五大ダンジョン


九芒星エニアグラム”と言う新たな名前を決めた後、昼食としてハンバーガーとポテトを大量に買ってきたレイズ達にもこの話をする。


 元々皆組織の名前など興味のない連中だ。


“おー、いいんじゃね?”と言う軽いノリで賛成を得られたので、今日から俺達は“九芒星エニアグラム”と正式に名乗る事になる。


 後で軍団と教会にも話を通しておかないとな。急に名前が変わりましたとか言われても困るかもしれんが。


 そんな事を思いつつ、俺は仲間達に本題を切り出す。


 今日は出来たてのポテトだったのか、ホクホクでとても美味しかった。


「そろそろ五大ダンジョンの攻略に本腰を入れたい。金も集まったし、移動手段も多分なんとかなるだろ?」

「そうだな。それがいいんじゃないか?この街の支配者にもなったんだし、政府とのパイプだって使える。悪くないタイミングだ」

「確かにそうだね。って事は、ようやく五大ダンジョンに行くんだね!!」


 何かと人間との殺し合いが多すぎて忘れがちだが、俺達がこうして集まっているのは“五大ダンジョン”の攻略が最終目的だからである。


 ココ最近も何かと殺し合いが続いてはいたものの、この街に最初に来た頃よりはだいぶ安定したし悪くないタイミングだ。


 この世界に来て約五ヶ月。テロリストになったり流れでマフィアになったりこの街の支配者となったりしたが、ようやく五大ダンジョンに挑む準備を始めるのだ。


 見てるか?神様。俺はちゃんと五大ダンジョンに挑むから、間違っても天罰とか落とすんじゃねぇぞ。


 ココ最近、祈りよりも中指を突き立てることの方が多くなってきた神に向かってそんなことを思っていると、過去に五大ダンジョンへ挑んだことのある吾郎爺さんとローズが懐かしそうに天井をみる。


「フォッフォッフォッ。再びあの地に行くとなれば、相当入念な準備が必要だかもしれんのぉ。水や食料も場所によっては人の毒となるものもあったし、何よりあの地の者達は強かった。かつて二度挑んだが、儂以外は全員しんでしまったのだから、悲しいものよ」

「私なんて上陸すら許されずにボコボコにされたわん。泳いで人のいる街に帰るのは大変だったわよん........お化粧が崩れちゃうし、お洋服もダメになっちゃうし。あれは大変だったわねん」


 オセアニア地域にある五大ダンジョンから、最短にある人の街まででもかなりの距離がある筈なんですがねぇ........なんでこの男女カマ野郎はさも当然のように泳ぎきってるんだ?


 ドーバー海峡横断じゃねぇんだぞ。


 俺は、改めてローズが理解の及ばない化け物じみた身体能力を持っている事を理解し、そんな彼でも上陸すら許されなかった五大ダンジョンの無理ゲーさに絶望する。


 あれ、やっぱり無理じゃね?


「ローズさんが挑んだのは、確かAUS(オーストラリア)に存在するダンジョン。通称“悪魔の国”でしたっけ?」

「そうよん。AUSに出現し、僅か1ヶ月足らずで大陸全ての人々を消し去ったと言われる、難攻不落のダンジョン。ダンジョンが出来上がって直ぐに魔物たちが溢れだしてきたから、未だにその中が不明とされているダンジョンねん」


 へぇ、“悪魔の国”か。


 という事は、出てくる魔物は悪魔ぽっい見た目でもしてるのかな?


 悪魔のような所業を行う魔物という意味で“悪魔”と言われているなら別だが、少なくともスーちゃんやナーちゃんのように知能を持っていそうな魔物がいると考えた方が良さそうだ。


 うーん、出来れば攻略するダンジョンは情報が多い所がいいんだけど、ダンジョンの中が全く分からないなら候補から除外かな?


 それよりは、吾郎爺さんが二度攻略を試みたダンジョンの方が可能性がありそうだ。


「吾郎爺さんが攻略しようとしたダンジョンはなんて呼ばれてるんだ?」

「JP(日本)にあるダンジョンのことですね。あそこは“エルフの森”と言われているはずです。元々緑豊かな土地であったとされている日本が、原始的な姿に戻ったと言われてますね。まだ五大ダンジョンに挑むことが禁止されていなかった時代に、CH(中国)が何度か上陸を試みましたが全て撃沈。その際に耳の長い人型の魔物ガ確認されたため、“エルフの森”と言われています」

「おー、確かに耳の長い人型の魔物じゃったのぉ。原始的な弓を使うのじゃが、火が付与されていたり、風によって加速したりと厄介だったのぉ」


 エルフ?!この世界、エルフなんているのか。


 ファンタジーの定番種族である“エルフ”。


 その特徴と言えば、耳な長く寿命も人よりかなり長い。そして何より、魔法に優れているというのがよくある設定だ。


 吾郎爺さんの話を聞く限り、俺たちのように何らかの能力または魔法が使えると考えていいだろうな。


 ちょっと見てみたい気持ちもあるが、見た瞬間に頭を矢でぶち抜かれるのは勘弁願いたい。


 友好的に話せたりしないものだろうか?


「出来れば、その“エルフの森”はどんな形であれ攻略したいな。上手く行けば、吾郎爺さんの故郷が取り戻せる。その後のことを考えるとちょっと困ることも多いが、それはどのダンジョンを攻略しても同じだしな」

「そもそも、五大ダンジョンを攻略しようとする行為そのものが犯罪だからな。かつてNPL(ネパール)にある五大ダンジョン“黙示録”を攻略しようとしたIND(インド)のSランクハンターが、一体の騎士を討伐した所で全てが終わった。その後何があったのかは分からないが少なくとも全てが消え、当時はまだ残っていたIND(インド)の人々も例外無く死んで行ったからな」

「触らぬ神に祟りなしという事だ。開けてはならないパンドラの箱を、そいつはこじ開けて神の怒りを買ったのさ。ベテシメシのようにね。だが、俺達はそれをやろうとしている。今更神の裁きが怖くて怖気付いてちゃ話にならんぜ」


 そう言って格好つけるが、俺は死ぬほど神の裁きが怖いね。


 怖くなかったら、今頃どこかの平和な小さな村でリィズとほのぼの暮らしてるから。


 五大ダンジョンの攻略なんて目指してないから。


 神に中指を突き立てる事の方が多くなってきたとは言えど、俺は神が次元の違う存在だと知っている。あれは、人が抗えるような存在では無いのだ。


「“黙示録”。ここの攻略を今すぐに始めるのはやめた方がいいな。そもそも近づけるかどうかすら分からんぞ。まだローズとゴロウが挑んだダンジョンや、残り二つのダンジョンの方がマシだ。また天使のラッパを吹かれたら、私達が生き残ったとしても世界が滅ぶ」

「そいつは恐ろしいや。俺達が最後の人類になるのはご勘弁願いたいからな。俺達が人類の祖アダムとイブを演じたいってなら別だけど」

「勘弁してくれよ。私は神に成り下がる趣味はないぞ」


 そう言いながら、ハムハムとハンバーガーを食べるアリカ。


 アリカなら、人造人間ホムンクルスを作ることも出来そうだけどね。やったねアリカ。そしたら君が真の神だよ。


 アリカを見ていると和むなぁと思いつつ、俺は残りの2つのダンジョンの事も聞いてみる。


 この世界では割常識らしいが、生憎俺は常識を学ぶ前にテロリストになって命の危険に晒され続けたんでね。


 この世界の知識を植え付けた神様も、意図的なのかは知らないが五大ダンジョンの事は存在だけ教えてくれただけだったし。


「残りの2つは?」

「1つは南米に広がる未開拓のダンジョン“地獄への門ヘルゲート”。BRA(ブラジル)にゲートがあるとされている、マジでやべぇダンジョンだ。過去に何度かUSA(アメリカ)のハンター達が情報を集めようと挑んだらしいが、未だかつて誰一人として帰還したことが無い。もうどうしようもないな」

「あそこに挑むのもやめた方がいいかと思われます。情報が足りません」


 南米を占拠するダンジョン“地獄への門ヘルゲート”。


 その名は未だかつて誰一人として戻ってきた人が居ないために付けられたものらしく、そのダンジョンの領域も禍々しいために付けられた名前らしい。


 うーん、却下で。


 いつかは挑む日が来るだろうが、今挑むべきではないよね。帰還率0%よりは帰還率1%の方がまだ希望があるし。


 南米も大変だな。アマゾンを開拓したかと思ったら、今度はダンジョンに飲み込まれるなんて。


 今ごろアマゾン川は真っ赤に染っているかもしれん。人の血でね。


 そこに挑むのは無しと決めた俺は、最後のダンジョンのことを聞く。


 どれも聞いている限り、人が生きて帰れる気がしない。


 きっと、最後のダンジョンも滅茶苦茶ヤバいダンジョンなんだろうなぁ........


「最後のダンジョンは?」

「IT(イタリア)........正確にはVAT(バチカン市国)にあるダンジョン“天国ヘヴン”だ。コイツは五大ダンジョンの中でもかなり特殊なダンジョンで、唯一外への被害を出してない」

「攻略不可能と言われているけど、被害は他の五大ダンジョンにくらべれば小さいと?」

「被害どころか、利益を生み出してるな。“天国ヘヴン”は何から何まで特殊なダンジョンで、観光地になってるんだ。ダンジョンってのは基本魔物が溢れて危険が多いものなんだが、このダンジョンは天国が広がっているとされている」

「........?」


 天国が広がってる?


 意味がわからず首を傾げると、ジルハードは言葉を続けた。


「簡単に言えば、魔物が存在しないんだ。世界で最も安全なダンジョンと言われていて、その神聖さからVAT(バチカン)はこの地を聖地としている。商売根性逞しい事に、観光料を巻き上げて金稼ぎしてんのさ」

「宗教と言うのはやはりクソだな。世界を滅ぼしかけたダンジョンを観光地とするどころか、聖地と宣って金を巻き上げるなんて。さすがは稀代の詐欺師イエス・キリストの教えを信じる者達だ。ある意味感心するね」

「全くだ。神の名を騙り、金儲けに精を出すあのファッキン宗教家共こそ、神の名のもとに裁かれる異端者かもしれんな」


 ジルハードはそう言うと、コーラの入った容器を持ってゴクゴクと飲む。


 五大ダンジョンは全て世界を滅ぼしてきた諸悪の根源のように捉えていたが、一切の被害も出さずに“聖地”として崇められる場所もあるんだな。


 その結果が宗教家どもの金儲けなのだが、比較的あんぜんなダンジョンもある訳か。


 そんなことを思っていると、四つほどハンバーガーをぺろりと食べたリィズが俺の後ろから抱きついてきて呟く。


「私としては、このダンジョンが一番攻略が難しいと思うなぁ」

「その心は?」

「聖地と言われてようがなんだろうが、結局はダンジョンなんだから、ある程度は調べるはずでしょ?それなのに、攻略法も分かってなければ何か進展があったとも聞かないんだよ。私が昔所属してしたあの場所には、色々な情報が入ってくる。その中には天国ヘヴンの情報あったんだけど、何から何まで分からずじまいなんだよね」

「........500年近く人が出入りしているというのに、未だに攻略法のひとつも分からないのか。確かにそれは難関だな。ほかのダンジョンとは違って、魔物を倒して進むとかじゃなくて謎解きをしていくパターンなのかもしれん」

「かもしれないね。それと、ダンジョンに入るのも、ダンジョンの中で自由に動くのも難しいと思うと。一応、聖地としてこの場所をVATとITが管理してるから、警備体制が凄そう。グレイちゃんは良くも悪くも有名だから、ダンジョンに入る事すら色々と準備が必要かも」


 うわぁ、1番面倒なやつじゃん。


 確かに、国が管理する五大ダンジョンとが嫌な予感しかしない。


 望まずしてテロリストとなってしまった俺は、世界中から指名手配を喰っているのだ。


 POL(ポーランド)はそこら辺が緩いので、こうしてのんびりとしていられるが、この前訪れたROU(ルーマニア)なんかは顔を隠してないとダメだったもんな。


 俺は、このダンジョンも今すぐに攻略するのは無しだと結論づける。


 問題の先送りにかならないが、日本人の気質なので仕方が無い。


 頑張れ未来の俺。過去の俺に文句を言うなよ。


「ここも無しか。となると、エルフの森か、悪魔の国のどちらかになるな。爺さんの悲願のためにも、大日本帝国の再建を先に目指すか?」

「私は賛成。ほかのダンジョンよりも情報があって、経験者も居るから攻略できる確率は高いと思うよ」

「俺も賛成だな。もっと詳しく調べる必要はあるだろうが、ゴロウさんの話も聞ける。攻略できる確率はグンと上がると思うぜ」

「森ってことは植物がいっぱいあるよな?........下着の替えは多めに用意しておくか」

「アリカ?貴方頭大丈夫ですか?私は主人マスターが決めたのであれば何処でもお供いたします。あ、でも私の人権は守ってくださいね」

「俺にそもそも拒否権は無いので賛成で。出来れば俺を肉壁として使うのはやめて欲しいっす」

「私も賛成よん。そもそも、五大ダンジョンに挑んだのはあのバカ親父を探すためだしねん」

「仕事であれば、如何様にも。私は雇い主に従います」

「フォッフォッフォッ........偉大なる祖国を取り戻しに、再び刀を振るうとするかの。三度目じゃ」

「ナー!!(よくわかってないけど賛成)」

(ポヨン!!(同じくノリで賛成))


 こうして、最初に挑むダンジョンが決まった。


 ならば、先ずは情報収集からだな。






 六十話以上使って、ようやく本題に入り始める小説があるらしい。

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