られてしまう可能性がある。
いや既に知られているのだが、さらにエルフを呼び寄せるような選択はあまり賢いとはいえなかった。
「どうすっかねぇ........」
そして何より、エルフ達から殺意を感じないと言うのが俺を困らせた。
俺は誰がなんと言おうが、平和主義者である。
例え魔物が相手だったとしても、対話ができるような相手とはあまりやり合う気にはならなかった。
ほら、スーちゃんとかナーちゃんはそのお陰で仲間になってくれた訳だしな。
殺さなければならない時は殺すが、お話出来るのであれば先ずは対話で状況の解決を試みる。
そして、目の前で弓を構えるエルフ達は対話が出来る側の気がした。
「何者だ人間。その獲物は俺達が追っていた獲物だぞ」
「大人しく獲物を渡せ。そうすれば命は助けてやる」
どうしようかなと思っていると、エルフ達が俺に話しかけてくる。
明らかに聞いたことが無い言語。英語でも日本語でも無いその言葉だが、俺にはハッキリと意味が理解できた。
あっ、これ神様がくれた言語理解が適応されてますね。
あれ?もしかして普通に会話できるのでは?しかも、話ができそうな連中だし。
そして、言葉が理解できるなら話せるはずだ。神様直々にお作りになられた言語チートはとてもスゴイのである。
「OK。別に俺はお前達とやり合いたい訳じゃない。が、謝罪もなしに脅してくるのは違うんじゃないか?アンタらがこの獲物を追いかけ回していたおかげで、俺は危うくこいつに轢き殺された。謝ってくれるなら、こいつをくれてやっていいぞ」
「「.......!!」」
まさか、人間がエルフ語を話すとは思っていなかったのだろう。
彼らは目を見開いて驚いた。
そして、警戒心までもが薄れていくのを感じる。
お、これは好感触だ。このまま警戒心を薄めさせながら、上手く仲良くなれればいろいろと話が聞けるかもしれん。
やっぱり持つべきは、言語チートを与えてくれる神様やな。今まで散々ファックだの死ねだと言ってたけど、大好きだよ。愛してる(手の平大回転)。
神様って素晴らしいと、心の中で神に媚を売っていると、金髪ロン毛の方のエルフが口を開く。
この言葉に警戒の色は無く、むしろ興味の方が強かった。
「........わ、我々の言葉が分かるのか?」
「一応は。俺の能力なんだ。言語が理解がね。あ、能力ってわかる?」
「知っている。この世界に生きる人間達が扱う一種の魔法のようなものだ。俺達が使う魔法とは違い一つの事しかできないが、人はそれを磨き上げて強くなると聞いたことがある」
「まぁ、間違ってはないわな」
エルフは人間の能力について知っているのか。
この様子だと、どのような能力があるのかもある程度は知っていそうだな。500年ほど前に能力者と戦った資料でもあるのか?この感じだと、文字も存在していそうだ。
そして、“魔法”というものをエルフは使えるという事も確定したな。
爺さんが言っていたからある程度は知っているけど、エルフの口からハッキリと聞いたので爺さんがボケている訳では無いらしい。
「で、アンタらは今何をしてたんだ?」
「狩りをしていた。そこで死んでいるイノシシを捕えるために追っていたんだが、まさかその先で巻き込まれる人がいるとは思わなかった。済まない。謝罪しよう。危険を持ってきてしまった身で言うのもアレだが、出来ればその獲物は譲って欲しい。村の皆に食わせてやりたいんだ」
「いいよいいよ。返してあげる」
へぇ?村があるのか。爺さんの話ではそんな事一言も言ってなかったんだけどな。
最後に挑んだのは相当前って話だし、エルフの森も時間と共に変化を続けているのか?
可能性はありそうだ。何せ、本能に生きる魔物とは違い、エルフ達からは明確な知性を感じる。
村を作り、狩りをする。道具も使っているところを見ると、エルフも人とそう変わらない存在に見えるな。
五大ダンジョンと言われているのだから、もっと殺伐とした世紀末な場所を予想してしたものの、そんな事はなさそうである。
あれ?意外と普通じゃね?
なんか話通じてるし、これは平和的な関係を築けるのではないだろうか。
「ところで一つ聞きたいんだが、アンタらはエルフと呼ばれる種族だよな?」
「......そうだ。俺たちはエルフだ。世界樹の加護を受けし偉大なる種族。それがエルフだ」
「世界樹の加護?それは興味深いな。なぁ、時間があるなら少し話さないか?その偉大なる種族の話を是非とも聞きたいね」
それは、情報収集ではなく純粋な好奇心であった。
エルフと言えば"世界樹“。
その作品の設定次第で扱いは変わるが、基本的に神聖なる物として扱われる事が多い。
エルフは世界樹を”神“として崇め、世界樹の恩恵を受けながら自然と共に生きてゆく。
それが、俺のイメージするエルフと世界樹である。
彼らも純粋に質問をしてきた俺を脅威とは思わなかったのだろう。
アーサー顔負けのイケメンフェイスで笑うと、快く首を縦に振ってくれた。
「いいぜ、なんやかんやアンタのおかげで狩りが早く終わったしな。その余った時間をアンタのために使うのも悪くない」
「話に聞いていた人間と全然違うな。老人達が言っていた話じゃ、話が通じない野蛮人だって話だったのに」
「言葉が分からないからコミュニケーションを取るのが大変なんだろうな。この世界の人達は、言葉よりも先に手が出るからな」
「やっぱ野蛮人じゃねぇか。あんたは違いそうだがね」
「安心しろ俺は
「それはそうだな。俺はリート。こいつはエジストだ。よろしく、人間」
「グレイだ。さて、話を聞かせてくれよ。偉大なる種族の話をな」
俺はそう言うと、エルフ達の手を握るのだった。
【変異イノシシ】
エルフの森の中の生存競争で進化した一種の魔物。魔力による身体強化と大きく成長した体格により、戦車程度ならば容易に破壊できるだけの火力を生み出す。尚、エルフの貴重な肉として狩られがち。グレイがやったように、足元を縛られると何も出来なくなるちょっと可哀想な奴。
人生二度目の五大ダンジョンの攻略に挑むローズは、順調な滑り出しに安心していた。
かつて父を探しに向かった“悪魔の国”のダンジョン。ローズは船でその地へと向かったが、上陸することすら叶わず撤退を余儀なくされてしまった。
それに比べれば、既に五大ダンジョンの影響下にある場所に入り込み、それなりに安全な拠点を作れている現状は素晴らしいと言えるだろう。
僅か四ヶ月足らずで世界最悪の街グダニスクを支配下に置いた男の計画は、完璧とも言えた。
「中々大きなイノシシねん。これなら、私の勝ちも十分に狙えるわん」
ローズはそう言いつつ、自分の体と同じ大きさのイノシシを担いで拠点へと戻る。
これなら、ボスも喜んでくれるだろう。例え、今回の勝負で負けたとしても、ヘラヘラと笑いながら優しく“おつかれ”と言ってくれるはずだ。
基本的にボスであるグレイは、人を否定しない。流石に人殺しに快楽を見出す殺人鬼が相手ともなれば話は別だが、他の人よりも強い個性を持っていようと彼は否定をしなかった。
今はスーツを着ている為マトモに見えるが、ローズはその巨大な体と男らしすぎる見た目に相反してかわいい服が好きである。
何度もその姿をバカにされたり気持ち悪がられたりしてきたが、ボスは驚きはしても決してローズが傷つくことは言わなかった。
もちろん、冗談で茶化すことはある。だが、最低限のラインは弁えている。
ローズはボスのそういう所を気に入っていた。
本当に人の心を掴むのが上手い人だと思いつつ、イノシシを背負って帰ると人の声が聞こえる。
「────────?」
「───────」
「────────!!」
訳の分からない言語を話しているなと一瞬思ったが、その気配が仲間のものでは無いと気づいた瞬間ローズはイノシシを放り投げてボスの元へと向かう。
「........は?........は????」
そして、彼は、彼女は見た。
今回のエルフの森で最も警戒すれべき敵であり、人型の魔物“エルフ”と笑いながら話すグレイの姿を。
生きた伝説、吾郎の話によればエルフとの対話は難しく、戦う他ないと聞いていた。
ローズもそれは同意見であった。悪魔の国を訪れたさいも、彼らに言葉は通じなかったのだから。
しかし、今目の前にある光景はどうだ?
本来戦わなければならない敵である二人のエルフと楽しそうに話しながら、呑気に焚き火を囲んで果物を食べているではないか。
余りにも異端すぎる光景。そして、チラリとその横を見れば、ローズが狩ったイノシシよりも大きなイノシシが転がっている。
死体から流れる血の量から、ローズがイノシシを狩るよりも先に殺されているのがわかる。
“俺、留守番してるからよろしく”と言った癖に、誰よりも早くそして誰よりも大きい獲物を狩った上で敵と話しているのだ。
(い、意味が分からないわん........一体何があったと言うのよん........)
何から何まで規格外。ローズはようやくここで気づいたのだ。
ボスを勝手に自分の物差しで評価していた愚かさに。彼はそんな次元にいる人ではない。
確かに戦闘は弱いが、その欠点を抱えても尚ローズの物差しでは測れない存在なのだと。
元々高く評価はしていた。が、そもそも評価すること自体が烏滸がましく、許されざる行為なのだとようやく理解したのだ。
「お、ローズ。お前が一番乗りだな。お疲れ様。すごく大きい獲物を仕留めたじゃないか」
「ボスに比べたらまだまだよん。ところで、そちらのイケメン達は?」
「若者エルフのリート君とエジスト君だ。なんか仲良くなったから、話してる。面白いぞ。エルフ社会も人間社会もそう変わらないみたいだな」
ヘラヘラと笑いながら、今度はエルフに話しかけるグレイ。
ローズはこの辺りから考えるのをやめた。
“英雄王”アーサーと友達になったと言ってきた時も驚いたが、まだ理解出来た。存在そのものが許されない化け物を手懐けても、何とか理解した。
だが、これは理解できない。
五大ダンジョンと言う踏み込めば命の保証もない場所で、楽しそうに笑いながら敵であるエルフと話し、仲良くなる。
誰一人として試みなかった考えだ。
頭がぶっ飛んでいる。
と言うか、なぜエルフの言葉を理解出来る?いつの間に言語を習得したのか。
様々な思考が頭の中を巡り、最終的にローズは考えるのをやめたのである。
(ボスの右手に宿る訳の分からない存在よりも、ボスのことの方が分からないわん........一体何をどうしたら、こんな事になるのよん)
「あ、ローズ。2人がお前とも話してみたいってさ。翻訳は俺がやってやるから、少し話してくれよ」
「ちょ、ちょっといいかしら?グレイちゃん」
「なに?イケメンが目の前にいて恥ずかしいのか?ローズも乙女だなおい」
「んなわけないでしょ。相手はエルフなのよん?なんで古くからの友のように話してるのよん。下手したら、殺されるかもしれないのよん?」
「いや、少なくともこの二人は俺を殺そうとしたりはしないよ。あ、そうだ。明日若いエルフが集まる村に案内してくれるってさ。老人エルフは人間にあまりいい印象は持ってないらしいけど、若いエルフなら大丈夫だって」
「ごめんグレイちゃん、もう1回言ってくれるかしらん?」
次から次へと意味のわからない事を言わないでくれ。
ローズはジルハードの気持ちがようやく理解できたと共に、グレイの翻訳の元、本来は敵であるエルフの2人と話すことになるのであった。
(あぁ、頭が痛くなってきたわん........私達のボスは、こんなにも頭のおかしい人だったのねん........)
そう思いつつも、ローズはグレイの評価を天井まで引き上げる。
グレイからすれば、いい迷惑であろう。
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