ジルハード&レイズvsマリー•ローズ•ゴリアテ
アリカと手製の自白剤の効力は凄まじく、手足を失った肉ダルマは淡々と俺達の質問に答えてくれるようになった。
いや、怖ぇわ。
今どきの子供ってすごいね。全世界の軍や警察組織が喉から手が出るほど欲しがりそうな、こんな優秀な自白剤を作れるなんて。
彼女は能力が関係していると言っていたが、能力というのはその本人の才能でもある。
彼女は才能に恵まれ、努力もしてきたのだろう。
その結果が報われるとは限らないが。
「やはりMEX(メキシコ)の麻薬カルテルですか。面倒なことになりましたね。ここで
「だろうな。どんな経緯であれ仲間の手足が無くなれば、その代わりを取りに来るのが裏社会に生きる連中だ。ここで殺そうが、生かして返そうが面倒事になるのは変わりない」
「チッ、やっぱり関わるんじゃなかった。だが、断ったとしても追われる身にたっだろうし、財布をスられたのが痛かったな........」
虚ろな目で地面を見つめる彼らは、やはりと言うべきか麻薬カルテルの構成員であった。
つい先日この街に入ってきたばかりの新入りであり、この街の教会から麻薬を売るルートを分捕るために来たそうだ。
POL(ポーランド)は政府も住民の殆ども腐っている。そのため、麻薬で動く金は億を優に超えるレベルだ。
ぶっちゃけ、俺を捕まえて売り飛ばすよりも金になる。
麻薬の温床となっているこの国では、当たり前のように
なんなら、警察内部にも薬を売ったりやったりしてる奴がいるんだからな。
そして、そんな麻薬を売る者からしたら金の成る木であるPOLに、麻薬の売人たるカルテルが入ってくるのも無理はない。
むしろ、今の今までこの街に来なかった事が驚きだ。
「この街の麻薬事情は教会が全て握っていますからね。過去に何度もこの街で麻薬の利権を巡った抗争があったらしいのですが、その全てに勝っています。その被害者の中には、もちろんMEXの麻薬カルテルも入ってますよ」
「なるほど。それで彼らはFR(フランス)に栽培所を移した訳だが、俺が全部吹っ飛ばしちまったって訳か」
「カルテルからすれば、
嫌だよ。
事ある毎に抗争やら殺し合いに巻き込まれているが、別に俺はそういうことを望んでいる訳では無いのだ。
争い事なんて、無いことに越したことはない。
が、俺はそう思っていても向こうは俺の事を剥製にして部屋の壁に飾りたくて仕方がないだろう。
全くもっていい迷惑だ。
「よし、あのクソッタレな薬物教会に上手く押し付けよう。元々教会の連中は麻薬カルテルを消したいんだろう?彼らに全部押付けて、俺達は対岸の火事とさせてもらう事にするか」
「いいの?上手く行けば教会に恩を売れるよ?」
「神に媚びを売って何になる?この街じゃ尻尾を振るだけ無駄だよ。何せ、神のクソ有難いお言葉を代弁するはずの聖職者が薬物を売ってんだからな」
「それもそうだね。この街の利権はあの軍団のオバサンが握ってるし、教会は自分たちの畑が荒らされなければ他のことに興味はない。なら、私たちの畑に入ってきた害獣の駆除を押し付けちゃおうか」
ミス・シュルカの事をオバサン呼びできるなんて、リィズはすごいなぁ。
俺はそんな場違いなことを思いつつ、この三人を教会に引き渡すことを決める。
「アリカ。君はどうする?このままおさらばしても構わないが、また足にトンネル工事をされる可能性があるぞ」
「........助けてと言えば助けてくれるのかい?」
「あぁ、助けてやるよ。どうせ麻薬カルテルと敵対しちまったしな。それなら、全部抱え込んで纏めて消した方が楽だ。それに、ウチのマフィアに
何度も言うが、俺の最終目標は五大ダンジョンの攻略。
となると、ダンジョンの中で怪我をした場合にその怪我を治せる人材が欲しい。
アリカの口ぶりからして、能力によってポーションを作れるのであれば、是非ともウチに入って頂きたい。
しかも、この街で生きていくのに必要なものまで作れるのだから、かなりの逸材だ。
特に自白剤は、それだけで億万長者になれるだけの効力がある。
「........?私にポーションを作れと?」
「まぁ、そういう事だな。不安なら体験入学も受付中だ。安心しな。子供に麻薬を作らせるほど俺達は人として終わってないし、何より裏切りができないように契約を結ぶことすらできる」
レイズの能力を使えば、俺もアリカも裏切れない状況を作れる。
アイツの能力、実は滅茶苦茶使いどころが多いのでは?
やばい、やはり俺以外皆何かしらの一芸を持っている。
このままだと本当に賑やかし専門のお飾りボスに成り下がるぞ。もう手遅れかもしれないが。
俺の提案を聞いたアリカは、何かを考えるように口元に手を当てる。
ついさっき麻薬カルテルに裏切られたばかりだ。今すぐ俺たちの話に乗るのは無理だろうな。
「ま、気が向いたらでいい。一応、
「........私は──────」
とアリカが何かを言いかけたところで、この廃墟のビルに何かが突っ込んでくる。
ドガァン!!と壁を漫画のようにぶち壊しながら現れたのは、ウチのオッサン枠ジルハードであった。
「........おいおい。随分とやられ役のヒーローのような登場ぶりじゃないか。真のヒーローでないと倒せない
「........ゴホッいてて。そのまさかだボス。見て驚け、
「そいつは驚きだ。ちなみに、マイク・タイソンなら勝てるか?」
「耳を噛みちぎればワンチャンあるんじゃないか?俺はそもそも近づくことすら無理だが」
あの戦闘に関してはリィズの次に優れているジルハードですら“化け物”と称す相手。
俺は、そんなヤベェやつがここに迫ってきていることに、危機感を覚えつつこの場に姿を表さないレイズを心配するのだった。
あいつ、まさか死んでないよな?
【チャールズ・L・リストン】
アメリカ合衆国の男性プロボクサー。アーカンソー州サンド・スラウ出身。元WBA・WBC世界ヘビー級統一王者で初代WBC世界ヘビー級王者。
身長185cmにしてリーチ213cm、また周囲38cm(成人男性の平均の約2倍)の手のサイズを誇った。「史上最も威圧的なボクサー」と称され、マイク・タイソンは「リストンは俺をボーイスカウトのように見せるだろう」と語っている。
時は少し遡り、グレイたちが麻薬カルテルに自白剤を投与して話を聞き出していた頃。
ボスであるグレイに呼ばれ、指定の場所へと向かっていたジルハードとレイズ、そしてナーちゃんは人通りの無い道を歩いていた。
「ボスから招集を掛けられるなんて珍しいな。あまりこういう連絡は寄越さない人なんだが........」
「なんでも麻薬カルテルと思わしきやつを捕まえたらしいですよ。つい30分前に話した話題の人物を既に捕らえるなんて流石はボスですね」
「ボスはそういうことに関しては一流だからな。この街にたった二人で流れてきた挙句、この街の支配者になったボスの手腕には驚かされてばかりだ」
この場にグレイ本人が入れば全力で“狙ってない”と否定しそうだが、生憎この場にグレイはいない。
こうして、また、グレイのいない所で彼の株は上がるのだ。
自分たちのボスが如何に優れた人間なのかを話し合いながら廃墟のビルに向かって進んでいると、あまりにもキツイ見た目をした身長2m以上もあるガチムチの女装した男が目に入る。
あまりにもこの街では見慣れないその姿に、思わずジルハードもレイズも立ち止まってしまった。
「なんだありゃ。今日は
「........この街って凄いっすね。
「聖書の読みすぎだ馬鹿野郎。しかも、ゴリアテよりも見た目のインパクトが強すぎるだろ」
そんなことを話しつつ、“関わるとやべぇ”と理解していた2人はそそくさとその場を通り過ぎていこうとする。
が、この道の人通りは少ない。
運悪くジルハード達はその巨体を揺らす化け物に話しかけられてしまった。
「失礼。私、ここに行きたいのだけれど、似たような建物が多くてねん........どこか分からないのよん」
「........あー、あ?そこは俺達も目指してる場所だな。ボスが来いって言ってた場所じゃないか?」
「........確かにそうっすね」
ジルハード達は失言をしてしまった。
この携帯に映し出された位置情報は明らかに携帯から発された魔力を検知したものであり、彼女が誰かを探しているのだと。
それに気づけば、多少は厄介事も防ぐことが出来ただろう。
そして、相手は割の脳筋の癖して、こういう時だけは頭が回るタイプであった。もちろん、悪い方向にだが。
「いいぜ、案内────────っぐ!!」
ジルハードが笑顔で案内してやろうと化け物の女に視線を戻したその瞬間、拳が襲ってきてジルハードは殴り飛ばされる。
反射的に能力を使用し腕でガードした為、再起不能のような攻撃は喰らわなかったが、一撃を受けたジルハードは理解した。
この化け物の一撃があまりにも鋭く重たいことに。
(パンチ1発がなんて威力だ........!!吹っ飛ばされる所か、腕そのものが痺れてやがる........!!)
しっかりとガードしたはずなのに、ガードした腕を貫通して痛みが襲ってくる。
それは、ジルハードと相手の実力差が圧倒的に開いている事を意味していた。
「ジルハードさん!!」
「あなた達、アリカを攫った奴の仲間ねん?半殺しにして持っていくわん」
急に殴り飛ばされたジルハードを見て、唖然とするレイズ。
しかし、その瞬間既に化け物“マリー・ローズ”の拳は迫っておりレイズは意地と気合で体制を崩しながら避けた。
チッ!!と、頬をかすめる拳。
あまりの拳の鋭さに、レイズの頬が切れて血が吹き出す。
(ッな?!漫画じゃないんすよ?!)
魔力を覆い、身体強化を施した肉体は生半可な攻撃では傷1つつかない。
しかし、ローズの攻撃は一撃でレイズの頬を切った。
それだけでその拳がとんでもない程の威力だと気づけるだろう。
「クソが........ボスならすぐに気づいてやり過ごせたの言うのに、俺達もまだまだだな」
「痛ってぇ........頬が切れるとか、どんな威力してるんすかアレ」
「俺もガードした右腕がまだ痺れてやがる。とんでもねぇ拳だ。能力か?」
「そんなわけないでしょう?ただのパンチよん。それにしても、少しは強いようねん。でも、私には敵わないわん」
次の瞬間、一気に距離を詰めたローズがジルハードの腹を蹴り上げようとするが、流石のジルハードも不意打ちで無ければ最低限の防御や避けることは出来る。
ジルハードは1歩後ろに下がると、振りあがった足を見てから拳を振りかぶった。
「喰らえよ」
「無理よん」
振りかざす拳。
普通であればそのままローズは殴られて吹き飛ばされるはず──────だった。
「ゴフッ?!」
「実戦経験で磨いた自我流では、私に拳ひとつ与えられないわよん」
実際に吹き飛ばされたのは、ジルハード。
彼は二つほどビルや家の壁を壊してどこかへと消えていく。
狙われなかったレイズは見ていた。
振り上げられた足とは逆の足で、無理やりジルハードの腹を蹴り飛ばしたのだと。
ジルハードが拳を振るうよりも、ローズの足の方が圧倒的に早かったのを。
「........マジっすか。あんなん食らったら俺死ぬぞ?」
「安心しなさい。手加減は得意よん」
「その言葉で安心出来るやつがいたら、頭の正気を疑いますよ」
レイズも元軍人であり、様々な修羅場や敵を見てきた。
そのため、相手の実力をある程度測るのは得意である。
そして、レイズの直感は“コイツには勝てない”と言っていた。
(やべ、逃げられっかな........足の速さで勝てるか?いや厳ししそう。何とかボスと合流しないと)
レイズはそう思いながら、全力で逃げることを心に決めるのだった。
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