適応力の天才
五大ダンジョンの一角“エルフの森”に挑む事が決まった俺達。
情報収集を行うことも大切だが、それ以上に俺たちの戦力把握及び戦力の増強を図ることが大切だと言う事で地下室へと集まっていた。
このファミリーの中で1番弱いのはもちろん俺。戦力の底上げをするのであれば、俺が強くなるしかない。
「気功術はそう簡単に覚えられるものでは無いわよん?」
「まぁ、正直できるとは思ってないけど、知っておいて損は無いからね。もしかしたら、習得出来るかもしれないし」
「まさか気功術を学ぶ日が来るとはな。俺も能力に頼り切りな部分もあるし、ちょうどいいか」
「俺も学ばされるんすか........ボスと同じく、できる気がしないっす」
マリー・ローズ・ゴリアテが使う“気功術”。魔力から別のエネルギーを生み出し、それを使って魔力以上に肉体を強化することが出来る人類が生み出した技。
戦力強化として出来ることはこのぐらいしかない上に、師範代としての実力も兼ね備えるローズが居るのだから学んでみようとなるとは自然な流れであった。
気功の獲得はかなり難易度が高いらしいが、それでもやってみるだけの価値はある。
流石にローズ程強くなるのは無理だろうが、手札が増えるというのはそれだけ選択肢が増えて対応力も上がるということなのだ。
手札の多さと卑怯さで戦ってきた俺にとって気功術を学ぶというのは、それだけ大きなアドバンテージとなりうる。
せめてレイズぐらい強くなれないなかぁと思いつつ、俺達はローズから気功術の基礎を教わり始めた。
「気功術とは、その名の通り“気”を操る武術よん。知ってのとおり魔力とは別の力を使って戦い、熟練した達人ともなればこんなことも出来るわん」
ローズはそう言うと、指から“気”を飛ばして壁に穴を開ける。
うわ。もうドラゴ〇ボールの世界じゃん........
かめ〇め波とかその気になればできそう。
「魔力は肉体から切り離すと霧散するが、気功は残るんだな。噂には聞いていたが、こうして見るのは初めてだ........」
「何度観ても神業だ。お花と遊ぶ私では到底理解できない領域の世界だとよく分かる」
「うーん、やっぱり私は使えなさそう。そもそも私、人間じゃないし」
「リーズヘルト先輩に同意ですね。私も機会ですし」
漫画の世界かよと思っていると、ジルハード達が何気なくローズが行った事に驚愕する。
ダンジョンがこの世界に現れてから、この世界には魔力という新たな概念が生まれた。
肉体から切り離したただの魔力は集まる力を失い、どこかへと消えていく。それがこの世界の常識である。
魔弾のように特殊な加工を魔力に施したり、そういう能力出ない限り、ただの魔力が弾丸となることは無い。
しかし、気功術はそれを可能とするようだ。
約二名ほど、そもそも人間ですらないので自分には扱えないと判断しているが。
「フォッフォッフォッ。儂もあのぐらいできるぞ?刀を振るだけでいいのでは無いか?」
「ゴロウさん。あなたの場合は音速を超える剣の衝撃波から生み出された斬撃であって、気功術では無いです。貴方のような人外と一緒にしてあげないで下さい」
「フォ?そうなのか。よくわからんのぉ」
自分も同じような事ができると言ったものの、ミルラに“それ違うから”と言われてしょぼんとする吾郎爺さん。
待って、音速を超える剣の衝撃波で斬撃を飛ばす?何を言ってるんだお前は。
ROU(ルーマニア)で大あばれしていた時ですら、実はかなり手加減していたのではないかと言う可能性がでてきたぞ。
俺は、人外しかいないこのファミリーの中に紛れ込むただの元一般高校生の辛さを分かってくれるやつは居ないのかと思いつつ、ローズの授業に耳を傾けた。
「で、その気ってのはどうやって生み出すんすか?違法な改造手術でも体に施す訳でも無いんでしょう?」
「気は魔力から生み出されるもの。魔力を体内で貯める場所を作り出し、そこに魔力を集める事で気となるとされているわん。簡単に言えば、三ヶ所の丹田と呼ばれる場所に魔力を集める事こそが気功術の基礎となるのよん」
なるほど分からん。
もっと簡単に言ってくれ。
要は、体内で集めることが出来ればいいんだよな?
結構簡単そうに思えるが、習得難易度が高いという事は実際にやってみると難しいんだろうな。
「その丹田ってのはどこにあるんだ?場所が分からなければ、そもそも集めるのは無理だろ」
「丹田の場所は三ヶ所。眉間奥の“上丹田”、胸の中央にある“中丹田”そして、ヘソ下5cmほどにある“下丹田”よん。この3つに魔力を集める事によって気を練ることが出来るわん 」
へぇ、丹田という言葉自体は聞いたことがあるがらあまり武術に関しては詳しくないので知らなかった。
とりあえず、体内にある魔力をそこに集めれば“気”が生まれるんだな。
俺は、ローズに質問するジルハードの横で体内にある魔力を丹田に集め始める。
魔力操作に関しては能力で鍛えまくったし、体内にある魔力を集めるのも出来るやろ。
そう思って軽くやってみると、普通にできてしまった。
頭と胸とヘソ下の三ヶ所。全身を血のように駆け巡る魔力の中に三ヶ所の湖を作るイメージ。
かなり簡単なんだが、これって習得が難しいものなのか?
「あら?あらあらあら?あらららら?なんでもうできてるのよん。ボス、実は気功術の才能があったりするかしらん?」
「さぁ?でもなんか出来たぞ」
「........ボスって何歳だったかしらん」
「17だ」
「若い方ではあるけど、既に魔力の流れが無意識に体に染み付いてしまって、変えるのは難しいはずなのだけれどねん........長年生きている者ほど、体内に流れる魔力に“癖”が付いて動きが悪くなるわん。5歳児の子供とかなら出来なくもないけど、子供ゆえにそもそも魔力を感じ取るのが難しいはずだし........本当に天才かもしれないわねん」
アッサリと出来てしまった俺を見て、信じられないほど困惑するローズ。
あー、これはやっちゃいましたね。
魔力の癖とやらが付いていないのは、俺がこの世界に生まれ落ちてまだ半年もたってないから。
この世界基準で言えば、産まれたての赤子同然なのだ。それでいながら、俺は体内の魔力を感じとれてしまう。
実際の年齢は高いから、5歳児よりは知能が高いから。
これ、転生者ほど簡単に出来るんだろうな。俺以外に同じ世界からこの地球に転生してきた奴がいるかは知らないが。
「さすがグレイちゃん!!気功術を身につけるのなんて朝飯前なんだね!!」
「流石はグレイお兄ちゃんだな。こういう時のグレイお兄ちゃんは、本当にすごい。私も出来なかったのになぁ........」
「成程。これが気功術の基礎ですか。ローズの魔力の流れが変だったのは、これが原因ですね。と言うか、
やめてやめて評価を上げないで。これ、たまたま習得できる条件が揃っていただけで、ちょっとしたバグ技みたいなもんだから。俺の才能とはまた別のものだから。
そう言いたいのは山々なのだが、流石に俺が転生者とは明かせないしこうなってしまうと何を言っても無駄である。
と言うか、リィズちゃん?君は俺が転生者であり日本人なの知ってるよね?何で君が率先してヨイショするんだよ。
微妙に才能を見せてしまったが故に、さらに評価を挙げられてしまう俺。
ここでジルハード達もアッサリ習得出来ましたとかなれば、俺の評価も落ちてくれるのだが、残念ながらこういう時のジルハード達は役に立たない。
「........ダメだ。全く動かせん。体の表面に覆った魔力なら多少動かせるけど、体内になると途端に難しくなるな」
「俺もっす。全く体内の魔力が動かせないっす。なんでボスはさも当然のようにできるんすかね?」
「それだけボスが天才だったってだけの話だろ。ほら、ボスって何事もそつなくこなせるし」
「あぁ、確かにそうっすね。この前、収益の資料を纏めるのを手伝ってもらったっすけど、すぐに理解してパッパと仕事してくれましたし。真の天才はこう言うんすね」
あぁ、やめてぇ。
今回は転生者特典みたいなものだから。俺の力じゃないから。
さらに膨れ上がる評価を耳にしながら、軽く頭を抱えたくなっていると、魔力を集めた場所から別の力を感じるようになる。
恐らくこれが“気”だ。
気功術を使う上で最も重要な要素であり、全ての基礎となる根源。
これで俺も少しは強くなれるのかな?
「気を感じたようねん。それじゃ、その気を体内に巡らせてみるのよん」
「わかった」
俺は、今得た“気”を取り出して体内にゆっくりと巡らせていく。
最初は動かし方になれず、かなり苦戦したものの動かし方さえ掴めれば後は簡単であった。
体内に気が巡り、体が一気に軽くなる。
試しに軽くジャンプしてみると、以前よりも1.5倍ほど高くとべていた。
おぉ、確かに身体強化を使うよりも強く慣れてる気がするな。まぁ、本体がクソザコナメクジなので、強くなったところでお察しな気もするが。
「凄いわん!!魔力の流れを邪魔せずに気を全身に流すのも難しいはずなのに、かなりあっさりと出来たわねん!!惜しむべきは、見たところこれ以上の成長がなさそうってことかしらん。習得が早い代わりに、それ以上の成長が見込めない。典型的な例ねん」
「それでも、少しは強くなれたよ。能力も問題なく使えるし、これで生存確率はさらに上がっただろうね。これでも殴るよりは魔弾撃ってた方が火力が出るのは悲しいけど........」
「能力が能力だから仕方がないわよん。それでも、こんな短時間で習得できたのは誇っていいわよん。ボスは適応力の天才なのかもしれないわねん」
お世辞とかではなく、心の底からの賞賛。
気功術の達人からそう言われると、純粋に嬉しいよ。
昔から、新たに始めることへの適応だけは早かったのだ。特に、ゲームとかは勝ち筋や仕様をできる限り早く理解して適応できなければ、お袋と親父に轢き殺されていたから。
俺がこんなクソッタレな世界でも生きていけるのは、その適応力の速さのおかげかもしれない。
まぁ、半分近くは諦めが入っているのは認めるが。
こうして、俺はCランクハンター程度の強さからギリBランクハンターの強さぐらいにまでレベルアップしたのであった。
新たな力を手にしたのに、平均よりちょっと上ぐらいとか、悲しいなぁ。
【丹田】
内丹術で気を集めて煉ることにより霊薬の内丹を作り出すための体内の部位。下丹田は東洋医学における関元穴に相当し、へその下3寸(へそと恥骨稜の間を5寸とする骨度法による)に位置する。
この世界では“気功術”を使うために絶対に必要な場所であり、肉体改造されまくったリーズヘルトやレミヤには備わってない機能である。
GBR(イギリス)のとある場所。そこには、1人の青年が何やらボソボソと呟いていた。
「FR(フランス)を滅ぼしたと言っても過言では無い世界最悪のテロリスト“グレイ”........彼はダメなのかい?」
「────────」
「ふーん。僕の目から見たら、彼は十分この世界を滅ぼしうる存在に見えるけどねぇ。君がそう言うなら、彼は違うんだろうね」
「────────」
「え?寧ろ、彼は救われるべき存在?こんなに世界を破壊していると言うのにかい?」
「────────」
「へぇ、“悪”を感じないんだ。となると、FRを吹き飛ばしたのもテロじゃなくて不慮の事故だったりするのかな?」
彼の周りには誰もいない。しかし、明らかに誰かと会話している。
対話相手は誰なのか。その声の主は誰なのか。
それを知るものは誰もいない。例え青年が“コレと会話しているんだよ”と言っても、誰も信じないから。
過去にも何度か言ったことがあるがら誰もその話を信じない。
「──────!!」
「え?やばいのが来る?下手をすれば世界が滅ぶ?それほんと?」
「──────」
「マジか。君がそんなに焦るなんて珍しいね。それほどまでにやばいのか。五大ダンジョンを見た時でも、何も言わなかった君がそう言うってことは、相当やばそうだね」
青年はそう言うと席を立つ。
「場所は?」
「──────」
「まだ分からない?なら、何時でも動けるように待機しておこうかな」
彼の名は誰もが知っている。その力を手にした時から、彼は世界の英雄となった。
「紅茶飲む時間ぐらいはあるかな?」
英雄と史上最悪が出会う日は、そう遠くは無いのかもしれない。
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