俺、無理ゲーに挑むってよ〜平行世界の地球があまりにもハードすぎる件〜

また会おう友よ

　アーサーのペットを見つけ、俺はなんかヤベー奴と契約っぽいのを結んだ翌日。

　今回は吹っ飛ばされることが無かった事務所の中で、白いオオカミがアーサーのの腕の中で楽しそうに吠える。

　急に訪れた招かれざる客の圧にも耐え切り、何とか生き延びたその白い狼の生命力は高かった。

　あんなにも死にかけていたと言うのに、今では尻尾をふりふりする位までは回復している。

　昨日の今日だと言うのに、逞しい事だ。魔物の生命力は凄まじいな。

｢クーン!!｣

｢あはは!!そんなに顔を舐めないでくれよ。くすぐったいじゃないか!!｣

　爽やかなイケメンフェイスで白いオオカミの抱き抱えながら、嬉しそうに頬を舐められるアーサー。

　これで少しはストレスが解消されてくれるだろう。

　可愛いは正義。常に孤独であった彼に、新たな仲間ができたのだ。

｢危機的状況は脱しましたが、まだ予断を許しません。しっかりと栄養のあるものを食べさせつつ、暫くの間は目を離さないであげて下さい。具体的には、肉を食べさせてあげてください。それも、魔力を含んだ魔物の肉ですオーク辺りが良いかと思われます。血も魔物にとっては栄養になるので、取れたて新鮮の魔物が好ましいかと｣

｢分かりました。GBR(イギリス)にもオークが出てくるダンジョンが多くあるので、そこに暫くは通おうと思います。フェルを見てくれてありがとうございました。ミス、レミヤ｣

｢お礼なら主人（マスター）にお願いします。私はただ、指示に従っただけですので｣

　そう言いながら、ぺこりと頭を下げるレミヤ。

　可愛い犬っころと戯れるアーサーを見ても尚、警戒を解かない辺り、相当アーサーが怖いんだな。

　こんなに純粋な青年のような笑顔が、お前には悪魔の微笑みにでも見えるのか？

　........見えるんだろうな。俺達隣アーサーは、本来敵対するべき相手だし。

｢“フェル”がこの犬っころの名前か。良いんじゃないか？大きくなったら可愛いからかっこよくなりそうだしな｣

｢神話の狼“フェンリル”を文字って付けたんだ。いつの日か、僕の隣で一緒に戦ってくれる仲間になってくれると信じてね。まぁ、戦ってくれなくても、元気に僕の心を癒してくれればそれでいいけど｣

｢10年後が楽しみだ。もしテレビでフェルの事を聞かれても俺たちの名前は出すなよ？世界最悪のテロリストに助言されて捕まえてきましたとか言ったに日は、次の日の新聞の一面を飾ることになる｣

｢流石に言わないよ。あ（・）の（・）事（・）で僕はグレイに借りがあるとすら思っているからね。表立って大々的に手伝うのは厳しいかもしれないけど、何かあったら手伝ってあげるよ。君が君である限りは、僕はグレイの味方になってあげるさ｣

　一国を動かせる程の権力を持ったヤツが俺の味方になってくれるとか、その気になれば世界征服出来そうだな。

“あの事”とは、恐らく俺の右手に宿って消えた存在自体が許されてなさそうなあの剣の事だろう。

　全てが終わった後に、この剣が何に見えたのかを聞いてみたが、アーサーは“闇”に、アリカは“死”に、ミルラは“無数の黒い手”に、吾郎おじいちゃんは“数多の亡霊”に見えたらしい。

　皆抽象的な、絵画に書かれそうな物が見えていたんだな。思いっきり物である剣に見えたのは俺だけのようだ。

　後でジルハード達にも見せて聞いてみよう。限界まで力を抑えてくれても、俺たちが震えあがるほどの圧を持つソレを見て耐えられるのかは不安だが。

｢本当はもう少しグレイ達と話したいんだけど、僕も忙しくてね。そろそろここを出なきゃ行けないんだ｣

｢世界を守る英雄様は大変だな。俺たちなんざ、毎日が暇で仕方がないって言うのに｣

｢あはは。僕の仕事を分けてあげたいぐらいだよ。いやホントに。でも、いい体験が出来たし、こんなにも可愛くて頼もしい仲間ができた。心の底から感謝しているよ｣

｢ま、俺も面白いやつに出会えたし、これはこれで良かったさ。死にかけたけど｣

　俺はそう言いながら、右手の甲に視線を向ける。

　右手の甲に刻まれた黒い十字架。あの“何か”との繋がりを持つこのなんちゃってタトゥーは、静かに蠢く。

　アーサーとの別れの前に顔を出させてあげるか迷ったが、出現するだけで相手を殺しうる存在なので流石にやめておいた。

　まだまだ回復していないフェルちゃんを怖がらせるからな。昨日の今日でストレスを溜めさせるのは良くない。

｢ピギーについて何か分かったら連絡をくれ。暫くは圏外に居るだろうけど、連絡が取れる時にでもな｣

｢ピギー？あぁ、その子の名前か。もしかして、鳴き声から取ってる？｣

｢単純な名前だが、本人は凄く嬉しそうだぞ。何処にいるのかは知らんけど、嬉しいって感情だけは伝わってくる｣

｢あはは。グレイは名前のセンスは無いみたいだね。スーちゃんは“スライム”から取ってるし、ナーちゃんは鳴き声からだろう？｣

｢センスを求められても困るさ。それに、アーサーだって神話の生物から名前を取ってる。ネーミングセンスが無いのはお互い様だよ｣

　俺がそう言って肩を竦めると、アーサーもケラケラと笑い出す。

　世界的英雄と世界的悪党。

　本来相容れない存在同士が、不穏な空気もなく笑い合うその空間は歪でとてもではないが、俺達を知るものは信じられないだろう。

　だが、望まずして英雄へと成り上がった者と望まぬして悪党へと成り下がった者は、似た道を歩んだ事により友へとなる。

｢また暇が出来たら来るよ。フェルと共にね｣

｢おう。待ってるぜ。暫くはこっちも忙しくてここにいないだろうけどな｣

｢どこかに行くのかい？｣

｢かつての祖国を取り戻しに行くのさ。ガッツリ犯罪だが、止めてくれるなよ？いつの日か誰かがやらなければならない事を、今俺たちがやるだけさ｣

　察しのいいアーサーは何となく今までの会話から察したのか、“なるほど”と呟くとさわやかに笑う。

　目の前で堂々と“犯罪しますよ”と言っても、アーサーはそれを止める気は無いようであった。

｢初めて君の中に正義が見えた。僕は完全なる悪以外に興味は無いからね。なんちゃって悪党さんには応援を送るよ｣

｢そいつは有難い。英雄王のご加護があらん事を｣

　こうして、英雄王アーサーの小さな冒険譚は幕を閉じた。

　友人を手に入れ、癒しを手に入れた正義の権化はさらに強くなって帰ってくるであろう。

　また逢う日が楽しみだ。

｢........なんでボスは欠片もビビらないんだ？俺達が世界的悪党って事を忘れてるんじゃないだろうな？｣

｢もう何言っても無駄っすよ........俺は諦めたっす｣

　そこ、煩いぞ。

【英雄に齎す勝利の剣（エクスカリバー）】

　聖剣を得る能力。似た様な能力があるのだが、その中でも最も強力とされるのがこの剣。第一次ダンジョン戦争の際にある男が発現させた能力でもあり、それ以降代々使い手を受け継いでいる“継承型能力”である。

　継承者の中でも最強のアーサーはこの聖剣の力の80%以上を出せるが、未だ完全な力を得ては無い。

　エクスカリバーは思念を持っており会話も可能。しかし、歴代の中でもそれができるのはアーサーだけである。

　エクスカリバーの能力は様々で大体のことはできてしまうが、自己防衛及び完全なる悪の排除以外で相手を殺せないという大きな欠点が存在する。

　1.名無しの神

【ついに最強か？】グレイ君とんでもなくヤバい奴を手に入れる。

　2.名無しの神

　>>1

　時報助かる。

　英雄王に出会ったり仲良くなって流石グレイ君とか言ってたけど、そんな事どうでも良くなるほどヤベーのが出てきたわ。なにあれ。俺ですら“あ、死ぬ”って思ったぞ。

　3.名無しの神

　こんな体験初めてだわ。世界を覗いてたら死を感じるとか。なにあれ？やばくね？

　4.名無しの神

　私達ですらきっと殺せるレベルの物だねあれ。見た感じ封印されていたけど、封印が解かれたらこの掲示板に張り付いてるニート神達は即死しそう。

　5.名無しの神

　あれで封印状態とかやばすぎやろ。一体何を封印したんですかね？まだまだ世界滅ぼせそうなんですが........

　6.名無しの神

　有能神!!何か分かった事はあるかい？

　7.名無しの有能神

　>>6

　何もわからんと言うのが分かった。

　速攻で調べたけど、本当になんの情報も出てこない。予測でしかないけど、多分この世界に存在してはならない存在だと思う。

　封印されているのは間違いないかな。でも、この何かの成り立ちや歴史は何も残って無かった。

　ほかの神にもちょっと聞いてくる。

　8.名無しの神

　有能神ですら分からないとか、俺達神様よりも上位の存在か？あの“何か”は。下手したらここに乗り込んで来れそうだよな。

　9.名無しの神

　頼むからそんなに怖いこと言わないで。恐ろしさのあまり、夜しか眠れないじゃないか。

　10.名無しの神

　>>9

　グッスリじゃねぇか。

　でも、何がやべぇって、神ですら恐れるその存在を“あ、なんか慣れてきたわ”とか言って仲間にするグレイ君なんだよなぁ........

　なに？慣れたって。あんなん何千、何万時間と一緒に居ようが慣れるもんじゃないよ。

　11.名無しの神

　適応力の天才とか言われてたけど、ガチの天才なんだな。グレイ君をバカにしてた自分を殴りたいわ。

　12.名無しの神

　適応力と言うか、恐怖への慣れが早すぎる。あのリーズヘルトちゃんですらその場に跪くような化け物なのに、のんびりできるグレイくんはイカレてるよ。

　13.名無しの神

　今までは普通の人間として見て笑ってたけど、見る目が変わったわ。頭のネジがぶっ壊れてる。恐怖心を克服するのって、かなり難しいはずなのにサラッとできるのは天才だよ........火力は無いけど。

　14.名無しの神

　草

　15.名無しの神

　草

　16.名無しの神

　草

　17.名無しの神

　草

　18.名無しの神

　草

　19.名無しの神

　草。グレイ君、ここまでやっても火力は得られてないんだよな。あの何かで確定長時間スタンを決められるけど、そもそも切ったりできるのか？

　20.名無しの神

　グレイ君には剣に見えてたけど、他の人には剣以外の物に見えていたらしいし、実体は無いのかもしれないね。空間に存在する概念みたいな。

　21.名無しの神

　確定スタンを当てられる時点でクソ強いんだけど、多分あれ味方も巻き込むだろうからグレイ君が火力を持たないとどうしようもないんだよな。

　22.名無しの神

　アレ？グレイ君、防御札だけ潤沢に揃って火力面は未だ雑魚........？

　23.名無しの神

　あの何かの封印が解ければ最強の攻撃力が得られるんだろうけど、問題は封印が解かれるとあの世界は滅ぶって事なんだよなぁ。自爆技じゃん。

　24.名無しの神

　もしかして、グレイ君はグレイ君のまま？

　やったぜ。

　25.名無しの神

　さすがグレイ君。俺たちの期待を裏切らないぜ!!

　防御面はアホ強いけど攻撃力が低くて補助性能に優れているとか、滅茶苦茶嫌われそうな性能してんな。しかも、運が強すぎて死なんし。

　26.名無しの神

　やっぱりグレイ君はグレイ君なんだな........安心したぜ。

　27.名無しの神

　尚、ここまで語られてない英雄王君。

　28.名無しの有能神

【英雄王】アーサー・キンドレッド。

　カッコよすぎるよォ!!グレ×アサ!!期待!!

　もちろん攻めはグレイ君で!!

　29.名無しの神

　有能神さん？？？

　30.名無しの神

　有能神、腐女子説浮上。こいつも終わってる側だよ。

　31.名無しの神

【速報】有能神ちゃん、腐女子!!

【速報】有能神ちゃん、腐女子!!

　32.名無しの神

　でも、正直軽くBLみは感じた。グレイ君もそこそこ顔はいいほうだし、意外と似合うかもしれん。

　33.名無しの神

　>>28

　グレイ君の相手はリーズヘルトちゃんだろうが。ぶっ殺すぞクソ女。

　34.名無しの有能神

　>>33

　あ？男同士の愛こそ真の愛なんだよ。ミーハーは帰って1人で慰めてろ童貞野郎（ウィンナー）。

　35.名無しの神

　>>34

　調子こいてんじゃねぇぞ腐った果実（クソババァ）が。純愛の邪魔すんなら殺すぞ。

　36.名無しの有能神

　>>35

　殺すしか言えないのか語彙力弱者。やれるもんならやって見ろよ!!ニートで家から出られない雑魚がよぉ!!

　37.名無しの神

　マジで草。グレ×リィズ派とグレ×アサ派がガチ喧嘩してんだけどwwwww

　38.名無しの神

　こいつら馬鹿なのか？面白すぎるwwww

　39.名無しの神

　>>36

　表出ろや。お前に純愛の素晴らしさを解いてやるよ。大体、あのクソガキがグレイ君と一緒になったらNTRじゃねぇか。そんなこともわからんのか？この低脳が。

　40.名無しの有能神

　>>39

　上等だよ。BLのすばらしさを教えてやるよ。叩き潰してやるから覚悟しろや。

　41.名無しの神

　えー、収集が付かなさそうなので、ここで終わります。多分、次のスレでは決着ついてるやろ。多分。

　後書き

　この章はこれにてお終いです。グレイ君、確定範囲スタンを手に入れたけど味方も巻き込む模様。しかも、剣に見えていても概念的存在だから攻撃手段には使えないと言う悲しみ。

　グレイ君、結局火力は得られなかった模様。

　次は遂にダンジョン攻略が始まります。世界をひっくり返せ‼︎