毎回理論値を引くヤベーやつ
※あれ?同じ話?と思ったらそこの貴方。ごめんなさい。一話飛ばして投稿してしまったので、“保守派と改革派”が更新されたお話です。
保守派と改革派の仲が悪いとは聞いていたが、顔を合わせた瞬間煽り合う仲だとは思わなかったぜ。
これ、絶対に面倒事が起きるよなと思いつつ、俺達がやってきたのはエルフの王が眠る病室であった。
ノース村長はどうも俺が想像しているよりも偉いらしく、敵と認識されている人間を連れているのに一度も誰かに止められる事は無い。
ここまで来ると凄いを通り越して怖いな。俺、実はとんでもない大物相手と話していたのではないだろうか。
このクソ広い日本という国の中で、偶然このお爺さんに会える確率ってどのぐらいなんだろうな?
普段滅茶苦茶運の悪い俺にも、珍しく運が回ってきたのかもしれない。
「ノース長老様。陛下は中におります........が、良いのですか?本当に人間を連れてきて」
「儂が良いと言っているのだから通せ。もし何かあれば、儂が責任を取ろう」
王の部屋の前で警備をする兵士達が俺達の事を怪しむ目で見てくるが、何かと人目に晒される事が多い俺達はとこ吹く風である。
そんな綺麗な顔で睨まれても何も思わんね。先ずはミスシュルカぐらい顔が怖くなってから出直してこい。
「リィズ、爺さん。暴れるなよ。王がボスとは限らないからな」
「わかってるよ。流石に暴れないって」
「フォッフォッフォ。案ずるな。儂も弁えておる」
いやリィズちゃん?君さっきの保守派の爺さんをぶっ殺そうとしてたよね?一瞬殺気が漏れてレミヤに止められてたよね?
一番暴走しそうな2人に再び注意するも、正直不安しか残らない。
ここはクソッタレの街グダニスクでは無いのだ。あの街は気分で人を殺しても許されるが、ここは敵地な上に今のところは順調に事が進んでいる。
となると、今は我慢の時間。きっと暴れる時が来るはずだ。その時に、2人にはストレスを発散してもらうとしよう。
そう思いつつ、俺たちは王の元へと通される。
病に倒れた王は、ベッドから体を起こすとゴホゴホを咳をしながらも俺たちを出迎えてくれた。
「よく来た。人間の来訪者よ。ゴホッ........私はこの国の王アバートだ。ノースから大体の話は聞いているぞ」
「お初にお目にかかります。エルフの王よ。人間を代表出来るような立場ではありませんが、この場には俺達しかいないので一応人間を代表してご挨拶を。グレイとお呼び下さい」
「うむ。確かに流暢なエルフ語だ。エルフとの友好関係があるタイタンと言えどここまで流暢な言葉を話せるものはいないだろう。歓迎するぞ。グレイとその仲間達よ」
痩せこけた頬に、あまりにも悪すぎる顔色。
少しでも軽く殴ったらあの世に言ってしまいそうな程に体は細く、とても王の様には見えない。
年齢は分からないが少なくともノース爺さんよりは若めであり、古くからの友人と言うには少々年齢差があるように思える。
「ホッホッホ。相変わらず死にそうな顔をしておるな。体は大丈夫か?」
「正直あまりよくはない。医者に何度も見てもらったが、なんの病なのかも分からぬのだ。これでは薬を作るもクソもない。残り少ない余命を楽しむことすらも出来ぬだろうな」
「後継者が指名されておらぬ今、お主が死ねばエルフの国はさらに荒れる。死んでも生きるのだ。でないと、この国は終わるぞ」
「分かっている。が、今の若きエルフには良き人材が少ないらしい。世界樹様が後継者を指名しないということは........まだ私にはやるべきことが残っているのだろう」
へぇ、エルフの王は世界樹が指名をするんだな。
ということは、世界樹は意志を持った存在ということか?それとも、エルフが勝手にそう言っているだけで特殊な体質を持ったエルフのことを指しているのか?
エルフの王制度について考えつつも、俺はこの国の現状を頭の中で整理する。
現在、エルフの国は内部分裂が起き始めている。
理由は世界樹に何らかの異変が起きており、それをどう解決するのかの手段でパックリと割れてしまっている。
エルフ達だけの力で解決を試みる保守派と、外部からの力を借りて解決を試みる改革派。
この2つが今、エルフの国の中で権力争いをしているのだ。
どちらが優勢かどうかは分からないが、少なくともどちらも引く気はなさそうである。
顔を合わせた瞬間に口で殴り合うような間柄なのだから、下手したら殺し合いとかも起きてそうだな。
そして、それらを取り纏めるはずの王は病に犯され内政所ではない。後継者も指名されていないため、変わるに変われず今こうして闘病の真っ最中なのだ。
エルフの国も大変だなおい。少しでも誰かが引き金を引いたら内戦一直線だ。
世界樹が穢れて国が滅ぶ前に、自滅して世界が滅ぶぞ。
「アリカ、あの状況だけを見て何かわかるか?」
「分かったらそいつは
凄いねアリカちゃん。薬学が相当詳しいことは知っているが、病気についてもかなり詳しいなんて。
まぁ、薬学をするなら多少病気についての知識も無いとダメなのだろうが、だとしても普通の11歳の子供が身につけられる学力ではない。
アリカって本当に環境に恵まれなかっただけで優秀なんだな。“この組織に入った事が人生でもっとも正しい判断だった”と言ってくれている所だけはおバカだが。
何も正しい判断じゃないよアリカ。このファッキンなんちゃってマフィアを居場所として見出したらダメだよ。
来る日も来る日もドンパチかまして、死体を道路に放り投げるような組織に居心地の良さを覚えないで。
頑張れば真人間になれるから!!頑張ろうアリカちゃん!!
........ま、多分そんな日は訪れないんだろうな。
そう思いつつノース村長とアバート王の会話が終わるのを待つ。
暫くすると、会話も終わりアバート王との本格的な話が始まった。
正直、一刻の王相手に話したくないのだが、俺がこの中では一番偉い事になっているので話さなければならない。
レイズくん、変わってくれてもええんやで?え?言葉がまだ怪しいから無理?大丈夫大丈夫。魂で会話すれば行けるって。頑張ってくれよ。
「私の症状を見てくれると聞いたが、それは本当か?」
「えぇ。治るかどうかは分かりませんが、少なくとも我々にはエルフとは違う知識や視点を持っています。エルフだけででは解決できないのであれば、違う点からアプローチしてみるのはどうですか?」
「なるほど。確かにエルフの医師はエルフの医学に基づいて私を診断している。人間が行う診断から何か........ゴホッ、分かるかもしれんな」
「そういうことです。どうせ道は既に1本しかないのですから、藁にもすがる思いで受けてみてください。そしたら治るかもしれませんよ」
「ふむ。では受けてみるとしよう。貴殿らには敵意も感じないし、私を殺すことも無いだろうからな」
「ご安心を。殺すつもりできたのであれば、今こうして会話する間もなく楽にしてあげていたので。そちらの方が良かったですか?」
「フハハ。勘弁願おう。まだやるべきことがあるらしいからな」
アバート王はそう笑うと、俺達人間の診断を快く了承してくれるのであった。
良かった、この国の王は話が通じる人で。世の中には話が通じない指導者もいるからな。ポル・ポトとかスターリンとか毛沢東とか........
【保守派】
世界樹の危機をエルフ達だけで解決しようとする派閥。エルフ至上主義者に多く、他種族を見下す傾向があるエルフ達が保守派に入ることが多い。過激な思想を持つものが多く、他国にテロをしたりはしないものの改革派のエルフを拉致って埋めるなんかはやっていたりする(もちろん、極一部の話)。
エルフの王の診断が始まったので、アリカとレミヤそして護衛のローズとミルラそして俺が残り、残りはこの建物の部屋に泊まることになった。
あちらにはノース村長が着いているので、大抵の事はなんとかなるだろう。
「先ずは脈を測る。グレイお兄ちゃん。触れてもいいか聞いてくれ」
「あー、王よ。貴方の心臓が正常に動いているのかを知りたいらしい。手首に触れてもいいか?」
「構わんよ。好きなように診断してくれ」
「ご自由にどうぞだって」
「分かった。私たちはまだエルフ語が拙いからな。グレイお兄ちゃんに翻訳を頼んで正解だった」
何の役にも立たないはずの俺であるが、唯一神様から貰った言語チートだけは役に立つ。
なので、正確な翻訳ができるように俺は通訳としてこの場にいた。
だいぶ省略して話しているが、話の核は掴めるだろう。
こうして診断が始まったのだが、基本アリカとその手伝いをするレミヤ以外は暇である。
王もこの沈黙の空気が気まづかったのか、俺に話しかけてきた。
「人間の国では、王は存在するのか?」
「一応は。王と言うよりも、民の意思によって決められた纏め役という感じですかね。“首相”や“大統領”と呼ばれています」
「ほう。人に選ばれるのか。それはエルフの国では考えられない決め方だな。エルフの王は世界樹様の意志によって決められるものだ」
「その意志と言うものをお聞きしても?」
「簡単に言えば、天啓が舞い降りて世界樹様に導かれる。そして、世界樹様のご加護を与えられるのだ」
「どのような御加護を?」
「ちょっとだけ強くなる。後、魔力が神聖化するな」
「へぇ、そうなんですね。人間の国とは全く違うようだ」
この感じだと、世界樹は本当に自らの意思を持っているんだろうな。それが王となる資質の者を選ぶのかどうかは知らないが、世界樹を神聖視するもの達からしたらどんな大金を積んでも欲しいだろう。
宗教とはそういうものだしな。
上手くエルフの王との会話を続けつつ、アリカの翻訳をやっているとふとアバート王の影がゆらりと動いた気がした。
なんだろう?と思い、影の中いるナーちゃんに捜索を頼むと“ナー”と元気いっぱいに鳴いて影の中を渡っていく。
そして、数分後、ナーちゃんは何かをくわえて戻ってきた。
黒く実態があるのかないのか分からない変なもの。なんというか、呪物のようにも見えるそれはとてもでは無いが王の影に入っていていいものでは無い。
でも、王の私物かもしれないし一応聞いてみるか。
「........王よ。これなんですか?」
「........!!それは、呪殺の魔法に使われる道具........!!なぜ貴殿がそれを?!」
「いや、なんか王の影が怪しい動きをしたので、ちょっと影の中から取ってみたらこんなものが」
「今すぐに破壊しろ!!そいつは呪いを邪魔した者を喰らう術が込められて──────」
王が全てを言い終わる前に、俺の手の中にあった黒い変なものは俺を食らいつくそうと覆いかぶさってくる。
おぉ、なんか凄いな。映画で黒い波に飲まれる感じってこんな風景なのかも。
そんな悠長なことを思いつつ、俺は“任せて!!”と頭の中にし念を飛ばしてくる可愛い護衛を呼び出す。
どうやら、ピギーがやる気満々のようなので頑張ってもらうとしよう。
「ほら、頑張れ」
「ピギィェェェェェェェェェェェェェェェェ!!」
この世界に顕現すると同時に鳴り響く世界を滅ぶす悲鳴。
やっと出番が来たのか、普段以上に張り切るピギーはエルフの国のみならずダンジョン内に存在する全ての存在に恐怖を植え付ける。
「ガッ........!!」
「しまっ........」
「........っ!!」
あ、やべ。仲間までガッツリ巻き込んじゃってるわ。
俺は慣れたからあまりなんとも思わなくなったが、アリカ達はこの圧に慣れていない。
やべやべ。このままだとエルフの王を殺しちゃうよ。
「ピギー、ストップ。皆倒れちゃってる」
「ピ........」
“あ、やべ”とピギーも気が付いたようで素早くどこかへと消えると“ごめんなさい”と謝ってくる。
大丈夫大丈夫。気づけなかった俺が悪いしな。
ちなみに、今のピギーの絶叫で俺に襲いかかろうとしていた呪物は跡形もなく破壊。
何やら小さな木の棒がけが残っている。しかも、王の周りにも多くの木の棒が落ちており、これが全て呪殺の道具なのだと言うことがよくわかった。
これ、結果的にピギーを叫ばせて良かったかもな。だってこれ、全部呪物でしょ?
王は病気じゃなくて暗殺されかけてたんだな。そりゃ、医者にわかるわけが無いわ。
医者が分かるのは、体の症状だけで呪いについてはさっぱりだろうしな。
ところで、これって王の暗殺を目論んだ奴がいるってことだけど、相当面倒なことになりかけてる?
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