三つ巴の抗争
朝っぱらからゲームで遊ぶという、子供からすれば夢のような時間を過ごしていた俺達。
しかし、昼頃になればだれしもがお腹を空かすという物だ。
かくいう俺達も、今日の昼ごはんを何にするのかを話し合い、適当なジャンクフードで済ませる話をした後ジルハードとローズが買い物に出かける。
事務所に残された俺とアリカは、一旦ゲームを辞めてのんびりと話をしていた。
長時間のゲームは目が悪くなる原因となる。適度な休憩は必要だ。
「グレイの能力は面白いな。こんなものまで具現化できるのか」
「子供の頃に遊んだ玩具は全て具現化できるぞ。逆に言えば、子供の頃までに遊んだ玩具以外具現化できないから、成長が見込めないけどな」
「そんなことは無いさ。人とは常に成長を続ける生き物。知っているか?過去には使い物にならない能力が覚醒して竜すら屠る剣となった話もある。ただの木剣が、
へぇ。そんな話があるのか。
おれはアリカの話を聞きながら、能力を使って玩具をあちこちに具現化させては消すというのを繰り返す。
これは、リィズが教えてくれた能力トレーニングの一環だ。
人が体を使わなければ筋肉が落ちてしまうように、能力も使わなければ徐々に衰えていく。
逆に言えば、使い続ければ能力は僅かながらも性能が向上し、多少なりともマシになるのだ。
とは言えど、限界値はある。俺の場合は既に限界値に達してい待っている気もするが、それでも訓練はしておいた方がいい。
「それ、元々木剣が
「........流石、頭の回転が早いな。能力が覚醒した事例はこれ1つしかない。その為、能力研究者の中では“元々そういう能力だったのでは無いか”と言われている。真実は分からないけどね」
「少なくとも、この玩具達が神話に出てくるような武器に成り上がることは無いさ。姿かたちが全て違うんだからな」
「そうだな........というか、玩具なのか?それ」
アリカが指を刺したのは、ウネウネと海の中で揺られる海藻のような動きをするワイヤーや、無人なのにペダルが回りタイヤを動かすママチャリ。
うーん、確かに玩具として見るには少々疑問が残るよな。この能力を使っている俺ですら未だに疑問に思っているし。
でも、具現化できるということは、そういう事だ。
こいつらは、玩具として判定されている。
「俺も判定の基準が分からん。でも、具現化できるんだから玩具なんだろうな」
「........能力とは摩訶不思議だな。紙と鉛筆が出てきてくれた方が、まだ納得できる。自転車は乗り物だろうに」
「俺もそう思う」
そんなことを話している最中であった。
急に影の中にいたナーちゃんが影の中から飛び出てくると、なにか焦ったように俺の服の裾を加えて思いっきり引っ張る。
俺だけではない。ナーちゃんはその能力で影を操り、アリカも思いっきり引っ張っていた。
「うをっ?!」
「わっ........!!」
なぜ急に俺たちを引っ張ったのか、答えは自ずと向こうからやってくる。
パリンと窓ガラスが割れ、中に入って来たのは見慣れは無い弾丸。
それは、弾丸と言うにはあまりにも大きく歪であった。
コマ送りに見える世界の中で、窓ガラスを割って入ってきた侵入者の形に見覚えを感じる。
おいおいおい!!ありゃRPGじゃねぇか!!
俺は脳がRPGだと理解するよりも早く、反射的に能力を使用。
爆風の被害をできる限り減らすために、昔二回ほど遊んだ事があるスライムを部屋の半分に具現化。さらに、俺達に被害が出ないように黒いカーテンを何重にも被せる。
その間、僅か0.1秒未満。
人間とは意外とやればできるらしい。本来なら反応するのも不可能なこの状況で、的確に防御できるのだから。
ドゴォォォォォォォン!!
と、放たれた弾丸は爆発し周囲にはスライムの残骸が飛び散る。
多少威力を減らすためにスライムで防護壁を張り、さらにカーテンで身を守った為に俺は多少の擦り傷で済んだが、事務所は多分吹っ飛んだな。
「アリカ!!生きてるか?!」
「........ゴホッゴホッ。お陰様で。全く、USA(アメリカ)にいた頃では考えられないほどイカれた街だな。この街にはテロリストが住んでいるのか?」
「そりゃ、俺だ。ともかく、無事なら良かった」
「ナーナー!!」
「助かったぜナーちゃん。一歩間違えたら三途の川を泳いで渡る大会が始まるところだった。それと──────」
俺はそう言いながら軍用魔弾を撃てるライフルを取り出すと、事務所の扉に向かって乱射する。
狙いは定めてない。ただ、銃弾をばら撒くだけだ。
何故そんなことをするのかって?
白昼堂々RPGを事務所に打ち込んで来るイカレ野郎が、たった一人で事務所にカチコミをかけに来るわけが無い。
事務所を吹っ飛ばしたら、確実に俺たちを殺しにくるはずだ。
そして、この事務所の出入口は1つしかない。要はそこに決め撃ちをすれば多少なりとも敵にダメージを与えられるのだ。
「っぐ!!」
「─────お前らの行動は何となく読めるんだよ。ったく、せっかく直した事務所を2週間足らずでまた
こんな短期間で何度も事務所を爆破されては、金がいくらあっても足りないぞ。
俺は、タバコを取りだし火をつけると、大きく煙を吸ってゆっくりと吐く。
俺も荒事に慣れてきたな。こんな状況でもタバコが吸える余裕を持てるとは。
いや、まぁ、まだこの世界に来て4ヶ月程度しか経ってないんですけどね。
巻き込まれすぎなんだよ。俺は。
「麻薬カルテルの連中か?それとも、他の組織か。今撃った奴の顔を見りゃある程度は分かりそうだな。アリカ!!逃げるぞ!!」
「わ、分かった!!」
俺はそう言うと、ナーちゃんに指示を出して扉の前にさらに敵が居ないなを確認させる。
ナーちゃんは影の中を移動できる魔物だ。たとえ扉の向こう側が見えなかったとしても、偵察を頼むことが出来る。
2発目のRPGが飛んでくる前に急いでナーちゃんに周囲を確認させると、どうやら扉の前には倒れたやつ以外誰も居ないようであった。
よし、これで逃げられるな。
扉を蹴り飛ばし、腕を吹き飛ばされて痛みに苦しむ奴の顔を見る。
服装も普通なので判断がつかないが、麻薬カルテルが雇った暗殺者か別の組織だな。
当たり前のように暗殺者かもしれないという選択肢。この街は相変わず糞貯めのような場所だな。
「麻薬カルテルと推定して動くか。あー、もしくは教会か。レイズが交渉失敗した可能性も考えた方が良さそうだな。ったく。恨みをあちこちから買いすぎて、どこ組織なのか分かりゃしねぇ」
「生きているなら自白剤で吐かせることもできるよ?」
「生憎そんな時間はない。ここでのんびりお話をしてみろ。外のやつがまた俺たちのケツをローストしに来るぞ」
「それもそうだな。全くもって勘弁願いたい話だ。これならまだ、研究所で虐められていた方が良かったかもしれん........最低限の命は保証されるからな」
「馬鹿言え。イジメだって手元が狂えばあっという間に人が死ぬんだ。どっちも変わらんよ。明確な殺意を持たず、自分達のちっぽけなプライドを守るためだけに行なういじめの方がタチが悪いまである。
国家が一民族を虐殺していたのだ。
あれだって見方を変えれば立派なイジメである。イジメにしては、度が過ぎていたが。
「
「全くだ。さて、さっさとジルハード達と合流するぞ。この事務所の修理費を誰にツケればいいのか、確認しないとな」
俺はそう言うと、右腕を吹っ飛ばされて苦しむその男の頭に弾丸を撃ち込んで事務所を出ていくのだった。
【ホロコースト】
第二次世界大戦中の国民社会主義ドイツ労働者党(ナチ党)支配下のドイツ国(ナチス・ドイツ)やその占領地においてユダヤ人などに対して組織的に行った絶滅政策・大量虐殺を指す。ドイツ語での発音はホーロカウストに近い。
犠牲になった人々の数は少なくとも600万人以上とも言われており、二度とこのような事が起きてはならない。
グレイファミリーと明確に敵対をする事に決めた教会は、ダンジョンを管理する人員以外の殆どを動かしてグレイファミリーを潰そうと動いていた。
相手はあの軍団ですら手こずる相手。余裕を持って撃破などは考えず、容赦のない一撃を食らわせる必要がある。
「首尾は?」
「現在、グレイファミリーの事務所は半壊。しかし、監視によれば彼らは生きているそうです。その後、攻撃を続けていますが、上手く逃げられ続けています」
「やはり一筋縄では行かんな。仮にもこの街の権力を握りつつある男だ。そう簡単に殺せはしないか。残りはどうなっている?」
出来れば最初の一撃で殺したかったが、相手はマルセイユを吹き飛ばしたテロリスト。
未だにその方法も分からず、各国が躍起になって調べているとなればグレイの底知れなさが伝わっていくる。
しかし、見た目はただの青年。そのギャップの違いはあまりにも大きかった。
ガレイストは軽く頭を抱えつつ、報告を続けさせる。
「ジルハードとローズと呼ばれていた男も始末に失敗しています。どうもこちらの奇襲を読まれていたようで、部隊の半数が殺されてしまいました」
「あの舐めた態度を取っていたガキ共は?」
「あそこが1番被害が少ないです。私たちを殺す気がないのか、両腕をへし折ったりするだけで殺してはいません」
分断されているのに、全くと言って戦果がない。
ガレイストはここに来て自分の浅はかさをようやく理解した。
相手は所詮二ヶ月前にこの街で成り上がった若輩者。長年この街で過ごしてきたガレイストの方が有利にことを運べるかと考えていた。
しかし、結果は兵士達を失うのみ。
負傷者を増やされ、こちらの負担をさらに増やしに行くつもりだ。
「........もっと慎重に動くべきだったか。それなりに準備もしてはいたが、我々の想像以上に相手が強い。我々が食いつきたくなるように、戦力を分断し、食いついた魚を釣り上げる。我々の動きと戦力を正確に把握してなければ取れない戦術だ」
「このままですと、我々がフライにされて食われます。出来ればアクアパッツァ辺りがいいんですけど、頼めば聞いてくれたすかね?」
「お前は優秀だが、シャレのセンスは壊滅的だな。ともかく、賽は投げられた。我々は最後までやるしかない」
グレイの策略にまんまとハメられたガレイストが、次の一手を考えていると教会全体が大きく揺れる。
ドゴォォォォォォォン!!
という爆音と共に揺れる教会。何事かと、窓の外に視線を向けると、そこには黒い布で顔を隠した数多くの兵士達が教会に乗り込んできていた。
「
「我々の戦力が分散された後に、カルテルを使って攻撃を仕掛ける。かなりえげつない手を使いますね」
「クソが。だが、ちょうどいい。俺も少し暴れたい気分だったんでな........!!」
もちろん、この麻薬カルテルの襲撃はグレイが計画していた訳では無い。
教会の魔物の手が緩んだ時に、偶然麻薬カルテルが襲撃を仕掛けてきただけである。
しかし、あまりにもタイミングが良すぎる。
ガレイスト達が、グレイが麻薬カルテルと手を組んだと思われても仕方がなかった。
グレイ本人からすれば“ふざけんな”と言いたいだろうが。
「全員ぶち殺してやるよ。楽に神のお膝元に行けると思うなよ。お前達が行くのは、地獄の業火の中だ」
こうして、グレイファミリーと教会、そして麻薬カルテルの三つ巴の戦いが始まった。
グレイからすれば、何故ここに自分たちの組織が紛れているのか甚だ疑問だろうが。
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