爆破魔グレイ君


 薬物教会との衝突が始まってしまった事は仕方がないにしても、俺としてはできる限り面倒事を起こしたくないので誤解を解くために薬物教会に向かう。


 薬物教会は政府との繋がりもかなり強い。POL(ポーランド)政府は聞いた限り腐りきっているし、教会がヤクを売るルートも主なものはそっち側だ。


 リィズがいる限り抗争で負けることは無いだろうが、勝ったあとが面倒である。


 数多の国から追われる立場ではあるが、流石にPOLからも追われる立場となるのは不味い。


 この街に政府を介入させた日には、俺達はこのクソッタレな街からも出ていく羽目になるだろう。


 そして、街から出れば殺し屋や国中の軍隊からケツを追いかけ回させる日々が始まる。


 俺の数少ない安寧地(毎日のように死人が出て殺し合いが起きる場所)が消えるのは、困るのだ。


「で、今度は普通にMEX(メキシコ)の麻薬カルテルにもケツを追われるのかよ。なんで教会に祈りを捧げに行く為だけに命の危険を感じなきゃならんのだ」

「本当にこの街は凄いな。私も多くのならず者達が集まる街を歩いてきたが、こんなにも退屈しない街は初めてだ。流石はネットで検索すると“史上最悪の街”と言われるだけはある」


 教会の人間に見つからないように隠れながら教会へ行くとか言う、訳の分からない状況になってしまっている俺達であったが、ここに来てさらに麻薬カルテルまでもが絡んできやがった。


 あのメキシコタコス野郎どもは、俺たちを見つけるや否や銃を乱射し、街への被害など知った事かと言わんばかりに殺しにくる。


 明らかにテロリストの様な格好をしていたから“こいつはやべぇ”と気づいて逃げてきたが、こんな状況になるのは勘弁願いたい。


 ただでさえ教会の連中に見つからないように潜伏しなければならないのに、更に麻薬カルテルともやり合うなんて最悪だ。


 俺は伝説の蛇の傭兵じゃないんだぞ。アレか?ダンボール被ってコソコソ動けば見つからずに済むのか?


「クソッ!!どこに行きやがったあのガキ共!!さっさと見つけだして、二度と俺達に逆らえないようにぶち殺してやりたいってのによ!!」

「兄貴!!こっちにも居ないっす!!」

「こっちもダメでした!!」

「探せ!!まだこの近くにいるはずだ!!」


 俺たちが今隠れているのは、六階建ての廃ビルの屋上。


 教会の連中から逃れるために三階に潜んでいたら、麻薬カルテルに補足されてしまったのだ。


 飛び降りる暇もなくやってきてしまったからな。しかも、ご丁寧に周囲まで囲って。


 本当にいい迷惑だ。俺が一体何をやったというのやら。


「どうする?このままだと見つかるのも時間の問題だよ」

「んなもん気合いでどうにかするしかないさ。幸い、相手は人間。壊し方は幾らでもある。一応、何も考えずにここで時間を潰していた訳じゃないんでね」


 俺はそう言うと、先ずは短めの鉄パイプを具現化させる。


 毎度毎度グレネードを使っていると、金がかかって仕方がない。その為、わざわざネットで調べて俺の能力でも破壊力のある爆破物が作れないか色々と試していたのだ。


 とは言っても、上手くいくかは分からない。知識として知っているだけで、実際に作ったことは無いので。


「鉄パイプの釘と大量の火薬を詰め込んで圧縮。能力が少し向上したおかげか、小さなものなら分解できるようになったんだよなぁ........発火も能力でできちまうから、導火線要らず。いやぁ、便利な能力だ」

「おいおいおい。まさか、パイプ爆弾を作ろうとしていらっしゃる?」

その通りThat's Right。ちなみに、初めて作ってるから上手くいくかどうかは知らん」

「えぇ........」


 毎日の能力訓練の賜物により、小さなものであればそれを具現化した後操作して分解できるようになっていた。


 これのおかげで、花火から火薬を取り出すことができるのだ。もちろん、火薬は黒色火薬を使っている(と思われる)花火だけを厳選している。


 とは言えど、所詮花火に使われている火薬なんてたかが知れているので、めちゃくちゃな数が必要になるが。


 だって線香花火とかに使われる火薬量は0.08gとかだぞ?市販の花火の火薬なんてたかが知れているさ。


 なので大量の数が必要になる訳だが、この実験に成功すれば俺の能力でも多少の火力が保証される。


 ひとつ作るのに5分もかかったが、慣れれば1分以内に作れそうだな。


 鉄パイプを能力操作でねじ曲げ、火薬と釘を詰め込む。限界まで詰め込むと爆発しなさそうな感じがしたので、少しだけ空間を開けつつもできる限り圧縮しておいた。そして発火機能としてマッチを少々。


 そして、能力で蓋を閉じればあら不思議。かつて日本で学生運動が起こった際にも使われたパイプ爆弾の完成。


 なお、火力はやってみないと分からない。そもそも、ちゃんと爆発すんのかこれ。


「ほい。お手製パイプ爆弾の出来上がり。ちなみに爆発するのかどうか分かりません」

「イカれてやがる。素人が半端な知識で作るものじゃないんだぞ?圧縮した火薬なんて少量でも、人の指程度なら吹き飛ばせるというのに........」

「大丈夫大丈夫。俺の能力で作ったものだから、そう簡単に発火しないよ」

「一体どこからそんな自信が出てくるんだよ........あぁ。不安になってきた」


 そう言いながら頭を抱えるアリカ。


 本当はグレネード投げても良かったんだけど、ほら、知識って一度身につけたら使ってみたいじゃん?


 そんな軽いノリで作ってしまったパイプ爆弾。現代日本で作った暁には、まず間違いなく警察のお世話になってしまうだろうがここでは違う。


 こんな廃ビル一つ吹っ飛ばす位であれば、誰も気にもしないのだ。


 それこそ、法の番人たる警察ですら。


 俺は出来たてホヤホヤのパイプ爆弾を持つと、周囲を囲んでいる麻薬カルテル達に向かって落とす。


 さて、上手く爆発してくれるのだろうか?


 火薬は敷き詰められるだけ敷き詰めた上に、ギチギチに圧縮してるはずだからそれなりの威力になってくれると思うが........


「じゃ、着火」


 俺の能力の範囲内にいれば、例え見えずとも操作する事はできる。


 俺は全てのマッチに火をつけると、念の為に屋上から顔を出すのを辞めた。


 バァァァァァァン!!


 と、火薬が弾けて周囲に爆風を撒き散らす音が聞こえる。


 割とギリギリまで火薬を詰め込んだためか、その威力は凄まじく廃ビルの屋上にまでその振動が届いていた。


「「........」」

「上手く爆発してくれたみたいだな」

「実験成功!!じゃないよ。あんな方法で爆弾を作りやがって。手元が狂ったら私諸共仲良くあの世行きだったんだぞ」


 実験が上手くいったようで何よりだが、それよりも被害状況はどのようになっているのだろうか。


 恐る恐る下を覗いてみると、そこには負傷した麻薬カルテルの面々が運良く傷を負わなかったもの達に介抱されていた。


 うーん。落とした近場の連中は何人か死んでるっぽいけど、それ以外は負傷している程度だな。


 やはり即席で作った爆弾では威力が足らないか。


 即死圏内は凡そ3m程。その中でも運が良ければ生き残ってしまうことを考えると、普通にグレネードを投げた方が確実である。


 作る時に手元が狂うと危ないし、使い所は限られそうだな。


 思っていたよりも火力が足らなかった事は残念ではあったが、花火の火薬はちゃんと使えることは証明できた。


 これで俺も爆弾魔ボマーになれるな!!


 火薬を取り出すのに時間がかかるから、爆弾作るのも大変だけど。


 そんなことを考えていると、どうやら屋上にいるのが見つかってしまったらしく銃を打たれる。


 まぁ、実験ができただけ良しとしますか。後はお得意の逃げ方でサッサとこの場を離れるとしよう。


「アリカ。キャンプファイヤーは好きか?」

「急になんだよ。別にどっちでもないぞ」

「それは残念だ」


 俺はそう言うと、大量の油と木を具現化。


 木を落とすだけでも凶器となるが、確実に相手を殺すならこっちの方がいい。


「おい、まさか........」

「レッツファイヤー」


 具現化させた全ての木と油が地面に到達したのを確認すると同時に、マッチの箱を落としてその中にあるマッチ達に火をつける。


 油のお陰で一気に火は燃え上がり、空から降ってきた木々達によって逃げ遅れたもの達は炎に焼かれる。


 うーん、やっぱり爆弾作るよりもこっちの方が手っ取り早いな。やり慣れているというのもあるが、手作りする必要が無いのは便利である。


「おい!!水を出せる奴はいないのか?!」

「あづい!!ぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 阿鼻叫喚と成り果てる廃ビルの足元。


 仲間たちが次々に炎に焼かれていく様を見せられた彼らは、俺の目論見通り1箇所に集まってくれた。


 俺はついでとばかりに油と木を倍プッシュ。


 もうしばらく焼かれてヴェルダンになっていてくれ。


「え、えげつないな........」

「この街でやっていくなら、当たり前の出来事さ。さて、アリカ。また聞くんだが........バンジージャンプって知ってる?」

「高いところから飛び降りる奴だろ。流石にそのぐらいは知って........おい、まさか........」

「大丈夫大丈夫。紐なしバンジーをやるだけだし、スーちゃんと俺の能力でクッションを出すから」

(ポヨン)


 俺が何をするのかを理解し、顔を青くするアリカ。


 そりゃ、六階から紐なしバンジーなんてしたら、余程の強運の持ち主かリィズのようなそもそも人間でないやつでなければ生き残れないだろう。


 だがしかし、この状況を逃げ切るにはこの方法しかない。


 態々これだけでかい騒ぎを起こしたのは、教会の目も引くためだ。


 この後さらにでかい花火を打ちあげれば、糞に群がるハエのように釣られてくれるはずである。


 俺は1歩後ずさるアリカを無理やり抱き抱えると、ビルの屋上からダイブする。


 プールに飛び込むような気軽さで、俺は六階のビルから飛び降りた。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

「うはっ!!さすがに怖ぇ!!」


 悲鳴をあげるアリカと、紐なしバンジーは流石に怖いなと思いつつもどこか冷静な俺。


 俺は万が一のためにアリカを上にして俺がクッションとなるようしながら、素早く能力を使って大量の綿入りダンボールを具現化。


 ビル17階から飛び降りても、柔らかい土の上で助かったやつもいるのだ。


 大量の綿の入ったダンボールに受け止めてもらいつつ、衝撃をスーちゃんに吸ってもらえば大した怪我もなく逃げられるはずである。


 ボスッ!!ボスボスボフッ!!


「うぐっ!!」


 できる限り具現化しまくったダンボールの中に落ちた俺達。


 特に問題なく落ちれたようで、体にダメージは無かった。


 強いて言えば、落下した時の反動でアリカの肘が腹に入った事ぐらいである。


 鳩尾に入ってたら悶絶コースだったが、運が良かったな。下手したら肋ごと行ってたかもしれん。


「ぷはっ!!グレイ、私を殺す気か?!頭どうかしてるんじゃないのか?!」

「あはは。怪我もなくて死ななかっただけいいだろう?俺はこうやって生き延びてきたのさ。んじゃ、サッサと移動しようまだやるべき事があるからな」


 文句を言いつつも、俺の体が心配だったのか“上級ポーションは居るか?”と問いかけてくるアリカ。


 やはり、根は良い奴なのだろう。俺を心配するその顔は、親が怪我をした時に心配する子供そのものだった。


 思わず頭を撫でてやりたくなる衝動を抑えつつ俺は再びビルの中に入ると、持っていた6つのグレネードを各地にワイヤーで括り付ける。


 更に大量の小麦粉を1階に散布。地面には、大量の油をばらまいておく。


 これでおそらくは上手くいくだろう。


「何をするつもりなんだ?」

「この前、レミヤにこのビルの破壊方法を教えて貰ってな。このビルは老朽化が激しい上に、幾つかの柱が使い物にならなくなっている。更にずさんな工事による設計ミスなんかも相まって、非常に脆いんだ。それこそ、支えている柱を2本ほど破壊出来れば崩れる程に」

「........なるほど。爆破工事をするのか。ダイ・ハードもびっくりな雑さだな」

「それで解体できるこのビルが悪い。文句があるなら、このビルを作った会社に言うんだな」


 俺はそう言いつつ、能力が行使できるギリギリまでビルから離れる。


 そして着火。


 ドガァァァン!!という音と共に、六階建てのビルは崩れ去り綺麗な瓦礫の山となった。


 グレネードの爆発に粉塵爆発。更には、下に敷いた油の燃焼。


 これだけやっておけば、流石に目立つし麻薬カルテルの連中もタダではすまない。


 教会の目を引くことが出来ただろうから、動きやすくなるだろうな。多少は。


「さて、行くか。サッサと逃げるぞ」

「もう滅茶苦茶だよこの街は」


 その場を後にする俺と、それに呆れながらも着いてくるアリカ。


 ほんと、滅茶苦茶だよこの世界は。

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