リィズとの訓練
ピギーの紹介をしたら全員ノックダウンしてしまった翌日の夜。
仲間たちの殆どが自分達の家に帰ったら後、この事務所に住む俺とリィズそしてスーちゃんたちは地下室へとやって来ていた。
自分で言ってて悲しくなるが、ピギーと言う化け物みたいな強さを持つ“何か”を手に入れたとしても俺は弱い。
何故かって?俺の攻撃力はいつまでたっても強化されないからである。
人を壊す術は知っているし、実際に大半の人は殺せる。
しかし、ジルハードレベルの強さになってくると俺は手も足も出ないのが現状であった。
おーい神様。俺の強化イベントはまだですか?
さすがにリィズや吾郎爺さん程強くしてくれとは言わないが、もうちょっと強くしてくれてもいいんじゃないですかね?
未だにメインウェポンが初期装備の銃と勘違い悲しくなるよ。俺、こんなに雑魚なのに五大ダンジョンに挑まないと行けないとかマジ?
無理ゲーが過ぎるって。
「っつ!!あっぶね」
「おー、今のも躱せるんだ。流石はグレイちゃん。能力が無くてもだいぶ強くなったねぇ」
「その能力も弱いんですがねぇ!!」
「そんなことは無いよ。グレイちゃんの天才的な頭があるからこそ、あの能力は光り輝くんだから。あまり自分を弱いと思わないで」
俺が瞬きをする瞬間に合わせて攻撃を放ってきたリィズの一撃を気合いで躱し、できる限り距離をとる。
弱いなりに強くなる努力はしなければならない。仮にもこの
だから、俺はこうして毎日リィズに戦い方を教えて貰っていた。
全力を出すのは無理だが、それでもある程度は戦える。
日々の積み重ねが大事だと言うのは、親父にイカサマを仕込まれている時に嫌という程思い知ったからな。
「それじゃ、もう少しスピードをあげるよ。能力も使っていいから、反撃してね」
「チッ!!」
つい先程までの戦いが遊びと言わんばかりに一気に動きが早くなるリィズ。
最早目で追う事すらも難しくなってくるが、リィズの性格的に狙ってくるのは足元だな。
「ここ」
「およ?」
俺はリィズが蹴りを入れてくるタイミング似合わせてジャンプすると同時に、
初見殺しが多いこの能力ではあるが、何度も何度もこの能力を見てきているリィズには大した効果は見込めない。
しかし、ネタがバレていてもそれを見せ札にする事は出来る。
あえて見せ札を使うことで本命の一撃を隠すのだ。
素早く釘バットを具現化すると、リィズの脳天に向かって本気で振り下ろす。
どうせ避けられるのは分かっているが、本気で殺しに行かないとリィズにボコボコにされるのは目に見えていた。
俺が死なないように、俺を強くするために振るわれる愛ある拳はマジで痛いからな。出来れば殴られたくないものである。
「よっと」
スっと俺の渾身の一撃を避けるリィズ。しかし、これは想定内。
俺は続け様に能力を行使すると、ワイヤーを具現化させてリィズの捕縛を試みる。
「ほいっと」
が、リィズはこれもらくらく回避。何度も見せたワイヤーと言う手札は、すでにリィズには意味がない。
次。
今度はリィズが着地する箇所にスーパーボールを転がす。
これで転んでくれたらラッキーだが、これも上手くいくわけがなかった。
「甘いねぇ」
リィズはスーパーボールを思いっきり踏み潰して破裂させると、すんなりと地面に着地する。
あぁ、スーパーボール君が........見るも無惨にぐしゃぐしゃになってしまったでは無いか。
と、言うわけないだろ?
「残念上手く行きそうだったのになぁ........」
俺の言葉に、ピクッとリィズの体が反応する。
そして、1度地面を強く踏み込むと床を軽く破壊した。
「なにか仕掛けてたね?」
「........さぁ?」
嘘だろおい。態々スーパーボール君が潰される読みでその下に瞬間接着剤を撒いたと言うのに、本能で看破しやがった。
それで少しでも動きを鈍らせれれば一撃ぐらいは当てられると思ったのに。
相変わらず馬鹿げた本能だ。思考ではなく直感で戦うやつに勝てるわけねぇだろ。
野生の動物以上の勘を披露されてしまえば、俺にも打てが無い。
こうして今日も、俺はリィズ相手に防戦を強いられるのであった。
体が痛いよぉ........でも、リィズが俺のためを思ってやってくれていると思うと少し興奮してしまう辺り俺も終わってんな。
「フゥ、本当にグレイちゃんは防御が上手いねぇ........私、それなりに本気で殴ってるんだよ?」
「毎日リィズに殴られてりゃ、そりゃ少しは上手くなるさ。俺の能力も攻撃よりも防御の方がやり易いしな」
「そもそも、その変わった能力で私な攻撃を捌ける時点で可笑しいんだけどね?ほんと、色々なものが出せるよね」
「子供の頃、色んなおもちゃで遊んでた俺に感謝だな。とくにワイヤーとか、縄の類は助かってる」
「いやらしい使い方をしてくるから、毎回集中しないと大変だよ。特に煙幕系がウザイね。あの花火が1番嫌いかも。火薬の匂いが充満してグレイちゃんの匂いが分からなくなるし、何気にグレイちゃん気配消すのが上手だし」
「追われまくってた時に頑張って身につけたからな。多少は気配を消せるさ。残念ながら、あっという間に見つかるけど」
「でもその僅かな時間でトラップを作ってくるでしょ?戦いにくいよ」
でも、リィズさん。貴方能力を使った瞬間に勝ちますよね?
相変わらず俺をヨイショしてくれるリィズだが、結局リィズは本気を出してないのだ。
能力を使った時点でほぼすべての人間を殺せるとか、マジで殺戮兵器みたいな能力してるんだよな。
あれぐらい能力が強ければ、ここまで苦労することも無いだろうに。
そう思っていると、少し離れた場所で俺達の戦いを見ていたスーちゃんとナーちゃんが寄ってくる。
2人は、負けた俺のことを慰めるかのように優しく俺の膝の上に乗って甘えてきた。
「んー、スーちゃんもナーちゃんも可愛いなぁ。負けた俺を慰めてくれるのか?」
(ポヨン)
「ナー」
「グレイちゃんは人気者だねぇ」
「リィズも慰めてくれよ」
「あはっ!!いいの?」
冗談半分でそう言うと、リィズは満面の笑みを浮かべて俺に抱きつく。
喉がゴロゴロと鳴り、俺にマーキングをするかのように体をこすり付けてきた。
慰めるって言うか、甘えてきてるな。いつもそうだけど。
「あ、そうだグレイちゃん。私、今日からピギーちゃんになれる練習するから、召喚してくれない?」
「ん?ピギーに慣れる?」
「そう。ピギーってほぼ全ての生物の行動を停められるほどの力を持つでしょ?その中で私も動けたら、私も役に立つと思う」
向上心が凄いな。
確かにピギーは、あの英雄王とまで言われるアーサーの脚すらも止めさせるほどの力を持つ。
現状その中をヘラヘラとしながら歩けるのは俺ぐらいだ。
なんか慣れたしな。
しかし、俺は弱い。折角相手をスタンさせたとしても、その時間を有効活用できる機会は少ないだろう。
となればリィズの様に一撃でドラゴンを沈められる力を持つ人間が、動けた方がいい。
「いいのか?相当キツイぞ?」
「大丈夫大丈夫。死にはしないだろうからね。それに、私の命はグレイちゃんのもの。私はグレイちゃんの役に立つことが生き甲斐なんだよ?だから........ね?お願い」
上目遣いで可愛らしくお願いをしてくるリィズ。
そんな顔をされてしまっては、どんな男でもその願いを聞いてしまうだろう。
妲己もびっくりな可愛さだ。今のリィズなら世界征服だって夢じゃない。
気性が荒すぎて少しでも機嫌が悪くなると手が出るけど。
俺は、リィズの頭を優しく撫でながら、額にキスをしてそのお願い事を聞いてやる事にしたのであった。
【妲己(だっき)】
殷王朝末期(紀元前11世紀ごろ)の帝辛の妃。帝辛に寵愛され、末喜などと共に悪女の代名詞的存在として扱われる。
傾国の美女と言われることが多いが、大体悪者として描かれがち。
グレイの実質的配下に成り下がった
彼女は、グレイの配下であるレイズから伝えられた仕事の内容に頭を抱えていた。
「五大ダンジョンの一角“エルフの森”に行くから手配をよろしくだと........?遂に頭が狂ったのか」
五大ダンジョンと言えば、世界に存在する攻略不可能ダンジョンの1つ。
数多の国がその地を取り戻そうとしたものの、誰一人として攻略することが出来なかった難攻不落のダンジョンである。
そんなダンジョンに挑むから移動手段を確保してくれと連絡してきた
コイツら正気か?と。
何度Sランクハンター達が挑み、敗れてきたと思っているのか。
まるで散歩にでも行くかのような気軽さで、この話をしに来たレイズを一回殴ってやろうかと考えてしまったほどである。
レイズは確信しているのだ。自分達のボスたるグレイが攻略すると宣言した時点でエルフの森は攻略されるのだと。
「部下からの信頼が厚くて何よりだな。下手な宗教よりも狂信的だ。あの人心掌握術だけは、私でも目を見張る。が........これ断れないよな」
「無理でしょうね。なんとかして手配しなければ怒りを買いますよ。あのヘラヘラとした男は、その笑顔を貼り付けたまま我々を殺戮することでしょう」
「
あれほどの被害と、戦争の火種をばら蒔いてヘラヘラできる辺り、あの男の頭のネジはぶっ飛んでいる。
シュルカはあのグレイの顔を見てようやく、自分が人では無い何かを相手しているのだと理解したのだ。
理解した時には既に全てが食い尽くされたあとであったが。
尚本人は単純に“大変そうだな”と心の底から思っていただけである。シュルカのグレイに対する評価ガあまりにも高すぎたが故の食い違いであった。
何を言ってもグレイの言葉には裏があるはず。そう思わざるを得なかったのである。
「手配するとなると、“宅急便”辺りに話をつけるしかないか。面倒だが、やらねば我々が殺される。従順な下僕である限りは、我々にも利益をもたらすと言う点では、奴は使えるな。対価は重いが」
「........もしや、彼が戦争の火種を残したのは我々の革命を行いやすくする為ですかね?」
「可能性は有り得る。やつは私達が誠実である限りは対等な取引を望むからな。配下であれば尚更に。近い内に、この世界がひっくり返るほどのことが起こるかもしれんぞ。それまで我々は、大人しくするべきなのだろうな」
「全て掌の上で転がされている気もしますがね」
「それでも、我々は従うしかないというのが辛いところだ。下請け企業の気持ちが少しはわかったかもしれん」
シュルカはそう言うと、今後この世界を破壊するであろう化け物の顔を思い浮かべながら葉巻に火をつけるのであった。
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