火薬庫再び


 僅か二分弱で500近くも居た兵隊達を始末し、それぞれの組織の死体を一つづつ残して残りの証拠を全て隠滅した俺達は、ポリ公どもが来る前にサッサとトンズラしていた。


 警察組織とやり合うのは正直勘弁願いたい。相手は国家権力という最強の権力を持っているので面倒事にしかならないのだ。


 金で解決できる問題とは言えど俺だって好き好んで賄賂を渡したい訳では無いので、ここでは逃げるのが最適である。


「おーおー、ぞろぞろとポリ公共が来てるな。まぁ、死体が三つしか残ってない上に、ほとんどの血痕も消されてるから意味不明だろうけど」

「スーちゃんは凄いですね。アレだけの死体を僅か1分足らずで片付ける所か、血痕まで消してしまうのですから。それに、ナーちゃんの回収能力も異常です。影の中を渡り、死体を回収できるその能力は流石としか言いようがありませんよ」


 ここは、とある建物の最上階。


 街全体が見晴らせる程大きくは無いが、俺達がドンパチを起こした(巻き込まれた)家が遠くに見える場所である。


 おれは双眼鏡の玩具を具現化すると、のんびりとその様子を眺めていた。


 今すぐにこの場所がバレる訳でも無いだろうから、ちょっとした休息時間だ。


 何も活躍の場が無かったレイズが、割と本気で凹んで可哀想だったのでゴルバスを引き摺って適当な交渉をさせている。


 何を交渉させたらいいか分からなかったので、“お前に任せる(キリッ)”と全部丸投げしてきた。


 レイズ、教会との交渉の時に思いっきり俺の意図を汲み違えてとんでもない騒ぎを起こしていたから不安ではあるが、“じゃ、代わりにやってくれ”と言われでも困るのでここは部下を信じよう。


 流石にもう一回ドンパチやることは無いでしょ(フラグ)。


「レミヤもお疲れ様。悪かったな。馬鹿げた戦いに巻き込んじまって」

「何を言っているのですか。私は元々、こうなる事も込でこのファミリーに入ったのですよ。主人マスターのお役に立てて幸いです。ご褒美はナーちゃんの研究で........」

「ナー!!」


 サラッとご褒美をおねだりしてきたレミヤだが、俺の膝の上で背中を撫でられていたナーちゃんが死ぬほど嫌そうな顔で鳴く。


 ナーちゃん、レミヤの事滅茶苦茶嫌いだもんな。勝手に実験体にされそうになって物凄く嫌がっていたし。


 俺は“絶対ヤダ”と首を横に振るナーちゃんを持ち上げると、鼻を合わせてキスをする。


 シャドウキャットは親愛の証として鼻を合わせる習性があるらしく、特に気に入っている相手にこれをやると精神が安定するらしい。


 魔物に詳しいレミヤがそう言っていたので、間違いない。


 なんやかんやナーちゃんと仲良くやれている俺は、ナーちゃんに滅茶苦茶好かれているのでこれをやっておけばナーちゃんは喜んでくれるのだ。


「ナー♪」

「あはは。くすぐったいぞナーちゃん」

「ナー!!」


 先程まで“お前を殺す”と言わんばかりにレミヤを睨みつけていたナーちゃんは、一瞬でご機嫌になると喉をゴロゴロと鳴らしながら俺の頬をぺろぺろと舐めてきた。


 可愛い。


 俺やリィズによく甘えてくるナーちゃんは、やはり心の癒しだな。


 こんなクソッタレなドンパチをやった後には、とても効く。


 そして、こんなに可愛いナーちゃんを実験体にしようとするレミヤ、許すまじ。


「そのご褒美は無しだな。ナーちゃんが嫌がる」

「ま、ですよね。言ってみただけですし、私にご褒美があったら他の皆さんにも必要になりますから。きっとローズ辺りは、主人マスターを着せ替え人形にしたいと言い始めますよ。ファッションに煩い人ですし」

「自分が世紀末みたいな服きてんのに、ファッションに拘ってるとか新手のギャグか?まだ腐ったリンゴポル・ポトが民主主義に目覚めたって言った方が笑えるぞ」

「いやでも、ローズさんは他人の服装になると途端にまともになりますからね。リーズヘルト先輩の服を選んであげていた時も、かなりまともでしたよ。と言うか、女の私ですら惚れる程に可愛く仕上げてましたよ」

「レミヤはそもそも女の前に人間じゃないだろ」

殺戮機械人形キリングマシーンも心を持つのですよ?酷いですね」


 レミヤはそう言って泣け真似をしながら、ぶっ壊された家の方を見る。


 5分足らずで撤退してしまった俺達をあのポリ公共が見つけるのはかなり難しく、更には三つの死体があるので動くに動けない。


 一般人への被害も無いが、先ずは避難誘導から初めてそうだな。


 俺はご機嫌に俺の服の中に入り込んでくるナーちゃんの頭を撫でてやりつつ、お腹いっぱいで眠そうにしているスーちゃんも撫でてやる。


 2人ともよく頑張ったね。明日はもっと美味しい食べ物を買ってきてあげよう。


 そんなことを思っていると、俺の携帯から電話の音が鳴り響く。


 こんな時に電話をかけてくるのは一人しかいない。俺は“木偶情報屋”の番号を見ると嫌な予感を覚えながら電話に出た。


「ハローハロー。こちら史上最悪のテロリストです」

『ハローハロー!!やぁやぁ色男。今回も随分と面白い事をやらかしたそうじゃないか。生きた伝説を仲間にした上に、今まで喧嘩を売ってきた奴らを皆殺しにしたんだって?』

「相変わらず耳が早いな。アンタの地獄耳は国境も越えられるのかい?」

『こう見えでも、私は世界有数の腕利きさ。そんな素晴らしい情報屋から、史上最悪のテロリスト様にいくつか情報をくれてやろう』


 絶対ろくな事じゃねぇ。と思いつつ、俺は黙って話を聞く。


 そして、木偶情報屋から言われた事は、以外にもまともであった。


『まず、監視カメラの情報はこっちで全て消しておいた。流石にROU(ルーマニア)もお前達がいることに気づいているようだったが、情報を消されたらこれ以上は追えない』

「助かるよ。お土産は買ってきてあるから期待しててくれ」

『アッハッハ!!心待ちにしておくよ。それと、ROUは恐らく死体の身元を確認して他国の諜報機関が何故いるのかをその国に言及するはずだ。特にROUとは仲の悪いMEX(メキシコ)とCH(中国)だな。これでこの2ヶ国は下手に動けなくなった。やるな色男。狙ってやっていたのか?』

「まさか。偶然だ偶然」


 他国に行ったら襲われるかもしれんとは思っていたが、別にそこまで考えていた訳でもない。


 死体を残したのも、動きを封じるとかそこまで深く考えてない。


 ちょっとした嫌がらせになるかな程度でしかないのだ。


『喜べ色男。バルカン諸国は東アジアと死ぬほど仲が悪い。航空機やミサイルが飛び交うこの時代に、政府の犬スパイを潜り込ませた時点で仲は更にこじれた。再び戦争の火種バルカンの火薬庫が生まれるわけだ。1歩間違えれば第三次世界大戦が始められるぞ。試しに火でも着けてみるか?』

「ふざけんじゃねぇ。俺は平和主義者パシフィスタなんだよ。世界戦争なんて望まないね」

『アッハッハッハッハッ!!でかい爆弾を置いた奴が何を言う。ともかく、これで東アジアはヨーロッパに手を伸ばすのが難しくなった。向こうも戦争はしたくないだろうからな』

「あっそ。俺には関係の無い話だよ。それじゃ、お土産はリィズと届けに行くから待っててくれ。監視カメラの件は有難う」

『なぁに、私も色男のお陰で稼げてるんだ。お前さんが暴れてくれるおかげで、政府の目を惹き付けられるから情報を手に入れやすいよ』

「それは良かったな。んじゃ、またな」


 俺はそう言うと、電話を切る。


 ........やべぇよやべぇよ。戦争の火種を作っちゃったよ。


 俺は世界各国の動きとかそこら辺は知らないが、この火種が火薬を爆発させる可能性は極めて高いというのは何となく分かっている。


 こーれ、近いうちに戦争が起きます。


 俺はROUから恨みを買わなくて済んだ代わりに、ドデカイ不発弾を落としてしまったようだ。


「あぁ、どうしてこうなった........」


 俺はそういいなが、すやすやと寝てしまったスーちゃんとナーちゃんを優しく撫でる。


「帰るか」


 俺はそういうと、クソッタレな街。グダニスクへと帰るのだった。




【ポル・ポト】

 民主カンプチア首相・カンボジア共産党中央委員会書記長を務め、クメール・ルージュの精神的指導者であった。カンボジアの国内で組織的な迫害や大虐殺などを主導したことで知られる。

“腐ったリンゴは箱ごと捨てなければならない”という言葉を残しており、ポルポトは「美女は人を堕落させる。美女を処刑」と言って殺していた。

 眼鏡のインテリはいらん。眼鏡を殺す。時計してるのは金持ちだ。時計してるだけで処刑。ポルポト以来書店もカンボジアから消えた。

 が、当の本人はフランス留学をするほどのインテリ。




 1.名無しの神

【ワンチャン戦争】グレイくん。戦争の火種をばら蒔く。


 2.名無しの神

 >>1

 時報助かる。

 グレイくん、遂に戦争の仕込みを始めやがったww


 3.名無しの神

 グレイくんが望んでやった訳じゃないんだよなぁ........


 4.名無しの神

 望んでやってたら怖いわ。

 ところで、あの生きた伝説おじいちゃんは何者?日本人だったよね?


 5.名無しの神

 確かに。第一次世界大戦から生き残ってる御仁らしいけど、どう考えても人の領域を超えてる。


 6.名無しの神

 有能神ちゃん。お願いいたします


 7.名無し有能神

 >>6

 呼ばれて飛び出てジャジャジャーン。

 多分、おじいちゃんが入った湖とやらが関係あると思う。詳しくは調べられなかったけど、あの湖に入って正規ルートじゃない魔力の手に入れ方をしたから、寿命も無くなったと考えられるかな。


 8.名無しの神

 確かに湖の話をしてたな。と言うか、この世界のダンジョンの魔物って滅茶苦茶強いよね?そんなやつ相手にただの人間だったおじいちゃん1人で突っ込んだ挙句、三体ぐらい殺せるってやばくね?


 9.名無しの神

 >>8

 そりゃ、第一次世界大戦の頃から銃弾の雨の中で刀を振り回して敵を殺してたイカれたじいさんだからね。

 なんでこの爺さん生きてんだ?


 10.名無しの有能神

 過去の映像が見れたから見たんだけど、このおじいちゃんマジでイカれてるよ。

 ホイ、これ、その映像


 11.名無しの神

 >>10

 サンキュー有能神。

 マジでイカれてんな。本当に銃も持たずに刀1つで突撃してんじゃん。しかも、見た感じ銃弾を剣で弾いてね?


 12.名無しの神

 ホントだ。よく見ると、刀で銃弾を弾いてる。

 ........これ本当に人間?漫画の世界からやってきた剣豪おじいちゃんじゃない?


 13.名無しの神

 ガチイカれてて草。

 こんなやべーのがグレイくんの部下になったのか。と言うか、こんなにやべーやつを仲間にしたグレイくんに、あのゴルバスとか言うアホは喧嘩を売ったのか。



 14.名無しの神

 ノリノリで切り札を出したはずが、いつの間にか相手に奪われていた可哀想なやられ役。彼のおかげでまたグレイくんの株が上がったよ!!


 15.名無しの神

 ノリで仲間にしたら、的確に相手の急所を付いてるもんな........これがグレイくんマジック。種も仕掛けもございませんってか。


 16.名無しの神

 初手で相手の手札を全部封じた上に、こちらの切り札を持っていく鬼畜。

 どうやって勝つねん。


 17.名無しの神

 シュルカちゃん滅茶苦茶ビビっててワロタ。

 グレイくん、別にシュルカちゃんに釘を刺すとかそんなこと考えてなかったのに、“コイツを敵に回したらやばい”って格の違いを見せるのスコ。


 18.名無しの神

 今回は勘違い要素少なめだったけど、思いっきり勘違いされてたよな。しかも、何が面白いって、グレイくん以外はみんなシュルカちゃんと同じようか考え方をしてた事。

 無意識のウチに相手の嫌がる手を的確に打つとか、グレイくん天才か?


 19.名無しの神

 ジルハードも盛大にグレイくんの評価を上げてたよな。

“うちのボスはイカれてる”って。


 20.名無しの神

 俺たちでも“あ、この爺さん強ぇ”って分かるのに、グレイくんは“ただのおじいちゃん”として話してたのおもろい。

 危機感ゼロか?


 21.名無しの神

 多分、色々と巻き込まれすぎて危機感知能力が壊れてんだよ。家に銃弾ぶち込まれても、家に潰されそうになっても“あ、やば”としか思わないのがグレイくんだから。

 ある意味冷静すぎる。


 22.名無しの神

 確かにグレイくんの危機感知能力はぶっ壊れてそうだよな。どんなに死にそうな目にあっても、割とヘラヘラしてるのまぁまぁイカれてるぞ。


 23.名無しの神

 >>22

 確かに。死にそうな目にあってもヘラヘラしながら相手を殺してるの、割とサイコパス感ある。

 あれ?このファミリーの中で1番やべーのってグレイくんなんじゃ........


 24.名無しの神

 無自覚のサイコパスとか怖すぎる。なんやかんや、グレイくんもヤバいやつなんやなって。


 25.名無しの神

 ところで、今回もダンジョンに潜ってないんだけど........五大ダンジョンの攻略はいつ行くんだ........?







この章はコレにておしまい。ようやく人間の仲間が全員揃ったぜ。後はスーちゃん達枠一つだ‼︎

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