英雄王
九芒星(エニアグラム)
ROU(ルーマニア)及び、バルカン諸国と東アジアに戦争の火種をばら蒔いてしまってから3日後。
我が家である事務所に戻ってきた俺たちは、思い思いの時間を過ごしていた。
こんな腐った街に安心感を覚えてしまう時分に嫌気が刺すが、白昼堂々と街中を歩けるこのイカれた街はとても居心地がいい。
自由の有難みをグダニスクで感じるなんて世も末だなと思いつつ、俺はROUでの出来事を思い出していた。
いや、どうしてそうなるねん。
交渉は完全に任せっきりだったので全てが終わったあとに聞いた話だが、レイズはあの手この手でシュルカ達を脅しに脅し、
向こうにも面子と言うものがあるので、表向きは同盟関係であるが、契約内容はどう見ても俺達側に有利になっている。
細かいことは省くが簡単に言うと、俺達は彼らに命令権があるが向こうには無い。
その気になれば、俺はミスシュルカ達を捨て駒として使えてしまうのである。
更には、潤沢な資金もこれにより手に入ってしまった。
同盟への支援という事で、収入の二割を俺達に流してくれる。
つまるところ、上納金である。
昨日早速金が振り込まれ、口座を見たら1億ぐらい増えていた。
わーい、大金持ちだ。やったー!!ってなる訳もなく、俺は後ろからミスシュルカに刺されるんじゃないかと軽く怯える日々となってしまった。
大丈夫だよね?恨みを買ってないよね?
レイズくん。君、やりすぎなんだよ。どうして事を穏便に終わらせてくれないのだろうか。
「はぁ........」
俺はため息を付きながら事務所のデスクに足を乗せて、タバコに火をつけてゆっくりと息を吸い込む。
ストレス解消にはタバコが1番だ。タバコの煙は魔物が嫌う臭いが出るらしいが、スーちゃんもナーちゃんも嫌がらないので心置き無く吸える。
ルーベルト。お前が教えてくれたストレス解消法は、とても役に立っているよ。
タバコが無かったら今頃俺は壊れてた。
「うぬぬぬ........強いのぉ」
(ポヨン!!)
テーブルの横で俺の出した座布団に座りながら将棋で戦う吾郎爺さんと、スーちゃん。
盤面を見れば、スーちゃんの方が少しだけ有利である。
知能の高いスーちゃんは、この二日間ずっと吾郎爺さんと将棋をして遊んでいた。
いきた伝説とまで言われ、圧倒的な実力を持つ吾郎爺さんとの仲はかなり良好で、こうして2人で囲碁や将棋を嗜む時間が多い。
実力もほぼ互角なので、俺とやるよりも楽しいだろう。
俺がやると、大抵ボッコボコにしてしまうからな。
「ナー」
「おー、そうだな。ナーちゃん。スーちゃんの方が優勢だな」
「ナー!!」
「あはは。同じ魔物同士、応援してるのか?ナーちゃんも仲間思いだな」
影の中からひょこっと現れたナーちゃんは、盤面を見てスーちゃんが有利だと判断すると嬉しそうに鳴き声を上げてスーちゃんを応援する。
ナーちゃんもよく吾郎爺さんと勝負をするので、吾郎爺さんとは結構仲が良かった。
少なくとも、背中を撫でさせても抵抗しないぐらいには、ナーちゃんも懐いている。
吾郎爺さんはウチのアイドル二人に好かれてるな。ジルハード曰く、かなり圧がある御仁らいしが、魔物にはそんな事関係ないのだろう。
俺だってその圧とヤラを感じないし。
「フォッフォッフォッ........これは難しいのぉ。主や。何かアドバイスは無いのかのぉ?」
「俺はこういう勝負で口出しはしないよ。余程実力差が無ければね。自分の力で頑張れ」
「フォッフォッフォッ!!この老人に厳しい主じゃ。では、もう少し考えようかのぉ。すまんが、もう少し待っててくれスー殿」
(ポヨン!!)
そう言って真剣にどの手を撃つべきか悩み続ける吾郎爺さん。これは長くなりそうだなと思いつつ、今度はデスクの前でワイワイと騒ぐ仲間たちに目を向ける。
こっちではオセロ大会が開かれており、最下位決定戦が繰り広げられていた。
「........あれ?これ俺負けたか?」
「負けですね。私の方が3枚多いです」
「2人とも弱っ........ちゃんと頭使って戦ってる?ジルハードはいつも弱いのは分かってたけど、ミルラも相当弱いね」
「ちょっと笑えないレベルの弱さですね........ここまで弱いと、心配になります」
最下位争いをしていたのは、ジルハードと新入りのミルラ。
ジルハードはこういう系のゲームにとことん弱いがどうやらミルラも相当弱いらしく、ジルハードといい勝負を繰り広げていた。
ミルラ........ジルハードと同格はちょっとヤバいぞ。初めて触ったゲームならともかく、オセロでもいい勝負をしたらダメでしょ。
ちなみに、このオセロ大会は既に俺が優勝してしまっている。
こういうボードゲームで俺が負けるなんて事は、あってはならないのだ。
だってそれ以外勝てませんからね!!実に悲しい話だが、このファミリーのボスはゲーム以外は最弱なのである。
このちっぽけなプライドを守るためなら、俺は手加減なんてしないぞ。
尚、2位はレミヤで3位は吾郎爺さん。4位はレイズで5位はアリカ。6位はリィズで7位はローズである。
この中だとレミヤがぶっちぎりで強いのだが、こいつは高性能AIを積んでいるからギリ反則だと俺は思っている。
オセロってお互いに最善手を打ち続けると引き分けになるのだが、5回連チャンで引き分けになった時は流石に疲れた。
まぁ、その後レミヤがミスして勝ったんだけどさ。
吾郎爺さんのバディーとしてこのファミリーに入ってきたミルラであったが、彼女もそれなりにこの組織に馴染んできている。
しかも、かなりの常識人であり、今後何かと役に立ちそうで期待している。
まぁ、ゲーム関係はバカ弱いけど、なんとかなるでしょ。
「最下位はジルハードだな。おめでとうジルハード。グレイファミリー最弱の称号は君のものだ」
「アリカ、そんな哀れみを持った目でこちらを見るな。俺だってかなり真面目にやったんだぞ」
「尚更ダメじゃないか。グレイお兄ちゃんを見習ったらどうだ?毎回最善手をたたき出してくる高性能AI相手に、五度も引き分けに持ち込んでその後勝ったんだぞ」
「あれはボスがおかしいだけだから。あの人力AIと同じにしないでくれ。俺はコンピューターよりも早く計算できるジョン・フォン・ノイマンじゃないんだ」
ジルハードはそう言うと、大きく溜息を付いてる天井を見る。
「確かに最善手を打ち続けた私に勝てる
「何気にゴロウさんも強かったっすね........と言うか、ジルハードさんはスーちゃん達にも負けるのでは?」
「........既に何回か負けてる。俺の脳みそは魔物以下だって事が証明されちまったよ」
「大丈夫よん。私も普通に負けたわん。スーちゃんもナーちゃんも普通に強いのだけれど、なんなのあれ」
「何気にボスの遊び相手になってるからな。あの二人は。そりゃ嫌でも実力は上がるだろうよ。それでも2人ともボスに勝てたことは無いらしいが」
「ボスに勝てたら天変地異が起きますよ。なんでコンピューターよりも正確に最善の一手が打てるんですかね?」
そう言って俺を見てくるみんな。
俺はそんな皆に、普通に言った。
「オセロぐらいはできるだろ。選択肢の幅も少ないし。流石に将棋や囲碁は無理だけどな」
「いや、オセロだけでも最善手を打ち続けられる時点でおかしいんですが........」
「流石グレイちゃん!!かっこいいよ!!」
こうして、今日もワイワイと騒がしくも楽しい日々がすぎていくのだが、そろそろ本格的に五大ダンジョンに挑む準備をしないと神様から怒られる。
俺は、明日は皆で五大ダンジョンについて色々と調べようと考えると昼ごはんをミルラと吾郎爺さん、そしてレイズとレミヤに買いに行かせるのだった。
もちろん、まだ街に慣れていないので、慣れさせるために。
【ジョン・フォン・ノイマン】
ハンガリー生まれのアメリカ合衆国の数学者。数学・物理学・工学・計算機科学・経済学・ゲーム理論・気象学・心理学・政治学に影響を与えた20世紀科学史における最重要人物の一人とされ、特に原子爆弾やコンピュータの開発への関与でも知られる。
有名な逸話では、“完成したコンピュータの性能をテストする為に適当な問題をやらせてみることにした。答え合わせの正しい解答が必要だったので、そこで即席の力くらべとしてフォン・ノイマンが機械と競争することになった。当時のこのコンピュータは1秒間にわずか乗算2000回の処理能力しかなかったとはいえ、先に答えを出したのはフォン・ノイマンだった。”というものがある。
新入り達に昼ご飯を買い出しに行かせた俺は、今後のことを考えていた。
仲間もかなりの数が集まった。大体騒ぎに巻き込まれてその流れで仲間になった人達ばかりだが、俺が欲していた能力を持った人達が完璧に集まっている。
唯一使えないのが1人混ざっているという点を除けば、かなりしっかりとしたパーティーであると言えるだろう。
この世界に来て五ヶ月近く経っているが、俺の目的は五大ダンジョンの攻略。
ココ最近またダンジョンに潜ってないから忘れがちだが、五大ダンジョンを攻略する事こそ俺達の目標なのだ。
ジルハードやローズなんかは、それが目的でこのファミリーにいるんだしな。
金の問題もある程度解決できたし、移動手段も軍団の力を借りればおそらくなんとかなる。
となれば、次は五大ダンジョンについて入念に調べ、作戦を立てて乗り込む事こそが重要なのではないか。
俺はそう思うのだ。
そんなことを思っていると、オセロで最弱の称号を獲得したジルハードが話しかけてくる。
「なぁボス。俺達もそろそろグレイファミリーから別の名前にした方がいいんじゃないか?」
「え?なんで?」
「なんでって、軍団とタメを張れるような組織が“グレイファミリー”ですって格好が付かないだろ?見栄えは大事だぜ?」
「あ"ぁ"?それはグレイちゃんの名前が気に入らねぇって事か?ぶっ殺すぞ」
急に格好がつかないから名前変えようぜと言い始めるジルハードに対して、割とガチでキレるリィズ。
今にも殴りに行きそうな勢いだったので、俺は慌ててリィズを抱きしめて落ち着かせた。
ジルハード、そういう提案はリィズが居ない時にしてくれよ。
そう言いたげな目でジルハードを見ると、ジルハードも“しまった”と言った顔でこちらを見てくる。
最近、リィズも大人しめだったから完全に忘れてたな。
ジルハード、後で罰ゲームね。
「私もいいと思うぞ。聞いた話だが、別にグレイお兄ちゃんはマフィアを作るつもりじゃなかったんだろ?五大ダンジョンを攻略するために集まったパーティーなんだがら、別の呼び名があってもいいだろ。それとも、グレイお兄ちゃんは最初からマフィアを名乗るつもりだったのか?」
「いや、成り行きでそうなっただけだな........確かに今までは何となくグレイファミリーの名前を使ってたけど、そろそろちゃんとした呼び名でも決めるか。ミスシュルカの所だって、ファミリーじゃなくて“軍団”だもんな」
「あら、いいじゃない。私も賛成よん」
ジルハードの提案に、次々と賛同していく仲間たち。
尚、この場に4人ほどいないので既に意見は出きったが。
「リィズはこのままの方がいいのか?」
「........んー、グレイちゃんが名前を決めるならいいかな。私としてはグレイファミリーでもいい気がするけど。グレイちゃんに率いられてる感じがして好き」
その率いてるボス、全く役に立たないんですけどね。
俺はそう思いながらも、嬉しいことを言ってくれるリィズの頭を撫でる。
リィズは目を細めると、気持ちよさそうに喉をゴロゴロと鳴らした。
「そうか。でも、このファミリーは民主主義なんでな。既に俺を含めて4人が賛成している。スーちゃん、ナーちゃん。2人はどう?」
「ナー」
(ポヨン)
仲間である2人にも意見を聞くが、2人とも“よく分かんないけど賛成”と言った感じで答える。
この時点で既に過半数を超えたな。
んじゃ、適当な名前をつけるか。
俺は数秒考えた後、頭に浮かんだ言葉を言う。
こういう組織の名前と言え〇芒星がそれなりにかっこよくていいんじゃないか?
「じゃ、
「いいんじゃないか?俺は賛成」
「同じく」
「私もよん」
「グレイちゃんが決めたなら、異議なし」
「ナー」
(ポヨン)
この場にいる全員が賛成。買い出しに行っている4人の意見無くして、俺達の新たな名前が決まった。
この名前は後に世界が知ることとなるのだが、今の俺たちがそれを知る由もない。
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