魂の潔白と恩の押し売り
教会で爆発が起こる少し前。廃墟ビルを爆破解体した俺は、上手く教会の連中の目を引き付けた事で割と安全に移動することが出来ていた。
イカサマも手品も、重要なのは客の視線誘導。
左手で何かを仕込みたいのであれば、右手に視線を集中させる。コレがイカサマ師の基本だ。
「人生初経験であろう
「今日ほど私の膀胱の締まりの良さに感謝した日は無いね。一歩間違えたら漏らしていたところだったよ。まさかグレイにそんな趣味があったとはな」
ねぇよ。
ロリっ子が漏らして泣いてる姿に興奮するほど、俺の性癖は終わってない。
第一、俺はもうリィズ以外の女に興味なんざねぇんだよ。
俺は、穢れた街に滞在していた為か微妙に反応に困ることを言うアリカのおデコにデコピンをすると、先生のように注意した。
「仮にも淑女が反応に困る事を言っては行けません。もう少し上品さを持ちなさい」
「あはは!!グレイは私の父親か?いや、父親と言うよりかは兄か。なぁ?グレイお兄ちゃん」
「お、おう。まぁ、呼び方は好きにすればいいさ」
........やべ、子供らしく笑うアリカの“お兄ちゃん”呼びの破壊力があまりにも強いんだけど。
一人っ子だった俺に、その満面の笑みの“お兄ちゃん”は効く。
俺は思わず吐血してしまいそうになりつつも、その血をグッと飲み込んで教会へと歩みを進めた。
もう手遅れかもしれないが、誤解を解くチャンスはまだ残っているはず。
最悪の場合は教会が消えることになるが、その場合はPOL(ポーランド)政府と揉めるので是非とも勘弁願いたい。
後でレイズにも話を聞かなければ。そう思っていると、教会が見えてくる。
遠い上に教会とは思えない壁に囲ままれているので中は見えないが、その大きな建物は目に入る。
あの教会を建てるのに、一体幾ら使っているのやら。
俺は教会の財力ハンパねぇなと思っていると、突然目の前に三人の男達が現れる。
一瞬教会の連中かとも思ったが、明らかにその身に纏う雰囲気が違う。
目の焦点が定まっておらず、痩せこけた肉体。明らかに正気ではないその見た目は、この街では腐るほど見かける
クソが。こんな所で野良の
全く持って最悪だ。何せコイツらは、アタマまでマリファナに侵食されて人の言葉が通じないのだから。
「けひひひ!!どこに行くんだい
「コイツでぶっ飛ばされたくなきゃ────」
パン!!パン!!パン!!
俺は奴らのセリフが言い終わる前に、腰に刺していた愛銃を取り出して三人の眉間を的確に射抜く。
見事、
「悪いが、お前らの茶番に付き合ってる暇はない。
「グレイお兄ちゃん、なんの躊躇いもなく撃ったね。あまりの早業過ぎて、ボブ・マンデンが再来したのかと思ったよ」
「馬鹿言え。あのオッサンが使ってたのは
かの伝説の射撃芸人“ボブ・マンデン”と俺を比べちゃいけねぇ。
あのオッサンはまじで凄い人だからな........早撃ちの記録が0.02秒ってどうなってんだ?あのオッサン。人間が瞬きする間には人を殺せるんだぞ。
さて、昔の偉人の話もそこそこにさっさと行こうとしたその瞬間、俺の耳に聞きなれた嫌な音が聞こえた。
ピン!!
と、小気味いい金属音。
俺はこの音をよく知っている。しかも、このタイプのやつは時間差で爆発する奴だ。
慌てて倒れた男達を見ると、死後に身体がビクンと動いたのかピンの外れたグレネードが。
あ、死ぬかも。
能力による防御はできなくは無い。が、如何せん玩具(鉄パイプ等)の防御ではグレネードの爆破を完全に受け止められるとは思えない。
RPGの威力を低めた時のように、スライムで覆う手段もあるがアレも確実性には欠ける。
となると、手段は1つ。
幸い時間はまだ5秒ほど残っているので、全力で遠くまで投げ飛ばす事。
コレがアリカを巻き込まず安全にグレネードを処理できる手段だ。
俺は0.1秒にも満たない間にそう判断すると、ワイヤーを具現化してグレネードを捕まえる。
人類が進化の過程で使った投石器のように、遠心力と人間離れの肉体を付与してくれる身体強化を使い、全力で投げ飛ばすのだ。
「お、ラァ!!」
声を発することにより、僅かながら肉体のリミットを解除。
テニスプレイヤーが声を上げながら打つのは自身の力を瞬間的に上げるためだとも言われており、事実科学的に証明されている。
俺も自然と声を出してしまいながらグレネードを投げたのだが、投げた場所が悪すぎた。
新幹線よりもはやく飛んで行ったグレネードは、見事教会の壁を越えてその中に落ちてしまったのである。
ドゴォォォォォン!!と鳴り響く爆発音。
俺が“やっちまった”と理解したのは、その爆発音を聞いてからだ。
「よく気づいたね。私は全く気付かなかったよ」
「お、おう。そうだな。アリカに怪我がなくて何よりだ。それよりもさっさと行こう。神のお膝元でドンパチなんざ、裁きが怖くてやってられないよ」
「........どの口が言ってんだ?」
全くもってその通りです。
俺は、今から関係の修復は不可能かもしれんなと思いつつ、全速力で教会へと向かうのだった。
【ボブ・マンデン】
1980年に「銃を持った最速の男」としてギネスに掲載された、伝説のガンマン。人間が瞬きをするよりも早く銃を撃ち、その銃声は2発撃っているはずが一発に聞こえるほどに早い。動画も残っているはずなので、ぜひ検索してみる事をオススメする。
時は戻り現在。
一瞬何が起きたのか分からなかったガレイストであったが、この場にグレイが現れたことで全てを察する。
どうやら、自分はこの男に助けられたようだと。
だが、頭を下げることは無い。この場で頭を下げたら最後。ガレイストの死が決定してしまう。
「今になって姿を表すとは、随分と余裕だな
「やめてくれよ。神父様。俺、その名前嫌いなんだ。普通にグレイと呼んでくれ」
割と本気で嫌そうな顔をしながら、自分の二つ名を拒否するグレイ。
ガレイストはそんなグレイの動きを全て観察していた。
(隙だらけだ。だが、そこに飛び込めば死ぬ気がする........誘っているのか?)
明らかに隙だらけのはずなのに、そこに飛び込んだら殺される気配がある。
ガレイストはそう考えながらも、この場で確認しなければならないことがあるのだ。
世界最悪のテロリスト“グレイ”。
果たして彼は“悪”なのかどうか。
ガレイストの能力“
特にこの街に限って言えば、最強も最強。魂が悪の泥沼に浸かり切り、少しでも聖なる力が触れれば相手を殺せるほどなのだ。
残念ながら、魔物(アンデッド系を除く)には全く効果が無いが、人間相手であればかなり輝く能力である。
どうしたものか。そう考えていると、グレイは少し困った顔をしながらガレイストに提案をした。
「この辺で辞めないか?俺達は別にアンタと揉めたいわけじゃない。薬のルートを潰したい訳でもないし、薬で小銭稼ぎをする気もないんだ」
「今更それを信じると?」
「誤解があるようだから言っておくが、俺は別にこの街に興味が無い。
嘘をつけ。
ならばなぜ今その地位に立っている。
やはりここで彼を消すしかない。でないと、教会の地位も危ぶまれる。
そう確信したガレイストは、一瞬でグレイとの距離を詰めるとその脇腹に右手フックを叩き込む。
「グレイ!!」
吹き飛ぶグレイ。
だが、ガレイストの拳には全くと言っていいほど手応えがなかった。
それどころか体の不自由さえ感じる。
「........何?」
「いきなり殴るとか、どうなってんだこの街の教会は。親の顔が見て見たいね。対応が遅れてたら、ガードできなかったぞ」
カランと地面に落ちる凹んだフライパン。そして、羽毛が大量に詰め込まれているであろう枕。
更には、ガレイストの体に巻きついたワイヤー。
これを見れば何が起きたのか大体わかる。
ガレイストが殴る瞬間、威力を弱める為にワイヤーを体に巻き付けて腕の動きを制限し、ガードと衝撃吸収の為にフライパンと枕を拳とガードの間に挟み込む。
そして、自ら殴られる方向に飛んでダメージを最低限にまで抑えた。
明らかに、
しかも、ガレイストよりも威力も速度もある攻撃を受けてきた対応である。
で、問題は彼に聖なる力が全く効いていないことだ。
魂が悪に染っていれば、たとえ物でガードしようともダメージを受けるはずなのに、当然のように無傷。
これは、彼の魂が穢れのない存在であることを示している。
「........それがお前の能力か」
「意外と便利だろ?使い方を考えなきゃならんが、案外何とかなるもんだ。で、人の話は聞く気になったか?」
そう言いながら、まだ息のある麻薬カルテルの面々に向かって銃弾を撃ち込むグレイ。
この姿だけ見れば悪人そのものであるが、彼が望んでやっていることでは無いのか。
“人を殺す”1つにおいても、善と悪がある。
テロリストから市民を守る為に軍人が人を殺すことを悪とするのか?
きっと多くの人々が“否”と答えるだろう。そして、軍人の中にも正義はある。
真なる悪とは、自らの快楽の為に人を殺し人を汚すこと。
彼は、たった一度も自らの快楽の為に人を殺したりしたことは無い。ガレイストはそう判断したのだ。
人を殺す時は、常に誰かを守るため。常にそうせざるを得ない為。
自分が生き残るために人殺すことも、また正義である。そのような場面は、普通に生きていれば余ほど訪れないが。
「急に攻撃したことを謝罪しよう。それで、我々になんの用かな?」
「さっき言っただろ?ここら辺でやめようよ。なんか知らんけど麻薬カルテルの連中も死んでるし、ここにその薬を作ってた子がいる。この子には二度と麻薬を作らせないと約束しよう。だが、それでも俺たちとやり合いたいというのであれば─────」
グレイがわざと言葉を区切る。
そして、示し合わせたかのようにグレイファミリーの面々が一気に現れ始めた。
まるで最初からこの展開を望んでいたかのように。まるで最初から全てが仕組まれたかのように。
逃げ場はない。そして、対抗する手段もない。
そして何より、グレイは悪人ではない。
必要であれば人を殺すが、自らの意思で望んで人を殺した事は一度もない。
それは、ガレイストにとって最も信用に値するものであった。
(ハハッ、道理でミス、シュルカや警察共が駒にされるわけだ。ここまで用意周到に恩の押し売りをしてきた挙句、自分の魂を見せて己の潔白を証明した奴を見たことがない)
ハッキリ言ってイカレてる。自分の能力を知った上での行動だとしたら、中々にリスクのある行動だ。
そして、そのリスクを易々と飲み込む彼の元に人が集まるのも理解出来る。
更には、全てを見通したかのような策略。
やり方は卑怯もいい所だが、先にこちらからしかけた抗争だ。
彼らにはその反撃に出たという免罪符がある。
どちらにしろ、教会側が悪に立たされるのは間違いない。
「──────全力でお相手しよう。もちろん、俺じゃなくて俺の部下たちが」
「下手に抵抗しない方がいいぞガレイスト。ボスは割と慈悲深いからな。大人しく頭下げて下に敷かれれば、特に何もしないさ」
「ジルハード。随分と面白い男の下に付いたのだな。私が見誤るほどの男とは、歳はとりたくないものだ」
「何カッコつけてんだこのジジィ。元々そんな目は持ってないだろうが」
ハハハと笑い合うガレイストとジルハード。
その後、教会はグレイファミリーに和解金としてかなりの額の金を提供し、今後はグレイファミリーと同盟を結ぶことを宣言。
教会側は大きな痛手を負ったものの、ここで更なる被害を出す訳には行かなかったのだ。
ガレイストも助けられた恩があるため、尚更に。
こうして、長年この街で勢力を保ってきた教会すらも、手中に収めたグレイファミリーはこの最悪の街グダニスクの支配者となった。
グレイファミリー発足から僅か一ヶ月弱。
有り得ないほどのスピードで、この街の支配者となったグレイファミリーに逆らえる組織はこの街に居ない。
........そう。
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