超天才少女
また望みもしない騒動に巻き込まれつつあることに嫌気が差しながらも、心のどこかで“こうなるよな”と思っているとレミヤが俺達を呼びに来る。
どうやら、両手両足の傷を塞ぎ終えたらしく、綺麗な肉ダルマとして生まれ変わったらしい。
俺はアリカと共に六階建ての廃墟ビルに足を踏み入れると、そこは肉の焼けた匂いが漂っていた。
明らかに止血のために焼かれた手足。これ、意識が戻ったらやばそうだな。
痛みと見えない手足に混乱し、まともに会話も出来なくなるかもしれん。
リィズに五体満足で気絶させろと言うべきだったかと反省しつつ、俺は能力で水を具現化させると、男たちの顔面に浴びせた。
「うっ........」
「おはよう。
「な、なんだてめぇは!!」
「お決まりのセリフをどうもありがとう。で、見たところお前らの顔はあのタコスにそっくりだが、どこの組織のもんだ?正直に答えることをおすすめするぜ?もし嘘を吐けば........次は目玉を貰う」
と、ここでようやく男達は自分の手足が無くなっていることに気づいた。
立ち上がろうとしても足が無ければ人は立てない。移動したくとも、腕が無ければ人は這いずることすらも出来ない。
そんな絶望的な状況を目の当たりにしてしまった彼らは、もちろん騒ぎ出した。
「ぎぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「俺の腕が!!足がぁぁぁぁぁ!!」
「痛ぁぁぁぁぁぁ!!」
思わず耳を塞ぎたくなる程の悲鳴。その余りの五月蝿さに、俺達は顔をしかめる。
「やっぱりこうなるか。面倒だな」
「どうするグレイちゃん。このままだと話が聞けないよ。こういう時の奴に拷問しても意味ないし........」
「面倒ですが、落ち着くまで待ちますか?鎮痛剤なら持っていますが........」
なんで鎮痛剤を持ち歩いてんだよ。え?大量に接種させると逆に薬物になるから?
とんでもねぇなこのポンコツメイドは。
そう思いながら、この三人からどのようにして話を聞きだそうかと悩んでいると、アリカが動く。
その手には三本の試験管。
中には、真っ青な液体が入っていた。
「自作の自白剤を使ってもいいかな?私も少しお話がしたくてね........」
「自白剤?あぁ、確か相手を廃人にして脳の器官を鈍らせる薬か。あれって自作できるものなの?一般人が」
「私はできるよ。そう言う能力を持っているからね。使い方次第ではポーションのような人の役に立つ物も簡単に作れるんだけど、この最近はこういう物ばかりを作るようになっちゃったよ。ちなみに、軍が使う自白剤よりも高性能で、相手が痛みに震えていたとしても、自分から質問に答えるようになるよ」
何それ怖い。
自白剤と言うか、最早催眠術の領域じゃん。
怖すぎるよそんな薬。
現実問題として作れるのかという疑問はあるが、生憎ここは地球に似た異世界。魔力やらダンジョンの中で取れる薬草等にはこの地球上にない成分だって多くある。
その中の成分を組み合わせると、超強力な自白剤が出来上がるのだろう。
それを子供が自作しているとは、今どきの子供は恐ろしい。
「........あぁ、思い出しました」
と、自作の自白剤とか言うパワーワードに若干引き気味だった俺の横でレミヤがポツリとつぶやく。
一体何を思い出したと言うのだろうか?
俺は気になって聞いてみることにした。
「何を思い出したんだ?自分が実は最初からロボットで、人間としての過去は植え付けられた記憶だった事か?」
「そんなSFチックな話ではなくてですね。あの少女のお話ですよ。先程、
「そう本人は名乗っていたな」
「それで、赤い髪と薄く光る青い目。そしてあの特徴的な白衣と来れば、“今世紀最大の天才児”アリカ・シュトラトスしか居ません」
“今世紀最大の天才児”?
随分と持ち上げる名前だな。
俺はその名前に聞き覚えがなかったので、静かに首を傾げてレミヤに説明を求める。
「どんな子なんだ?」
「僅か8歳で、USA(アメリカ)の最高峰オックスフィード大学に首席で入り、その中でも更に優秀であったため飛び級をしまくって僅か2年で大学を卒業した超天才児です。特に薬学についてはこの世界でも五本の指に入る程の知識量を持ち、その手の界隈では誰もが知る人材でした」
うーん。確かにそれは天才だ。
本人の努力ももちろんあるだろうが、努力以上に才能がものを言うのがこの世界だ。
アリカには、類まれなる才能があったのだろう。
と言うか、8歳で大学って入れるの?今の教育方針だと当たり前なのか?
「8歳で大学に入れるものなのか?」
「普通は無理ですよ。なんならオックスフィードは世界有数の難関大学で、何浪してでも入ろうとする人が多いのです。倍率は何と数百倍。試験問題ではその専門家ですら悩み間違えるレベルの問題が出題され、
「一昔前だったら、8歳の子供なんて大学に入れなかっただろうにな」
「えぇ。これはダンジョンが出来てから、生まれた法律ですし」
優秀な人材は、義務教育をダラダラやるよりも早めに社会に貢献しろというわけか。
ダンジョンによって、いつ世界が滅ぶか分からないこの地球では、優秀なやつはどんどん使えが主流になっているのだろう。
で、そんな明るい未来を歩いて行けるはずの彼女が何故ここに?
その疑問は、レミヤの次の言葉で解消された。
「テレビにすら取り上げられる程にまで有名だったアリカ・シュトラトスでしたが、彼女は博士号の称号を得るために大学に留まっていたそうです。研究者としてね。ですが、考えてみてください
「要らない恨みを買うだろうな。しかも完全なる逆恨みだ。まだカジノで金をスられたからカジノをぶっ壊そうとするやつの方が、動機がしっかりしているね」
「そういう訳です。彼女は論文の盗作の罪を擦り付けられ、更には教師買収の証拠偽装まで作られていたそうです。結果、彼女は大学にはおれず、企業の研究機関に属することになりました。流石に教師買収の証拠偽装はやりすぎでしたね。後に嘘だったと発覚しています」
自分よりも優れた子供が、自分よりも成功を収めている。
器の小さなやつがその場に入れば、どんな手段を使ってでもたたき落としうとするだろう。
ましてや、アリカのいた大学は名門中の名門なんだろう?
お勉強だけが出来て無駄にプライドの高いゴミが、他人の部屋を汚すなんてことは容易に想像できてしまう。
彼女も彼女で大変だったんだなと思っていると、レミヤは更に付け加えた。
「その企業でもやはり年齢がネックとなり、僅か半年で辞めたそうです。いじめが酷かったらしく、レポートの意図的な紛失や実験器具をワザと使わせないなど、色々と嫌がらせをされていたみたいですね」
「そりゃ、大人を嫌いになる訳だ。アリカに言われたよ。“お前のような大人は嫌いだ”ってね」
「
「まぁ、それはそうかもな。国に追われているやつが4人に、一人は元ギャング。そう考えれば、俺の懐は
大学では論文の盗作の罪を着せられ、入った企業ではいじめを受ける。
11歳の少女にしては、あまりにも大変な人生を送っているな。そりゃ、大人達は皆悪人に見えるだろうし、信じる気持ちだって失われる。
麻薬カルテルにすら裏切られてその足をぶっ飛ばされそうになるんだから、本人としてはやってられないだろう。
少なくとも俺だったらグレるね。
「子供も大変だな。そんだけ裏切られりゃ、自白剤の1つや2つぐらい自作するか」
「本来ならば大人が子供を守るべきなんですがね。人間とはそう上手く行かないものですよ。特に、今の時代は」
レミヤはそう言うと、少しだけ悲しそうな表情を見せる。
血も涙もない奴かとも思ったが、ちゃんと心はあるんだな。
ロボットに感情を持たせる技術は既にあるのかと感心していると、自白剤を無理やり飲ませた男達が大人しくなった。
自白剤を飲んだ直後は暴れていたが、薬が効いていたのだろう。
「これで聞きたいことは聞ける。あとはご自由に」
「ありがとうアリカ。すごく優秀なんだな。少なくとも、俺よりは賢いよ」
俺はそう言うと、無意識の内にアリカの頭に手を置いて感謝の言葉を言うのだった。
【自白剤】
諜報機関や警察などの捜査機関等が使うとされる薬物で、注射されるとあらゆる秘密を自白し、また説によっては自白剤を注射された人物は「廃人」状態または死に至るとされる。
脳の動きを鈍らせて正常な判断を出来なくさせるものであるため、情報精査が必要ではあるが口を割らせるだけなら使い道もあるだろう。なお、アリカの作った自白剤はさらに高性能で、相手を正常なまま自白させることが出来る。
グレイ達が麻薬カルテルの男達とお話を始めた頃。
このグダニスクの街の一角で、巨大な体格を持った男が街の中を歩いていた。
街ゆく人達は彼を見て、1度目を疑いもう一度見返す。
彼の体格が大きすぎるから?いいや違う。問題は彼の格好にあるのだ。
到底、体格のいい男が着るべきでは無い可愛らしいゴスロリ。そこら辺の可愛い女の子が来ていたとしても、少々みなが顔を顰める程にゴテゴテの服を彼は着ているのである。
そう。彼は
「ふぅ、ようやく用事が終わったわん。全く、一体どこに隠れたのかしらねん?あのクソ親父は........」
彼が........否、彼女がこの地を訪れたのは、行方不明となっている父親を探す為。
武者修行の最中に耳に入り込んできた父の失踪の真意と捜索をするのが、彼女の今の目的である。
「やっぱりあの地に居るのか知らん?だしたら、生きている可能性すらもなさそうなのよねん........」
彼女はそう呟きつつ、この旅を一緒にしている仲間に連絡を取ろうと携帯を取り出す。
こんな極悪人が住まう都市の中で、いたいけな少女を1人放置。
彼女としても放置をしたくはなかったが、どうしてもそうせざるを得ない理由があんのでは仕方がない。
それに、その少女はかなり賢くそれなりに強いので多少のことならば問題ないだろうと判断したのだ。
「あら?電話が繋がらないわねん」
何処にいるのか聞き出そうとするも、そもそも電話が繋がらない。
彼女は僅かながら嫌な予感を覚えると、急いで仲間の現在地を調べるために位置機能を使った。
この世界にはGPS機能の代わりに、特定の波長の魔力を察知するための機能が着いている。
たとえ電源が着られていようと、携帯からは魔力が漏れ出すので居場所を把握できるのだ。
「ここは........人気のない廃ビルが並ぶ場所........!!アリカちゃんが危ないわん!!」
やはり1人にするべきではなかったかと、彼女は後悔しながら急いで街中を走り始める。
しかし、人が多いこの大通りでは、思うように走れない。
「邪魔ねん!!上から行くわよん!!」
人混みが邪魔だと判断した彼女は、空高く飛び上がると屋根の上を走り始める。
踏み込みが強すぎて屋根に穴が空きそうな音が響くが、それを気にする余裕はなかった。
「アリカちゃんを連れ去った奴らを血祭りにしてやるわよん........!!」
アリカには借りがある。
半年前、彼女と初めてであった時に解毒をしてもらって命を助けられたのだ。
その後は、彼女の護衛として世界を旅している。
ここで守れず何が護衛か。
そのオカマ........マリー・ローズ・ゴリアテは、自分の持てる限りの力を使ってアリカのいる場所まで走り続けるのだった。
【オックスフィード大学】
USA(アメリカ合衆国)にある、超一流の名門大学。様々な分野に精通し、中には軍や警察機関と研究協定を結ぶ人までいるレベル。入るにも超難関の試験をパスしなければならず、合格出来るのは数百人に一人レベル。世界で1番試験が難しい大学として、人々に知れ渡っている。
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