金髪イケメンがやってきた
なんか気功術をサラッと使えるようになってしまい、またしても身の丈に合わない評価が付いてしまってから2日後。
俺達は、攻略不可能とまで言われいる五大ダンジョンの一角“エルフの森”について調べ続けていた。
とは言えど、かなり前に五大ダンジョンの攻略を試みることは世界的に禁止されている。
こっそり入り込んで情報を得ると言うやり方はあったとしても、その情報が表に出てくることは無い。
だって犯罪だからね。国が主導してやってましたとバレた日には、世界各国から非難を喰らう。
位置的にCH(中国人)なんかは色々とやっていそうではあるものの、その情報を俺たちの手で得るのは難しかった。
と、言う訳で情報と言えばこの人“木偶情報屋”を頼る事になったのである。
彼女ならば、俺達が手に入れることが難しい情報を入手できるだろう。
「お土産はどうだった?そんな体だから、ロクに飲み食いもできないだろうと思って装飾品を買ったんだが........」
「中々悪くないさ。娘とすら思っている可愛いリーズヘルトが選んでくれたこのブレスレットは、今や私の宝物さね。少なくとも、そこら辺の落ちてる金貨よりは価値があるよ」
「それは良かった。リィズも喜ぶよ」
リィズがお土産として買ってきたブレスレットを木偶人形に付け、とても嬉しそうにするおばちゃん。
本体はどこかに居るらしいが、かなり遠い場所にいる上にお土産を持ち運ぶと居場所がバレる可能性があるためこの人形を着飾ることにしたそうだ。
こんな所でも徹底的な情報管理とは恐れ入る。
「今日はリーズヘルトは来てないんだねぇ。ボーイフレンドなんだから、ちゃんと連れてきてくれないと困るよ」
「リィズは今、頑張って情報集めと作戦計画を立ててるんだよ。あの場所に
「アッハッハッハッハッ!!お前さんが無能なら、この世界に存在する全ての人類が“無能”扱いされるよ!!自分がROU(ルーマニア)で戦争の火種をばら蒔いたことを忘れたのかい?今やあの
そんな事欠片も狙ってませんが?
現在、バルカン諸国とアジア諸国の間にはとてつもなく大きな亀裂が生まれている。一歩間違えれば第三次世界大戦が起きるとまで言われており、つい昨日テレビでその事をやっていた。
元々何かと仲の悪かったバルカンとアジア。
引き金に手を置く理由ができてしまったが故に、今世界の注目は彼らに向いている。
連日のように報道されていたマルセイユテロの事件も大分大人しくなり始めており、毎度毎度テレビから俺の名前を聞く機会も減ってきている。
喉元過ぎれば熱さを忘れるとは言うが、これ程までに大きな事をしでかしても何とかなるもんなんだな。
いやまぁ、そもそも俺が望んでやったことでは無い(と言うか濡れ衣)なので世間の皆様にはサッサと忘れ去られて欲しい。
出来れば、歴史の教科書にも乗らないで欲しいよ。史上最悪のテロリストとか言う不名誉な称号を手にしたい訳では無いのだ。
「後はマッチの火を火薬庫に落とすだけ........実に楽しくなってきたな。いつ火がつくのか、楽しみでは無いか?」
「ふざけんじゃねぇ。何度も言うが俺は
「マルセイユを吹っ飛ばし、このグダニスクの街で死体の山を築き上げた奴が言うとジョークにもならないな。よく言われないか?シャレのセンスがてんでダメだって」
全部正当防衛なんですけどね。
マルセイユに関してはそもそも俺は何もやってないし、この街に来てからも一度も自分達から喧嘩を売った試しはない。
なのに死体の山が築かれる。もう終わりだよこの世界。
なんでこの街の人間は、喧嘩を売らないと生きていけないんだ?喧嘩を買った相手によっては、ぶっ殺されるというのを理解しているだろうに。
自殺志願者達の考える事は分からんなと思いつつ、俺は本題を切り出した。
このまま世間話もいいが、あまり遅くに帰りすぎるとみんなが心配するからな........心配してくれるよね?
“まぁボスの事だし大丈夫やろ”みたいにならないよね?
変に膨れ上がった俺への評価でその内本当に死にそうだと思いつつ、俺は木偶情報屋に話を聞いた。
「俺の目的は知っているよな?」
「もちろん知っているさ。リーズヘルトと幸せな家庭を築く事だろ?」
「........」
「冗談だ冗談。そんなに怖い顔をするんじゃぁない。五大ダンジョンの攻略だろう?そして、その情報が欲しいという訳だ」
「話が早いな。俺達はエルフの森についての情報が欲しい。何か知ってることはあるか?」
まだ巫山戯ようとする木偶情報屋を軽く睨みつつ、俺はエルフの森について聞く。
木偶情報屋は“少し待て”と言って、部屋の奥に行くと、数分後に戻ってきた。
「一応、これが私の調べられる範囲での情報だ。大国が保管している情報は大まかに盗み出せたが、流石に全世界の国家機密を調べることは無理だ。分かってくれ」
「いや、これでも十分だよ。お金は口座に入れておくから、今後ともご贔屓に」
「アッハッハッハッハッ!!金はいいさ。もし、五大ダンジョンの攻略が上手くいったらその情報を問題のない範囲で教えてくれ。五大ダンジョンの情報は欲しがる奴が多い割に、情報量が少ないからね!!」
そう言いながら笑う木偶情報屋。
へぇ、五大ダンジョンの情報を欲しがるやつは多いのか。
確かに五大ダンジョンは未だ開拓されていない資源の宝庫だ。上手く手中に納めることが出来れば、そのダンジョンからしか取れない素材を売りさばいて莫大な利益を上げることも可能だろう。
しかし、それには入念な準備だけでは足りない。全てを圧倒できる戦力も必要だ。
Sランクハンターですら攻略できず、今の今まで放置されているのにはそれなりの理由があるのだから。
俺は“わかった”とだけ言っておくと、その資料を持って立ち上がる。
少しは攻略の足しになればいいんだけどなぁ........と思いつつ、俺は木偶情報屋の拠点を後にするのだった。
【エルフの森】
JP(日本)にある攻略不可能ダンジョンの1つ。現状分かっているのは、日本の殆どが森に覆われてしまい“エルフ”と呼ばれる魔物が存在している事のみ。
過去に何度か様々な国がダンジョン攻略に挑むだものの、その尽くが全滅してしまっている。
森を燃やすことも不可能で、現在では上陸すらもかなり困難。
木偶情報屋から“エルフの森”の情報を受け取ったその帰り道。素晴らしいほどにクソッタレなこの街は、相も変わらず俺の事を歓迎してくれているらしい。
「おいクソガキ!!死にたくなきゃ金を出せ!!」
「ぶっ殺されてぇのか?あぁ?」
もう何度目になるのかも分からないこのやり取り。俺の事も知らぬモグリが、大層ご立派な銃を突きつけて俺から金を巻き上げようとしていた。
いつもなら1人2人護衛を付けているものの、今回は誰も護衛が居ない。
スーちゃんとナーちゃんが俺の傍(服の中と陰の中)に居るので、このまま殺してしまおうかと考えていた。
(ポヨン?)
「ナー」
“処す?処しちゃう?”と言いたげに聞いてくるスーちゃんとナーちゃん。
君達もいい感じにこの街に染ってきてるね。一切の交渉の余地なく殺そうとしている辺り、二人も立派なこの街の住人だよ。
そんなことを思いながら、ワイヤーを具現かしていた頭に鉛玉をプレゼントしてやろうかと思ったその時、灰色のローブを身にまとった人物が間に割って入った。
「僕の前で悪は見過ごせないね」
「あ?なんだテメェ。テメェからぶっ殺すぞ!!」
「調子こいてんじゃねぇぞ?このお方は15人もぶっ殺し、死刑囚となったアガス様だぞ!!」
誰だよ。そして、15人殺したから何なんだよ。
この街で何人の人を殺したのかを威張るような奴はいない。だって人殺しが当たり前だから。
一般人ですら、2人に1人は人を殺したことがあるというヤベー街なのだ。
何人殺したとか、死刑囚とかどうでもいい話である。
こちとら推定2500万人以上を殺した(ことになっている)史上最悪のテロリストだぞ。殺した人数だけで言えば、ギネス記録取れるんだぞ?
「君たちは完全なる“悪”だね。己が正義の元貫く悪はともかく、自らの快楽によって生み出した悪は断罪されるべき。そうは思わないかい?」
「あ?何を言って─────」
「君達は断罪されるべき人間だと言え事さ」
次の瞬間、男達の首がゴトリと落ちる。
一瞬何が起きたのか分からなかったが、ココ最近吾郎爺さんの剣を見ていた俺にはわかった。
こいつ、剣を抜いて2人を切り飛ばした後直ぐに納刀しやがった。
あまりにも早すぎるが故に、剣を抜いたことすら察知できないとはすごい実力者だな。
俺が彼の剣筋に感心していると、ローブを被った男は辺りを見渡して周囲に人がいないことを確認してからフードをとる。
すると、とんでもない金髪イケメンの顔が現れた。
「君、大丈夫だった?」
「ん?まぁ、大丈夫だぞ。何せ、この街じゃ当たり前の出来事だからな」
「凄いよねこの街。あまりにも悪が凝縮しすぎていて、気分が悪くなるよ」
「それは良かった。頑張って慣れてくれ。それじゃ、俺はこれで。助けてくれて感謝するよ」
俺はそう言ってサッサと帰ろうとするものの、金髪イケメンは俺を引き止めてきた。
なんだよ。帰らせてよ。
「ちょっと待ってくれ。君、世界的テロリストのグレイだよね?」
「不本意ながらそう呼ばれているな。なんだ?俺を捕まえに来た懸賞金稼ぎか?」
「........馬鹿な。本当に“悪”を感じない。己の正義のために成す悪すらも感じず、正義もない。何も感じられないなんて、君は本当に人間なのか?」
「........失礼な奴だな。俺は人間だぞ。懸賞金稼ぎじゃないならサッサとお家に帰ってくれ。それともあれか?助けた謝礼が欲しいのか?飯でも奢ろうか?」
「それはいいね。僕は君に逢いに来たんだが、どうも大きな勘違いをしているかもしれない。ここら辺にいい店はあるのかい?」
「内緒話も出来る店がある。ちょいと値は張るが、まぁ助けてもらった礼をしてやるよ」
俺に逢いに来たとか言っていたが、こいつは一体誰なんだ?
相当な使い手だと言うのは分かるが、敵意は感じない。寧ろ、俺のことを理解しようとしている感じだ。
これは、もしかしたら俺の愚痴も聞いてくれるかもしれない。
あの人の話を聞かない部下たちには聞かせられない話ができるかもな。俺らそう思いながら、その場のノリでこの金髪イケメンと飲みに行く事となるのであった。
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