エルフ登場
アリカの頭がお月様の向こうまでぶっ飛んでしまったり、ミルラが意外と可愛いギャップを見せてくれたりしながらも俺達の調査は順調であった。
このエルフの森に来てから三日目。前日はしゃぎまくってたアリカもようやく落ち着きを取り戻し、冷静な会話が出来るようになった。
良かった。二回ほどヤバそうな色をした煙をモクモクと立ち登らせた時は焦ったが、冷静になってくれて良かったぞ。
まさかエルフの森に来て真っ先に狂うのがアリカだとは思わなかったけども。
「すまん。はしゃぎ過ぎた」
「気にすんな。はしゃぐのも子供の特権だよ。流石に毒物をあれこれ作って実験を始めた時は焦ったけどな」
「かなり反省している。昔から私は薬草とかを見ると我慢できないタチでな........研究室にいた頃も似たような事をしてよく怒られたものだ。自重しているつもりだったんだが、見た事のない薬草を見つけてテンションがおかしくなってしまったよ」
「アッハッハッハッハッ!!子供らしくて良いじゃねぇか。別にアリカが壊れている間も問題があった訳では無かったし、これはこれでいいだろう?なぁ?ボス」
「そうだな。少なくとも、ウチの組織にアリカをバカにするやつは居ないさ。大体ウチのファミリーは頭の可笑しい奴しかいないし........」
正気に戻って恥ずかしそうに下を向くアリカの頭を撫でてやりながら、俺は笑う。
アリカは賢く大人びているがまだ11歳の女の子なのだ。人形遊びをしてキャッキャと騒ぐ方が本来あるべき姿なのである。
そなお人形さんがかなり物騒なものに変わってしまっていたが、まぁ、それもアリカの可愛い所ということで........
結局、この
あのリィズでさえ、“仕方が無いよね”と言うぐらいには皆アリカに甘いのである。
「詫びと言ってはなんだが、皆が持ってきてくれた木の実や草木が人間の体に害をなすかどうかは調べた。この赤い木の実なんかは、甘くて食べられる。食料確保に関してはそこまで困ることは無いと思うぞ」
「それはいいことを聞いた。毎回干し肉と俺の生み出した食べ物だけじゃ飽きるもんな。今回のダンジョン攻略は長期戦だ。ありかのお陰で食べ物の確保がやりやすくなるぞ」
「えへへ。少しは役に立てて良かったよ。これからも頑張るさ」
アリカの頭を更にナデナデしてやると、アリカは嬉しそうに顔を綻ばせる。
そうそう。子供はそうやって可愛く笑うだけでもいいのだ。これからもたくさん笑ってウチの組織の空気を良くしてくれよ。
そんな事を思いつつアリカの頭を撫でていると、その光景を微笑ましく見ながらジルハードとローズがヒソヒソと会話をする。
声は聞こえなかったが、口の動きから何となく何を言っているのかは理解出来た。
「なぁ、やっぱり無人島に持っていくならボス一択だよな。野営地の設置にもボスのワイヤーとか釘が使われているし、何より飲水の確保と食料の確保があまりにも
「フランスパンにコーラ、メントスや卵まで。何から何まで具現化できるのはグレイちゃんのスゴイところねん。しかも、能力解除をしなければ私たちの血となり肉となるのはびっくりだわん。具現化系の能力って大半はある程度破損したりすると消えるものだけど、これは一切消えないのよん?こんな能力聞いたことがないわん」
「肉が具現化できないという点だけは残念だけどな。それでもタンパク質は大豆で取れる........と言うか、ボスの能力って子供の頃に遊んだ玩具を具現化する物だよな?なんで食料が具現化できるんだよ」
「意外と悪ガキだったのかもしれないわねん。食べ物を粗末に扱うなんて、神にも勝る傲慢な行ないよん」
「まぁ、そのお陰で荷物が滅茶苦茶減ったんだがな........」
と、こんな感じの会話がされているのが分かる。
悪かったな。フランスパンは野球のバット代わりに、メントスとコーラはみんな大好きメントスコーラに、卵は卵投げ合戦に大豆は節分の日の豆撒きに使ってんだよ。
更に小麦粉粘土のお陰で小麦粉と油。フライパンだって具現化できる。
じゃがいもを一度ボール代わりに使った事もあったし、塩と砂糖は夏休みの自由研究で“粉塵爆発”の実験に使った。
1度間違えてバターのおもちゃで遊ぼうとしたら、間違えて本物のバターで遊んでしまったこともあったし、土鍋を被ってよく分からん遊びをしたこともある。
餅つきをやろうと小学生の頃に、もち米でない普通の米を付いて失敗したこともあった。
燃やす物が変わると色が変わるという自由研究(炎色反応)で、醤油やホウ素を燃やした事もある。
これらが全て“遊び”に使われた玩具として判定されているのだ。
100歩譲って自由研究に使った物が具現化できるのは良いとしても、餅つきに関しては料理に近いだろ。
でも、よくよく当時を思い出すと米を付いて遊んでたとも言えるので、玩具判定になってもおかしくは無いか。
何せ、自転車すら具現化できるんだからな。この理論で行けば車とかも具現化出来そうなものなのに、車は乗り物判定なのがよく分からん。
この能力を得てから半年近く。まだまだこの能力のポテンシャルがどれ程あるのか俺には分からない。
........今思えば俺ってかなりヤバいやつかもしれないな。卵投げ合戦とか近所迷惑でしかないぞ。
過去の自分が如何にアホだったのかを思い知らされながらも、俺はタバコに火をつけてゆっくりと吸う。
今回一番多く持ちこんだ荷物がタバコだ。いつ補充できるか分からないので、500箱ぐらい買い込んでナーちゃんの影の中にしまってもらっている。
流石のナーちゃんも呆れてたよね。“お前、どんだけタバコを吸うんだよ”と言いたげな呆れたナーちゃんの目が忘れられない。
でもそんな目も可愛いよナーちゃん。やはり、俺の癒しであるスーちゃんとナーちゃんは何をしても可愛い。
ピギーは癒し枠と言うか、殺人枠なので........慣れたと言っても本能的恐怖は感じるのだ。
「肉食いてぇな。新鮮な。ウリ坊とか見かけたし、ワンチャンイノシシとかいるんじゃね?」
「急にどうしたボス?」
「いや、肉食いてぇなって。昨日この森の中でウリ坊とか見つけたし、イノシシやら鹿が居てもおかしくないだろう?ちょいと狩りに行こうぜ。そしてみんなで焼肉パーティーだ」
「........ボス?一応ここ、五大ダンジョンの一角なんだが。焼肉パーティーとか言ってる場合か?」
「いやでも、肉食いたいし俺は行くぞ。アリカが正気を取り戻したから明日動くつもりだし、今日中に英期を養わないとな。というわけで、焼肉食べたい人!!」
「はーい!!」
「肉に合いそうな野菜を見つけたから、食べられるぞ。タレだけが問題だがな」
「ボスが塩を出せますし、幾つかの調味料も出せると聞きました。それで色々と混ぜるのはいかがでしょう?」
「いいんじゃないですか?では、私は狩りに行くとします」
「フォッフォッフォッ。ワシも行くかの」
「肉体の基本は健康的な食事から。肉は重要よん。私も行くわん」
「あ、私もこの野菜を集めるか。リーズヘルトお姉ちゃん。護衛を頼めるか?」
「いいよー。可愛いアリカを守ってあげる」
クッソ軽いノリで“焼肉食べたい人”と聞いたら、ジルハードとレイズ以外の全員が賛同する。
やっぱり皆肉が食べたいんだな。俺の服や影の中で護衛をしてくれているスーちゃんとナーちゃんも食べたそうだし、捕まえに行くか。
こうして、軽いノリで焼肉パーティーの準備を始める俺達。
結局、お留守番は俺一人となり、他の皆は狩りに行くこととなるのであった。
【炎色反応】
アルカリ金属やアルカリ土類金属、銅などの金属や塩を炎の中に入れると各金属元素特有の色を示す反応のこと。金属の定性分析や花火の着色に利用されている。
ちなみに、私(作者)は実際に自由研究で炎色反応の実験を家で行ったことがありますが、目に見えて分かりやすく変わったのはホウ素でした。かなり綺麗な黄緑色になるので、皆もやってみよう!!(安全配慮はしっかりね)
お留守番を任された俺は、スーちゃんとナーちゃん。そしてピギーと話しながら焼肉パーティーの準備をしていた。
何かと競争が好きなウチのファミリーは、誰が一番早くいちばん大きな獲物を捕まえられるかを競っており、とてもでは無いが五大ダンジョンにいるとは思えない空気感である。
ジルハードめ。人には“頭大丈夫?”みたいに聞いてくるくせに、自分も楽しんでんじゃねぇか。
ガチガチに緊張されるよりかはマシであるが、アリカのようにはっちゃけられても困る。
頼むから最低限の警戒心は持ってて欲しいなと思いつつ、俺は火を起こしてパチパチと鳴る焚き火の音を聞きながら小腹がすいたので目玉焼きを作っていた。
塩コショウに醤油も具現化出来るので、調味料に困ることは無い。甘味の砂糖まで完備しているのだから、俺に死角はなかった。
でも納得いかないのは、ケチャップは具現化できてもマヨネーズは出来ない事。
おそらく、オムライスの上にケチャップで下手くそな絵を描いて遊んでいたりしたのが原因なのだろうが、ならマヨネーズも具現化させてくれよ。
俺は幾つかの野菜も具現化出来るのだが、毎回ごまドレッシングだと飽きてしまう。
マヨネーズって偉大だったんだなぁ........そう思いながら、焼きあがった目玉焼きをスーちゃん達と摘んでいたその時だった。
スーちゃんとナーちゃんがピクリとなにかに反応し、ピギーもなにかに気づいたのか俺に“気をつけて”という意味を込めて小さく鳴く。
全員が見ている方向に目を向けた次の瞬間、木々を薙ぎ倒してやって来たのはクソでかいイノシシであった。
イノシシと言えば、人よりも小さな背丈の存在が目に浮かぶが、俺の目の前に突っ込んでくるこのイノシシはそんな可愛らしい次元の存在ではない。
体長5m程あるだろうか?下手したら二階建ての一軒家よりも大きいイノシシが、こちらに突撃してきたのである。
「WOW。五大ダンジョンってのはすげぇな。こんなにでかいイノシシまで出てくるのか」
(ポヨン!!)
「ナー!!」
『ピギッ!!』
“言ってる場合か”と言いたげに鳴くナーちゃん達。
大丈夫大丈夫。四足歩行の獣は、所詮足元さえ何とかすれば簡単に動けなくなるから。
俺は“何かに追われてそうだな”と思いつつも、イノシシの足元に向けてワイヤーを具現化。
全ての足をワイヤーで絡め取ると、ついでとばかりに愛銃でイノシシの眉間をブチぬ........けなかった。
BB弾が当たったかのように魔力の弾は弾かれてイノシシにトドメをさせない。
俺は自分の手でコイツを殺すのは無理だと悟ると、スーちゃんとナーちゃんにお願いした。
あぁ、火力不足が過ぎる。
もう少し、もう少し火力をくださいな。
「2人ともよろしく」
「ナー!!」
(ポヨン!!)
ピュッ!!と鋭い酸性の液体をイノシシに吐きかけるスーちゃんと、その酸によってもろくなった部分から影を操って首を切り落とすナーちゃん。
俺のメイン火力が外付けの魔物というのが悲しくなるが、まぁええやろ。何とかなったし。
俺は相変わらず弱すぎる自分に悲しくなりつつも、しっかりと仕事をしてくれたスーちゃん達を優しく撫でながら褒めた。
「よくやったな。偉いぞ」
(ポヨン!!)
「ナー!!」
純粋に喜ぶ二人。
あぁ、癒されるぜ。
そんなことを思いつつ、このクソでかいイノシシをどうやって解体しようかなと考えていたその時であった。
俺の足元に矢が突き刺さり、矢が飛んできた方を見れば弓を構える
特徴的な長い耳は何度も何度も吾郎じいさんから聞いた話と同じであり、俺達が敵として警戒していた相手。
スーちゃん達ですら気付かなかった気配消しの技術と、俺の足元に正確に放ってきた矢の精度。
なるほど。確かに強そうだ。
俺にはどれほどの強さが分からないが、このイノシシを追いかけまわせるだけの実力がある時点で強いことは分かる。
「こんなところでエンカウントするとは思ってなかったねぇ。しかも、毎回タイミングが悪い悪い。なんで誰もいない時に来るんだよ。俺、普通に弱いんだが?」
あぁ、ファックファックファック!!
毎回何かとタイミングが悪いんだよなぁ。頼れる相棒はロリっ子の護衛だし、他の仲間たちも今はいない。
俺はこの微妙にマズイ状況の中で、相手がどう動くのかを待つのであった。
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