可愛い犬っころ
【英雄王】アーサーを連れて、闇ダンジョンの1つにやって来た俺たち。
ここはミスシュルカがボスを務める“軍団”が管理しているダンジョンの1つであり、オオカミ系統の魔物が多く生息するダンジョンである。
本来ならば入場料が必要となるのだが、何故かおれはこの街で一番偉いので顔パスでさきに通して貰った。
手数料とかも引かれない所か、“おつかれさまです!!”と頭を下げられるのはちょっとご勘弁願いたいが。
俺、別に目立ちたいとかそういうの無いから。下手に騒ぐのは辞めてくれ。
「本来なら、闇ダンジョンは摘発するべきなんだけどね。今回は見逃してあげるよ」
「そもそもアーサーはPOL(ポーランド)にある闇ダンジョンの摘発とか出来ないだろ。POLとGBR(イギリス)はお友達という訳でもないし」
「いや、出来ないことは無いよ。僕はどこの国だろうが、その悪事を裁く権利があるからね。ただ、滅茶苦茶怒られるとは思うけど。悪党にも居場所が必要だ。ある種の監獄を作っておくことで、世界の平和は保たれてる」
「必要悪ってやつか?いや、少し違う気もするけど」
サラッと権力の違いを見せつけてくるアーサー。
こいつを敵に回したら、どれほど強大な組織であろうとも世界中から敵として認定されてしまいそうだ。
まぁ、既に世界中から追っかけ回されている俺達からすれば今更すぎる話なので、気を使うとか無いが。
「アーサーって普段どんな仕事をしてるんだ?銅像のように突っ立ってる訳じゃないんだろう?」
「基本的に国の安全を守るために色々とやってるよ。犯罪組織の壊滅や放置された野良ダンジョンの攻略なんかをね。偶に、イベント事に参加して子供達と触れ合ったりもしてる。そういうグレイは普段何をしてるんだい?」
「俺か?その日次第だな。金は働かなくても入ってくるし、大体遊んでる。組織の中じゃ俺がいちばん弱いから、体を鍛えたりしつつダラダラとすごしてるな。ただし、毎日のようにお客さんがやってくるぞ。ノックの代わりに鉛玉をぶち込んでくるような奴が」
「あはは........それは大変だろうね。気が休まらないや」
「今では大分マシになったが、ここに拠点を構えた時は酷かったよ。さっきの事務所、俺達が住み始めてまだ二ヶ月弱しか経ってないのに、2回もぶっ壊れやがった」
似たような人生を歩んでいると言えど、その進んだ道は真逆。
過程は似ていても、結果がここまで違うとなると悲しくなってくる。
だからと言って、どこに行っても英雄扱いされたいかと言われればNOだが。
アーサーもアーサーで大変そうだな。少しでも下手なことをすれば、イメージが崩れ去り、彼は英雄から堕落王へと成り下がる。
今の地位を維持し続けれるのは、彼の努力があってこそだ。
そこは普通に尊敬できる。俺だったら、窮屈すぎて生きていける気がしない。
「フォッフォッフォ。図らずして英雄となった男と、図らずしてマフィアになった男(自称)が横に並んで歩くとは、人生何があるのか分からんものだのぉ........」
「グレイお兄ちゃんが何も考えずにマフィアになったとは考えにくいけどね。お爺さんはまだお兄ちゃんの凄さを知らないけど、本当に凄いんだよ。今もあの“英雄王”を手懐けているのがいい証拠だ。私たちは犯罪者組織だぞ?あの正義の権化と仲良く話してる時点でおかしい」
「それに関しては同意です。アリカさんの言う通り、今ボスがやっている事は相当頭がおかしいですよ。言うなれば、アドルフ・ヒトラーとフランクリン・ルーズベルトが第二次世界大戦中に仲睦まじく話しているのと同じですからね」
「フォッフォッフォ。確かにそう考えるとヤバいのぉ。あれ?儂の主おかしくね?」
何やらまた変な勘違いを起こし始めている部下達。
偶々出会って偶々仲良くなった相手がアーサーだったのがそれ程驚きか?
普通に良い奴だし、話していて楽しいやつなんだけどなぁ。
「グレイちゃんはいつも凄いんだよ。だから大人しく見てろジジィ」
「フォッフォッフォ。ジジィに厳しいのぉ」
もう何やったもヨイショされ過ぎて俺は怖いよ。
本当にいつの日か大きな失敗をして、この仮面が剥がれることを恐れているとアーサーは楽しそうに微笑んだ。
イケメンが微笑むと絵になるな。今の顔を写真にとってファンに売り付けたら金にならないだろうか。
「ふふっ、もう一種の宗教だね。グレイの言葉が神のお言葉だよ。新興宗教でも開いたら、多くの信者が集まるんじゃないか?」
「勘弁してくれよ。マフィアのボスが教皇を務める宗教なんてロクなもんじゃねぇ。まだ、そこら辺で野垂れ死にそうなホームレスが宗教を開いた方がマシだろうよ」
「あはは。そうかな?意外と上手く行くと思うんだけど」
「馬鹿言え。俺は人を導ける器じゃねぇよ。なんならアーサーの方がそういうのは似合うだろ。お前のケツをファックしたくて仕方がない奴らを集めてみたらどうだ?きっと素晴らしい宗教が出来上がるだろうぜ」
「本当に勘弁してくれ。いやホントに。僕は女の子の方が好きなんだ」
「人間に興味が無いくせに?」
「それとこれとでは話が違うだろう?君も平和が好きなのにファック共に喧嘩を売られるじゃないな」
「アーサー、人生何事も慣れだぞ。きっとお前のケツ穴もなれる」
「嫌だ嫌だ嫌だ!!僕の純血は僕だけのものだよ!!」
コイツ、本当に【英雄王】と呼ばれるような存在なのか?
さも当然のように“ファック”とか言うし、汚い会話も普通にしてくれる。
煌びやかな幻想を抱くファンが今の彼を見たら発狂しそうだな。我らが英雄王はこんなこと言わない!!って。
そんな事を思いながら歩いていると、狼の魔物を見つける。
ブラックウルフ。
漆黒の毛が特徴的な、普通の魔物だ。
別に強くは無いものの、その毛皮が服に使われることもあり需要が高く安定した値段で売れる。
動物愛護団体が騒ぎ立てそうではあるが、生憎この世界の魔物に権利などなかった。
「グガァァァァ!!」
俺達を見つけた瞬間に、口を大きく広げて襲ってくるブラックウルフ。
アーサーはその攻撃をヒョイっと避けると、首根っこを掴んで地面に叩き付けた。
もちろん、殺さない程度で。
「これでいいかな?ここから対話を試みたらいいの?」
「そうなんだけど、多分コイツは無理だぞ。スーちゃんもナーちゃんも最初から敵対していた訳じゃなかったし。変わり者の魔物じゃないと、意味がないと思う。まぁ、とりあえずやってみたら?」
この魔物からは敵意しか感じない。どれほど脅したとしても、コイツは俺達に牙を向けるだろう。
アーサーが“おはよう。いい天気だね”と話しても、この魔物はずっとアーサーの首元を噛み砕こうと藻掻くだけであった。
「うーん。無理だね........敵意を向けられ続けてる」
「残念だが殺すしかないな。このまま手を離しても襲ってくるぞ」
「だろうね。残念だけど人々の贄になってもらうしか無さそうだ」
アーサーはそう言うと、ブラックウルフの首をコキッとへし折る。
片手で軽く絞めただけで魔物の首をへし折れるとかアーサーもヤベェな。強すぎか?
「次の魔物を探しに行くか」
「そうだね。出来ればあまり殺したくは無いから、早めに見つけたいなぁ........」
アーサーの言葉とは裏腹に、この魔物探しは早朝から夜まで行われることとなるのであった。
【フランクリン・ルーズベルト】
アメリカ合衆国の政治家。ニューヨーク州議会上院議員、海軍次官、ニューヨーク州知事を歴任した。第32代アメリカ合衆国大統領。FDRという略称でよく知られている。尚、姓はローズベルト、ローズヴェルトとも表記する。
世界恐慌および第二次世界大戦当時の大統領であり、20世紀前半の国際政治における中心人物の1人である。彼の政権下でのニューディール政策と第二次世界大戦への参戦による戦時経済はアメリカ経済を世界恐慌のどん底から回復させたと評価される。
アーサーの愛玩魔物探しは難航を極めた。抑ダンジョンのまものとは友好的なものの方が少ない。
更に、本能的に生きるオオカミの魔物は気高くしつこいのだ。
そろそろ日が暮れ始める時間になっても、出会う魔物は敵対しているものばかり。
そろそろ今日は引き上げようかとなっていた。
「........全然見つからないね」
「まぁ、スーちゃんやナーちゃんの方が珍しいからな。食い意地の為だけに命を賭けるアホの子と偶々捕まってアイドルになった猫だし」
「それ、褒めてないよね?」
(ポヨン!!)
「ナー!!」
心外なと抗議してくるスーちゃんとナーちゃん。やめてスーちゃん。頭の上でポヨポヨしないで。脳が揺れる。
そういうやり取りをしつつ、さすがに引き上げようとしたその時、俺の耳にか細い声が聞こえてきた。
「クーン........」
今にも死にそうな小さな声。俺はアーサーに視線を向けたが、どうやら声が小さすぎて聞こえてなかったらしい。
「こっちに何かいるぞ」
「え?気配も感じないけどなぁ........あ、いや。物凄く小さな気配を感じる。よく気付いたね」
「声が聞こえた。行ってみよう」
リィズ達を連れて声の方に向かうと、そこには純白の小さな可愛い狼が今にも死にそうなほどやせ細って倒れていた。
真っ白な狼?このダンジョンでは出てこないなずなんだが........
「アルビノ個体だな。レミヤが言ってたぞ。魔物にも人間のように真っ白なアルビノ個体が居ると。珍しいから、無理やり捕獲して高値で売られることもあるらしい。だが、その殆どは群れから孤立させられ、孤独に生きるか生存競争に負けて死ぬかの二択だと言ってたな」
「へぇ、さすがは魔物の研究者。よく知ってんだな。アーサー、サッサと助けてやれ」
「うん。わかってる」
弱りに弱って今にも死にそうなアルビノ狼に、アーサーは持ってきていた水と食料を分け与える。
しかし、かなり衰弱しているのか自分の力で食べることができない。
アーサーは少し悩んだ後、そのオオカミを抱き抱えると少しづつゆっくりと水を飲ませた。
そして、食べ物(干し肉)を小さくちぎって口の中に入れてやる。
すると、白いオオカミはゆっくりとされど確実に干し肉をモグモグと食べ始めた。
「食べた!!」
「あまり大きな声を出すなよアーサー。このままゆっくり面倒を見てやれ。上手く行けば、懐いてくれるぞ」
初めてペットを飼った時のように、ご飯を食べ始めたオオカミを見てテンションが上がるアーサー。
意外とコイツ子供っぽいところもあるんだな。ちょっと可愛いじゃん。と思いながら、皆でオオカミを見守る。
「こいつも飲ませてやれ。今調合した活力剤だ。これで多少は元気が出ると思うぞ」
「分かった。やってみる」
アリカがいつの間にか調合していた活力剤を飲ませると、目を閉じていたオオカミがゆっくりと目を覚ます。
つぶらな瞳の中に混じる気高き信念。この目は魔物の中でもきっと強い部類の目だな。
「クーン」
「気が付いたかい?」
「クーン」
爽やかなイケメンフェイスで笑いかけるアーサーに対し、自分が救われたのだと理解したオオカミは小さく鳴きながらもぺろぺろとアーサーの手を舐める。
賢くそして好意的。このまま上手く仲良くなれれば、アーサーのペットとして嫌にしなってくれるだろう。
そこら辺の犬よりも賢そうだし、詳しいことはレミヤに聞かなければならないが、おそらくブラックウルフの変異種だ。
変異種は強いから、もしかしたら英雄の隣に立つ孤高の狼として人気になるかもな。色も白いし。
「いったんレミヤに状態を見せよう。アイツ、魔物に関しては詳しいからな」
「そうだね。その方がいいかも。せっかく懐いたのに直ぐに死にましたとか言われたら、アーサーが泣いちゃう」
「うん。本気で泣くよそれ。急いで見せに行こう。そのレミヤさんって人のところに」
そう言ってアーサーが白いオオカミを抱き抱えて立ち上がった瞬間。
世界が切り替わり、俺達はこのオオカミの溢れるダンジョンから消えるのだった。
【アルビノ】
動物学においては、メラニンの生合成に関わる遺伝情報の欠損により先天的にメラニンが欠乏する遺伝子疾患がある個体である。
魔物の場合は変異種として扱われ、通常個体よりも強い場合が多い。しかし、異端は排除される運命にあるので、孤独に生きるか成長し切る前に死ぬかの2択を迫られる。
厳しい生存競争の中で生き残った個体は凄まじく強く、白い魔物には気をつけろと言われるほどである。
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