魔物を捕まえに行こう‼︎


【英雄王】アーサーと何やかんや仲良くなり、一緒に魔物を手懐けに行こうと話した翌日。


 俺は仲間達が集まる事務所でアーサーを待っていた。


 事務所の場所を教えたので、アーサーも迷うことは無いだろう。なんなら連絡先も教えたし、困ったら電話でもしてくればいい。


 いやー、アーサーはいい男だな。あの後スーちゃん達と戯れていたが、それはもう心の底から楽しそうであった。


 あまり人に懐かないナーちゃんも、俺と似た境遇で疲れきったアーサーを不憫に思ったのか、背中を撫でさせてやっていた。


 流石に鼻キスはしてくれなかったが、それでもゴロゴロと喉を鳴らしながら背中を撫でられていたので、ナーちゃんもそれなりにアーサーのことを気に入ったのだろう。


 早くアーサーが来てくれないかなと思っていると、テーブルの上で静かに寝ていたナーちゃんが目を覚まして扉を見る。


 それとほぼ同時に、感覚の鋭いリィズと吾郎爺さんも扉に目を向けた。


 ホント、君達気配察知が早いね。


「誰か来た。強いよ」

「フォッフォッフォ。カチコミかのぉ?儂の刀を抜くかえ?」

「こんな朝っぱらからカチコミか?常識がなってねぇな」

「戦闘準備開始」

「待て待て待て。お前ら、この街に毒され過ぎだ。俺の客人だろうから、丁重におもてなししろ。ほら、レミヤは紅茶入れてこい。相手はイギリスアフタヌーンティー出身だから、紅茶にうるせぇぞ」


 訪問客が来ると“カチコミか?”となる仲間たちの思考に呆れつつも、今までやってきたり訪問客の殆どはカチコミだったなと思う。


 ほら、CH(中国)の訪問客とか、どこぞの薬物教会とか。


 全くもってクソみたいな街だ。


“ボスが客を招いた?”と首を傾げる仲間達だが、一応ボスの命令なので大人しく席に座ってくれる。


 コンコンと扉がノックされたので、俺はスーちゃんを頭の上に載せ、ナーちゃんを肩に乗せてアーサーを出迎えた。


「おはよう。道には迷わなかったか?」

「あはは。道には迷わなかったよ。道には。本当にこの街は凄いね。誰でも人気者になれそうだよ」


 フードの奥でそう言いながら笑うアーサー。


 あぁ、ここに来る間に誰かに絡まれたな?


 この街の人間はピザ屋のバイトで生計を立てるよりも、誰かのポケットから財布を盗み出して生計を立てるやつの方が多い。


 運悪く、アーサーもその財布だと思われた訳だ。


「素晴らしくクソみてぇな街だろ?慣れると案外動じなくなるんだがな」

「慣れたくはないかな........僕は争い事とか正直嫌いだし」

「それに関しては同意だ。俺も平和なら平和の方がいいよ。生憎、人間三人よれば争いが起こるもんだが。罪深い生き物だぜ。全人類にはスーちゃんを見習って欲しいものだ」

「あはは!!全くだね。僕もそう思うよ」


 アーサーと仲良く話しながら事務所の中に招き入れると、相手の強さを正確に測れるリィズや吾郎爺さんがいつでも動けるように準備をしていた。


 辞めなさい。確かにアーサーは強い(俺は圧とかよく分からないので噂の話だが)が、話の通じる良い奴だから。


 それに、この場にいる者達が完全なる“悪”で染っているとは思えない。大体流されてここに行き着いた奴ばかりだしな。


 アーサーもこの場で剣を抜くことは無いはずだ。


「で、ボス。そのフードを被ったやつがお客様か?俺達はハンバーガーでも作って出せと?」

「んなわけねぇだろ。お前達にハンバーガーなんて素晴らしいジャンクフードを作れるとは思えないよ。できるとしたらレミヤぐらいだ」

「あれ?今私褒められました?やった!!」


 ちょっと嬉しそうにするレミヤ。


 意外と可愛いところもあるんだな。いつもナーちゃんをガン見して気持ち悪い笑みを浮かべているというのに。


「グレイちゃん、そいつ誰?」


 未だにアーサーに警戒するリィズ。


 では、ご紹介するとしよう。俺は、最初にリィズの横に付くと間違って攻撃しないように抱きついておく。


 こうすればリィズは簡単に大人しくなる。リィズが嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らしたことを確認した俺は、アーサーを紹介することにした。


「紹介しよう。昨日であった俺の友人、【英雄王】ことアーサー・キンドレッド君でーす」

「初めまして“九芒星エニアグラム”の皆さん。【英雄王】アーサーです。グレイとは昨日知り合って仲良くなりました。あ、あとスーちゃんとナーちゃんとも」

(ポヨン)

「ナー」


 フードを取り、そのイケメンフェイスを露わにするアーサー。


 俺がアーサーの自己紹介にパチパチパチと拍手を送ると、事務所に居た仲間たちは石像の様に固まってしまった。


 パリンとレミヤがティーカップを落として割る音が聞こえる。


 あれ?なんか皆反応悪いね。世界的有名な大スター様が来たというのに。


 しばらくの沈黙の後、ジルハードが頭を抱えながらゆっくりと口を開く。


 その声は、重労働をした後のように疲れ切っていた。


「........最近、ボスの奇行に慣れてきたと思ってたんだがなぁ。これは流石に予想外過ぎる。なんだ?俺達を驚かせて心臓を止めさせようとする新手の殺し方か?」

「んなわけないだろ」

「本物っすね。昔テレビで見たイケメンっすよ........え?なんでこんなところにいるんすか?」

「本物ねん........本物なんだけど、なんでここにいるのよん。私達を殺しにでも来たのかしらん?」

「おー、私でも知ってる超有名人だな。極悪組織を壊滅させたり、ダンジョンから溢れ出した魔物を処理したりと様々な話を聞くが........ここに連れてくるのは不味くないか?私達、一応犯罪者集団だぞ?」

「PMC時代に何度もその話は聞いたことがあります。正義の権化。なぜそんな者がここに........?」

「フォッフォッフォ!!儂らの主は想像を軽々と超えてくるのぉ!!ちょいと楽しいわい」

「偽物の可能性を考え、様々な角度の写真と顔を照合しましたが、本物ですね。ボス?私達一応犯罪者集団なんですけど........」


 ようやくアーサーがあの有名な【英雄王】だと認識した仲間達は、“あれ?これやばくね?”と言い始める。


 大丈夫大丈夫。完全なる悪、もしくは大義の為でなければアーサーは相手を殺せないだろうから。


 そんな事を思っていると、一番問題児のリィズが口を開く。


 それは意外にも、アーサーを迎える言葉であった。


「敵意を感じないし、本当に遊びに来ただけっぽいね。グレイちゃんと仲良くなったの?」

「うん。なんやかんやグレイとは似た境遇だったみたいでね。話があったんだよ」

「........へぇ。そっか。でも、グレイちゃんは私の。手を出したら殺す」

「あはは。グレイにはこんなにも可愛いガールフレンドがいたのか。とてもお似合いだよ。僕には居ないと言うのに、裏切り者め」

「ハッハッハ!!残念だったな!!表舞台に立つが故の対価とでも思っておけよ。それに、女に興味無いだろ」

「バレた?僕、昔から世界の為にしか戦ってこなかったから、よく分かんないんだよね。でも、心の底から頼れる人がいるのは羨ましいよ。僕にはそういう人が居なかったから」

「今回はその相棒を探すために来たんだろ?人間じゃないけど」


 仲良さげに話す俺とアーサー。


 サラッと“お似合い”と褒められたリィズは、さらに機嫌を良くして俺の頬に顔をスリスリとしていた。


 アーサーに、“これは私のものだ”と主張するように。


 大丈夫だよリィズ。例えリィズを手放さなければ死ぬ事になったとしても、その手を離すことは無いから。


「........おい、うちのボス、遂に頭のネジが全部ぶっ飛んだぞ。誰か修理してやれよ」

「無理言わんといてくださいっす。それに、そもそもボスの頭のネジはハマってないっすよ。あのリーズヘルトの姐さんを手懐けてる時点で」

「あー、そういえばそうだったな。なら、新たなネジでも買ってきてくれ。俺は頭がおかしくなりそうだ」


 仲良さげな話す俺とアーサーを見て、頭がおかしくなったのか訳の分からない会話を始めるジルハードとレイズ。


 まぁ、二人からしたら、世界の為に戦う正義のヒーローと世界を破滅に導く悪が仲良く笑いあってるように見えるもんな。


 でも残念。お前らは何度言っても信じないが、俺はそもそも人々を自らの欲で殺したことは無い。


 その全てが事故か正当防衛(日本なら過剰防衛)。


 つまり、正義の元に審判を下されることなど無いのだ!!


「んじゃ、早速行くか。アーサー、犬は好きか?」

「ん?好きだよ。懐いてくれると可愛いと思う」

「よし、なら犬を捕まえに行くぞー。はい、着いてきたい人!!」


 このまま話していてもいいが、あまり長話しすぎるとジルハードとレイズが壊れてしまいそうなのでサッサと魔物を捕まえに行くとしよう。


 なんの説明もなく“行きたい人!!”と聞かれた仲間達。


 今の会話で大体のことを察したリィズが先ず手を上げる。なんやかんや、リィズは察しがいい子だからな。アーサーのストレス解消のために愛玩魔物を捕まえに行くということを理解したのだろう。


「グレイちゃんが行くなら行くよ。ダンジョンに行くんでしょ?」

「そうだ。他は?魔物を捕まえに行くぞー」

「俺はパス。頭がおかしくなりそうだ」

「俺もパスしたいっす。ご命令なら従いますが」

「命令じゃないから自由でいいぞ」

「ならパスで。世界で最も勢力を誇っていた犯罪者組織を1人で壊滅させた化け物と一緒にスキップを踏めるほど、俺のメンタルは強くないっす」

「私はパスします。調べ物を続けますね」

「私も行くぞ。暇だし」

「私はパスよん。調べ物を続けるわん」

「護衛なので私は行きます。それが仕事ですから」

「儂も散歩するかの。ジジィの散歩は必要じゃろうて」


 ジルハードとレイズ、レミヤとローズがパス。


 残りのリィズとアリカとミルラ、そして吾郎が参加か。


 綺麗に半分に別れたな。まぁ、リィズ以外全員にパスされるかもと思っていたから別にいいけど。


「結構緩いんだね。こういう組織ってボスの言葉が絶対じゃないのかい?」

「俺がそんな威厳と権力があると思うか?基本ウチは自由なんだよ。今回は仕事と言うよりは個人的なお願いだしな」

「ボスの個人的なお願いは命令だと思うけどね........ホント、グレイは面白いよ。似た境遇と言えど、ここまで違うとは」

「ウチに来るか?」


 何となく誘ってみるが、流石にアーサーは首を横に振った。


「流石に僕の立場だとそれは厳しいかな........もし何にも縛られてなかったら入ったかもしれないね。でも、困ってたら助けてあげることはできるよ。こう見えても僕は権力もあるからね」

「そいつはいいことを聞いたや。困ったら頼らせてもらうよ」

「あまり無茶なお願い事をしないでくれよ?世界の半分が欲しいとか」

「国を1つ建てたいとかは?」

「多分行けるね。僕の発言権、滅茶苦茶強いから少なくともBGR(イギリス)及びBGRの下についてる国達の票は貰えるよ。三分の二を超えれば正式な国になれるかな?」


 ........あれ?もしかして俺って今とんでもないやつと話してる?


 サラッとBGR(イギリス)を操れるみたいなこと言ってんだけど。


 うーん、でも普段通りに接しようか。少しでも媚びてるように見えたら、アーサーは不快に思うだろうしな。


 俺は、そう思うとアーサーのペットを捕まえに事務所を出ていくのだった。

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