はじめての旅行(クソみたいな仕事付き)
ウチの部下達が修学旅行気分でROU(ルーマニア)の観光地を巡る計画を立ててから4日後。
俺達はミスシュルカが手配した、“入国屋”と呼ばれる密入国専門の者達に連れられて空の上を飛んでいた。
人類が手にした鉄の翼である“飛行機”に乗り、POL(ポーランド)から幾つもの国を越えてROUに向かうのだ。
フライト時間は大体3時間程。
なにげに飛行機に初めて乗った俺は、少しテンションが上がっていた。
「凄いな。飛行機ってこんな感じなんだな」
「ボスは飛行機に乗るのが初めてなんすね」
「あぁ。初めてだぞ。何せ、飛行機に乗る機会がある前に国際指名手配を喰らったからな。鉄の翼を手に入れるよりも前に、銃を持ったやつらが俺の魂を天まで飛ばそうとして来たやつにケツを追い掛け回される羽目になった。全くもっていい迷惑さ」
「いや、ボスはダンジョンを吹っ飛ばして何千万と言う人々を天まで吹っ飛ばしたじゃないですか。アレ?そう考えるとボスは
「喧嘩売ってんのか?どこの世界に肉体を消滅させて魂だけの浮遊実験を行う
偉大なる先人と、ただの元高校生を一緒にするんじゃねぇ。
それに、ライト兄弟は有人飛行に初めて成功した天才であって、テロリストじゃねぇよ。
飛行機の基礎を作りあげて戦争による被害を加速させたという点で見れば、ある種のテロかもしれないが、技術の進歩に犠牲は付き物である。
戦争を経て、人々は豊かな暮らしを手に入れたのだ。間違っても、ダンジョンを爆発させてテロを起こす俺と一緒にしてはならない。
「しかし、国に入るのにもこんな手段を取らなきゃならんのは面倒だな........レミヤやリィズなんかは空港の検査に絶対引っ掛かるだろうし、俺も顔が割れてるから変装の必要がある。だから、こんな手段でしか国を渡れないなんて、悲しいよ」
「ボスの場合はスーやナーも居るからな。空港では魔物の魔力を検知する道具もあるし、
「魔物にも優しい世界を望むよ。食い意地の張ったスライムと、癒しを与えてくれるシャドウキャットぐらい見逃してくれりゃいいのに」
「ハッハッハ!!過去に何度か魔物を使ったテロがあったからな!!ロンドンブリッジに飛行機が突っ込んだ時なんかは傑作ものだったぜ」
ロンド橋がほんとうに落ちてどうする。
民謡が実話になったら笑い話にもならねぇよ。
「ちなみに、今から15年前の話だな。魔物をこっそり隠して飛行機内に持ち込んだテイマーのテロリストが、飛行機をハイジャックして民謡の再現をしたんだ。丁度テレビで見ていたが、凄かったぜ?
「飛行機の乗客と橋を渡っていた人が人柱ってか?笑えない冗談だな」
「全くだ。元々それなりに魔物の持ち込みに関しては厳しかったんだが、あのテロ以降さらに厳しくなった。今では国から正式にテイマーとして認められた上で、魔物の制御がきちんと出来ているかをテストした上で飛行機に乗ることが許可されている。しかも、テイマー専用の部屋に軟禁されてな。つまり、スーとナーを連れていく時点で、どう頑張ってもボスはマトモな飛行機に乗れないわけだ」
なるほど。そんな歴史があったのか。
15年前なんて俺はもちろんこの世界にいなかったので知らなかったが、ロンドン橋は飛行機によって落とされたんだな。
そして、魔物の規制もさらに強くなったと。
スーちゃんやナーちゃんはかなり大人しく、今も2人でポヨンポヨンしたりナーナー言ったりして会話をしているが、何も知らない人からすれば危険な魔物にしか見えない。
魔物を指揮して闘うテイマーの立場は、かなり悪いのかもしれないな。
そもそも、一般的に魔物は“悪”として捉えられることが多い。
その悪を指揮して戦うテイマーも、悪として見られるのは必然だろう。
グダニスクの街では誰も気にしてないようだったので、割と人目にスーちゃんやナーちゃんを晒していたが、この国では気をつけた方がいいかもしれん。
下手をすると、通報されてポリ公共とやり合う可能性が出てきてしまう。
「スマンが、少し窮屈な思いをさせるぞ。その分、美味しいものを買ってやるからな」
(ポヨン)
「ナー?」
俺はそう言いながら、スーちゃんとナーちゃんの頭を優しく撫でる。
そのどさくさに紛れてレイズもナーちゃんの頭を撫でようとしたが、その手は尻尾に叩き落された。
しかも、割といい勢いで。
「痛っ!!........やっぱり俺やジルハードさんには懐きませんね」
「ナーはボスとリーズヘルト、そしてアリカ以外には懐かないからな。気まぐれで撫でさせてくれることもないし、猫よりも容赦がねぇよ。見てる分には可愛いからいいんだけどな」
「ナー........」
不機嫌そうに尻尾を揺らすナーちゃん。
レイズめ。うちの可愛いアイドルに何してくれとんじゃ。
「はいはい、ナーちゃん。怒らない怒らない。レイズ、国に着いたらナーちゃん達のご飯を買ってこいよ。もちろん、おまえ持ちで」
「魔物にパシられる人間........これがグレイファミリーすか」
「諦めろ。ボスはファミリーの人間よりも魔物に甘い。ほら、リィズにも滅茶苦茶甘いだろ?」
「たしかに。このファミリーは魔物と女性の方が立場が上なんすね」
「普通は男の方が偉いんだがな........能力的に。ウチはボスを筆頭に変な奴しか居ないから諦めろ」
誰が変な奴だコラ。
自分は関係ないですという顔をしているが、お前もかなり変わってるからな?
五大ダンジョンを大まじめに攻略しようとしている時点で、おまえもこっち側だよジルハード。
ナーちゃん、俺とリィズ、アリカにはかなり懐いているのだけれどその他の人にはあまり懐いていないんだよな。
俺とリィズには滅茶苦茶甘えてくるし、アリカはされるがままにしている。
が、ジルハードやレイズには絶対に撫でさせないし、レミヤに至ってはそもそも近寄らない。
まぁ、レミヤは完全にレミヤが悪い。
こんなにも可愛いナーちゃんでちょっとした実験をしようとしたのだから。
レミヤ曰く、“昔の癖で魔物を見るとつい........”との事だったが、ナーちゃんもスーちゃんも仲間だからね?
俺は身内を使っての実験とか絶対に許さないからな。
尚、スーちゃんは誰にでも友好的である。ジルハードに当たりがキツイが、嫌っていると言うよりもじゃれている感じに近い。
レミヤの実験にも付き合っているらしく、スーちゃんがどこまで食べたものを消化できるのかとかを調べていた。
なんでも、王水すらもスーちゃんは消化して食べてしまったのだとか。
スーちゃんスゲェな。金すらもと化す液体をも食料として食べるなんて。
ちなみに、スーちゃん曰く(言葉は話せないから揺れている感じで何となく言いたいことを察するだけ)、“王水は不味い”との事。
いや、そもそも王水は食べ物じゃねぇよ。
悪食もここまで来ると尊敬できるなと思いつつ、3時間のフライトを各々楽しんでいると時間がやってくる。
制空権やら何やらの問題は大丈夫なのかとは思うが、世の中金を握らせればなんとでもなるらしい(料金は軍団持ち)。
財力ってすげー。
「皆さん。席に着いてください。そろそろROUに到着します」
「お、これで長いフライトともおさらばか。帰りもよろしく頼むよ」
こうして、俺達はROUの大地に足を踏み入れることとなったのだった。
【ライト兄弟】
アメリカ合衆国出身の動力飛行機の発明者かつ世界初の飛行機パイロットの兄弟。世界最先端のグライダーパイロットでもある。自転車屋をしながら兄弟で研究を続け、1903年に世界初の有人動力飛行に成功した。
LIFE誌が1999年に選んだ「この1000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人」に選ばれた。
“入国屋”の力を借りて、ROU(ルーマニア)の大地に足を踏み入れた俺達。
ここはスラティナの街から少し外れた場所にある発着場。
違法に建築された滑走路に降り立つと、早速先ににROUに来ていたミスシュルカとそのお仲間たちが出迎えてくれた。
「空の旅は楽しんだか?」
「お陰様でね。何気に飛行機に乗るのは初めてだったから、楽しかったよ」
「ほう。かの極悪非道のテロリストも、人類の叡智を体験したことは無かったのか。実にいいものだろう?空の旅というのは」
「空な景色は良かったね。出来れば、正規のルートでこの景色を見たいとは思ったけど」
「ハッハッハ!!貴殿らの様なテロリスト集団が国から許可を取った正規の民間航空会社の飛行機に乗った日には、何もせずとも“ハイジャック事件”として全世界のテレビで報道されることになるさ。数ヶ月前にFRで自分が何をしたのかを忘れたわけでもあるまいに」
「是非とも忘れたい記憶だがな。それで、一先ずは宿に行けばよかったんだよな?」
シュルカのお友達が集まるにはまだ1週間ほどの猶予がある。
どこぞの浮かれたおバカさん達が“早く行きたい!!”という事で少し予定を早めてもらったので、1週間は暇な時間ができてしまった。
シュルカもシュルカで、断る理由がなかったのか“いいぞ”と二つ返事をしてしまった為、今日から皆でROUを観光するのだ。
皆俺と観光がしたいと言うので、態々クソでかい車を借りる羽目になってしまったのだが、まぁ、必要経費ということにしておこう。
車を借りる金よりも、報酬の方が大きいしな。
「そうだ。宿は既に取ってある。とは言っても、空き家だがな。さすがに貴殿を普通のホテルに止めさせるのは少々問題があるのだ」
でしょうね。
一応、俺は国際指名手配犯だし、レミヤ、レイズ、リィズの3人はそれぞれの国から指名手配を喰らっている。
そんな指名手配のオンパレードとも言えるような面子が、普通のホテルなんて利用した日には絶対に問題が起こるだろう。
主に、リィズ辺りが暴れそうで怖い。
だったら、周囲を気にしなくてもいい空き家を借りてくれた方がマシである。
ちょっと、ホテルのバイキングとか楽しそうだよなぁとか思ってないから。全然思ってないから。行けたら美味しい食べ放題のレストランに行きたいとか思ってないから。
なんやかんや俺も俺でこの旅行(仕事)を楽しみにしていたんだなと思いつつ、俺達はシュルカが用意してくれた車に乗り込む。
その車は、真っ黒な超高級車“リムジン”であった。
スゲェ、リムジンなんて初めて乗ったぞ。滅茶苦茶広いし椅子も座り心地が素晴らしい。
「さて、目的地に着く前に簡単な仕事の打ち合わせと行こう。今日から1週間と3日後に、我々
「居るだけでいいんだよな?本当に何もしないぞ」
「多少の紹介はするが、軽く頭を下げる程度で構わない“我らには世界最悪のテロリストとのコネクションがあるのだぞ”と言う圧を掛けられればそれでいいからな」
変に交渉とか求めてくるよりも楽でいいな。俺のポンコツさ加減がでなさそうで何よりだ。
「万が一襲われた場合は迎撃してくれて構わない。が、ここはあのクソッタレな街ではない。できる限り死体は綺麗に処理して欲しい」
「わかった。そこら辺のゴミ箱に投げるてるんじゃなくて、地理も残さずに消しされというわけだな」
「そうだ。死体がなければポリ共も動くに動けん。だが、できる限り殺しはやめて欲しいがな........あの街は脇道に死体が転がろうが騒ぎが起きようが誰も興味を持たず、店の中に流れる曲程にしか思ってないが、この国は比較的治安がいい。気絶させる程度の方が、対処も楽なのだ。行方不明よりもな」
人が消えるよりも気絶の方が騒ぎにならないのか。
人が消えた方が楽じゃね?と思ってしまう俺も、この世界に毒されてきたのかな。
「まぁ、できる限り努力はするよ。死体を生み出した時は、こちらで何とかしよう」
「頼むぞ。貴殿らは各国から狙われる存在。下手を打つとこの地に核ミサイルが飛んできてもおかしくないからな」
流石に核ミサイルが飛んできたらやばいな。
俺は普通の人間だからあの世行き待ったナシだよ。
俺はそんなどうでもいいことを思いつつ、リムジンの中でもワイワイと騒ぐ部下達を見て不安を感じるしか無かったのだった。
あぁ、神よ。今回の旅行ぐらいは穏便に終わってくれませんかね。
というわけで、新作あげました。
タイトルは
【理論上レベル1でも魔王を倒せる最強(笑)のネタキャラ】に転生したので、魔王軍ルートを開拓したい
です。
内容は、ネタキャラに転生した主人公が勇者の性格を変えてストーリーを壊したり、大問題児ロリ魔王に振り回されるお話です。ギャグ要素多めかも。
後、主人公は何処ぞの主人公みたいに火力がゴミ。
是非読んでください‼︎
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